異世界陸軍活動記

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作戦の結末

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 ◇

「今の被害状況は?」

 マシェルモビア第3軍団長トルリ・シルベ。
 今作戦でサコナ・ソルセリーもしくはウエタケ・ハヤトのどちらかを討ち取る命令を受けている。
 そして、この場に来たのは彼女が最も戦いたくなウエタケ・ハヤトだった

「3個中隊程の被害が出ております、大隊にまでは届かない被害でしょう」

「そうですか」

 トルリは多すぎると思っていた。
 数にして約900程の命が犠牲になってしまった事、たった一人の為にそれだけの兵士が命を散らしたのだ。当初トルリの考えでは、犠牲無しでこの戦いはもう終わっているはずと考えている、しかし結果として大きな被害を出してしまった。
 でもその被害もこれまで、召喚獣オルトロスの片割れ、トロスを召喚者殺しで討ち取ることが出来た。後はもう一方のオルを討ち取り、それと共に行動しているニュートンさえ消す事が出来れば、残るはウエタケ・ハヤトがいるあの場所のみ。
 魔法が届かないが銃火器に変えてからはその攻撃は確実に届いている。銃火器は魔法程の威力は無いが、確実に召喚獣にダメージを与えている。
 特に巨大な体を持つオロチは、頭にこそ防具を装着しているが、その他は防具などを身に着けていない。そこを狙えば急所である頭を狙わずとも確実に消すことが出来る。そうなれば兵士の接近を防ぐあの見えない攻撃は無くなり近づく事が出来る。
 後はウエタケを守るノームしかいない、銃火器しか攻撃方法が無いノームなど弾が無くなればもう無力化したに等しい、召喚獣がいなくなればいくら魔力が人よりもあるウエタケ・ハヤトでもこの人数ではどうしようもないだろう、それにもうじき彼の魔力も尽きるころ‥‥‥

 そう考えていたトルリだが、彼女はその時忘れていた。
 ウエタケ・ハヤトがどういう人物だったのかを

 

 味方の召喚獣と兵士が上空に打ち上げられると同時、その攻撃をしたニュートンとそれを補助していたオルが召喚者殺しにより両方とも貫かれ、その場から姿を消した





 ◆

「大将! オルとニュートンがやられた!」

「分かってる! ‥‥っ!」
 痛む頭を抑え錠剤を口に含む、それと同時に心の奥に何か黒い物が渦巻いているのを確かに感じる

 オルトロスとニュートンが消滅したことにより、遊撃を心配する事なく相手は攻撃に集中できるため、敵の攻撃が一気に激しさを増す。
 その全てが銃火器による攻撃の為、防具があればダメージを抑えられるが、頭にしか防具の無いオロチはその首の部分がどうしても防具を装着できず、かなりの損傷を受けている。
 ノームに至っては防具など皆無

「やっぱり防具を作ってもらうんでしたね! 今からでも作れませんかね大将」

「出来る訳ないだろ!」
 ほら言わんこっちゃない、『当たらなければいい』とか言っておきながら今頃

 俺の方は既に重装備用のアタッチメントを全て装着し、盾を前面に出して銃弾を防いでいる。だが魔石砲だけは重装備であっても当たってしまえば装備が破損してしまう。
 飛んでくる魔石砲の弾は、良く見ていれば肉眼でも捕えることが出来るので優先的に魔法で排除していたが‥‥

 一発の魔石砲の弾を撃ち漏らす、やけにゆっくりと向かって来た弾はそのままノーム3号のいた場所に直撃する、だが3号は消滅しておらず、右半身の欠如だけで持ちこたえていた

「まだかポッポ!」
 敵大将を探せと命令したポッポからはまだ何もない

 更に1発頭上を抜けた魔石砲の弾がオロチに当たり爆発、8本の首のうち、3本がその爆発で吹き飛んでしまった。
 それでもノームとオロチは健在であり、右半身を失ったノームは左手で銃を撃ち続け、5本の首だけになってしまったオロチも敵を近づけさせまいとその口から衝撃波を放ち続ける。
 オロチの首が5本になった事により、攻撃の頻度も落ちてしまったのが原因で徐々に敵が距離を詰めてくる、このまま抑え込まれ終わりを迎えるのかと感じた時

「見つけた!」

 敵の総大将を見つけたとポッポからの意思が飛んでくる、雷を落とした場所の反対側、右側前方にその姿を捉えたと

「ノーム! これから突っ込むぞ! これが終わったらどこにでも行っていいが、最後まで付き合えよ!」

「あいさー!」

 こんな時に『火』魔法があれば目の前の敵を一掃できるのにと悔やむが、無い物はしょうがない、ある物で代用する

 徐々に黒い霧が体から吹き出し、既に一部霧が纏っているその腕を頭上に掲げ、魔法を行使した
 

 


