9 / 69
凄惨(仮)
第9話
しおりを挟む
バーガーファームの飲み物の容器は、プラスチック製の蓋ですっぽりと覆われていた。蓋の中央に小さな穴があいており、そこに赤白ツートンのストローが突き刺さっている。
なるほど。これでは他の席からアイスコーヒーに毒をいれようにも、蓋で防がれてしまう。小林の言った吹き矢のトリックは使えないだろう。
一方その小林はというと、遺体の口元に犬のように鼻を近づけていた。
「何だ、アーモンドの匂いなどしないではないか」
ここで事件について簡単におさらいしておこうと思う。
殺されたのは会社員の黒田幹彦。死因はアイスコーヒーの中に混入していた青酸カリによる中毒死。事件現場は駅に近いファストフード店だった。
黒田はこの後、婚約者の綾部麻衣の手料理を食べに行くことになっていた。そして麻衣の弟、心が店に迎えに来たところで事件が発生する。
第一の容疑者である綾部心には防犯カメラの映像から、毒を入れるような不審な行動はないことがわかっている。また、バーガーファームのキッチンスタッフたちの中に黒田と関係のある者はおらず、彼らの中に犯人がいることは考え難い。
さらにアイスコーヒーの入っていた容器にはプラスチック製の蓋がされており、他のテーブルから毒を入れることは不可能である。
「動機は一先ず置いといて、可能か不可能かで考えれば、キッチンスタッフの中に犯人がいるというのが一番現実的なように思いますけどね」
俺は桶狭間警部に率直な感想を言ってみる。
「それはどうかな?」
桶狭間警部は挑みかかるように言った。
「さっきも説明したが心は黒田を迎えにここまで来ていたのだから、黒田は心より先にファストフード店に来ていたことになる。監視カメラの映像で確認してみたところ、実際に心は黒田がテーブルについた五分後に来ている。それまでの間、当然黒田はアイスコーヒーを口にしていたが、このときは異変は起こらなかった。さらにカメラの映像では、心もテーブルについたときに黒田の買ったアイスコーヒーを一口飲んでいる。つまり、青酸カリはそれ以降に入れられたことになり、キッチンスタッフに黒田殺害は不可能ということになる」
「そんなことは簡単なトリックで何とでもできますよ。例えば青酸カリを氷の中に閉じ込めておく。そうすれば氷が溶けるまでの間、アイスコーヒーは無毒の状態を保っていられます」
「問題はもう一つあるな」
小林は飽きたのか遺体の匂いを嗅ぐのをやめて、会話に加わった。
「そもそも被害者の黒田さんは何故青酸カリの入ったアイスコーヒーを飲んでしまったのでしょうか?」
「……小林君、君は何を言っておるんだね?」
桶狭間警部は訳がわからないようで、ポカンとしている。
一方、俺は頭をガツンと殴られたようなショックを受けていた。
そうなのだ。青酸カリといえば毒薬の代名詞と呼ばれるまでに有名だが、実際には殺人には不向きな道具と言えた。まず、味が途轍もなく苦いのだ。アイスコーヒーに入れたくらいでは余程の味覚音痴でもない限り、口に入れただけですぐに吐き出してしまうだろう。これではとても致死量の200mgには達しない。さらに、青酸カリは微量であれば肝臓で解毒されてしまう。
つまり、謎は二つ残る。
謎1、犯人はどうやってアイスコーヒーに青酸カリを入れたか?
謎2、犯人はどうやって被害者に青酸カリ入りのアイスコーヒーを飲ませたか?
「小林君、君には事件の真相が分かったのかね?」
桶狭間警部は渋面を作って尋ねる。
「ええ、勿論です」
小林は自信満々にそう答えて、不敵な笑みを浮かべていた。
なるほど。これでは他の席からアイスコーヒーに毒をいれようにも、蓋で防がれてしまう。小林の言った吹き矢のトリックは使えないだろう。
一方その小林はというと、遺体の口元に犬のように鼻を近づけていた。
「何だ、アーモンドの匂いなどしないではないか」
ここで事件について簡単におさらいしておこうと思う。
殺されたのは会社員の黒田幹彦。死因はアイスコーヒーの中に混入していた青酸カリによる中毒死。事件現場は駅に近いファストフード店だった。
黒田はこの後、婚約者の綾部麻衣の手料理を食べに行くことになっていた。そして麻衣の弟、心が店に迎えに来たところで事件が発生する。
第一の容疑者である綾部心には防犯カメラの映像から、毒を入れるような不審な行動はないことがわかっている。また、バーガーファームのキッチンスタッフたちの中に黒田と関係のある者はおらず、彼らの中に犯人がいることは考え難い。
さらにアイスコーヒーの入っていた容器にはプラスチック製の蓋がされており、他のテーブルから毒を入れることは不可能である。
「動機は一先ず置いといて、可能か不可能かで考えれば、キッチンスタッフの中に犯人がいるというのが一番現実的なように思いますけどね」
俺は桶狭間警部に率直な感想を言ってみる。
「それはどうかな?」
桶狭間警部は挑みかかるように言った。
「さっきも説明したが心は黒田を迎えにここまで来ていたのだから、黒田は心より先にファストフード店に来ていたことになる。監視カメラの映像で確認してみたところ、実際に心は黒田がテーブルについた五分後に来ている。それまでの間、当然黒田はアイスコーヒーを口にしていたが、このときは異変は起こらなかった。さらにカメラの映像では、心もテーブルについたときに黒田の買ったアイスコーヒーを一口飲んでいる。つまり、青酸カリはそれ以降に入れられたことになり、キッチンスタッフに黒田殺害は不可能ということになる」
「そんなことは簡単なトリックで何とでもできますよ。例えば青酸カリを氷の中に閉じ込めておく。そうすれば氷が溶けるまでの間、アイスコーヒーは無毒の状態を保っていられます」
「問題はもう一つあるな」
小林は飽きたのか遺体の匂いを嗅ぐのをやめて、会話に加わった。
「そもそも被害者の黒田さんは何故青酸カリの入ったアイスコーヒーを飲んでしまったのでしょうか?」
「……小林君、君は何を言っておるんだね?」
桶狭間警部は訳がわからないようで、ポカンとしている。
一方、俺は頭をガツンと殴られたようなショックを受けていた。
そうなのだ。青酸カリといえば毒薬の代名詞と呼ばれるまでに有名だが、実際には殺人には不向きな道具と言えた。まず、味が途轍もなく苦いのだ。アイスコーヒーに入れたくらいでは余程の味覚音痴でもない限り、口に入れただけですぐに吐き出してしまうだろう。これではとても致死量の200mgには達しない。さらに、青酸カリは微量であれば肝臓で解毒されてしまう。
つまり、謎は二つ残る。
謎1、犯人はどうやってアイスコーヒーに青酸カリを入れたか?
謎2、犯人はどうやって被害者に青酸カリ入りのアイスコーヒーを飲ませたか?
「小林君、君には事件の真相が分かったのかね?」
桶狭間警部は渋面を作って尋ねる。
「ええ、勿論です」
小林は自信満々にそう答えて、不敵な笑みを浮かべていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる