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悩み事も寝て美味しい食事を取れば大体忘れる
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「という訳で、ラグナには少し用事があってね、暫くは戻って来ないから夕食はそっちの方で取ってほしい。俺も今日は少し疲れたからこのまま休むことにするから」
部下でありお隣さんでもあるコトン・ラティウスと、その召喚獣であるデュラハンのデュラ子は、それぞれ違った反応を返す
「なら仕方ないよね、デュラ子は今日も私の手料理ね」
ラグナがいないという事にホッとした様子のコトン、彼女の舌ではラグナの料理の味が受け止められず、いつも泣きそうな顔でラグナの出す料理を食べていたからだろう
「手料理? あれは餌だろう」
ラグナがいないと言った瞬間にガッカリした雰囲気を出し、コトンが作ると言った瞬間に辛辣な言葉を投げかけるデュラ子。既に喧嘩腰だ
「違うよデュラ子、手料理なの、いい? 手料理だから。餌じゃなくて手料理、分かる? だからいい加減餌って言い方止めてくれない?」
「それは失礼したな、私が悪かった。そうだなアレは手料理だ、家畜にやる手料理だな。でも待って欲しい、家畜が食べる手料理ならそれは餌‥‥ではないのだろうか?」
「デュラ子‥‥」
コトンは静かに舌打ちをする
「ああそうか! 主は家畜だから家畜基準ではアレは手料理になるのか! ははははそれは失礼した!」
「「‥‥」」
互いににらみ合い、まさに一触即発状態。
デュラ子がここまでコトンを煽るという事は、もう既に我慢の限界を超えているのだろう。
味的な意味で
コトンもコトンで、自分の作った物を餌呼ばわりされるのにかなり来ている様子
まあ‥‥それはどうでもいいとして
「そういうのは帰ってからしてくれない? 本当に俺は疲れているから、ほら! 帰った帰った!」
二人を家の玄関まで押し出す
「ちょっ! ハ、ハヤト」
「待ってください旧主よ! こ奴に一度言っておかなければならないのです!」
「こ奴って言った! ねぇハヤト! デュラ子が私の事、こ奴って言った!」
「はいはいはいはい分かった分かった、後はそちらのお家で続けて下さい」
そのまま外まで押し出し
「はいお二人ともおやすみなさい、いい夢を見るんだよ」
バタンと玄関のドアを閉めた。一応無駄だと分かっていても玄関の鍵を閉めておく
ドアの外では、旧主に呆れられたとかデュラ子が悪いとか言い争う声が聞こえ、それが段々離れていった。どうやらちゃんと自分の家に帰って行ったらしい
思わず大きなため息をついてしまう、なんか色々あり過ぎて疲れてしまった。とにかく魔法が使えなくなった事はコトンにはバレずに済んだが、本当にこれからどうしようか?。
バレるとかそれ以前に軍の事でも悩まなければいけない。
魔法全てを失った今、俺には既に戦う力が無い。魔法主体で戦って来た俺にとって、その根本自体が失われた今の俺は、ちょっとだけ武器が扱えるだけの軍人に成り下がってしまった。
まず、魔法が無いとまともに戦う事が出来ない。武器を扱うにしても、その武器の間合いに届かなければ当然攻撃も出来ない。当然相手が魔法を使った場合、武器の間合いに近づくまでにやられてしまう訳で‥‥。
そうなると陸軍では俺の居場所がない、つまり軍に復帰するにはもう一度軍学校に入り、海軍の道へと進むか、もしくは竜翼機の操縦を学び空軍に行くかの二択になる。
竜騎士隊ももちろん解体されるだろうが‥‥それより、軍はどう考えるだろうか?。ハルツール軍は全く戦うことの出来なくなった俺を、このまま軍にいる事をよしとするだろうか?