 ◇


「なんですかあれは‥‥‥」
 トルリはそれを口にするのが精一杯だった。他の士官達は理解の範疇を越えており、トルリの声に反応する事すらできない

 ウエタケ・ハヤトのがいる場所から一瞬で前方の広範囲で色が変わる、少し赤茶けた色はトルリがいる場所からマシェルモビア軍の兵士達を隠したかと思うと、次の瞬間には一斉に爆発した
 
 ウエタケ・ハヤトは自分がいる場所から頭上の少し上に『土』魔法を板のように広範囲に展開し、それに別の属性の魔法を自らぶつけ、爆発させていた。
 マシェルモビアの兵士からしたら、頭上にいきなり展開した魔法が頭の上で爆発し、その衝撃をもろに受け、視覚と聴力を一時的に失ってしまっていた


 戦闘が始まってからウエタケ・ハヤトは、尋常ではない程の魔力を消費しているはず、多重召喚のみならず、異常な量の魔法など、1人では到底足りない量の魔法を行使している。
 
 にもかかわらず

「まだ‥‥これほどの魔力が残っているのですか? 貴方は本当に━━」
 そこまで言い、トルリは言葉を止めた

 それまで心の奥底に隠れていたあの恐怖が、忘れようとしていたあの姿が、少しずつトルリの表面へと昇ってくるのをまだ本人は気づいていない。
 その恐怖は体の表面を冷やし、鼓動を早め、呼吸が乱れる

 爆発で出来たその煙は少しだけ吹く風により徐々に拡散して行き━━

 そして遂にトルリは見てしまった。二度と見なくなかったその姿を
 
 爆煙の中から突然姿を現したその漆黒の姿を


「い、い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 トルリの突然の悲鳴に言葉を失っていた団長補佐や士官達は、いつもとは全く違うその姿に虚をつかれる。
 突然叫んだかと思ったら、地べたに座り込み頭を両手で抱え震えるその姿は、いつもの毅然とした態度とは到底かけ離れた姿だった

「助けて! 助けて! 嫌! 来ないで!」
 座ったまま必死に後ずさりするトルリ

「ぐ、軍団長! しっかりしてください!」
 
 軍団長補佐が伸ばした手をトルリは払い
「あいつを! あいつを誰か殺して!」
 目標に対し指を指しながら泣き叫び声を上げた

 急に豹変した軍団長に驚きつつ、その場にいた補佐や他の士官以上の者はそのある者を見て、言葉を発する事が出来ない処か動く事すらままならなかった。
 赤黒いその全身鎧を纏ったようなその姿は、この世界の者だったら誰もが知っている

 グラースオルグだった

 何故、この場にソレがいるのか? 
 当然ウエタケ・ハヤトがその存在だという事は知っている、知っていてこの場に居た。
 それでも、自分が実際に見ているものを誰もが信じられなかった

 『身体強化』という魔法がある。
 魔力によりその筋肉を強化し、通常の人間が出せないような力やスピードを出す事が出来る魔法、本人が鍛えていれば鍛えているほどその効果は上がる。
 前衛を任される兵士はこの魔法を契約している者が多く、その圧倒的な力と速さで味方に貢献する

 ただし
 グラースオルグの前ではその力も早さも無力に等しかった

 その姿を現したグラースオルグの後方には、その場から動く事が出来ないオロチが、その残っている頭から放たれる衝撃波で健闘している。
 そしてグラースオルグ横には召喚獣はノーム、もう既に一体しか残っておらず弾切れのため、銃の先についている銃剣での攻撃でグラースオルグを補助する。
 だがその補助すら間に合わない程、必要ない程グラースオルグの速さはかけ離れていた。相手が『身体強化』持っても意味がなく、その右手に握った大剣を一振りするだけで兵士10名がその場に崩れる。 
 それほどのスピードと一振りするだけで兵士の体が二つに分かれる程の力で、次々にマシェルモビア兵を蹂躙していった


 今作戦を任されているトルリ・シルベが発狂する中、補佐やその場にいた兵士、士官達も後ずさりを始める。
 敵はたった一人、でもこの戦場にいる全ての兵士はこの場に居てはいけないと脳が警告する。部隊の最後列の兵士の中には既に逃げる者もいるが、その場にいる兵士はその逃げた兵士の事を咎めることはしないだろう、むしろ良くあの時動けたと思うだろう

