【完結】少女探偵・小林声と13の物理トリック

暗闇坂九死郞

文字の大きさ
57 / 69
ダイイングメッセージ

第57話

しおりを挟む
 その日、鏑木かぶらき探偵事務所のソファには朝から仏頂面の桶狭間おけはざま警部がどっかりと腰掛けていた。

「……ですから、小林こばやしなら学校が終わるまでここへは来ませんよ。午後また出直してください」
「いいや、小林君が来るまでここで待たせて貰う」

 桶狭間警部はてこでも動かないというようにソファにふんぞり返っている。

「……いやね、言いにくいんですが警部にそこにいられると迷惑なんですよ」

「何故だね? どうせ客なんて滅多に来んのだろう?」

「……相変わらず失礼ですね。その滅多に来ない依頼人が来たときに警部みたいな強面のオッサンがいたら、驚いて帰っちゃうじゃないですか。警部がそこにいると商売の邪魔なんですよ」

「……鏑木くん、君の方こそ猛烈に失礼だな。私だって君からしたら大事な客だろうに」

「俺は小林とは違うんです。俺にとって大事な客というのは殺人事件の依頼を持ち込まない客のことです。その点、毎度毎度厄介な殺人事件ばかり持ってくる警部は客としては下の下なんですよ」

「……ふん、こっちとしても君になど用はない。私が仕事を依頼したいのは小林君なのだからな」

「ふんだ。だったらご自由にどうぞ」

「…………」

 ――重苦しい沈黙。
 鏑木探偵事務所は時計の秒針が奏でる単調なメロディーに支配される。

「……あの警部、折角来て貰ってただ待つだけというのも退屈でしょう。事件の概要だけでも先にお聞かせ願えませんか?」
 俺は沈黙に耐えられず、桶狭間警部にコーヒーとカヌレを差し出して話し掛ける。

「……うむ。ま、それもそうだな」
 桶狭間警部の方も気まずさに耐えかねた様子で、不承不承といった感じでコーヒーに口をつけた。

「殺されていたのは県内の学校に通う大学生、椎名しいな竜生りゅうせい。一人暮らしのアパートの一室で、鉄アレイで頭を殴られて殺されていた。部屋は特に荒らされた様子もなく、犯人の指紋や遺留品も見つからなかった」

「……聞いた限り、ごく普通の殺人事件ですね。物盗りの線も薄そうですし、普通に被害者の交友関係を洗い出せば、容疑者を絞り込めそうですけど?」

「ふん、ここまではいわば前置きだ」

「前置き?」

「本題はここからという意味だ」
 桶狭間警部はそこでペロリと上唇を舐める。

「椎名竜生の死体の傍らには、が残されていたのだ」

 ――ダイイングメッセージ。

 その言葉を聞いて、俺は気が遠くなるのを感じていた。
 ダイイングメッセージといえば、確かにミステリでは定番のネタだ。過去の作品の中にもダイイングメッセージを扱った傑作は枚挙に暇がない。
 だが俺が一つ言いたいのは、被害者が今際の際に残すメッセージで価値があるのは、犯人の名前以外にないということだ。これから死ぬ人間が最後の力を振り絞って残すべきは、犯人の名前以外にない。わざわざ捻りの効いた頓知を繰り出す必要などどこにもないのである。
 何? それでは犯人に見つかったときに、メッセージを消されてしまうではないかって?
 そんなことを心配する必要はない。残されたメッセージが直接的なヒントだろうが意味のわからない暗号だろうが、犯人がそのままにしておくわけがないではないか。
 ダイイングメッセージとはどんなものであれ、犯人に見つかればかき消される運命にあるのだ。

「おい鏑木君、人の話を聞いているのかね?」

「……すみません警部、急に目眩めまいがしたものですから。それで、現場のアパートにはどんなメッセージが残されていたのですか?」

 桶狭間警部はメモ帳を破ると、それにボールペンですらすらと文字を書き込んでいく。

 ――そこには次のようなメッセージが書かれていた。


 8÷2(2+2)=X
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...