異世界陸軍活動記

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サコナ・ソルセリー 後編

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「私が敵兵の足止めをします! 妹のサコナを連れて撤退しなさい!」

 それがミュール姉さんの最後の言葉だった。


 ◇◆◇◆◇



 副隊長や召喚者のおかげで一時は逃げ通せたものの、数で勝る敵兵に追いつかれるのは分かっていた。

 あの時、逃げながら姉さんは
「副隊長が離脱したことで、この隊の指揮権は一時的に私になります!」
 
 指揮系統がどうなっているのか、確認するのは大事なことだ。隊長・副隊長がいなくなったことで、次となるとミュール姉さんが来る、でもこの時からもう覚悟はしていたのだろう‥‥

 逃げる途中、姉さんは

「サコナ、私たちソルセリー家は何よりも名誉を重んじる家系よ、ただそれと同時に『血』を次の世代に残さなければならない、国の為でもあるし、なにより女神さまから直接頂いたこの力を失うことはあってはならないの!」

 子供のころ父が何度も言って聞かせてくれた言葉、私はただ

「分かってる!」

 とだけ言った、姉さんはそれを見てホッとした表情をした。

 一時的に敵から逃れることが出来たが、直ぐに追手が来ていることが分かった、人工魔石を使った『探知』魔法に反応があったから、その報告を聞いた姉さんは私の方を見て

「お母さんが孫を見たがってたわね、貴方はお母さん似だからきっと可愛い子を産むでしょうね」
 撤退中で疲れ切った顔をした姉さんがニコッと笑った

「姉さん?」
 私は何故こんな時にと、少しだけ疑問に思ったが‥‥

「私が敵兵の足止めをします! 妹のサコナを連れて撤退しなさい!」

「姉さん!!」

 次の指揮を任されたのはガタイのいい髭面の男性
「了解した!」
 男性は私の手を無理やり取り、連れて行こうとする、抵抗したがあまりの力の差になすすべが無かった


「姉さんどうして! ねぇ! ミュール姉さん!」

 ミュール姉さんは私の呼びかけに振り向きもせず、詠唱を始めた

「姉さん! 姉さん!!」
 男性に手を引っ張られ、私はその場から離された。

 その後、詠唱を開始したにも関わらず、『消滅』の魔法は発動しなかった。

 この時から私は少しおかしいと感じ始めていた。
 作戦が失敗した場合、後方に待機している部隊が駆け付けるはずだったが、その助けに来るはずの部隊は全く動いてはいなかった。


 ◇◆◇◆◇

 目の前には、体の殆どが炭化しているミュール姉さんが入った棺桶がある、昨日マシェルモビアから遺体の引き渡しがあった。当時の状況もマシェルモビアから伝えられた。

 『消滅』の魔法を詠唱中であり、発見した瞬間に魔法を数名で放ったとされていた。詠唱は女神に祈りを捧げる格好になるので、炭化していない部分は膝から下と背中だけだった、特に炭化がひどい場所はひび割れも起こしている。

 そしてもう一つ、隣には空の棺桶があった。
 これはソルシア姉さんの物、遺体は発見されず爆発に巻き込まれたのだろうと軍からは説明を受けた。

 二つの棺桶を見ても涙も流れない私と違い、母は違った、父を亡くした時には気丈に振舞っていた母だったが、棺桶を前に泣き崩れていた。

 母が泣いているのを見て私は、『次にあの棺桶に入るのは私だろう』と思った。
 
 姉の遺体が送られてくる3日前、私は父の書斎にいた、二人の姉がいない寂しさから何となく入っただけだったが、そこで不自然な隙間を見つけた、よく見るとそこには一冊の本の様な物が隠されていた、最初私は「あぁ、父も男だったか‥‥」と苦笑いをしてしまったが、手にしたそれは父の日記だった。

