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第一幕 勇者ホイホイの殺人
第2話 口論
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オレは今、すこぶる機嫌が悪かった。
仲間からの魔法攻撃で氷漬けにされて殺された直後なのだから、それも当然だろう。
「ケン、何時まで不貞腐れているつもりだ? いい加減機嫌を治してくれ。また何時敵が襲って来るかわからない状況なんだぞ。それに前衛は仲間を守って死ぬことも仕事のうちだと、何時も説明しているだろう」
「…………」
そんなこと、いちいち言われなくてもわかっている。しかし、頭では理解していても割り切れないことというものは往々にしてあるものである。
「……だからって、何でオレだけ毎度危険な目に遭わなきゃいけないんだよ? っていうかお前、平気でオレが死ぬこと前提の作戦立てやがったよな? もう少しまともなやり方はなかったのかよ?」
「それは仕方ないだろう。マジカの魔法攻撃は確かに強力だが、発動までに少し時間がかかる。それまで敵を引き付けて時間を稼ぐ役がどうしても一人必要なのだ」
「ならばユウキ、お前がオレの代わりに囮役に回ればいいだろうが!!」
オレがそう言うと、青い髪に黒縁メガネをかけた中肉中背の男、勇者・ユウキ=ムテッポーは僅かに顔を顰めた。
「ボクには後衛のマジカとナマグサを敵から守る役割がある」
「はッ、自分たちだけ木の上に逃げておいてよく言うよ。仲間が殺されるのを安全な場所から高みの見物とは、それが勇者様のやることなんですかね?」
「……だったらケン、ボクからも一つ言わせて貰うがな、お前がシルバーウルフとやり合えていたのは一体誰のお陰だ? お前の剣の腕だけでは敵を一撃で仕留めることなんて到底不可能だろうが」
「…………」
オレはユウキに痛いところを突かれて、思わず黙り込んでしまう。
実際、オレが敵モンスターを三匹も倒せたことはユウキの魔法の効果によるところが大きい。
ユウキは仲間の体に触れることで攻撃力を引き上げる『強化』の魔法を得意としていた。
「自分の力だけでは敵の足止めすらできないお前に、ボクのやり方をとやかく言われる筋合いはないな」
「……何だとユウキ、テメェ!!」
「はい、ストップー。ちょっと言い過ぎやで、ユウキ。敵を殲滅できたんはウチら四人が力を合わせた結果や。自分一人やったら為す術もなく殺されてたんはアンタも一緒やろが。偉そうにすんな、アホ」
紫のトンガリ帽子を被ったブロンド髪の若い女、魔法使い・マジカ=アリエヘンテが猫のように吊り上がった瞳を更に吊り上げてユウキを非難する。
「それにケン、アンタもアンタや。済んだことを何時までもネチネチと。ナマグサが元どおりちゃんと生き返らせたんやから、もうそれでチャラやろ」
「ふざけるな。何がチャラだ。中立に見せかけて、お前も所詮はユウキと同じだ。安全圏から好き勝手なことを言いやがって。マジカ、お前は何時も殺す側だからいいだろうがな、殺されるこっちは毎回ちゃんと怖いし痛いし苦しいんだぞ。お前もいっぺん死んでみるか? あァ、コラ!!」
オレがそう言って剣の柄を握ると、さっきまでの勢いが嘘であるかのように、マジカの顔色がみるみる蒼白になっていく。
「マジカさん、もしもケンさんに殺されたときは必ずわたしの魔法で蘇らせますから、どうかご安心を」
緑色の祭服を着た黒髪オールバックの優男、僧侶・ナマグサ=オサケスキーが満面の笑みを浮かべて言う。
「やかましい。オレが一番気に入らないのはテメェだ、ナマグサ!!」
「おお、何故です? わたしはケンさんを元どおりに蘇らせて回復までさせました。礼を言われることはあっても、責められるような謂れはありませんよ」
「……息が酒臭いぞ。テメェ、オレたちが戦っている間も飲んでやがったな?」
すると、ナマグサは悪戯がバレた子どものように、舌を出して頭をかく。
