偽りの聖者と泥の国

篠雨

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第2章:地脈の鳴動

第18話:感情の爆発

 馬車が王宮に戻っても、レオの指先は小刻みに震え続けていた。

 現代で「いらない子」だった自分を受け入れてくれたはずの世界。だが、そこで待っていたのは、無責任な賞賛と、それを裏切った瞬間に浴びせられる石礫だった。

(どうして……どうして僕ばっかり!)

 レオは自室に駆け込み、扉を閉めた。だが、豪華な部屋の静寂が、かえって民衆の罵声を鮮明に脳内に再生させる。

 
 ——聖勇者のくせに不甲斐ない。
 ——セシル様の方がマシだった。

「うるさい……うるさいんだよ!!」

 レオは耳を塞ぎ、床に倒れ込んだ。

 その瞬間、レオの精神状態に呼応するように、足元の床から黄金の光が不気味に明滅し始めた。地脈だ。レオが強引に繋ぎ変え、効率化した地脈のネットワークが、持ち主の「暴走した負の感情」をコマンドとして吸い上げ始めたのだ。

「みんな、施してもらうのが当たり前だと思って……! 感謝もしないで、僕に王様みたいにしろって押し付けて! どうして自分たちでやろうと思わないんだよ!!」

 レオの叫びが、床を通じて振動となり、王宮を、そして王都全域へと伝わっていく。

 地脈とはすなわち、この国の生命力そのものだ。レオが接続しているその神経網を通じて、彼の生々しい怒りとパニックが、王都中の人々の脳内へ「ノイズ」となって直接響き始めた。

「……王様はすごいよ。あんなに馬鹿にされて、石を投げられて……なんでこんな奴らを十二年も助けてあげたんだよ! 救う価値なんてない、恩知らずな連中ばっかりなのに! ばかだよ、セシルさんは……っ!」
 レオの涙が床に落ちた。その瞬間、彼の魔力は限界を超えてオーバーフローを起こした。



『コマンド:全領域掌握――承認』



 ドォォォォォン!!



 王都全体が、巨大な地震に見舞われたかのように激しく揺れた。

 地脈が生き物のように蠢き、王都の至る所から黄金の魔力が噴き出す。だがそれは、恵みの光ではない。レオの「拒絶」を乗せた、街全体を飲み込む檻だった。

「こんな国、もう嫌だ……全部消えちゃえ! 滅んじゃえばいいんだ!!」

 レオの願いが、地脈を伝って現実を塗り替えていく。

 逃げ惑う民衆、混乱する兵士たち。その全員が、突然足元から伸びてきた魔力の触手に拘束され、逃げ場を失った。

 王都全体が、レオ一人の「感情」に支配された一つの生き物のようになった。

 空はどんよりとした不気味な色に染まり、大気にはレオの嗚咽と怒りが反響し続ける。

「王様が味わった苦しみを……。あんなに頑張ってた人を捨てたバチが当たればいいんだ。みんな、体感すればいいのに……!」

 レオのその最後の一言が、地脈の底に溜まっていた「セシルが封じ込めていた呪い」に火をつけた。

 次の一瞬、王都は「沈黙」し、そして地獄のような「叫び」に包まれることになる。
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