異世界陸軍活動記

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知ってた

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「何を言っているんだ!」

 俺に死んでくれと言ったタクティアに対し、ライカは普段仲間に見せないような顔と声で掴みかかろうとする。
 俺の後ろにいたライカだがその前にライカを手で制す、しかし俺の制止を振り切って前に出ようとしたためライカの体に触れ、『重力』魔法を使いライカをその場に縫い付ける。
 動けなくなったライカはその重さ故、苦痛に身もだえる


「それで俺に死んでくれってのは?」

「そのままの意味ですよ、今ソルセリーを死なせる訳にはいきません。まだ血を残してはいないのですから、もし仮に彼女に子供がいた場合は彼女を犠牲にして1万の兵の命を取りますが、今はその時ではありません。
 ですから血を残していないソルセリーをここで消費できない、だから代わりにハヤト隊長が死んでくださいと言っているんです」

 タクティアのその目は俺を人とは認識していない、戦場に立つ一つの駒として見る目だった

「敵はソルセリーをご指名なんだろ? 同じ第一級なんちゃらと言っても基本俺とソルセリーは役割が違う、つまり価値が全く違う、俺が身代わりとなったとしても深部へ抜ける道を開くとは思えない。
 仮に俺が身代わりになったとして、それが直ぐに緩衝地帯の敵に伝わって200万の兵に囲まれるだけだ。俺が残ろうともどちらにしろ全滅だ、違うか?」

「ええ、違いますね全く見当違いですよハヤト隊長。役割が違うと言っても第一級は第一級なんです、しかも現在マシェルモビアからしたら一番目障りなのがハヤト隊長でしょう、もし深部に入ったとして、飛べる召喚獣を持っているのですから簡単に深部を抜けられるでしょう、もしかしたら一人だけハルツールに帰れるかもしれません。
 ですが、たった一人で残るとしたら、もしソルセリーの身代わりでいるのならば、マシェルモビアはこの機を逃さないでしょう、喜んで道を開けてくれると思います。
 深部に押しやる為に6万の兵士を後方に備えているんです、6万対たった一人の兵士、戦力差は圧倒的です。
 もしグラースオルグになったとしても、私の計算ではハヤト隊長が相手に出来る数は中隊規模、中隊一つでグラースオルグを始末出来るとしたら、私なら間違いなく実行します200人程度の損害など微々たるものですから。
 それにもし深部にソルセリーを逃したとしても生きてハルツールにたどり着く可能性は極めて低いでしょう、全滅の可能性の方が高いかもしれません。それでも私は全兵士の2%は生き残ると思っています、ただそれだけでもマシェルモビアは喜ぶでしょうね、何もしなくとも死んでいくんですから」

「共に第一級として結果が同じだとするのだったら、マシェルモビアの要求どおりソルセリーを残して俺が深部に入った方がいいんじゃないのか? お前の計算で2%だったら俺がその中に入ったら倍の4%くらいには上がるんじゃないのか? 前に深部に入った時、魔物を倒していたのはほとんど俺だぞ。ソルセリーが深部に行くよりは俺の方がマシだと思うが?」

 俺の反論にタクティアはただ冷たい目で、そしてその声で
「アナタと、ソルセリーじゃ、格が違うんですよ!」
 声を荒げ吐き捨てた

「いいですか!? 破壊の一族は代々確実に血を残して来たんです、その事がどんなに敵の国に対して恐怖だったか! だからこんな手の込んだ作戦を用意してまでソルセリーの命を寄越せと言っているんですよ!
 それに比べてアナタは、その力が遺伝するのかも分からない、自分でも制御できない力ですよ?
 アナタが人よりも優れた力を持っていても、結局は何も変わらなかったじゃないですか! 最初だけですよ! あれだけ押していた戦況も今では少しずつ前のような戦線に戻ってきているし、海はほぼ壊滅、それにラベル島は落とされ!━━」

 そこで自分が興奮しすぎていると自覚したのか、タクティアは自身を落ち着かせるように深い呼吸をする。
 そのタクティアを、今も俺の『重力』魔法で押さえつけられているライカは、今にも飛び掛かろうとしているがそれが出来ず、威嚇する猫のように荒い息を吐きだしている