長い事部隊を率いて来たので、小隊ぐらいだったら指揮をする事が出来る。だが、戦えない軍人は例え指揮を出来たとしてもただのお荷物でしかない。
俺と似たような境遇の人間はハヤト隊の時にもいた。魔法の使えないライカとソルセリー、そして戦いのセンスすらないタクティア、この三人は俺の今の状態に似ていると思う
ライカは『財布』以外の魔法を一切使えない、今の俺と一緒だが、だが彼にはその誰にも負けない剣技があった。多少の仲間のサポートさえあれば敵の中心に突っ込み、次々と戦果を上げていた。
だが俺にはその剣技の才能など無い
ソルセリーも同じだが、彼女には『消滅』魔法が世界で唯一使えた。だからその存在だけで価値があった
タクティアは多少の魔法が使えるものの、戦闘が全くの素人であり、ハッキリ言って中等部の少年位の年齢であれば、タクティアに簡単に勝てるだろうという位弱かった。
だがタクティアは本来参謀であり、その参謀が前線にいるだけで価値になる。現場で即時に作戦の発案しそれを実行できるというのはかなり大きい
そう考えると今の俺には何もない事になる。魔法の才能の上に胡坐をかき、何もしてこなかった自分‥‥
「もう‥‥軍にはいられないかも」
自分はこの先どうすればいいのか頭を抱え悩む、何度か軍を辞めたいと思っていた事はあったが、実際に軍にはもういられないとなると少し考えてしまう。
せめて『付与』魔法ともう一つ何かそれに使える魔法があれば、付与師としての仕事もあったはず。
それに、初等部しか出ていない俺に別の仕事がある訳でもないし、それに軍にどう言って説明しようか
そんな事がグルグルと頭の中を駆け巡り、結局何も思いつかない。
「う゛━━━ん!」と唸って見ても何も捻りだす事も出来ない、部屋の中をぐるぐると動き回ってもアイディアが浮かぶわけでもなく、ただ時間だけが過ぎていく。
何となくお腹の辺りに熱がこもる感覚を覚える
結局のところ、どうしようもない事に対し悩んだとしてもどうする事も出来ない、それでも考える事を止められず。
「ああーもう!」
ベッドの上にダイブした
ベッドの上で「うんうん」唸ってみても当然閃きが訪れることなく‥‥
「どうしたらいいんだよ‥‥」
考えているうちに精神的な疲労が溜まっていたせいなのか‥‥そのまま眠りについてしまっていた
◆◇
翌朝
「‥‥お腹減った」
前日から何も口にしていなかった為、腹はグゥグゥと唸り声を出していた。まだ横になっていたい気持ちもあるが、それより空腹の状態がキツイ事もあり、のそりとベッドから起き上がる。
いつもならテーブルに着くとラグナが朝食を出してくれていたが、もうラグナもいない。その事に気づき椅子から立ち上がる。
食事は自分で作らなければいけないのだが、材料がない。食事の材料も常にラグナが準備していたので、食事を取りたいのならまず自分で買い出しに行かなければならない
買いに行かなければならないのか‥‥
と、億劫に感じていたのだが
「あっ! 魚あるじゃん!」
以前自分で釣って来た魚が冷蔵庫の中に入っている事を思い出す。毒があるので漁師さんから食べられないと忠告を受けたが、塩漬けしておけば毒が抜けるだろうと思い、塩に漬けたまま冷蔵庫に仕舞って置いたのを忘れていた
「助かったー、ラグナの言う通り家具を買っておいて良かったー」
ラグナに以前、部屋が殺風景なので家具が欲しいと言われ、それもそうだと思い『飾り』として家具を買っておいたが、それが功を奏した。そのおかげで冷蔵庫もあるし、洗濯機だってある。魔法が使えなくなったとはいえ、一通りの生活が出来る事に気づき少しだけだが晴れやかな気分になった
「さかなさかなさかなー、さかなクンを食べーよぉー」
冷蔵庫にぎっしとタッパが詰まっており、その一つを取り出す。ちなみにこのタッパの中身は全部魚。取り出したタッパの蓋を開けると、塩に漬かった魚の切り身が詰まっていた
「結構時間たったし、毒はもう抜けてるかな? 大丈夫だろう。それでー? どうやって食べようかな、やっぱり焼いた方がいいかな?」
棚からまだ一度も使った事の無いフライパンを取り出し、真っ白なまな板を準備する。自分で料理するのは久々なので何だかウキウキした気持ちになる。
タッパから一枚の切り身を取り出し、塩を軽く落としてからまな板の上に乗せる。そして手に取るのはキラリと輝く未使用の包丁、それを使い切り身の尻尾の部分を切り取り、身を一口サイズの大きさに切る。
アジのフライのように切り身の状態でもいいのだが、一口サイズに切った方が食べる時に上品に見えるからそうする。何となく男らしくない食べ方に見えるが、最近俺が目指すのはワイルドな男では無く、上品な男を目指しているのでそうするだけである。
一口サイズに切り分けた後、フライパンを温め調理用の油を探す。冷蔵庫の中に無かったから多分下の棚の方に━━
「あった、油確保‥‥って、ん? これってフラベリン社のクソまず食用油か‥‥最悪」
以前ラグナが買って来た食用油で、これを使うと全ての料理の味が落ちるという人類史上最低の食用油である。
廃棄品から更に油を搾り取りそれ水で薄めたという、もはや汚水並み。それでもそれしかなかった為使う以外ない
「ラグナめ、もう使わないからここにしまって置いたのか、まあでも仕方ない使うか」
汚水油をフライパンにしき、パチパチと油が跳ねだす
パチン!