「いやァ、わたしは皆さんと違って戦えませんからね。そもそも、そういう荒事は皆さんの仕事だという取り決めでしょう? 戦闘はわたしの管轄外です。その間、わたしが何をしていようとあなたとは関係のないことなのでは?」
「……開き直るんじゃねーよ。仲間が命がけで戦ってるときに、よくもまァ平気で酒なんて飲んでられるな。大体、聖職者の癖に飲酒していいのかよ?」
「いえいえ、僧侶とはいっても今は魔王を倒す為に旅を続けるしがない冒険者ですから。それに『酒は百薬の長』といって、魔力を回復させる効果もあるのですよ。ケンさんも良かったら一杯どうです?」
「……馬鹿。オレは魔法使えねんだよ」
――そう。
オレたちには魔王を倒して世界を救うという、重大過ぎる使命があった。世界の命運はオレたちの手にかかっている。
「……で、魔王の宮殿まであとどれくらい歩けばいいんだ?」
オレは仲間との諍いを一時休戦することにして、ユウキにそう尋ねる。
「古文書に記された地図によれば、この森を抜けた先に広がる砂漠地帯を更に突っ切った先らしい」
ユウキが羊の皮に描かれたボロボロの地図を広げながら言う。
「ただ、二千年前の地図とでは、ここら一帯の地形も大きく変わってしまっている。宮殿の正確な場所は、ボクにもわからない」
「……つまり、まだまだ先は長いってことだな。だったらここらで野営の準備をしておかないか? そろそろ本格的に日が暮れる頃だ」
「うん。それもそうだね」
ユウキがメガネを押さえて小さく笑った。
「……はァー、今日も野宿かァ。たまには熱いシャワー浴びて、フカフカのベッドで朝までぐっすり寝れへんもんかなァ」
マジカがそう言って大きな溜息を吐く。
「プッ」
オレがマジカの緊張感のない発言に思わず噴き出すと、つられたようにナマグサが大声で笑い出した。
「ぶははーッ!!」
「アンタら、何が可笑しいねん!! デリカシーの欠片もないアンタらと違って、こちとら一ヶ月間ろくに眠れてへんのじゃ!! 乙女の繊細さ舐めんなしッ!!」
――そんなマジカの祈りが天に通じたのか、俺たちの前に突如として煉瓦造りの巨大な洋館が姿を現した。
仲間からの魔法攻撃で氷漬けにされて殺された直後なのだから、それも当然だろう。
「ケン、何時まで不貞腐れているつもりだ? いい加減機嫌を治してくれ。また何時敵が襲って来るかわからない状況なんだぞ。それに前衛は仲間を守って死ぬことも仕事のうちだと、何時も説明しているだろう」
「…………」
そんなこと、いちいち言われなくてもわかっている。しかし、頭では理解していても割り切れないことというものは往々にしてあるものである。
「……だからって、何でオレだけ毎度危険な目に遭わなきゃいけないんだよ? っていうかお前、平気でオレが死ぬこと前提の作戦立てやがったよな? もう少しまともなやり方はなかったのかよ?」
「それは仕方ないだろう。マジカの魔法攻撃は確かに強力だが、発動までに少し時間がかかる。それまで敵を引き付けて時間を稼ぐ役がどうしても一人必要なのだ」
「ならばユウキ、お前がオレの代わりに囮役に回ればいいだろうが!!」
オレがそう言うと、青い髪に黒縁メガネをかけた中肉中背の男、勇者・ユウキ=ムテッポーは僅かに顔を顰めた。
「ボクには後衛のマジカとナマグサを敵から守る役割がある」
「はッ、自分たちだけ木の上に逃げておいてよく言うよ。仲間が殺されるのを安全な場所から高みの見物とは、それが勇者様のやることなんですかね?」
「……だったらケン、ボクからも一つ言わせて貰うがな、お前がシルバーウルフとやり合えていたのは一体誰のお陰だ? お前の剣の腕だけでは敵を一撃で仕留めることなんて到底不可能だろうが」
「…………」
オレはユウキに痛いところを突かれて、思わず黙り込んでしまう。
実際、オレが敵モンスターを三匹も倒せたことはユウキの魔法の効果によるところが大きい。
ユウキは仲間の体に触れることで攻撃力を引き上げる『強化』の魔法を得意としていた。
