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引っ越しと霊峰
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ケネイ
ケネイ
聖なるケネイ
その頂から見えますか?
その頂からは彼の姿が見えますか?
教えてください
知らせてください
誰よりも先に
私に伝えてください
伝えてください
私がここにいると伝えてください
いつまでもここで待っていると
◆◇
「それではこれがハヤト中尉の新しい武器と防具になります」
「ありがとう」
軍にお願いしていた武器と防具がとうとう完成してしまった。完成したという事は戦場へと行かなければならない、別にもうちょっとゆっくり作ってもらっても良かったのだが
「何かご不満な点がありましたらまたこちらで対処いたしますので」
一式を持って来てくれた人はそう言って部屋を退出していった
「へぇー、これが新しい装備品ですか?」
本来『ロメ』奪還作戦で忙しいのにもかかわらず、俺の為に本部へと来てくれたタクティアが繁々と装備品を眺める
「そうだね、こっちから色々注文したんだけど物凄い早く完成したよ、やっぱり本職の人は違うね」
軍を通じて装備品を作ってくれた職人の質の高さがうかがえる。
細かな部分も丁寧に作られ、仕上げが美しい。
俺が注文した箇所が若干違う形になっている所もあるが、それは全て良い方向に変えられていた。自分が気づかなかった所に手を加えられていたり、より使いやすい形になっている。今回この装備を作ってくれた職人達は本当に分かる人が作ってくれたのだろう
「ほんとに綺麗ですわ、俺には無理だなここまで仕上げるのは」
「ねー、凄いですね」
つるっつるのピッカピカで使うのが勿体ないくらいだ。戦場に出たら速攻で傷が付くんだろうけど、そうなったら物凄い喪失感が出てきそうだ。
でも、一回傷が付いたらもういいやってなっちゃうんだけどね、だから毎回『修復』魔法で保険を掛けておこう
それで今回作ってもらった防具の方は、形自体は以前俺が作った物と一緒で動きやすさ重視の防具に、必要となったらその都度、重装甲のアタッチメントを付けるというやり方にしてある。
「あれ、武器はこれだけですか? 今回大型の剣は使わないんです?」
用意された武器の中には、以前メインに使っていた大剣の類は無い。大剣の代わりに置かれていた武器は二本の槍と長弓だけだった
「そうだね、今度から槍に変えていこうと思ってね、と言うのもマシェルモビアでの戦いで投擲用の槍とランス以外は全部壊れちゃって、それ以降ずっと槍かランスを使ってたから、そっちの方が馴れちゃったんだよね。後々必要だと感じたらその都度軍に剣やら刀やらを注文しようと思ってるんだけど」
普通なら支給された武器防具以外はすべて自腹になる、しかし軍は俺の装備品を無料で作ってくれるそうだ。
しかも今回から自分で作る必要は無くなった。軍が腕のいい鍛冶屋に発注して作ってもらう事になっている、これで今度からは休みの日は修理などで時間を潰す事は無くなった。
実に嬉しい事だがよくよく考えると、5年前にお金を渋らずお願いしていたら別に休みを潰してまで修理をする事はなかった。
でもその時はお金がもったいないから頼まなかっただけで‥‥それに基本俺はケチだし、エリクサーは最後まで使わず取って置くほうだし、ちなみにゲームの話
「それで結構いい感じに出来たみたいだね、この槍なんかソルセリーが使ってた槍と同じ所で作ってもらったんだけど━━」
ソルセリ―の槍は鉛筆の芯のように溶かした魔石が槍先まで伸びており、魔力が先端までキレイに流れるように出来ている。
最初見た時は本当に関心したものだが、今回作ってもらった槍はソルセリーが持っていた槍の究極版と言った所だろう。
『収納』を持たないソルセリーは槍を三つ折りにする構造にして携帯していた。その為その能力が若干阻害された状態にあった。
だが、俺の場合は『収納』はあるし、折りたたむ必要も無い。だから余計な工程も無く、本当の槍の力を呼び出す事が出来る、突くためだけに特化した最強の槍と俺は思っている。
見た目は質素でなんの装飾も無く、スポーツの槍投げで使う様な見た目をしていた。
そしてもう一つの槍は先が十文字になっており
「先が光るんだよ」
「光るだけですか?」
「そうだよ光るだけ、黄色く光るの」
「前もそのような槍を持ってましたけど、こだわりですか? 召喚者殺しに合わせるように」
「こだわり2割に実用性8割かな?」
「実用性って、その何処に実用性が?」
「そう思うならこの槍先ちょっと見ててよ」
俺が魔力を通すと槍先が黄色く光る、それをタクティアが見つめ10秒ほど過ぎた所で魔力を切った
「どう? 何か目が変じゃない?」
「あー、なるほど一部白く見えますね、光っていた所を見ていたせいですね」
「そだね、強い光だと人は眩しくて目を反らすけど、弱い光だと目を反らさないんだよ、気にならないしね。