 つまり、その場にいた兵士全てがその姿を見て恐怖していた。
 太古の昔、世界の3分の1を飲み込んだというグラースオルグを

 そのまま全員逃げていれば被害は少なかったのかもしれない、だが、人も動物も恐怖を覚えると逃げる者とその場から動けなくなる者、そして逆にその恐怖の対象に向かって行く者がいる。
 もう逃げられないと察し、攻撃を仕掛ける者

「う、うわぁぁぁぁぁ!」
 1人の兵士がグラースオルグに無謀にも切りかかるが、刀を振り上げた瞬間には体が二つに分かれていた。
 それを目の当たりにした他の兵士達は━━

「あぁぁぁぁぁぁ!」
「だぁぁぁ!」

 その一人の勇敢な兵士につられるように、次々に悲鳴をあげながらグラースオルグへと切りかかる。それは他の兵士達にも伝播し、恐怖で動けなかった兵士達の体をも動かす
 


 銃火器、魔法、隊列、作戦

 その全てが機能していない、ただの恐怖で相手に切りかかり、逆にその命を散らす。返り血を浴びたはずのグラースオルグの体にはその血が付いていない。
 血が付着したと同時にその血はその赤黒い鎧のような表面に吸い込まれて行く、その血を浴びるのが喜びだと言わんばかりにその大剣はマシェルモビアの兵士を屠った

 大剣を振り回し相手を両断したかと思えば、動けずに止まっている兵士に向かい一斉に魔法が放たれ、地形を変えるほどの攻撃が加えられる。
 それでも一旦堰の切られた兵士達はそれを見ても尚、厄災グラースオルグに立ち向かっていく。それはかつてグラースオルグを足止めしたと言われる200人の勇者のように

 彼らは一体何のために戦っているのかすら分かっていないだろう、ただ恐怖により立ち向かっているだけとしても。
 しかし、結局は人外の者との戦い、陣地奥深くまで入り込んだグラースオルグはその大剣を両手で掴み、まるで狙い澄ませたかの如く剣先をある一方に向けると、その先に居た兵士達は脱力しその手から武器を落とした

 そして悟ったのだ

 やはり駄目だった‥‥と






 鎧のように纏っていた赤黒い物体が、体から離れるように大剣に集まり、そして放たれた。
 その射線上に居た兵士達は、その体のどの部分も残すことなくこの世界から姿を消した。
 ある一つの場所を目指し、その赤黒い塊は徐々にその形を変える。塊は球体になり、分裂し形を形成する。
 分裂した球体はそれぞれ人の形となり、その人の形は古めかしい鎧を纏った人の兵士の形へと姿を変える。
 200もの数に分裂したその赤黒い兵士達は常軌を逸した速さで駆け


 トルリ・シルベの元へと向かって来た



「いやぁぁぁぁあ!!!」
 気が狂いそうな位叫び、涙を浮かべたトルリは向かってくるその人ではない兵士の形をした物に対し、両手を前に出すが、そんな事をしても何も変わらない。
 トルリの周りにいた者達は、その赤黒い兵士の姿をしたものを見て恐怖し逃げ出していた


「来ないでぇぇぇぇ!」
 死にたくないと願うトルリだが、その迫りくるものはトルリを目指し、そして━━



 直前でトルリを避けるように左右に分かれ異常な速さで通り過ぎていった

 直後トルリの後ろから聞こえる叫び声、その叫び声も途中でかき消され、結果、グラースオルグとトルリの間には何一つ残ってはいなかった




 ◆


 
「何でアイツがいるんだよ!」

 グラースオルグの変身が解けると同時、体に酷い痛みが走る。重装甲用のアタッチメントをしていたが、それでもグラースオルグになり敵中に突撃した時には攻撃を食らっていた。
 それは装甲を貫き、大剣を持つ手には自分の血が流れて来ている

 今の俺には時間が無い、ブレスレッドに入っている錠剤も多分残り少ない、だからあれが最後の攻撃になると思っていた。
 ところが、全てを飲み込むあの攻撃を放った直後、上空にいるポッポの目を通し敵総大将が飲み込まれる瞬間を確認しようとしたが、その時、見知った顔がその目に写った。だから咄嗟に向かう方向を変えてしまった。だが、軍団長のバッチを胸に付けているのを確認、まぎれもなくアイツがこの作戦の総大将だ


「計画が全部━━っ! うっ!」
 横腹から砕けた音と衝撃がしたと感じた瞬間、その衝撃の原因となった刀がそのまま体の中に向かい貫かれる

「大将ぉぉぉ!」
 間に割って入ろうとしたノーム1号が逆に背中を何かに貫かれ、そのまま消滅

「あぁぁぁぁぁぁぁ!」
 俺を刺した兵士はそのまま貫かんと更に力を込めるが━━

「「「旦那様!」」」
 小さな魔女のような3体の召喚獣が飛び出してくる、いつもはラグナの後ろに引っ付いている、ひぃ・ふぃ・みぃが包丁を手に持ち、俺を貫こうとする兵士の顔に包丁を突き立てる、そしてそのまま張り付き何度も顔に向かって包丁を振り下ろした。
 張り付かれた兵士は急所を何度も刺され、刀を持つ力が消える