「熱っっつぅ!」
水と混ぜて作った油のせいなのか、勢いよく油が跳ね俺の腕に飛ぶ。だがそんな悲劇にも負けず俺は一口サイズに切った切り身をフライパンに投下する
瞬間、まるで花火大会のラストのように大量の油が跳ねだした
「あっ、あっ!」
すかさずフライパンに蓋をする、何となく跳ねる気はしていたが、ここまでとは聞いてない。蓋をする事に成功はしたが、コンロ回りは飛んだ油でひどい事になっていた。掃除が大変そうだ‥‥
バチバチバチと蓋を飛ばす勢いで跳ねる油は、その力を失うことなく跳ね続けた。そして俺は気づいた。焼けたかどうか確認する事が出来ないと‥‥。
もうそろそろいいんじゃないだろうか? そろそろひっくり返したいんだけど? と思い蓋をちょっとだけずらして持ち上げたが、蓋の裏に付いていた水滴がフライパンに落ち
バチン!!
と大きな音を立て俺の顔に跳ね返って来た
「ぎゃ!!」
瞬時に目を閉じたが、跳ねた油は丁度目の下、瞼辺りに直撃した。これは軍人でなければ躱す事が出来なかっただろう、戦闘によって鍛え抜かれた反射神経が無ければ、目に直撃していたかもしれない。でもどのみち顔に直撃したけどね。
しかも激熱だった、これほどのダメージを受けるのは戦闘でもほとんどない、『火』の魔法よりも熱かった気がする。
本当に最低な商品だよフラベリン社、いい加減フリーズドライのお礼を持ってこいよ
跳ねる油のせいで切り身をひっくり返すことが出来ず、仕方なくコンロの火を止め油が飛ばなくなるまで待つことにした。その間にもバチバチとフライパンの上で飛ぶ油
これって黒焦げになるんじゃ‥‥
と思っていたが、油が飛ばなくなるまでフライパンが冷め、蓋を取り切り身をひっくり返してみると意外や意外━━
やっぱり焦げてた
もう片方焼かなくても行けそうな気がしたが、念のためひっくり返してもう片方を焼く事にする。今度は失敗しないよう早めに火を止める事にした、そして━━
「完成」
皿の上には片面だけ炭化したような色の焼き魚が盛られている、真っ黒な色を下に向ければ失敗した事が分からないだろう、それ位上手く焼き上がったもう片面は良いきつね色に焼き上がっていた
「いただきます」
黒焦げになった方だが、最初に皮の方から焼いたため、黒焦げになったのは全部皮の方だった。それが幸いしたのか、箸で上手く焼けた身の方をすくうように取ると、黒焦げの皮のほうからスルッと身がほどけ、奇麗に焼けた身の方だけを取る事が出来た。つまり黒焦げの部分は食べなくてもいいという事だ
そして実際に食べてみると
「うん、いけるかも」
調理には失敗したものの、味はそこそこ良かった。強いて言うならば‥‥ホッケに似ているかな? それとも鯛かな? 日本でまともに魚を食べた記憶が余りにも過去過ぎて、日本で食べた魚の味を忘れてしまっている。でも味的には魚味だからどれも一緒だろう、少し舌先がピリッとするがそれもまたいい
「こうやって皮から剥がすようにして食べた方がいいかもな、でも次は皮も食べられるように上手く焼こう。その前にちゃんとした食用油を買ってくるか。お昼過ぎてから買い出しに行こうかなー」
食べ終わって食器を片付け、跳ねた油の掃除を始めるのだった
◆◇
口から泡を吹く、というのを見た事があるだろうか? 漫画なんかでビックリした時にする表現の一つではある、義務と言ってもいい。
その他にも病気や食中毒何かで実際に口から泡を吹く事もあるだろう、俺もこの目で二人ほど口から泡を吹いた人間を見た事がある