 そこに書いてあったのは、生前の父とは正反対のものだった
『戦場には行きたくない』『怖い』『ソルセリーの名前なんて無ければいいのに』

 あまりにも違う父の考えに驚き、何度も父の筆跡か確認をした、それは紛れもなく父の筆跡だった。
 日記が進むにつれて、さらに悲痛な物になる、そして私たち三姉妹の事も書かれていた。
『娘たちを軍人なんかにはしたくない、しかし軍に却下されてしまった、いっそのこと家族を連れてマシェルモビアに亡命するしか‥‥』

 と、目を疑う様な事まで書いている、最後の父が亡くなる前に書かれた日記には

『軍は私を殺そうとしているのか‥‥』

 そう書かれていた

 「そうか‥‥そうなんだ‥‥、私たち一族は‥‥」
 全てにおいて納得出来たような気がした。

 あの作戦で後方の部隊が来なかったのも‥‥もしかしたらソルシア姉さんの事も‥‥‥‥

 
 姉の棺にしがみつき泣いていた母が、今度は私にしがみつきながら
「サコナ、もう軍なんか辞めて! そしてお母さんと一緒に暮らしましょう!」
 そう訴えてきた、私は泣いている母を優しくそっと抱きしめた

 ごめんねお母さん、今度はね‥‥私の番なの

 ◆◇◆


 数か月後、軍は敵拠点の破壊を諦めておらず、私はまたあの場所に赴く事になる

「久しぶりだなソルセリー」
 体の大きい髭面の男性がソルセリー話しかける

「‥‥あなたは、あの時の」
 前の作戦で、姉のミュールから指揮を任せた男がいた

「君の姉の葬儀には俺も行ったが‥‥残念だったな、でも今回の作戦で仇を打とうじゃないか」

「‥‥そうね‥‥」
 あまり興味がないので、私はそれだけ言いその場を立ち去った。

「またあの場所にいくのね‥‥」
 ベルフから離れ、一人になったサコナはそうつぶやいた。

 

 ・・・・・・・



「うーん‥‥」

「どうだベルフ? まだ吹っ切れてないようだが?」

「ええ、しかたないでしょう、あの作戦で姉の二人が一偏に亡くなったんですから」

「そうか‥‥」
 今回の作戦で、ソルセリーを護衛する役目を授かったダブ小隊長は、腕を組み考える。

「その‥‥小隊長殿、今回の作戦ですが‥‥前回の作戦よりも兵は減らされ━━」

「ああ、分かってる、しかし上がやれと言ったならやらなくてはならない‥‥今回の作戦、撤退する事を最初から考えておかなければならない、今回の作戦がおかしいと思っても我々は軍人だ、どうする事も出来ない‥‥ベルフ、何かあったらソルセリーの事は頼んだぞ」

「‥‥分かりました」



 ◇◆◇◆◇


「俺が敵兵の足止めをします、ソルセリーを連れて急いで撤退して下さい」
(私が敵兵の足止めをします! 妹のサコナを連れて撤退しなさい)
 
 ミュール姉さん!
 ハッ、と我に返るような気がした

 姉の残した最後の言葉が蘇る、それを言ったのは救援に来た仮面を掛けた召喚者、それを聞いたサコナは何故だか無性に腹が立った。

「貴方は一体何を考えているんですか!」
 召喚者一人に何が出来る!?

「拠点の破壊や、敵の足止めは本来ソルセリー家の仕事です! 何故貴方なんかが!━━」
 
 言えば言うほど腹が立った、まるで姉さんと同じ仕事が出来ると思い込んでいるこの男に、ソルセリー家と同等の事が出来ると思い込んでいるこの召喚者に!

 怒りをぶつけていると、ベルフ・ラーベに持ち上げられた

「ちょっと! は、放しなさい!」
 この髭面の男はまた邪魔を!