ただ、じっと見ているとその光が眼球に残るからね、戦いになったらどうしても武器が目に入るしょ? 視界に入るだけでどうしても気になるし、ライカとかオーバみたいに熟練者は違うけど、未熟な兵士ってどうしても武器の方に気を取られるんだよね、注視しがちっていうか」
「なるほど‥‥それを考えてあの光る武器を作っていたんですね」
「そうだよ、考えなしに俺が作ると思っていた?」
「ええ、ただの趣味で光らせていると思っていました」
はい、ただの趣味です。最初光る武器を作ったのは、光るとカッコイイいだろうという考え方から、結果として相手から召喚者殺しと間違えられたけど。
経験上、未熟な兵士に効果があるのは分かっている。もちろん俺も未熟なので、言わば未熟な者が未熟な者に勝つ方法としてとても有効。
若干、小物臭がしてしまうがそんなの気にしてられない。
それと、光る武器で視界に影響が出るのも、自分で使ってて視界が悪くなる時があったから、正直邪魔でした。
でも今回は凄い、持ち主にはその光が伝わらないよう『幻惑』が掛けられていおりその対策もされている、それに加え絶対に折れない槍という事で注文した。
絶対にと言う言葉は無いが、それでも自分で作るよりは格段に折れにくくなっていると思う。
それと長弓の方は以前俺が作った物と同じ設計で作ってもらった。弓はあまり実戦では使っていなかったので大したこだわりはない、矢の方は後で支給されている物の矢じりだけを人工魔石に変え、それに魔法を『付与』して作って置こうと思う
さて、今いる場所はタクティアが出世した事を切っ掛けに軍から与えられた新しい部屋であった。美しい装飾品が並べられている部屋でする事と言ったら━━
「ラグナ、トロン茶頂戴」
優雅にお茶を飲む事だろう、ここはクオルシではなく紅茶に近い味のトロンが似合う
「私にも下さい」
お茶をお願いするとラグナは魔法陣から出て来て
「どうぞ」と既に入れてあるお茶を出して来た。しかもタクティアには砂糖ドロドロの熱々のお茶で、猫舌の俺にはノンシュガーの少しだけぬるいお茶を出して来た。
ゲームのようにレベルという概念がこの世界にあったとしたら、ラグナはマスターバトラーの称号を手に入れているのかもしれない、それほどラグナの執事力は上がってきている。
未来予測が出来るのではないかと思えるほど、俺がお茶が欲しいと思った時にさっと出して来るラグナは既に世界一の執事では無いだろうか?
召喚獣だけれども
「あれ? 今日はお菓子は無しですか?」
「そうだね、顧問クビになったからね、あそこの商品は二度と買わないと心に誓ったあの日」
「あー、あはは」
軽く笑い、タクティアは甘いトロン茶を一口飲むと
「では次は私からですね、はいどうぞ私が集めた植物の種とその説明を記載したノートの写しです」
「忙しいとこごめんね、助かるよ」
一冊のノートを受け取った。それはタクティアが集めた植物の生態系が書かれたノートであった
「お役に立てて何よりです、ドライアドでしたっけ? 新しい召喚獣の名前は、その召喚獣が植物を操れるから欲しかったんですか?」
「んー、まぁー‥‥そんなとこかな?」
「植物を操れるって凄いですね、動物じゃないのに命令に従うなんて」
「そうだね、属性魔法じゃないから相手の魔法に当たったとしても爆発なんてしないし、例えば『ツタ』を足に絡めさせて転倒させるとか出来るじゃない? 『成長促進』魔法もあるからセットで使えればなーと思ってさ」
「なるほど‥‥」
「あっ、そうだ。じゃあさ俺の集めた食べられる野草の写しもやろうか? ちゃんと今日の為に写して━━」
『収納』からタクティアの為に用意しておいた、分厚い写しを取り出し━━
「いりません」
俺の顔を凝視したまま断られてしまった
「そう‥‥」
半分『収納』から顔を出した写しが何だか寂しい、無かった事のようにこっそりとしまう
「じゃあこれ、頼まれてたやつ」
今度は『収納』から一枚の図面を出した。タクティアの前に置くと、今度はサッとは自分の所に寄せる。こっそり野草の写しも忍び込ませようとするが左手で押し返された。
図鑑並みに分厚い写しなので、一枚の紙に忍び込ませるのは少々無理があった様子
「これは‥‥弓?、で間違いないでしょうか?」
見ていた図面から顔を上げる
「弓とは違うね、『クロスボウ』って武器なんだけど」
俺は得意げに説明を始める、もしかしたら世界を一変させてしまうかもしれないこの武器を
ハルツールとマシェルモビアとの戦いで、相手国にこの数年でかなりの技術力の差がついてしまっている。
多分ではあるが、その技術力の出どころは女神だと思う。小型の集魔機やら『天使の隠れ家』に似た魔道具やら‥‥最近では俺の知らぬところで新しい兵器が多々誕生しているという。
その中でも俺が感心したのは召喚獣の特攻兵器だった。言い方を変えれば召喚獣ドローンだろう。
ポッポの本来の名であるイデラム、虫の姿をした情報を伝える召喚獣だが、それを使って自爆兵器として扱っているという
四角い箱の中に覗き窓を開け、イデラムと一緒に魔石爆弾も入れておく。箱の大きさは段ボール箱位だろうか?
