4 / 4
BONUS STAGE
しおりを挟む
「どういうことか説明してください!」
わたしはパニックに陥りかけていた。
何が起きているのか分からない。
しかし、わたしの想像を遥かに超える『何か』が起きている。
「いいでしょう。それにはまず、嵐山センセの勘違いを正すことから始めなければなりません」
「勘違い?」
何のことだ?
「センセが今いるここはB館ではありません。センセはA館を出た後、ぐるりと回って元の場所、A館に戻って来ていたんです」
「そんな馬鹿な!」
わたしは走って斧の突き刺さった玄関まで戻り、ホールを抜けて浴室へと向かう。浴室には鍵が掛かっていて中に入れない。わたしは扉に向かって体当たりをする。三度目でドアが破壊されて中に入る。
そこには、わたしが刺殺した被害者のアバターが倒れていた。
「嘘だ、そんな筈がない!」
わたしはモニターの中の現実を受け入れられない。
一体何が起きている?
「わたしは地雷原を迂回する為、A館から南に向かい、次に東、そして最後に北へ向かった。それなのに、何故元いた場所に戻っているんです?」
「まだ気付きませんか? ある特定の条件を満たした場合のみ、センセが北へ向かえばどこにいても必ずA館に戻って来てしまうからくりがあるんです」
馬場は笑いを堪えながら言う。
「A館は北極点の上にあった」
――北極点?
「何だそりゃ!」
わたしは絶叫する。
「現実ではコンパスの針が指す方向は北極点からかなりズレているのですが、このゲームではコンパスは正確に北を指す仕様になっています」
「そんなの詐欺だ! ここが北極というなら摂氏20度の気温になるのはおかしいじゃないか!」
「いやァ、それは最初に説明したじゃないですか。この仮想空間はあくまで地球と似た星であって、地球ではないと。ですから北極が暖かくてもおかしなことはありません」
「ペテンだ! インチキだ!」
「それを言ったらセンセの小説はみんなインチキですよ」
馬場にそう言われて、悔しいことにわたしは何も言い返せなかった。
思い返せば玄関に突き立てられた斧は、A館をB館だと思い込ませる為の罠。
血の足跡は真っすぐわたしを書斎に誘導して、他の部屋を調べさせない為の罠だ。
「でもそれだと、わたしが地雷原に踏み入ることになるじゃないですか。地雷を踏んだら流石にわたしでも妙だと気付きますよ」
「別にそれはそれで構わないんですよ。センセが館に着く前に死亡すれば、その時点でもう僕の負けはなくなるわけですから。僕がA館で偽の密室を作るのは、センセがA館に戻って来たのを確認してからでも間に合います。むしろ僕が危惧したのは、センセが真っすぐB館へ向かった場合です。何せ北極点からはどの方向に進んでも南ですから、運次第でB館に辿り着くことは可能だったわけです」
――全ては馬場の掌の上だった。
そうとも知らず、わたしは自らの密室トリックを得意になってペラペラ喋ってしまった。
「それでわたしは何時までに原稿を仕上げればいいんです?」
わたしは馬場に敗北したことで、少々投げやりな気持ちになっていた。
「出来れば来週までにお願いします」
「それはまた、随分急ですね」
「いやまァ、嵐山センセにお願いするのは今回の対決の文字起こしですので」
「……文字起こし?」
「僕たちの対決の様子はライブで動画配信されています。それを小説の形にまとめるのがセンセの仕事ということになります。今回の企画はあくまで『本格ミステリーツクール』のテストプレイですので、ゲームの宣伝になるようなものをお願いしますよ」
自分が負けたゲームを小説にするのか。
何たる屈辱。
「ところで、馬場さんはB館にどんな密室トリックを用意してたのですか?」
すると馬場は声を立てて愉快そうに笑った。
「それは勿論、企業秘密です」
【了】
わたしはパニックに陥りかけていた。
何が起きているのか分からない。
しかし、わたしの想像を遥かに超える『何か』が起きている。
「いいでしょう。それにはまず、嵐山センセの勘違いを正すことから始めなければなりません」
「勘違い?」
何のことだ?
「センセが今いるここはB館ではありません。センセはA館を出た後、ぐるりと回って元の場所、A館に戻って来ていたんです」
「そんな馬鹿な!」
わたしは走って斧の突き刺さった玄関まで戻り、ホールを抜けて浴室へと向かう。浴室には鍵が掛かっていて中に入れない。わたしは扉に向かって体当たりをする。三度目でドアが破壊されて中に入る。
そこには、わたしが刺殺した被害者のアバターが倒れていた。
「嘘だ、そんな筈がない!」
わたしはモニターの中の現実を受け入れられない。
一体何が起きている?
「わたしは地雷原を迂回する為、A館から南に向かい、次に東、そして最後に北へ向かった。それなのに、何故元いた場所に戻っているんです?」
「まだ気付きませんか? ある特定の条件を満たした場合のみ、センセが北へ向かえばどこにいても必ずA館に戻って来てしまうからくりがあるんです」
馬場は笑いを堪えながら言う。
「A館は北極点の上にあった」
――北極点?
「何だそりゃ!」
わたしは絶叫する。
「現実ではコンパスの針が指す方向は北極点からかなりズレているのですが、このゲームではコンパスは正確に北を指す仕様になっています」
「そんなの詐欺だ! ここが北極というなら摂氏20度の気温になるのはおかしいじゃないか!」
「いやァ、それは最初に説明したじゃないですか。この仮想空間はあくまで地球と似た星であって、地球ではないと。ですから北極が暖かくてもおかしなことはありません」
「ペテンだ! インチキだ!」
「それを言ったらセンセの小説はみんなインチキですよ」
馬場にそう言われて、悔しいことにわたしは何も言い返せなかった。
思い返せば玄関に突き立てられた斧は、A館をB館だと思い込ませる為の罠。
血の足跡は真っすぐわたしを書斎に誘導して、他の部屋を調べさせない為の罠だ。
「でもそれだと、わたしが地雷原に踏み入ることになるじゃないですか。地雷を踏んだら流石にわたしでも妙だと気付きますよ」
「別にそれはそれで構わないんですよ。センセが館に着く前に死亡すれば、その時点でもう僕の負けはなくなるわけですから。僕がA館で偽の密室を作るのは、センセがA館に戻って来たのを確認してからでも間に合います。むしろ僕が危惧したのは、センセが真っすぐB館へ向かった場合です。何せ北極点からはどの方向に進んでも南ですから、運次第でB館に辿り着くことは可能だったわけです」
――全ては馬場の掌の上だった。
そうとも知らず、わたしは自らの密室トリックを得意になってペラペラ喋ってしまった。
「それでわたしは何時までに原稿を仕上げればいいんです?」
わたしは馬場に敗北したことで、少々投げやりな気持ちになっていた。
「出来れば来週までにお願いします」
「それはまた、随分急ですね」
「いやまァ、嵐山センセにお願いするのは今回の対決の文字起こしですので」
「……文字起こし?」
「僕たちの対決の様子はライブで動画配信されています。それを小説の形にまとめるのがセンセの仕事ということになります。今回の企画はあくまで『本格ミステリーツクール』のテストプレイですので、ゲームの宣伝になるようなものをお願いしますよ」
自分が負けたゲームを小説にするのか。
何たる屈辱。
「ところで、馬場さんはB館にどんな密室トリックを用意してたのですか?」
すると馬場は声を立てて愉快そうに笑った。
「それは勿論、企業秘密です」
【了】
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる