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第1章:主人公
第7話:公爵カスティエの野心
アルヴィスが去り、静まり返った謁見の間。
床に転がった騎士団長の証である房飾りが、これまでの秩序の終焉を告げていた。
レオは、まだ震えが止まらない指先を隠すように、白銀の礼服の袖を握りしめていた。
(……どうして。僕はみんなを助けたのに。あの騎士は、なんであんなに僕を睨んだんだ?)
「死臭がする」という言葉が、まるで呪いのように胸の奥にこびりついて離れない。
「……勇者様。あのような野蛮な男の言葉、気になさることはありませんぞ」
背後から、温厚そのものといった声がかけられた。
カスティエ公爵だ。彼は、セシルがいた頃のどこか遠慮がちな態度をかなぐり捨て、今はレオの肩に親しげに手を置いている。その瞳には、獲物を手に入れた狩人のような、ギラついた野心が宿っていた。
「あの方は……アルヴィス卿は、前の王と癒着し、この国を闇に閉ざしていた張本人です。貴方がもたらした『光』が眩しすぎて、直視できなかったのでしょう。……それよりも、レオ様。貴方にしかできない『救済』の続きを始めようではありませんか」
「救済、の続き……?」
レオが顔を上げると、カスティエは広げた地図を指差した。
そこには、セシルが魔力を注ぐことができなかった未開発の土地や、資源の眠る山岳地帯が赤々と記されている。
「セシル・アドレアンは無能でした。地脈を保護するなどと言い訳をし、豊かな資源に蓋をしていた。……ですが、貴方の『最適化』なら、大地の深くに眠る魔石や金銀を、一気に地表へ引き出すことが可能でしょう? それこそが、民が真に望む豊かさなのです」
カスティエの言葉は、レオの自己顕示欲を巧みにくすぐった。
(……そうか。セシルさんは、知識がなかったから土地を『守る』ことしかできなかったんだ。でも僕は、現代の知識で土地を『利用』できる。それができるのは、僕だけなんだ)
「……わかった。僕がやってみるよ。みんながもっと豊かになれるなら」
レオのその返事を聞いた瞬間、カスティエの口角が不気味に吊り上がった。
公爵にとって、レオはもはや救世主ですらない。
法も倫理も無視して、大地の寿命を削り、金銀財宝を吐き出させる「魔法の打ち出の小槌」。あるいは、反抗的な勢力を「神の正義」という名で黙らせるための、無知で強力な看板だ。
「よろしい! では、まずは国境付近の鉱山開発から着手しましょう。……ああ、レオ様。これからは、私がお傍で公私共々サポートいたします。貴方はただ、その『正解』を振るい、称賛を浴びていればよいのです」
カスティエは、レオの背中を優しく、しかし有無を言わせぬ強さで押し、玉座の隣に用意された新たな椅子へと導いた。
それはセシルが座っていた質素な椅子とは違う、宝石を散りばめた豪華な椅子だ。
けれど、そこに座った瞬間、レオは妙な感覚に襲われた。
まるで、見えない鎖が自分の手足に絡みつき、この華やかな王宮という名の牢獄に、永遠に繋ぎ止められたような――。
カスティエ公爵の野心が、セシルという重石が取れた王宮を、静かに、そして確実に侵食し始めていた。
床に転がった騎士団長の証である房飾りが、これまでの秩序の終焉を告げていた。
レオは、まだ震えが止まらない指先を隠すように、白銀の礼服の袖を握りしめていた。
(……どうして。僕はみんなを助けたのに。あの騎士は、なんであんなに僕を睨んだんだ?)
「死臭がする」という言葉が、まるで呪いのように胸の奥にこびりついて離れない。
「……勇者様。あのような野蛮な男の言葉、気になさることはありませんぞ」
背後から、温厚そのものといった声がかけられた。
カスティエ公爵だ。彼は、セシルがいた頃のどこか遠慮がちな態度をかなぐり捨て、今はレオの肩に親しげに手を置いている。その瞳には、獲物を手に入れた狩人のような、ギラついた野心が宿っていた。
「あの方は……アルヴィス卿は、前の王と癒着し、この国を闇に閉ざしていた張本人です。貴方がもたらした『光』が眩しすぎて、直視できなかったのでしょう。……それよりも、レオ様。貴方にしかできない『救済』の続きを始めようではありませんか」
「救済、の続き……?」
レオが顔を上げると、カスティエは広げた地図を指差した。
そこには、セシルが魔力を注ぐことができなかった未開発の土地や、資源の眠る山岳地帯が赤々と記されている。
「セシル・アドレアンは無能でした。地脈を保護するなどと言い訳をし、豊かな資源に蓋をしていた。……ですが、貴方の『最適化』なら、大地の深くに眠る魔石や金銀を、一気に地表へ引き出すことが可能でしょう? それこそが、民が真に望む豊かさなのです」
カスティエの言葉は、レオの自己顕示欲を巧みにくすぐった。
(……そうか。セシルさんは、知識がなかったから土地を『守る』ことしかできなかったんだ。でも僕は、現代の知識で土地を『利用』できる。それができるのは、僕だけなんだ)
「……わかった。僕がやってみるよ。みんながもっと豊かになれるなら」
レオのその返事を聞いた瞬間、カスティエの口角が不気味に吊り上がった。
公爵にとって、レオはもはや救世主ですらない。
法も倫理も無視して、大地の寿命を削り、金銀財宝を吐き出させる「魔法の打ち出の小槌」。あるいは、反抗的な勢力を「神の正義」という名で黙らせるための、無知で強力な看板だ。
「よろしい! では、まずは国境付近の鉱山開発から着手しましょう。……ああ、レオ様。これからは、私がお傍で公私共々サポートいたします。貴方はただ、その『正解』を振るい、称賛を浴びていればよいのです」
カスティエは、レオの背中を優しく、しかし有無を言わせぬ強さで押し、玉座の隣に用意された新たな椅子へと導いた。
それはセシルが座っていた質素な椅子とは違う、宝石を散りばめた豪華な椅子だ。
けれど、そこに座った瞬間、レオは妙な感覚に襲われた。
まるで、見えない鎖が自分の手足に絡みつき、この華やかな王宮という名の牢獄に、永遠に繋ぎ止められたような――。
カスティエ公爵の野心が、セシルという重石が取れた王宮を、静かに、そして確実に侵食し始めていた。
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