「自分の力だけでは敵の足止めすらできないお前に、ボクのやり方をとやかく言われる筋合いはないな」
「……何だとユウキ、テメェ!!」
「はい、ストップー。ちょっと言い過ぎやで、ユウキ。敵を殲滅できたんはウチら四人が力を合わせた結果や。自分一人やったら為す術もなく殺されてたんはアンタも一緒やろが。偉そうにすんな、アホ」
紫のトンガリ帽子を被ったブロンド髪の若い女、魔法使い・マジカ=アリエヘンテが猫のように吊り上がった瞳を更に吊り上げてユウキを非難する。
「それにケン、アンタもアンタや。済んだことを何時までもネチネチと。ナマグサが元どおりちゃんと生き返らせたんやから、もうそれでチャラやろ」
「ふざけるな。何がチャラだ。中立に見せかけて、お前も所詮はユウキと同じだ。安全圏から好き勝手なことを言いやがって。マジカ、お前は何時も殺す側だからいいだろうがな、殺されるこっちは毎回ちゃんと怖いし痛いし苦しいんだぞ。お前もいっぺん死んでみるか? あァ、コラ!!」
オレがそう言って剣の柄を握ると、さっきまでの勢いが嘘であるかのように、マジカの顔色がみるみる蒼白になっていく。
「マジカさん、もしもケンさんに殺されたときは必ずわたしの魔法で蘇らせますから、どうかご安心を」
緑色の祭服を着た黒髪オールバックの優男、僧侶・ナマグサ=オサケスキーが満面の笑みを浮かべて言う。
「やかましい。オレが一番気に入らないのはテメェだ、ナマグサ!!」
「おお、何故です? わたしはケンさんを元どおりに蘇らせて回復までさせました。礼を言われることはあっても、責められるような謂れはありませんよ」
「……息が酒臭いぞ。テメェ、オレたちが戦っている間も飲んでやがったな?」
すると、ナマグサは悪戯がバレた子どものように、舌を出して頭をかく。
「いやァ、わたしは皆さんと違って戦えませんからね。そもそも、そういう荒事は皆さんの仕事だという取り決めでしょう? 戦闘はわたしの管轄外です。その間、わたしが何をしていようとあなたとは関係のないことなのでは?」
「……開き直るんじゃねーよ。仲間が命がけで戦ってるときに、よくもまァ平気で酒なんて飲んでられるな。大体、聖職者の癖に飲酒していいのかよ?」
「いえいえ、僧侶とはいっても今は魔王を倒す為に旅を続けるしがない冒険者ですから。それに『酒は百薬の長』といって、魔力を回復させる効果もあるのですよ。ケンさんも良かったら一杯どうです?」
「……馬鹿。オレは魔法使えねんだよ」
――そう。
オレたちには魔王を倒して世界を救うという、重大過ぎる使命があった。世界の命運はオレたちの手にかかっている。
「……で、魔王の宮殿まであとどれくらい歩けばいいんだ?」
オレは仲間との諍いを一時休戦することにして、ユウキにそう尋ねる。
「古文書に記された地図によれば、この森を抜けた先に広がる砂漠地帯を更に突っ切った先らしい」
ユウキが羊の皮に描かれたボロボロの地図を広げながら言う。
「ただ、二千年前の地図とでは、ここら一帯の地形も大きく変わってしまっている。宮殿の正確な場所は、ボクにもわからない」
「……つまり、まだまだ先は長いってことだな。だったらここらで野営の準備をしておかないか? そろそろ本格的に日が暮れる頃だ」
「うん。それもそうだね」
ユウキがメガネを押さえて小さく笑った。
「……はァー、今日も野宿かァ。たまには熱いシャワー浴びて、フカフカのベッドで朝までぐっすり寝れへんもんかなァ」
マジカがそう言って大きな溜息を吐く。
「プッ」
オレがマジカの緊張感のない発言に思わず噴き出すと、つられたようにナマグサが大声で笑い出した。
「ぶははーッ!!」
「アンタら、何が可笑しいねん!! デリカシーの欠片もないアンタらと違って、こちとら一ヶ月間ろくに眠れてへんのじゃ!! 乙女の繊細さ舐めんなしッ!!」
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