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第2章:地脈の鳴動
第16話:地脈の拒絶
その異変は、レオがこの世界で最初に「奇跡」を起こした、王都近郊の村から始まった。
「勇者様! 大変です、早く来てください!」
早朝、王宮に駆け込んできた村長の訴えを受け、レオはエルヴィンを伴って現地へと向かった。
かつてレオが「最適化」を行い、一瞬で豊かな実りをもたらしたはずの畑。だが、そこに広がっていたのは、緑の楽園ではなく、不気味なほどに赤黒く変色した「死の土地」だった。
「……なんだよ、これ。病気かな?」
レオは困惑しながら、地面に膝をついた。
かつては瑞々しかった土壌が、今はまるで焼き尽くされた炭のように乾燥し、ひび割れている。それもただの乾燥ではない。ひび割れの奥からは、澱んだ紫色の霧が噴き出していた。
「レオ様、下がってください。この空気……普通ではありません」
背後で剣を抜いたエルヴィンの声に緊張が走る。レオは首を振って、いつものように右手をかざした。
「大丈夫だよ、エルヴィン。ちょっとエラーが出てるだけだ。すぐに『最適化』して書き換えてあげるから」
レオは集中し、脳内のシステムを展開する。
だが、その瞬間に見えた「光景」に、レオは息を呑んだ。
いつもなら、地脈の流れは青や金の綺麗なラインで表示される。だが、目の前の視界に浮かび上がったのは、画面全体を覆い尽くすほどの真っ赤なエラーメッセージだった。
『警告:リソース限界。対象地脈の生命エネルギーが枯渇しています』
『警告:書き換え不可能です。入力された「最適化」コマンドを地脈が拒絶しています』
「……え? 拒絶……? 治せないの?」
レオは動揺し、何度も「最適化」を繰り返した。だが、指先から放たれる黄金の光は、地表に触れた瞬間にバチバチと弾かれ、霧散してしまう。
それは、この土地が十二年かけてセシルの魔力で蓄えてきた「貯金」を、レオが一ヶ月で全て使い果たし、さらに土地そのものの生命力まで前借りして搾り取った結果だった。
無理な「最適化」によって無理やり成長させられた作物は、土地の栄養を根こそぎ奪い去った。その結果、地脈はもはや修復不可能なほどに「枯れ」、自己防衛のために外部からの魔力を一切受け付けない状態になっていたのだ。
「そんな……。嘘だろ、一回書き換えるだけじゃないか……!」
レオが焦って魔力を強めようとしたその時、足元から地鳴りのような咆哮が響いた。
ドォォォォォ……!
ひび割れから噴き出した紫色の呪力が、レオを突き飛ばす。
「うわぁぁっ!」
「レオ様!」
エルヴィンがレオの襟首を掴み、間一髪で引きずり戻す。
レオがさっきまでいた場所には、ドロドロとした汚泥のような魔力が溢れ出していた。
「……治せない。僕の力が、効かないんだ……」
レオは、震える自分の手を見つめた。
これまで「正解」だと思っていた自分の知識が、実はこの国の寿命を猛スピードで削っていただけだったという現実。
エラーの文字が、レオの脳内で点滅し続ける。
セシルがなぜ、あれほど慎重に、苦しみながら少しずつ魔力を与えていたのか。その理由を、レオは最悪の形で突きつけられようとしていた。
「……レオ様、村の人々が集まってきています。……説明を」
エルヴィンの冷徹な促しに、レオは顔を上げた。
そこには、昨日の「幸福」を返せと迫る、飢えた獣のような目をした村人たちが立ち並んでいた。
「勇者様! 大変です、早く来てください!」
早朝、王宮に駆け込んできた村長の訴えを受け、レオはエルヴィンを伴って現地へと向かった。
かつてレオが「最適化」を行い、一瞬で豊かな実りをもたらしたはずの畑。だが、そこに広がっていたのは、緑の楽園ではなく、不気味なほどに赤黒く変色した「死の土地」だった。
「……なんだよ、これ。病気かな?」
レオは困惑しながら、地面に膝をついた。
かつては瑞々しかった土壌が、今はまるで焼き尽くされた炭のように乾燥し、ひび割れている。それもただの乾燥ではない。ひび割れの奥からは、澱んだ紫色の霧が噴き出していた。
「レオ様、下がってください。この空気……普通ではありません」
背後で剣を抜いたエルヴィンの声に緊張が走る。レオは首を振って、いつものように右手をかざした。
「大丈夫だよ、エルヴィン。ちょっとエラーが出てるだけだ。すぐに『最適化』して書き換えてあげるから」
レオは集中し、脳内のシステムを展開する。
だが、その瞬間に見えた「光景」に、レオは息を呑んだ。
いつもなら、地脈の流れは青や金の綺麗なラインで表示される。だが、目の前の視界に浮かび上がったのは、画面全体を覆い尽くすほどの真っ赤なエラーメッセージだった。
『警告:リソース限界。対象地脈の生命エネルギーが枯渇しています』
『警告:書き換え不可能です。入力された「最適化」コマンドを地脈が拒絶しています』
「……え? 拒絶……? 治せないの?」
レオは動揺し、何度も「最適化」を繰り返した。だが、指先から放たれる黄金の光は、地表に触れた瞬間にバチバチと弾かれ、霧散してしまう。
それは、この土地が十二年かけてセシルの魔力で蓄えてきた「貯金」を、レオが一ヶ月で全て使い果たし、さらに土地そのものの生命力まで前借りして搾り取った結果だった。
無理な「最適化」によって無理やり成長させられた作物は、土地の栄養を根こそぎ奪い去った。その結果、地脈はもはや修復不可能なほどに「枯れ」、自己防衛のために外部からの魔力を一切受け付けない状態になっていたのだ。
「そんな……。嘘だろ、一回書き換えるだけじゃないか……!」
レオが焦って魔力を強めようとしたその時、足元から地鳴りのような咆哮が響いた。
ドォォォォォ……!
ひび割れから噴き出した紫色の呪力が、レオを突き飛ばす。
「うわぁぁっ!」
「レオ様!」
エルヴィンがレオの襟首を掴み、間一髪で引きずり戻す。
レオがさっきまでいた場所には、ドロドロとした汚泥のような魔力が溢れ出していた。
「……治せない。僕の力が、効かないんだ……」
レオは、震える自分の手を見つめた。
これまで「正解」だと思っていた自分の知識が、実はこの国の寿命を猛スピードで削っていただけだったという現実。
エラーの文字が、レオの脳内で点滅し続ける。
セシルがなぜ、あれほど慎重に、苦しみながら少しずつ魔力を与えていたのか。その理由を、レオは最悪の形で突きつけられようとしていた。
「……レオ様、村の人々が集まってきています。……説明を」
エルヴィンの冷徹な促しに、レオは顔を上げた。
そこには、昨日の「幸福」を返せと迫る、飢えた獣のような目をした村人たちが立ち並んでいた。
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