 俺は横腹に刺されていた刀を手で引き抜くが、その直後3方向から別の兵士の持つ槍で体を貫かれてしまう、その先は体を貫通し反対側から穂先が体を突き破り出ていた。
 もううめき声すら出ない、明らかに致命傷と分かる深い攻撃に手に持っていた大剣を落としてしまう

 その時にはもう既に、ひぃ・ふぅ・みぃ、は別の兵士に黄色い穂先の槍により消滅させられていた

「グースを討ち取ったぞ!」
 俺を貫いた槍を持つ1人が叫ぶ


 あまい‥‥切り札ってのは最後まで取って置くのが普通なんだよ

「ヤタ」

 凶鳥と呼ばれた召喚獣が頭上に現れる、魔法陣から飛び出したヤタは一瞬で羽を広げ、俺の周囲の敵兵に対し一斉にその力をぶつけた

 6つの属性魔法が次々と大地に降り注ぐ、人も大地も抉れ飛び散り打ち砕く、血の一滴、髪の毛一本も残らぬ究極の属性攻撃。 
 地上最強の召喚獣ヤタにより俺に槍を突き刺していた3人も、ラグナに引っ付いている3体の小さな魔女を消した召喚者殺しを持つ者も、俺を取り囲んでいた兵士達も一瞬でその場から消え去ってしまった

 通常なら魔法を放ったヤタは魔力回復の為魔法陣に戻るのだが、ヤタは戻らずその鋭い鉤爪で魔法の範囲外にいた兵士を攻撃しだした

「無茶しやがって‥‥‥」
 体に突き刺ささったままの槍を抜こうとしたが、今更抜いても変わらないと思い落とした大剣を拾い上げ、ブレスレッドに残っている錠剤を見ると残りは2つだった

「もうここまでか‥‥」
 その内の一つを口に含み噛み砕き、それを飲み込むと逆に喉から押し上げる物があり、そのまま口から出してしまう。
 飲み込んだ錠剤は何とか吐き出さずに済んだが、口から出て来たのは真っ赤な血だった

「吐血とか‥‥ホントにあるんだな」
 口に残っている血を吐き出し、最後の命をを振り絞るべく足に力を込める。鎧の装甲アタッチメントはほぼ破壊され、盾も壊れ無いに等しい。
 残りかすのような装備を全て外し身軽になった俺は

「さあ! 俺を討ち取る奴は誰だ! 我こそはと思う奴は出てこい!」
 そう叫ぶ
「だが‥‥討ち取られるのはお前らの方だけどな!」
 これが俺の最後の突撃、俺の叫びに怯んだ兵士に向け走り出す、『身体強化』を使い一瞬で間を詰め、その大剣を振り下ろす。
 魔法で周りの全ての敵を攻撃し自分に優位な立ち位置を確保、怯んだ者から順に大剣で切り伏せていった。
 それでも俺の一方的な攻撃になるはずも無く刀を突き立てられ、肉を切られる。そして、酷使した大剣も流石に無理が掛かってしまったのか━━

 キン!
 
 相手の刀を弾いた瞬間、その音と共に刃が折れてしまった。空中を舞う剣先、それを好機と見たか大剣を折った兵士は一気に両断しようと刀を振り上げる

「とっ━━!」
 勝利を確信したのかその敵兵は何かを叫ぼうとした

 多分「取った!」だろうが━━
「あまい!」
 
 振り上げた刀を構えたまま、その兵士の腹には大きな穴が開いており、そこには光り輝くランスが突き刺さっていた。
 持ち手のところ以外、全て魔力で形成されたその大型のランスは相手の鎧諸共その肉体を一瞬で消し去り、その兵士はゆっくりと倒れていく、その兵士を蹴り飛ばした所でとある異変に気付く。
 後方に置いてきたオロチの首が8本とも無くなっているにもかかわらず、まだ生存していた




 ◇


「指揮をとらなくちゃ‥‥‥」

 放心状態だったトルリ・シルベはへたり込んでいた姿勢から体を起こす。
 今作戦の総指揮を任された身とし、最後まで指揮を取らなくてはならない、しかし第3軍団で指示を伝達出来る者は既にこの世におらず、通信機器も先ほどの攻撃で消失した。
 指揮を取るにはまだ指揮系統が乱れていない第4軍団に合流しなくては指揮を取ることが出来ない。
 トルリが立ち上がると先程までいたはずの兵士達が、ある場所からごっそりと消失していた。震えながらも双眼鏡でその光景を目にすると、今まさに我が軍の兵士達が勇敢にも戦っている所だった