 抱え上げられながらジタバタと抵抗して見せるが、力で振りほどく事も出来ない

「ソルセリー、いまはアイツに任せて逃げるんだ! それに『血』を残せとお前の姉に言われただろう、もうお前しかいないんだぞ!」

 ‥‥そうだ、私はソルセリー家の最後の一人だった‥‥
 最後に私に笑いかけてくれた姉さんの顔が思い出される

「伏せろ!!」

 担がれていた私は、地面に落とされる感覚を味わった、直後に爆発音と熱が伝わってくる、私の上にはベルフ・ラーベがいた

「痛っ、なにが?」
 
 音があった方をみると竜翼機が赤々と燃えている、先を走っていた竜翼機の乗組員が血を流して倒れている、悲鳴を上げていることから死んではいないようだ。

「ソルセリー! 立て前方からマシェルの兵だ!」
 ベルフ・ラーベはすぐに立ち上がり武器を取り出す、私も腰に装着している折り畳み式の槍に手を掛けた。

 敵が前方からもやってきたの? 挟まれた!

 ベルフ・ラーベは負傷した乗組員を、半ば引きずるようにして私の前に連れてくる

「頼む!」
 言うと同時に私に回復薬と消毒液それと包帯を投げつけ、敵兵に向かい魔法を放つ

「貴方、名前は?」

「オット‥‥うぅっ!」
 オットと言った乗組員の肩には竜翼機の破片が突き刺さっていた

「大丈夫よオット、傷は大したことないから、少し痛むと思うけど男なら我慢しなさい」

 肩口に突き刺さっている竜翼機の破片をゆっくりと引き抜いた。
「ぐ‥‥!」
 少し体を強張らせる、抜いた後に消毒液を掛ける、染みるのか歯を食いしばっていた、オットに回復薬を使用していると

「 パン パン パン 」

 銃声が聞こえる、急に聞こえてきた銃声がした方を振り返ると、そこには小さな3人の子供が銃を構え、敵兵に向かい発砲していた。

 何でこんなところに子供がいるの!? 竜翼機に乗って来たの? 何にせよこんな危ないところにいるのは危険、下がらせないと!

「そこの貴方たち!」
 私の呼びかけてその内の一人が振り向く

「貴方たちここは危険ようしろに‥‥うしろ‥‥」

 振り返った子供はあまりにも老けた顔をしていて私は言葉が詰まった、子供(?)は私に向かって親指を立てた後、敵兵に向かい銃を撃ち続けた。

 考えてみるとあの子供達はどこかで見た記憶がある、あれは‥‥
 そう! 野営時に見張りをしていた召喚獣と似ている‥‥アレが召喚獣!?

 ちいさな召喚獣達は、いつの間にかあった塹壕の中で攻撃していた。その内の一人がどこからか『小型魔石砲』を取り出す。

 今どこから出て来たの? 『収納』から取り出すように出てきたけど

 オットの応急手当をしながら召喚獣の動きに気を取られていたが、ふと、召喚獣の主のことが頭に浮かぶ

 私の前に召喚獣がいるなら、あの召喚者は‥‥一人で!?

 後方にいる召喚者の方を振り向くと、彼は次から次へと魔法を放っている、彼の周りにはパチパチと光る物が張り巡らしており、彼の周りは常に爆発が起こり爆煙が充満していた。

 意識を怪我をしたオットに戻し包帯を巻く
 
 変わった召喚者がいるって聞いたことが‥‥ある

 二人の姉を亡くしたサコナは周りには無関心になっていた。正直姉を亡くしてからの記憶が曖昧だ、しかし今、急に頭の中に、目の前の召喚者を始めて見た時のことを思い出す。

 あの召喚者は救援に来た時、空から降りて来た気が‥‥竜騎士!? なら彼はグースなの?

 初めてあの映像を見た時の恐怖が蘇り、無意識に体が震えた。
 オットの応急処置を終わらせ、召喚者に意識を向けた時、彼は紫色に輝く武器で敵の胸を貫いていた。

 そしてゆっくりと武器を引き抜き‥‥
 
 左手で顔に掛けていた仮面を外した
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