それを召喚者はイデラムが見た景色を自身の目に写し、敵に近づきそれを爆破させるというやり方で、召喚獣は『探知』魔法に引っかからないので発見が難しい。
ただしそれには条件が厳しく、俺も結構練習して会得したが、召喚獣が見ている景色を自分の目に写すことが出来る召喚者はかなり少ない、つまり出来る人間が限られているし、自爆するという事は自らの召喚獣が消えるという事でもある。
そうなると体から魔力が一気に消失する事になるし、また召喚獣が復活するまで時間が掛かる為連続では使用できない。
それにイデラムの様な非力な召喚獣が、何キロもある箱を持ち上げることなど出来ないため、その箱ににも『重力』『放出』などを付与するなど、かなりの手間とお金がかかるという欠点もあるが
という事でタクティアは俺に何かありませんか? と前に言われていた。
そんな訳で、禁断の魔法『回想』魔法を使い、以前ネットで一度だけ見た事のあるクロスボウの設計図を思い出し図面に書き下ろしてみた。
ちなみに『回想』魔法とは一度見た事、体験したことを鮮明に思い出す魔法、その一方で自身の黒歴史を一つ余計に思い出してしまう。
今回思い出してしまった黒歴史は、小学2年の時、いたずらでズボンを下げられ一緒にパンツまで下ろされた事件だった。
目の前に二人の女子がいて俺のアレを見られてしまったという過去、「きゃー」と言いながら顔を手で覆うが、指の間からしっかりと見てるお約束もある。
あの時はとてつもなくはずかしい思いをしたが、今となればそれはそれで貴重な体験だと思っている。
それを今、女の子の前でそれをするとなれば色々大変な事になってしまう、わいせつ罪とか? そんな感じで、今やろうと思っても出来ない事を先取りしてやったと思えば、別に黒歴史ではないと考える。
女子で言ったらパンチラみたいな感じだろう、こっちはチンチラだが‥‥いやチラどころではないけれどね
「まず弓だと弦を引くために力も必要だし、狙いを定めて放つのは結構経験がいる、そんな訳で使える人ってのは限定されてくるんだ。俺なんかは今でも当てるのは難しいし」
「ふむ」
「でもこのクロスボウは力が要らない。この図にあるレバーを引くと弦が引かれる、だから力は必要ない。それと弓の矢とは違いこのクロスボウの矢、正確にはボルトって言うんだけど、かなり小さいから持ち運びには困らない、このボルトをそのままセットすればいいだけ。
それと命中精度も弓とは格段に違う、この構造を見れば分かるようにトリガーが付いていて銃のように扱えるんだ」
どうだろう? そんな感じでタクティアを見るが
「うーん‥‥」
タクティアは暫く考えた後
「使えませんね」
一刀両断してきた
「なんでだよ」
頭で考えるだけで使えないって判断するとは、まだまだ甘いなこの男、何の為に実戦を経験したのやら、これだから机仕事の人は‥‥
「まずですが、連射速度。いちいちレバーを引かないと矢‥‥ボルトでしたっけ? それが充填出来ない事。銃の場合連射が出来ますし、弓だって引いて放すだけだから早いです熟練者なら尚早いでしょう」
「ま、まあそれは有るけど、でも威力が━━」
「ハヤト中尉もご存知のように、威力は魔力が含む量で決められています。銃だと無理ですが弓の場合、直前まで矢に魔力を流して放ちます。
中尉のいた世界では銃の方が威力が高いと聞いていますが、こちらではその上に魔力が加わります。
ですがこのクロスボウはギリギリまで流し込むのは無理ですよね? ですから威力は弓の方が上です。力が必要ないとの事ですが、連射速度の関係で撃ち負けることもありますし、命中力は弓よりは上でしょうが、それは銃より優れているとはならないですよね? となると━━」
威力・・弓→銃(銃の種類や弾丸によっては弓以上の威力UP)→クロスボウ
連射速度・・銃→弓→クロスボウ
命中率・・銃(連射が出来る為)→クロスボウ→弓
「━━以上の結果からこのクロスボウは戦場では扱いにくいのではないでしょうか? 使いたいという人も‥‥いないのでは? と思います」
世界を一変させる武器と思われた物は、実は産廃武器でした。淡々と説明を受けそれ以上反論は出来なかった。
そうでした、魔力の事を考えていませんでした。図面を引いている当初はウキウキだったのに‥‥、最初ドヤ顔で説明していた俺も今はドヤもウキもどこへやらに消えてしまった。
黒歴史まで思い出して図面を引いたのに‥‥女子の前でパンツを下ろした丸山、お前だけは絶対に許さない
「でもこれは預かって置いて構いませんか? 何かしらの参考になる可能性があるかもしれませんから」
「う、うん、いいよ‥‥」
可能性‥‥それは未知、つまり無いって事ね
俺が渡した図面をしまい、タクティアはラグナのお茶に口を付ける、すると‥‥
「あれ? ラグナは何か変わってませんか?」
「お気づきになられましたか?」
嬉しそうにラグナが答える
「実は膝が旦那様やタクティア様と同じようになりまして━━」
実はラグナ、自分の姿に少々劣等感を抱いていた。と言うのもその悪魔のような顔ではなく、その足だった。
ラグナの膝は人と違い逆間接になっている、つまりしゃがむと膝が後ろに曲がるようになっていた。これは俺が悪いのだけれど、召喚時に『執事』と念じたのだが、途中で『羊』が頭に浮かんでしまい、否定した結果、見た目『ヤギ』になってしまった。
羊やヤギは、後ろ足の人で言ったら膝の部分に当たる場所が逆間接になっており、逆に曲がるようになっている、しかし実際あれは踵らしく膝では無いのだが、そんな事は俺にとってどうでもいいことであり、膝に見えるからアレは膝なのである。
幼稚園児にあの足の部分は人だったらどの部分ですか? と聞いたら膝と答えるだろう
もし膝と答えそれを
『違うよあの部分は踵だぞ、知らないの? 恥を知れ!』