「現状確認‥‥‥」

「対象いまだ健在」
 その姿を見たトルリは直ぐに視線を逸らす、ウエタケ・ハヤトを直視できなかった。血に染まった鎧を着こみ、光り輝く武器を振り回す

「召喚獣はヤタ‥‥と他確認できず」
 他にオロチがいたが、その首の8本すべてが無くなっていた残るはヤタ以外に存在していない

 もしあの召喚獣が今私の所に来たら‥‥

 トルリは一瞬そう考えてしまい、あの鉤爪で攻撃されたらと身を震わせたが

「それは‥‥‥」
 無いでしょうね、あの人はもう私に攻撃はしない


「無事でしたかトルリ軍団長!」
 先ほどの攻撃でやられてしまったと思われていたトルリだったが、生存に気付いた兵士が駆け寄る

「私は大丈夫です、作戦の指揮を取る為、第4軍団の指揮系統を使い指示を出します」

「了解しました」

 移動しようとしていた時、召喚獣のヤタがついにその姿を消す、一瞬で消えた事から間違いなく召喚者殺しでの消失だろう

 これで本当にあの人は‥‥

 トルリが終わりを感じた時、双眼鏡でなくともはっきりと見える巨大な召喚獣オロチの残りの体が動いている様に見えた。首が無いのにも関わらず‥‥
 何故今だに存在しているのだろう?

 トルリは不思議とそう思う、通常召喚獣は致命傷となる攻撃を受けると消滅し魔法陣に戻る、だが8本の首全てが無くなっているにもかかわらず、その地面から湧き出るように存在しているオロチはその胴体が健在なのだ。
 オロチの周りには既に味方の兵士はいない、首を全て刈り取ったからもう大丈夫と召喚主の方に全員向かっていた。
 嫌な予感がしたトルリは兵士に

「通信機を持っていませんか? 出してください、今すぐに」

 だが、それは既に遅かった。地上に残っている胴体の部分が激しく動いたかと思いきや、その体を捻じ曲げ、のたうち、叩きつけ、地面に隠れていた部分を地上へとその姿を見せた。
 トルリも何度もその姿を見た事がある、出会ってしまってはいけないその魔物、ただ捕食する為だけある巨大な口、目や鼻は無くそこには大きな口だけがあった。
 その姿はまるで━━

「ワ、ワーム!」
 
 その姿は大陸深部で何度も見た地中から一気に現れ、味方を飲み込んでいった魔物、ワームそのものだった。
 オロチ、もといワームは地を這いずるように高速で動き、地上に居た兵士達をその大きな口で次々と捕食してゆく



 ◆

 

 こんな場所にワームが出るのかよ
 
 と思ったが、よくよく感じてみるとそれはオロチだった。間違いなく俺の召喚獣オロチであり、地上を這いずりまるで蛇のように敵兵を飲み込んで行く

「あっちが本体だったか」
 根っこがあるとか、やっぱり草で間違ってなかった

 高速で地上を移動し逃げる敵兵を飲み込み続けるオロチは、次々と敵の兵士を飲み込んで行く、俺を討ち取ろうとして近づいていた兵士達は皆、オロチの犠牲となっていった。
 しかし、蛇のような姿のオロチその特性上、正面の敵に対しては有効であったが、側面にからの攻撃には対処できない。
 いくら高速で動き回るとはいえ、討たれるのは時間の問題であった




 ・・・・・

 ・・・・

 ・・


「はぁ‥‥はぁ‥‥はぁ」

 幾度も大剣を振るい何度も魔法を放ち、剣が折れれば何度でも敵をランスで突き刺し、そして逆に突かれ、切られ、「気が付くと」と言った方がいいのか、俺は仰向けに倒れていた。
 がむしゃらに武器を振るい、その結末が今になる。
 痛いのか熱いのか、それとも痒いだけなのか? 切られた場所、突かれた場所がどちらともいえない感覚を脳に伝えてくる

 もう既に俺と共に戦っていた召喚獣はいない、全て召喚者殺しによって消滅させられていた

「寒い」

 ブレスレッドからは最後の錠剤が一錠こぼれ落ちている、あともう少し出来たはずだが体がもう限界を迎えていた。
 寒いのは血が抜けて体温が落ちたからか‥‥

 我ながらよく頑張った。ここまでする必要も無かったのに‥‥

 本来ならソルセリーの代わりに、ここで討たれるだけで良かった。
 でもそれが何となく嫌だった。ただそれだけ

 もういいだろう、ここでもう終わろう、全部終わりにしよう、俺の役目はもう終わった。
 心残りは‥‥まあいい、いまさら‥‥‥

 

「止めは俺にやらせてくれないか?」
 地に倒れもう虫の息の俺を、取り囲む兵士の内の1人が声を上げる

 その声を上げた兵士は有名なのか、それとも階級が上なのか、俺を囲んでいた兵士達は皆一歩後ろに下がった。
 黄色に輝く槍『召喚者殺し』を持つ兵士が前に出てくる、どうやら止めを刺してくれるようだ。出来ればあっさりと一思いにやって欲しい‥‥‥けども!