 ゆっくりと呼吸を整え少し落ち着いたのか、タクティアは今度はゆっくりと話し出した

「‥‥ハヤト隊長は役割が違うから価値が違うと言いましたが、当然ソルセリーの方が価値があるんです。もちろん今までのハヤト隊長の実績を見たら他の部隊‥‥無敵と言われたリクレク中隊よりも価値があるでしょう。
 それは軍全体、全ての兵士がそう感じているでしょうし誰も否定はできません。ですが破壊の一族はそれ以上なんです。
 ソルセリ―が動いただけで、マシェルモビアは他の全てを投げうってまで準備をしなければならない。
 今回もそうです、相手は200万人以上の兵士をあらゆる場所からかき集めてきています、おかげで首都は兵士もいなくなっているんでは無いでしょうか? それだけの事を相手はソルセリーたった1人の為にするんです。
 ハルツールにとっても、マシェルモビアにとっても彼女の存在は大きいんです。‥‥‥本来なら私はこんな事に頭を悩ませる必要は無かった。
 自分の娯楽で部隊を作り、都合よく正規に軍に入ってはいないハヤト隊長を部隊長に仕立て上げ、あなたの持つ知識を自分の物だけにしたいだけだった。
 それが予定が狂いソルセリーがこの部隊に入りたいと言った時は正直嫌でしたよ、娯楽だった部隊が一瞬で重い物になりましたからね‥‥正直、あの高慢ちきな女は最初に会った時から今でも苦手ですよ。
 ‥‥しかし結果として、『破壊の一族』部隊になってしまって私はそのように動くしかないんです。『優秀な上官は効率よく兵士を殺す事』‥‥昔ハヤト隊長が私に教えてくれた言葉です。必要な物を残し、不必要な物を捨てる‥‥ それが今なんです」

 
 正直、俺だって死にたくはない気持ちはある、この星の生まれではないし、特に国に忠誠を誓ってもいない。ただ仕事だから兵士をしており敵兵を殺しているだけで、別にタクティアの言葉に従う義理はない。作戦の総司令はソルセリーに伝えてくれとしか言われてない、だからタクティアの言う事を無視しソルセリーに犠牲になってくれと伝えればそれで済む

 ただ、俺もそこまで非情ではないし、それに‥‥‥ソルセリーには死んでほしくない

「‥‥‥分かったよ、俺が残ろう」


「待ってください!」
 掛けていたはずの『重力』魔法を振り切るようにライカが立ち上がる

「隊長はそれでいいんですか!」

 俺の『重力』を振り切った事に少し驚いたが‥‥‥
「ああ、それでいい」

「くっ‥‥‥で、でもそれじゃあソルセリーはどうなるんですか!」

「どうとは? ただ深部を抜けてハルツールに戻るだけだろう? 戻れるとは保証しないけど」

「だ、だったら! 自分が残ります!」
 ライカは自分がソルセリーや俺の代わりに残ると言い出した

「ライカにその価値はありませんよ」
 だが直ぐにタクティアに否定される
「剣技には秀でていますが、所詮ただの一兵士にしかすぎません。武闘大会のような魔法無しの世界だったらライカは歴史に名を残したかもしれませんが実際は違う、自分が残ると言うのは殊勲な態度ですが、意味がなく価値の無い行動ですよ。残っても200万の兵に取り囲まれ全滅です。無駄な考えですよ」

「お前は!」
 いつもは他の隊員に対し控えめな人間だが、今のライカはタクティアに対し敵意を剥き出しにしている

「ライカ少し落ち着け」

「これが落ち着けるわけ‥‥」 
 ワナワナと体を震わせるライカ

「お前はソルセリーをハルツールに逃がす事だけを考えればいい」

「━━っ! いや、やっぱり自分が残ります!」

 いつもは聞き訳のいいライカだが今日は何故か頑固だ
「何でそこまでこだわる、何かあるのか?」

「‥‥‥じ、自分は」
 何かこらえるように顔を歪め、決心したように話し出す
「隊長は‥‥‥ソルセリーの事をどうお思いですか?」

「ただの部下、それ以外のなにものでもない」

 ライカはその言葉に一瞬キッ! と俺に対し目を剥くが直ぐに視線を下げ少し苦しそうに‥‥‥
「ソルセリーは‥‥、隊長は、ソルセリーの気持ちを‥‥」
 そこまで言い掛けライカは首を横に振り、真っすぐに俺の目を見る