と人の間違いを許さない踵警察がいたのなら、それは大人の汚れてしまった心を持った人だろう。人の欠点を許さない器の狭い人間に育ってしまった事に恥を知った方がいいと思う。アナタを生み育てた両親も悲しんでいるだろう‥‥
というのはいったん置いといて、つまり俺が余計な事を考えてしまい、元々持っているイメージと重なった結果、ラグナは足が逆間接になってしまった。
そしてラグナは以前、スーパーで一番下の棚の商品を取ろうとしゃがんだ結果、後ろに出た膝に子供が足を掛けて転んでしまい大泣きされ、その子が親に
「あの気持ち悪いおじさんに転ばされた」
と言われそれ以降、心に深い傷を負ってしまった。
ラグナは自分の足の間接が、人とは逆だから気持ち悪いと思われていると考えたようだが‥‥ゴメン、子供が言っているのはお前の顔の事だと思う、顔が悪魔だし‥‥
そんなラグナだが、あの日‥‥ヴァンギエル族を喰らった日を境にしてだと思う、召喚獣のラグナの足が人と同じ間接になった。
以前にも召喚獣がパワーアップした事があったが、それと同じ事だと思う。俺もその日を境にして魔力が格段に上がったし、ポッポもその能力が上がっている。視力が以前よりも良くなり、より遠くのものも見えるようになって、尚且つ言葉を伝えなくとも相手に意思の伝達が可能となった。
グラースオルグに取り込まれた者は死後もその中で苦しめられるという噂があるが、人の力を喰い自分の能力が上がっているのなら、その噂もあながち嘘では無いのかもしれない
軍から装備も受け取り、タクティアからの用事も済ませたあと
「新しい住所とその部屋の鍵です」
タクティアがさがしてくれていた俺の新しい家の住所とカギを受け取る
「ありがとう、悪いね忙しい所」
「いいえ、こちらこそありがとうございます」
「ん? うん、どうもね」
タクティアはこれから、すぐにでも自身が総指揮を務めるロメへと出立するそうだ。本当に忙しい中、俺の為に申し訳ないと思う
・・・・・
・・・
・
「ここが新しい家ね」
首都のサーナタルエから移転門で西にピョーンと飛び、大陸西部の南側の都市モレントに俺の新居がある。
このままずっと北に進めばタスブランカが存在しており、北西にずっと進めば俺が隔離監視されていたこのあるマルド収容所もある。
そして俺の住む家は平屋のアパートと言った所だろう、戸建てが10棟ほど並んでいた。
立地としては移転門からは少々離れてはいるが、公共機関も不便ではないくらいはちゃんとしていたし、スーパーやその他お店も近くにあるし、迷惑施設も無く治安も良い、まさに完璧な立地であった
家の中は2LDKでトイレとお風呂は別、風呂は『洗浄』魔法があるから必要ないので後で物置にでも変わるだろうか? 湿気でカビが生えるかな? どのみちほとんどラグナの『収納』に入るので物置にする必要も無いかもしれない。
キッチンもそこそこ大きく、ラグナも気に入っている様だ。
そして一部屋が寝室で、もう一部屋が‥‥書斎だな!
「旦那様、本でしたら私の『収納』に入れておけばいいのでは?」
「分かってない、分かってないなラグナ、本とか実際どうでもいいんだよ。ただ単に本棚に並ぶ本を並べておきたいだけなんだよ、その方が何だかかっこいいからね知識人みたいで」
「そうでしたか、差し出がましいことを言い申し訳ございません」
かまへんかまへん! どのみち俺も大した意思なんか持ってない
そして北側の窓から見える景色には標高のそこそこ高い山がそびえ立っていた。
標高の高い山には魔力溜まりができ、その山頂は一年中天候が荒れおり雨や雷などが吹き荒れる。だが目の前にある霊峰ケネイ、聖なるケネイとも呼ばれている山は魔力溜まりが出来るほどは標高が高くない。
しかし、その一歩手前にあるのかな? 山頂には一年中小雨が降り注ぎ周辺都市の水がめとなっている
そしてこのケネイ山を題材にした物語があるという。
実話を元にしたというその物語は、恋人が戦争に行ってしまい、その帰りを待つ人の話らしい。
女性に人気のその物語は、最後に恋人と再会する場面があるのだが、それは墓地での再会、つまりその恋人は戦死してしまった。
物語の最後にお墓に向かい「お帰りなさい」と声を掛けて幕を閉じる
バッドエンドの物語は何故か女性、主に主婦に人気である、昔から何となく不思議に思っていたけど、何故女性は主人公が不幸になる物語が好きなのだろうか? ウチの母も好きだった昼ドラ、最後には恋人が死んだりとか、事故に遭って体が動かなくなった恋人を一生看病しながら過ごすとか、1人取り残されたけどお腹にはその人の子供が‥‥みたいな?
悲恋が好きなのか、もしかしたらそれは女の人の心の中にある感情なのかもしれない、要は旦那が早く死なないかなー? って思ってるんじゃないだろうか? 旦那が早く死んだら一人になれるのにとか保険金が入るのにとか? 考え過ぎかな? いやでもあらがち間違ってない気がするが‥‥そんな事ちらっとテレビで見た記憶があるし‥‥「旦那元気で留守がいい」て言葉もあるし
逆にこの物語の立場が逆転だったら、つまり女性が戦争に行ったとして、男が待つ立場だったらと考えると‥‥この物語の終わり方は納得できない。
ヒロインが死ぬとかまず考えられない、そんな物語を作るような作者がいたらその人の頭はどうかしていると思う。
まあでもこれは実話を元にしているということだから、しょうがないって言ったらしょうがないんだろう。
でも最後くらいハッピーエンドでもいいじゃない、生き返るとかさ?
‥‥駄目か、怖いね墓場から蘇るとか
さてさて、間取りも確認したことだし、この新しい家に合う家具を買いに行こうか。それと帰りにスーパーに寄って買い物をしなければならない。ラグナのお披露目もあるし、それをしないとまた魔物が出たとか言って騒ぎになるからね
「ラグナ出かけるよ」
ケネイ
聖なるケネイ
その頂から見えますか?