 前にでて近寄ってきた兵士の真横に召喚獣コスモを呼び出す、呼び出されたユニコーン状態のコスモはそれと同時にその角を敵兵に突き立てるが、その兵士はそれが分かっていたかのように瞬時に後ろに下がり、その手に持つ召喚者殺しでコスモを切りつけ、消滅させた

「すまない‥‥手の内は既に知っている、もう既に一度見た攻撃方法なんだ」

 なんだよ、一見さんじゃないのかよ


 召喚者殺しを持ったその兵士は俺が倒れている所まで来る。俺に止めを刺したいと言った割にはその兵士からは怒りも、そして憎しみも感じ取ることは出来なかった。
 手に持つ武器にも力が入っておらず、ただ落ちないように持っているだけ、その男が俺に向かい口を開く

「グラースオルグ、いや‥‥竜騎士よ」

 竜騎士ときたか‥‥ハルツールでしか言われたことが無い、ただ、主に言ってくるのはリクレク中隊のカシ大佐だけだったけど

「随分と‥‥大層な名前で言ってくれるじゃない」

「ああ‥‥この場に来るまで自分はあなたの事をグースと呼んでいた。大切な時間を共に過ごした仲間を殺され、いつか必ず復讐しようと‥‥‥ずっと、そう思っていた」

「へえー良かったじゃない、復讐が叶ってっ━━ゴホッ!」
 既に大半の血を出し切ったと思っていたが、まだ残っていたらしく口から赤い血が飛び出る、その血が飛んだ先には一粒の消費できなかった錠剤があった

「魔渇薬‥‥あなたはそこまで覚悟があって‥‥‥」
 白い錠剤に目を落とした男がそうつぶやく

「そう‥‥だな‥‥だが、あなたの戦いぶりを見てその考えが変わった。召喚者と言えど、たった1人で6万の兵に挑むなど無謀であるにも関わらず、常に前に出て勇敢にも戦った。
 そんな事が出来る者など、過去に存在していた竜騎士以外にはいないだろう、今それが出来るとしたらあなたしか存在しない、竜騎士ウエタ・ケハヤトよ‥‥自分は‥‥‥自分はあなたに敬意を示す」

 そのマシェルモビアの兵士は足を揃え、敵である俺に対し敬礼をしていた。その目には涙が浮かび、その声は震え、今の言葉が嘘ではないと証明できる

「自分はあなたと戦う事が出来た事を生涯誇りに思う。この日の事を我が息子にも伝える、この戦場には本物の竜騎士がいたと」

 ‥‥‥なるほど
 なら‥‥この人に最後を託そう、この人なら俺も後悔はしないだろう

「覚悟があるんだったらこの首‥‥くれてやる、貰ってくれ‥‥出来れば一思いに」

「承知した。あなたにこれ以上痛みなどは感じさせない」

 やっとこれで終われる
 そう思ったが、最後に一つだけ気になった事があった

「その前に‥‥あんたの仲間が俺に殺された場所ってどこだ?」
 薄れゆく意識の中で、あの砦だろうか? それともあの砦? と走馬灯のように次々と思いだされる、その光景が脳裏に蘇り、今思うとどれも辛い戦いだった筈なのに何故か懐かしく思えてくる

「あなたと出会ったのはハルツールの中央緩衝地帯が初めてだった」

 ハルツールの中央‥‥緩衝地帯?

「初めてグラースオルグとして世界にその名を轟かせたあの日、私は仲間を失ってしまった。それがあなたとの初めての出会いだ」

「‥‥‥そうか‥‥あの時逃げたのが1人いたが‥‥そうかあの時の‥‥」

 男はうんと頷く

「そうだ‥‥最後に‥‥‥」
 俺は男に対し力の入らない手を伸ばす

 男も俺の手を握ろうと手を伸ばして
「なんだ、自分に出来る事なら━━」

 パァァァァァァン!

