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婚約者とマイヤ
差別の理由
しおりを挟む愕然としたヴァルッテリを見据えつつ、マイヤは微笑む。無知とは恐ろしいものだとつくづく思うのだ。
「理由としては、きちんと家令から始まる部下の末端の方々にまでわたくしとの婚約の理由をしっかりと述べていなかったこと、ですわね」
貴族は「王命」やら「政略」といったノブレス・オブリージュで納得できるものがある。しかし、領内に住むものや使用人はそう簡単に納得できないものである。それを説得させるのが役目だ。それをヴァルッテリは怠ったといえる。
己よりも年上の次期公爵様とやらにそんなことを説明する羽目になるとは思いもしなかった。
「説明はしたよ。ウルヤナにも、使用人たちにも」
しばらくの沈黙ののち、ヴァルッテリはそう言ったのだが。
「では、どうしてあなたのお屋敷で何度も『忌まわしき混血児』と言われなくてはなりませんの? それにウルヤナさんも納得できていないではありませんか」
くだらない言い訳は要らないとばかりに、マイヤは言い放った。
「仕方ないだろっ! 俺の祖父さんも父さんもグラーマル王国の奴らに殺されたんだっ!」
従軍し、殺されたと。
「それで?」
「なっ!?」
「当然でしょう? ウルヤナさんのお父様もお祖父様もきっとグラーマル王国の兵士や騎士を斬っておりますわ。戦とはそういうものではなくて? どちらの国にもそういった者はいるのですよ。
では逆に伺いますが、あなたのお父様、お祖父様がグラーマル王国の囚人を痛めつけなかったという、証拠はありますの?」
その言葉に、店にいた人間の、半数近くが顔色を変えた。
「そういうことですわ。ここにいる方々、特に両国の血を引いているものの殆どが、乱暴され、望まぬ子を身籠った結果なのですよ。その方たちを差別しておいて、勝手がよろしすぎるのではなくて?」
アベスカ男爵領に逃げてくる者の中にも、未だにいる。その最悪な連鎖はいつまでも続き、たとえ両親が望んで子をもうけたとしても、子は差別を受ける。それを隠し通して、ばれたときに村八分になる者もいるのだ。
「ちなみにお嬢さんの場合は……」
「わたくしは色々と特殊ですわね。捕虜になっていた母に、父が一目惚れをして、婚姻しましたし」
「……マジか」
「えぇ。でなければ、帝国侯爵令嬢を、下級貴族の男爵家、しかもほんの少し前までは王国内でも有数の貧しさを誇っていたところになぞ、やらないでしょう」
「もう少しオブラートに包もうか、お嬢さん」
「事実ですもの。二度目の戦いで帝国が勝利した時に、母の望みで離縁しましたけど」
その後は知らない。というか、その前からマイヤは母を知らないのだ。
無理やり婚姻を結んだと言われているが、実際は違う。たった十五で捕虜になった帝国侯爵令嬢は、王国貴族によって娼婦として扱われていた。そして、避妊どころか病気予防もしていなかった馬鹿な貴族のせいで、性病に罹患していたという。
しかも、性病の薬を一切与えたかったというのは、後日主治医から聞いた。
病気でズタボロになった令嬢を、今度は下級貴族も慰み者にした。それを一男爵の子息であったダニエルが、求婚しただけなのだ。
何も望まないから、たった一人でいい。子供を産んでくれないか。それを叶えてもらった後は、あなたの好きにすればいい。あなたにかかる薬代他、すべて私が持つから。ダニエルが求婚したときの言葉だったという。
その言葉通り、マイヤが産まれると、令嬢は王都へと戻った。そこで「昔の客」と連絡を取り、国内の情報を得て帝国に流したのだろう。そして、その情報をもとに帝国が挙兵し、離婚した。
そして、ダニエルは今でもその令嬢を愛し続けている。
……時々鬱陶しくなるが。
「マイヤ?」
思い出していたため、無言になっていたらしい。ヴァルッテリが不思議そうな顔をしていた。
「一つ聞く。その、離縁していたという話は本当なのかい?」
そこからか! マイヤは思わずこめかみを押さえた。
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