その頂からは彼の姿が見えますか?
教えてください
知らせてください
誰よりも先に
私に伝えてください
伝えてください
私がここにいると伝えてください
いつまでもここで待っていると
◆◇
「それではこれがハヤト中尉の新しい武器と防具になります」
「ありがとう」
軍にお願いしていた武器と防具がとうとう完成してしまった。完成したという事は戦場へと行かなければならない、別にもうちょっとゆっくり作ってもらっても良かったのだが
「何かご不満な点がありましたらまたこちらで対処いたしますので」
一式を持って来てくれた人はそう言って部屋を退出していった
「へぇー、これが新しい装備品ですか?」
本来『ロメ』奪還作戦で忙しいのにもかかわらず、俺の為に本部へと来てくれたタクティアが繁々と装備品を眺める
「そうだね、こっちから色々注文したんだけど物凄い早く完成したよ、やっぱり本職の人は違うね」
軍を通じて装備品を作ってくれた職人の質の高さがうかがえる。
細かな部分も丁寧に作られ、仕上げが美しい。
俺が注文した箇所が若干違う形になっている所もあるが、それは全て良い方向に変えられていた。自分が気づかなかった所に手を加えられていたり、より使いやすい形になっている。今回この装備を作ってくれた職人達は本当に分かる人が作ってくれたのだろう
「ほんとに綺麗ですわ、俺には無理だなここまで仕上げるのは」
「ねー、凄いですね」
つるっつるのピッカピカで使うのが勿体ないくらいだ。戦場に出たら速攻で傷が付くんだろうけど、そうなったら物凄い喪失感が出てきそうだ。
でも、一回傷が付いたらもういいやってなっちゃうんだけどね、だから毎回『修復』魔法で保険を掛けておこう
それで今回作ってもらった防具の方は、形自体は以前俺が作った物と一緒で動きやすさ重視の防具に、必要となったらその都度、重装甲のアタッチメントを付けるというやり方にしてある。
「あれ、武器はこれだけですか? 今回大型の剣は使わないんです?」
用意された武器の中には、以前メインに使っていた大剣の類は無い。大剣の代わりに置かれていた武器は二本の槍と長弓だけだった
「そうだね、今度から槍に変えていこうと思ってね、と言うのもマシェルモビアでの戦いで投擲用の槍とランス以外は全部壊れちゃって、それ以降ずっと槍かランスを使ってたから、そっちの方が馴れちゃったんだよね。後々必要だと感じたらその都度軍に剣やら刀やらを注文しようと思ってるんだけど」
普通なら支給された武器防具以外はすべて自腹になる、しかし軍は俺の装備品を無料で作ってくれるそうだ。
しかも今回から自分で作る必要は無くなった。軍が腕のいい鍛冶屋に発注して作ってもらう事になっている、これで今度からは休みの日は修理などで時間を潰す事は無くなった。
実に嬉しい事だがよくよく考えると、5年前にお金を渋らずお願いしていたら別に休みを潰してまで修理をする事はなかった。
でもその時はお金がもったいないから頼まなかっただけで‥‥それに基本俺はケチだし、エリクサーは最後まで使わず取って置くほうだし、ちなみにゲームの話
「それで結構いい感じに出来たみたいだね、この槍なんかソルセリーが使ってた槍と同じ所で作ってもらったんだけど━━」
ソルセリ―の槍は鉛筆の芯のように溶かした魔石が槍先まで伸びており、魔力が先端までキレイに流れるように出来ている。
最初見た時は本当に関心したものだが、今回作ってもらった槍はソルセリーが持っていた槍の究極版と言った所だろう。
『収納』を持たないソルセリーは槍を三つ折りにする構造にして携帯していた。その為その能力が若干阻害された状態にあった。
だが、俺の場合は『収納』はあるし、折りたたむ必要も無い。だから余計な工程も無く、本当の槍の力を呼び出す事が出来る、突くためだけに特化した最強の槍と俺は思っている。
見た目は質素でなんの装飾も無く、スポーツの槍投げで使う様な見た目をしていた。
そしてもう一つの槍は先が十文字になっており
「先が光るんだよ」
「光るだけですか?」
「そうだよ光るだけ、黄色く光るの」
「前もそのような槍を持ってましたけど、こだわりですか? 召喚者殺しに合わせるように」
「こだわり2割に実用性8割かな?」
「実用性って、その何処に実用性が?」
「そう思うならこの槍先ちょっと見ててよ」
俺が魔力を通すと槍先が黄色く光る、それをタクティアが見つめ10秒ほど過ぎた所で魔力を切った
「どう? 何か目が変じゃない?」
「あー、なるほど一部白く見えますね、光っていた所を見ていたせいですね」
「そだね、強い光だと人は眩しくて目を反らすけど、弱い光だと目を反らさないんだよ、気にならないしね。
ただ、じっと見ているとその光が眼球に残るからね、戦いになったらどうしても武器が目に入るしょ? 視界に入るだけでどうしても気になるし、ライカとかオーバみたいに熟練者は違うけど、未熟な兵士ってどうしても武器の方に気を取られるんだよね、注視しがちっていうか」
「なるほど‥‥それを考えてあの光る武器を作っていたんですね」
「そうだよ、考えなしに俺が作ると思っていた?」
「ええ、ただの趣味で光らせていると思っていました」
はい、ただの趣味です。最初光る武器を作ったのは、光るとカッコイイいだろうという考え方から、結果として相手から召喚者殺しと間違えられたけど。
経験上、未熟な兵士に効果があるのは分かっている。もちろん俺も未熟なので、言わば未熟な者が未熟な者に勝つ方法としてとても有効。
若干、小物臭がしてしまうがそんなの気にしてられない。
それと、光る武器で視界に影響が出るのも、自分で使ってて視界が悪くなる時があったから、正直邪魔でした。
でも今回は凄い、持ち主にはその光が伝わらないよう『幻惑』が掛けられていおりその対策もされている、それに加え絶対に折れない槍という事で注文した。
絶対にと言う言葉は無いが、それでも自分で作るよりは格段に折れにくくなっていると思う。
それと長弓の方は以前俺が作った物と同じ設計で作ってもらった。弓はあまり実戦では使っていなかったので大したこだわりはない、矢の方は後で支給されている物の矢じりだけを人工魔石に変え、それに魔法を『付与』して作って置こうと思う
さて、今いる場所はタクティアが出世した事を切っ掛けに軍から与えられた新しい部屋であった。美しい装飾品が並べられている部屋でする事と言ったら━━
「ラグナ、トロン茶頂戴」
優雅にお茶を飲む事だろう、ここはクオルシではなく紅茶に近い味のトロンが似合う
「私にも下さい」
お茶をお願いするとラグナは魔法陣から出て来て
「どうぞ」と既に入れてあるお茶を出して来た。しかもタクティアには砂糖ドロドロの熱々のお茶で、猫舌の俺にはノンシュガーの少しだけぬるいお茶を出して来た。
ゲームのようにレベルという概念がこの世界にあったとしたら、ラグナはマスターバトラーの称号を手に入れているのかもしれない、それほどラグナの執事力は上がってきている。
未来予測が出来るのではないかと思えるほど、俺がお茶が欲しいと思った時にさっと出して来るラグナは既に世界一の執事では無いだろうか?
召喚獣だけれども
「あれ? 今日はお菓子は無しですか?」
「そうだね、顧問クビになったからね、あそこの商品は二度と買わないと心に誓ったあの日」
「あー、あはは」
軽く笑い、タクティアは甘いトロン茶を一口飲むと
「では次は私からですね、はいどうぞ私が集めた植物の種とその説明を記載したノートの写しです」
「忙しいとこごめんね、助かるよ」
一冊のノートを受け取った。それはタクティアが集めた植物の生態系が書かれたノートであった
「お役に立てて何よりです、ドライアドでしたっけ? 新しい召喚獣の名前は、その召喚獣が植物を操れるから欲しかったんですか?」
「んー、まぁー‥‥そんなとこかな?」
「植物を操れるって凄いですね、動物じゃないのに命令に従うなんて」
「そうだね、属性魔法じゃないから相手の魔法に当たったとしても爆発なんてしないし、例えば『ツタ』を足に絡めさせて転倒させるとか出来るじゃない? 『成長促進』魔法もあるからセットで使えればなーと思ってさ」
「なるほど‥‥」
「あっ、そうだ。じゃあさ俺の集めた食べられる野草の写しもやろうか? ちゃんと今日の為に写して━━」
『収納』からタクティアの為に用意しておいた、分厚い写しを取り出し━━
「いりません」
俺の顔を凝視したまま断られてしまった
「そう‥‥」
半分『収納』から顔を出した写しが何だか寂しい、無かった事のようにこっそりとしまう
「じゃあこれ、頼まれてたやつ」
今度は『収納』から一枚の図面を出した。タクティアの前に置くと、今度はサッとは自分の所に寄せる。こっそり野草の写しも忍び込ませようとするが左手で押し返された。
図鑑並みに分厚い写しなので、一枚の紙に忍び込ませるのは少々無理があった様子
「これは‥‥弓?、で間違いないでしょうか?」
見ていた図面から顔を上げる
「弓とは違うね、『クロスボウ』って武器なんだけど」
俺は得意げに説明を始める、もしかしたら世界を一変させてしまうかもしれないこの武器を
ハルツールとマシェルモビアとの戦いで、相手国にこの数年でかなりの技術力の差がついてしまっている。
多分ではあるが、その技術力の出どころは女神だと思う。小型の集魔機やら『天使の隠れ家』に似た魔道具やら‥‥最近では俺の知らぬところで新しい兵器が多々誕生しているという。
その中でも俺が感心したのは召喚獣の特攻兵器だった。言い方を変えれば召喚獣ドローンだろう。
ポッポの本来の名であるイデラム、虫の姿をした情報を伝える召喚獣だが、それを使って自爆兵器として扱っているという
四角い箱の中に覗き窓を開け、イデラムと一緒に魔石爆弾も入れておく。箱の大きさは段ボール箱位だろうか?
それを召喚者はイデラムが見た景色を自身の目に写し、敵に近づきそれを爆破させるというやり方で、召喚獣は『探知』魔法に引っかからないので発見が難しい。
ただしそれには条件が厳しく、俺も結構練習して会得したが、召喚獣が見ている景色を自分の目に写すことが出来る召喚者はかなり少ない、つまり出来る人間が限られているし、自爆するという事は自らの召喚獣が消えるという事でもある。
そうなると体から魔力が一気に消失する事になるし、また召喚獣が復活するまで時間が掛かる為連続では使用できない。
それにイデラムの様な非力な召喚獣が、何キロもある箱を持ち上げることなど出来ないため、その箱ににも『重力』『放出』などを付与するなど、かなりの手間とお金がかかるという欠点もあるが
という事でタクティアは俺に何かありませんか? と前に言われていた。
そんな訳で、禁断の魔法『回想』魔法を使い、以前ネットで一度だけ見た事のあるクロスボウの設計図を思い出し図面に書き下ろしてみた。
ちなみに『回想』魔法とは一度見た事、体験したことを鮮明に思い出す魔法、その一方で自身の黒歴史を一つ余計に思い出してしまう。
今回思い出してしまった黒歴史は、小学2年の時、いたずらでズボンを下げられ一緒にパンツまで下ろされた事件だった。
目の前に二人の女子がいて俺のアレを見られてしまったという過去、「きゃー」と言いながら顔を手で覆うが、指の間からしっかりと見てるお約束もある。
あの時はとてつもなくはずかしい思いをしたが、今となればそれはそれで貴重な体験だと思っている。
それを今、女の子の前でそれをするとなれば色々大変な事になってしまう、わいせつ罪とか? そんな感じで、今やろうと思っても出来ない事を先取りしてやったと思えば、別に黒歴史ではないと考える。
女子で言ったらパンチラみたいな感じだろう、こっちはチンチラだが‥‥いやチラどころではないけれどね
「まず弓だと弦を引くために力も必要だし、狙いを定めて放つのは結構経験がいる、そんな訳で使える人ってのは限定されてくるんだ。俺なんかは今でも当てるのは難しいし」
「ふむ」
「でもこのクロスボウは力が要らない。この図にあるレバーを引くと弦が引かれる、だから力は必要ない。それと弓の矢とは違いこのクロスボウの矢、正確にはボルトって言うんだけど、かなり小さいから持ち運びには困らない、このボルトをそのままセットすればいいだけ。
それと命中精度も弓とは格段に違う、この構造を見れば分かるようにトリガーが付いていて銃のように扱えるんだ」
どうだろう? そんな感じでタクティアを見るが
「うーん‥‥」
タクティアは暫く考えた後
「使えませんね」
一刀両断してきた
「なんでだよ」
頭で考えるだけで使えないって判断するとは、まだまだ甘いなこの男、何の為に実戦を経験したのやら、これだから机仕事の人は‥‥
「まずですが、連射速度。いちいちレバーを引かないと矢‥‥ボルトでしたっけ? それが充填出来ない事。銃の場合連射が出来ますし、弓だって引いて放すだけだから早いです熟練者なら尚早いでしょう」
「ま、まあそれは有るけど、でも威力が━━」
「ハヤト中尉もご存知のように、威力は魔力が含む量で決められています。銃だと無理ですが弓の場合、直前まで矢に魔力を流して放ちます。
中尉のいた世界では銃の方が威力が高いと聞いていますが、こちらではその上に魔力が加わります。
ですがこのクロスボウはギリギリまで流し込むのは無理ですよね? ですから威力は弓の方が上です。力が必要ないとの事ですが、連射速度の関係で撃ち負けることもありますし、命中力は弓よりは上でしょうが、それは銃より優れているとはならないですよね? となると━━」
威力・・弓→銃(銃の種類や弾丸によっては弓以上の威力UP)→クロスボウ
連射速度・・銃→弓→クロスボウ
命中率・・銃(連射が出来る為)→クロスボウ→弓
「━━以上の結果からこのクロスボウは戦場では扱いにくいのではないでしょうか? 使いたいという人も‥‥いないのでは? と思います」
世界を一変させる武器と思われた物は、実は産廃武器でした。淡々と説明を受けそれ以上反論は出来なかった。
そうでした、魔力の事を考えていませんでした。図面を引いている当初はウキウキだったのに‥‥、最初ドヤ顔で説明していた俺も今はドヤもウキもどこへやらに消えてしまった。
黒歴史まで思い出して図面を引いたのに‥‥女子の前でパンツを下ろした丸山、お前だけは絶対に許さない
「でもこれは預かって置いて構いませんか? 何かしらの参考になる可能性があるかもしれませんから」
「う、うん、いいよ‥‥」
可能性‥‥それは未知、つまり無いって事ね
俺が渡した図面をしまい、タクティアはラグナのお茶に口を付ける、すると‥‥
「あれ? ラグナは何か変わってませんか?」
「お気づきになられましたか?」
嬉しそうにラグナが答える
「実は膝が旦那様やタクティア様と同じようになりまして━━」
実はラグナ、自分の姿に少々劣等感を抱いていた。と言うのもその悪魔のような顔ではなく、その足だった。
ラグナの膝は人と違い逆間接になっている、つまりしゃがむと膝が後ろに曲がるようになっていた。これは俺が悪いのだけれど、召喚時に『執事』と念じたのだが、途中で『羊』が頭に浮かんでしまい、否定した結果、見た目『ヤギ』になってしまった。
羊やヤギは、後ろ足の人で言ったら膝の部分に当たる場所が逆間接になっており、逆に曲がるようになっている、しかし実際あれは踵らしく膝では無いのだが、そんな事は俺にとってどうでもいいことであり、膝に見えるからアレは膝なのである。
幼稚園児にあの足の部分は人だったらどの部分ですか? と聞いたら膝と答えるだろう
もし膝と答えそれを
『違うよあの部分は踵だぞ、知らないの? 恥を知れ!』