 近距離からのレールガンの発射で甲高い音が当たり全体に響き、そして男の喉の半分が吹き飛び、同時に血もそこから湧き出るように溢れる
「ガッッ━━」

「最後になるのはテメェの方だよ!」
 半分に千切れた喉を掴み、そのまま自分に引き寄せる

「甘ぇんだよ、切り札ってのは最後まで取って置くもんなんだよ。しかもこの俺に対してこれ以上痛みを感じさせないだぁ!?」

 パァァン!
 パァァン!
 パァァン!
 威力を極限まで抑えたレールガンを3発、男の体にたて続けに打ち込む

「なら俺はお前に最後まで痛みを感じさせてやるよ」
 威力を抑えたため、弾は貫通せず体内に留まる

「俺はあの日からずっと後悔していた! 仲間を殺したお前をあの日逃がしてしまった事をな! 一日も忘れた事は無い! 必ず、必ず、死んだ仲間の仇を打つと!」

 男は口を動かし何かを伝えようとするが、喉を半分吹き飛んだ上に、俺にその喉を掴まれ声を出せない

「おい、知ってるか? グースに殺された奴は死後もその魂が俺の中に囚われると」

 男の瞳が淡い絶望に変わり

「お前だけは絶対に逃がさない、死後もその魂を苦しめ続けてやる━━」
 喉を握る手に━━

「━━永遠にな」
 
 男の瞳が絶望に変わり

 ━━力を込め、半分消し飛んだ首を胴体から引きちぎった

 ブチッ!
 人の首を引きちぎった音にしてはあまりにも簡単な音

「あっはっははぁぁぁあ! ざまぁあー!  ガフッ!!」
 直後、胸部に強い衝撃を受け、頭部に何かが当たった




 







 あぁ‥‥‥これで本当に終わりだ。もう本当に心残りは無い‥‥‥

 体に何か色々当たっている気がするが、もう感覚もないし‥‥‥五感全てがもう何も感じはしない、何となく揺らされているとしか‥‥‥

 もういい、もう満足だ。最後に仇を取る事も出来た。カナル隊長‥‥オリバー、ブライ、そして‥‥ミラ

 あぁ‥‥‥これから忙しくなるな‥‥
 まず‥‥最初は‥‥‥そうだな、バールと‥‥酒を一杯酌み交わすとするか、ノームから酒も貰ってるし


 周りが少し騒がしく感じ、何かに体を挟まれた気がするが‥‥もうどうでもいい事、俺のこの魂の抜け殻はどうとでもするといいさ‥‥‥
 




 もう終わったんだから‥‥‥



 







 ◇



「あ、あぁ‥‥」
 トルリ・シルベは戦いが終わったその場所を見て、その場に崩れ落ちる。その場所に伸ばした手も届くはずも無く、その手はトルリの顔にあてがわれる

「ごめんなさい‥‥‥」
 目からは大粒の涙が頬を伝い、いくつも零れ落ちた。多くの兵が亡くなったこの場所でトルリは後悔した

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 いつも凛々しく振舞う彼女からは考えられない程弱々しく、そして儚いと周りの兵士は思う。軍団長は死んでしまった兵士の為に泣いているのだと


 グラースオルグであるウエタケ・ハヤトの最後は意外なものだった。
 最後に集中攻撃を喰らったウエタケ・ハヤトの真上から急速に接近する個体があり、いち早く気付いた兵士がウエタケ・ハヤト近くにいた兵士に向かい

「上だ!」
 と叫ぶ

 上空から接近しウエタケ・ハヤトの側に降り立ったのは、巨大なヒュケイだった

 
 『凶鳥ヒュケイ』
 人の死体を好んで食べると言われる死の象徴であるその鳥は、軍人であれば誰もが嫌う。
 だがそのヒュケイは誰もが知っているヒュケイでは無かった。有りえない程の巨体を持ち、そのクチバシは鋭く人を丸呑みに出来そうなほど大きく、その足は太く足鋭利な鉤爪は長刀のようだった。
 そのヒュケイは、人を丸呑みに出来るほど大きなクチバシでウエタケハヤトを咥えると、そのまま飛び去って行った

 一瞬の出来事で誰もが言葉を発せずにいた

 

 トルリ・シルベは泣いていた
 だがその涙は散って言ったマシェルモビア兵への涙では無い

 『戦友』ウエタケ・ハヤトへの涙であった。
 共に深部を抜け、トルリの中で彼は戦友であった。だが彼がグラースオルグとなり、その矛先が自分に向いた時、彼女の中では彼は戦友から『今すぐ殺して欲しい』対象に変わった。
 だが、ウエタケ・ハヤトはそうでは無かった。最後トルリにその全てを飲み込む攻撃を放ったが、その寸前で攻撃を反らした。
 相手がトルリと分かってその攻撃を反らしていた。
 それをトルリ自身その意味を知っている