 正直言いたいことは分かっている、全部知っている



「隊長は分かってないかもしれませんが、ソルセリーは隊長の事を━━」

「知ってるよ」

「えっ?」

「ソルセリーの俺に対する気持ちも、そしてソルセリーに対するライカの気持ちも」

「!!」

「これでも人の色恋沙汰には敏感なんだ。ソルセリーはヨルド要塞攻略後辺りかな? その前からも少しそう思う事は合ったけど、そこは俺の思い上がりかな?
 ライカは‥‥ベルフが亡くなった辺りか‥‥ソルセリーの事をよく見ていた気がするな」

「なっ!!」
 的確に言われた事に驚いたのかライカは言葉を飲む

「まあ‥‥変わってくれるなら変わって欲しいよ、でも実際難しいからねぇー。あっ‥‥そうだ」
 
 『収納』から一本の刀を取り出すとライカの前にそれを差し出した

「これ欲しかったろ? 俺もただ死ぬのは嫌だから多少は反撃するけれど、相手は鎧を着こんだ兵士だからね、これじゃちょっと無理なんだよね、直ぐ折れるから。
 でもライカが相手をするのは魔物になるだろうからさ、これは役に立つと思うよ」

 言葉を失いただ立っているライカの手を取り、その手に刀を無理やり持たせた

「これは俺の最後の命令だライカ・ダーモン。サコナ・ソルセリーを無事にハルツールまで連れていけ」

 ライカは何も言わなかったが、刀を持つ手に少し力が入った事を確認し

「頼むぞ」
 俺は自分の持つ武器の一つであった『雷雲』からその手を離した



「ハヤト隊長」
 タクティアから声が掛かる

「ん? なんだ」

「ソルセリーの気持ちを知っていたんなら、ウチのコトンの思いも当然知ってますよね、口に出しているんですから、死んだら当然悲しむと思うのでコトンにも何か形見を貰えませんか?」

 しれっと死ねとまで言いながら、厚かましくも形見をくれと言ってくるタクティア

「はぁ‥‥お前ねぇ‥‥‥」
 少しどころか本気で呆れたが、まあ‥‥仕方ない。でも何を上げたらいいのやら

 コトンの性格や必要な物、思い出とかコトンの資料から色々考えた結果

「アレがいいかな‥‥‥」
 『収納』からアクセサリーの入った箱を取り出し、それから数個の指輪を厳選する

「デュラ子、コトンのサイズに合うのはどれだ?」
 デュラハンの人型の方、デュラ子は一度見た物のサイズを的確に知る事が出来る。デュラ子にそのサイズを選んでもらう事にした。
 黄色の魔法陣からデュラ子の腕だけが出て来て、その内の一つの指輪を指すとそのままその手は魔法陣の中に消えてゆく

「これか」
 選んだのは天然の魔石をそのまま指輪にした何とも贅沢な物。作ったはいいが少し勿体なくそのままにしていた物だった

「さて、これを」
 どうしよう、このまま渡してもいいが‥‥コトンはこれから大陸深部に入る事になる。ハッキリ言ってこの場で死ぬ俺よりも悲惨な目に遭うかもしれない、だったら少しでも和らげることが出来れば‥‥

 その時フッと頭によぎった事をやって見ることにした。指輪に口を近づけ、俺自身やった事の無い詠唱を開始すると指輪は黄色く光り成功した

「うわぁ‥‥出来るもんだなー」
 自分でやっといてびっくりしてしまう、天才かっ!

「何を付与したんですか?」

「付与‥‥というよりも譲渡かな? 後でのお楽しみだな、そういった機会が無ければいいんだけれど。ほら、タクティア渡しといてくれ」

 「ありがとうございます」とタクティアはそれを受け取った。



 なら、仕上げをするかな

 以前巨大なオーガと対峙した時からいつも首に下げている記録用の魔道具、それをタクティアに渡す。最後に証拠を記録しなくてはならない

「作動した?」

「はい準備は出来てます」

 作戦司令の命令ではソルセリーを残せだった。だが代わりに俺が残る事になり、命令に背くことになる。それは俺のせいだと、俺の命令だという事にしなければならない

「ハヤト小隊隊長、ウエタケ・ハヤトが命ずる。これよりこの隊の隊長をタクティア・ラティウスに委譲。サコナ・ソルセリーを連れ無事にハルツールに帰還させよ。
 帰還後はハヤト小隊を解散、以後はタクティア・ラティウスに一任する」

 『以後はタクティアに一任する』、ここ重要。これにより軍はソルセリーを好き勝手出来なくなる

 部隊長が持つ最大の権限、この権限を発動すると部下は必ずその命令に従わなければならない

 ハヤト小隊として俺の最後の命令となった
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