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暗転の章
現実世界にて<呼び出し>
しおりを挟む禰宜田薬品本社に呼ばれる羽目になったのは、現社長の弟である孝道だ。呼んだのは社長ではなく、会長である義道だ。
「会長、失礼します」
誰にも案内されることなく、孝道は会長の部屋に入った。
「お前は何をしとるか」
ここのところの動きに口を挟みたいらしい。
「別に、会社に迷惑はかけませんが」
「阿呆が。かけておったら更迭しとるわ。櫻井総合病院の特別室を禰宜田の名前で占拠するわ、応仁会病院に行って脅迫するわ、何がしたいのだ」
「脅迫だなんて、人聞きの悪い。少しばかり昔の医療事故について伺っただけですが」
わざとらしく、嫌味をこめて言う。
「応仁会も幅広くやりすぎたということか?」
「いーえ。別に」
義道の問いにそっぽを向いた。
「お前のVRを利用した研究はかなり評価しておったのだがな」
「あれは、その可能性を教えてくれた可愛い婿のおかげです」
「だから何故婿養子にしなかった」
「研究職には向かないって言いませんでしたっけ?」
失敗が怖い、と言う婿は研究者には向かない。そして、誰よりも実験の楽しさを知っている。それを次代に教えるという役目は、天職といえよう。
「禰宜田で出資する大学で教鞭をとるという方法もあると言っただろうが」
「うちの自慢の婿はね、子供に教えるのが大好きなんですよ。最近じゃ、公民館で子供向けの実験教室までやってますからね」
公務員であるため、ボランティアという形を取っている。そして身近なもので実験をする姿は、子供たちに好評だ。教師という仕事と趣味の合間にやっているのは、尊敬に値する。
「ふむ。それは置いておこうか。で、お前は禰宜田の名前を使って何をやっとる?」
「使ってませんよ。調べ物をしたくて色々歩いているだけなんですが」
これも事実だ。
「あと、禰宜田名義で抑えた特別室にいる男女は?」
「その件で動き回っていたのですよ。……会長、座らせてもらっても?」
「いつまで立っておるのかと思ったぞ」
あなたが座っていいと言わないだけでしょうが。それは最初に躾けられたことのはずだ。
「十三年前くらいに遡ります。今回行った応仁会病院と第二病院。そこから事件が始まっていたのだと思ったのです
が」
「違ったのか?」
「その前からですね。第二病院がある場所の有力者の名前と、その有力者が推す代議士をご存知ですよね?」
「代議士は田倉といったか。あのハイエナ」
「はい。そして有力者は……」
「古瀬だったかな?私も応仁会病院に行った時に先代にお会いしたが」
「はい、その古瀬と田倉が絡んでいるのです」
「……話してみろ」
「これは、私たち夫婦が一人の少女を養子にする前提で動いていると思ってください」
意を決して、義道に言う。鷹揚に頷くさまは、全てを知っているとも思われた。
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