 ウエタケ・ハヤトの中で、トルリの事は最後まで『戦友』であった。
 そのウエタケ・ハヤトの最後は、ヒュケイによって連れ去られ、そのまま体を啄まれるという、兵士にとって最も最悪な最後

 トルリは悔やむ

「ごめんなさい‥‥‥」
 どうせなら最後まで兵士として死なせてあげたかった





「ごめんなさい‥‥」

 トルリの涙が止まる事はなかった






 この日、この作戦に参加したマシェルモビアの兵士6万人の内、2万人が帰らぬ人となった。
 対象のグラースオルグであるウエタケ・ハヤトは、魔力を回復するがその後衰弱し死が訪れるとされる魔渇薬を大量に服用し、多重召喚を行い更にはグラースオルグと身を変え、多くの兵士の命を飲み込む

 帰らぬマシェルモビア兵士同様、ウエタケ・ハヤト自身もヒュケイによって連れ去られ、その体はヒュケイにより食われてしまっただろうと判断。
 ただ一つその場に残された物は、ウエタケ・ハヤトが所持していたとされる折れた大剣の先だけだった



 この日、マシェルモビアは6万人の勇者達により、厄災とされるグラースオルグを討伐した






 ◇◆◇◆



「ハヤトが死んだじゃと?」

 書類をまとめながら報告を聞いていた、ハルツール首相であるゴルジア・サトはその手に持っていたペンを落とした

「はい、最後は巨大なヒュケイによって連れ去られたそうです」
 報告をしたゴルジアの部下は表情を一切変えない、その時の戦闘からは2日程時間が過ぎている

 ペンを落としたその右手と左手をそのまま組み机の上にゴルジアは置く
「そうか‥‥ハヤトが‥‥‥」

 ゴルジアはハヤトの給料の半分を出しており、当初軍から捨てられたハヤトを拾い、ハヤトにとっては恩人のような人であった。
 ハヤトが前線に出るのを嫌い、緩衝地帯など魔物の間引きや駐留など常に後方にいる事を望んでいた
 
 ハヤトが死んだと聞いたそのゴルジアは‥‥‥






「バカなやつじゃ、大人しくワシの人形になっていれば死ぬことも無かったろうに」
 組んでいた両手を解き、落ちたペンを拾う

「そのほかの報告は? 一族の残りはどうした?」

「はい、サコナ・ソルセリーですが━━」


 ゴルジアが受けている報告は、ハルツール軍には全く届いていない、それ以前にラベル島が陥落したその日から、作戦に参加した部隊はもちろんの事、海軍の軍艦からも連絡が一切途絶えていた。
 陸軍も海軍もその異常事態に追われるなか、何故かゴルジアにはその情報が届いていた

「むっ‥‥待て、その報告は後で聞こう、神託じゃ」

「はっ‥‥」
 ゴルジアの部下は短く返事をし、部屋から退出する


 ゴルジア・サトは席を立ち両膝を付いた状態で両手を胸に当てる、それは誰もが知っている祈りを捧げる姿であった



「女神よ‥‥どうか我らにその道を示してくだされ」
 ゴルジアが頭を下げる先には、茶色の波掛かった美しい髪を持つ女神サーナの姿が


 マシェルモビアにしか今現在存在しないとされる『神託』受けられる人物。
 だがハルツールにも女神の存在に耐えられる人物が存在していた

 女神サーナに頭を下げるゴルジアを、サーナは感情の無い瞳で静かに見下ろす










 ◆◇◆◇

「あーっ‥‥‥まだ来ないのかな? グースは」
 大陸西部マシェルモビア緩衝地帯において、『勇者』の称号を持つルイバ・フロルドは今か今かとグースの登場を待っていた。
 グースはこの緩衝地帯を通るとされており、フロルドはもしグースが来たら好きにしていいと軍の上層部に許可を得ている。
 自分の爪を齧りながら、召喚者殺しを持つ右手を下に突き刺していた。その突き刺している先には暇つぶしにと捕まえたオーガがおり、何度も何度も突き刺したオーガの体は既に突き刺す場所が無いほどミンチになっている

「グースはどうしたら喜んでくれるかなぁ? 目玉をえぐりだしてやろうか? それとも指を一本一本短く切ってやろうか? 腹を裂いて腸を奇麗に取り出してやろうか?」

 フロルドの心はあの日以来既に死んでおり、頬にはピンクの染料をそして口には真っ赤な紅を入れている、その顔は濃い化粧が施されており、その異様な容姿にフロルドの近くには仲間の兵士すら近寄らない

「早く来ないかなぁー、グース」
 それは恋をする乙女のように待ち人の登場を待っていた
 
 もうここには来ないと知らずに
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