と人の間違いを許さない踵警察がいたのなら、それは大人の汚れてしまった心を持った人だろう。人の欠点を許さない器の狭い人間に育ってしまった事に恥を知った方がいいと思う。アナタを生み育てた両親も悲しんでいるだろう‥‥
というのはいったん置いといて、つまり俺が余計な事を考えてしまい、元々持っているイメージと重なった結果、ラグナは足が逆間接になってしまった。
そしてラグナは以前、スーパーで一番下の棚の商品を取ろうとしゃがんだ結果、後ろに出た膝に子供が足を掛けて転んでしまい大泣きされ、その子が親に
「あの気持ち悪いおじさんに転ばされた」
と言われそれ以降、心に深い傷を負ってしまった。
ラグナは自分の足の間接が、人とは逆だから気持ち悪いと思われていると考えたようだが‥‥ゴメン、子供が言っているのはお前の顔の事だと思う、顔が悪魔だし‥‥
そんなラグナだが、あの日‥‥ヴァンギエル族を喰らった日を境にしてだと思う、召喚獣のラグナの足が人と同じ間接になった。
以前にも召喚獣がパワーアップした事があったが、それと同じ事だと思う。俺もその日を境にして魔力が格段に上がったし、ポッポもその能力が上がっている。視力が以前よりも良くなり、より遠くのものも見えるようになって、尚且つ言葉を伝えなくとも相手に意思の伝達が可能となった。
グラースオルグに取り込まれた者は死後もその中で苦しめられるという噂があるが、人の力を喰い自分の能力が上がっているのなら、その噂もあながち嘘では無いのかもしれない
軍から装備も受け取り、タクティアからの用事も済ませたあと
「新しい住所とその部屋の鍵です」
タクティアがさがしてくれていた俺の新しい家の住所とカギを受け取る
「ありがとう、悪いね忙しい所」
「いいえ、こちらこそありがとうございます」
「ん? うん、どうもね」
タクティアはこれから、すぐにでも自身が総指揮を務めるロメへと出立するそうだ。本当に忙しい中、俺の為に申し訳ないと思う
・・・・・
・・・
・
「ここが新しい家ね」
首都のサーナタルエから移転門で西にピョーンと飛び、大陸西部の南側の都市モレントに俺の新居がある。
このままずっと北に進めばタスブランカが存在しており、北西にずっと進めば俺が隔離監視されていたこのあるマルド収容所もある。
そして俺の住む家は平屋のアパートと言った所だろう、戸建てが10棟ほど並んでいた。
立地としては移転門からは少々離れてはいるが、公共機関も不便ではないくらいはちゃんとしていたし、スーパーやその他お店も近くにあるし、迷惑施設も無く治安も良い、まさに完璧な立地であった
家の中は2LDKでトイレとお風呂は別、風呂は『洗浄』魔法があるから必要ないので後で物置にでも変わるだろうか? 湿気でカビが生えるかな? どのみちほとんどラグナの『収納』に入るので物置にする必要も無いかもしれない。
キッチンもそこそこ大きく、ラグナも気に入っている様だ。
そして一部屋が寝室で、もう一部屋が‥‥書斎だな!
「旦那様、本でしたら私の『収納』に入れておけばいいのでは?」
「分かってない、分かってないなラグナ、本とか実際どうでもいいんだよ。ただ単に本棚に並ぶ本を並べておきたいだけなんだよ、その方が何だかかっこいいからね知識人みたいで」
「そうでしたか、差し出がましいことを言い申し訳ございません」
かまへんかまへん! どのみち俺も大した意思なんか持ってない
そして北側の窓から見える景色には標高のそこそこ高い山がそびえ立っていた。
標高の高い山には魔力溜まりができ、その山頂は一年中天候が荒れおり雨や雷などが吹き荒れる。だが目の前にある霊峰ケネイ、聖なるケネイとも呼ばれている山は魔力溜まりが出来るほどは標高が高くない。
しかし、その一歩手前にあるのかな? 山頂には一年中小雨が降り注ぎ周辺都市の水がめとなっている
そしてこのケネイ山を題材にした物語があるという。
実話を元にしたというその物語は、恋人が戦争に行ってしまい、その帰りを待つ人の話らしい。
女性に人気のその物語は、最後に恋人と再会する場面があるのだが、それは墓地での再会、つまりその恋人は戦死してしまった。
物語の最後にお墓に向かい「お帰りなさい」と声を掛けて幕を閉じる
バッドエンドの物語は何故か女性、主に主婦に人気である、昔から何となく不思議に思っていたけど、何故女性は主人公が不幸になる物語が好きなのだろうか? ウチの母も好きだった昼ドラ、最後には恋人が死んだりとか、事故に遭って体が動かなくなった恋人を一生看病しながら過ごすとか、1人取り残されたけどお腹にはその人の子供が‥‥みたいな?
悲恋が好きなのか、もしかしたらそれは女の人の心の中にある感情なのかもしれない、要は旦那が早く死なないかなー? って思ってるんじゃないだろうか? 旦那が早く死んだら一人になれるのにとか保険金が入るのにとか? 考え過ぎかな? いやでもあらがち間違ってない気がするが‥‥そんな事ちらっとテレビで見た記憶があるし‥‥「旦那元気で留守がいい」て言葉もあるし
逆にこの物語の立場が逆転だったら、つまり女性が戦争に行ったとして、男が待つ立場だったらと考えると‥‥この物語の終わり方は納得できない。
ヒロインが死ぬとかまず考えられない、そんな物語を作るような作者がいたらその人の頭はどうかしていると思う。
まあでもこれは実話を元にしているということだから、しょうがないって言ったらしょうがないんだろう。
でも最後くらいハッピーエンドでもいいじゃない、生き返るとかさ?
‥‥駄目か、怖いね墓場から蘇るとか
さてさて、間取りも確認したことだし、この新しい家に合う家具を買いに行こうか。それと帰りにスーパーに寄って買い物をしなければならない。ラグナのお披露目もあるし、それをしないとまた魔物が出たとか言って騒ぎになるからね
「ラグナ出かけるよ」
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