ラグナの料理を食べたタクティア・ラティウスとその姪であるコトン・ラティウスの二人である。
『カレー風辛いスープ(甘口)に入れたうどんの様な麺』という素晴らしい料理を食べ、二人は苦しみぬいたうち、口から泡を吹いて倒れてしまった。
何と情けない家系なんだろうかと俺は思っていたのだが
「ハヤトー、ねぇハヤト―聞いてよ!」
お隣さんであるコトン・ラティウスが、勝手に作った合鍵を使い家に入ってくる
「デュラ子がね『そろそろ出荷が近いのではないか?』とか酷い事を言って━━って! どうしたのハヤト!!」
コトンが見たのは痙攣し口から泡を吹いて倒れているウエタケ・ハヤトだった
「ハヤトしっかりして! デュラ子ー! デュラ子ー!!!」
「何だ主よ」
玄関からデュラ子が入って来て、リビングに現れ
「本当の事を言われて旧主に泣きごとを言いに━━き、旧主よ!!」
同じく痙攣し口から泡を吹いているウエタケ・ハヤトを発見した
「主よ! 今すぐレキタス殿の奥方を呼んでくるのだ! 昼前だからまだ買い物には行ってないはず!」
「う、うん分かった!」
コトンは以前自分がお世話になったレキタス家に向け、急いで家を出て行った
「旧主よ一体どうしたのだ! ラグナが不在とはいえ他の者達が連絡を寄越せば━━ッ!?」
ラグナが不在なら他の召喚獣が主の危機を他の者に伝えればいい、だが他の召喚獣は出てきてはいない。デュラ子はその事に気付いた
「‥‥他の召喚獣はどうしたのだ?」
部下でありお隣さんでもあるコトン・ラティウスと、その召喚獣であるデュラハンのデュラ子は、それぞれ違った反応を返す
「なら仕方ないよね、デュラ子は今日も私の手料理ね」
ラグナがいないという事にホッとした様子のコトン、彼女の舌ではラグナの料理の味が受け止められず、いつも泣きそうな顔でラグナの出す料理を食べていたからだろう
「手料理? あれは餌だろう」
ラグナがいないと言った瞬間にガッカリした雰囲気を出し、コトンが作ると言った瞬間に辛辣な言葉を投げかけるデュラ子。既に喧嘩腰だ
「違うよデュラ子、手料理なの、いい? 手料理だから。餌じゃなくて手料理、分かる? だからいい加減餌って言い方止めてくれない?」
「それは失礼したな、私が悪かった。そうだなアレは手料理だ、家畜にやる手料理だな。でも待って欲しい、家畜が食べる手料理ならそれは餌‥‥ではないのだろうか?」
「デュラ子‥‥」
コトンは静かに舌打ちをする
「ああそうか! 主は家畜だから家畜基準ではアレは手料理になるのか! ははははそれは失礼した!」
「「‥‥」」
互いににらみ合い、まさに一触即発状態。
デュラ子がここまでコトンを煽るという事は、もう既に我慢の限界を超えているのだろう。
味的な意味で
コトンもコトンで、自分の作った物を餌呼ばわりされるのにかなり来ている様子
まあ‥‥それはどうでもいいとして
「そういうのは帰ってからしてくれない? 本当に俺は疲れているから、ほら! 帰った帰った!」
二人を家の玄関まで押し出す
「ちょっ! ハ、ハヤト」
「待ってください旧主よ! こ奴に一度言っておかなければならないのです!」
「こ奴って言った! ねぇハヤト! デュラ子が私の事、こ奴って言った!」
「はいはいはいはい分かった分かった、後はそちらのお家で続けて下さい」
そのまま外まで押し出し
「はいお二人ともおやすみなさい、いい夢を見るんだよ」
バタンと玄関のドアを閉めた。一応無駄だと分かっていても玄関の鍵を閉めておく
ドアの外では、旧主に呆れられたとかデュラ子が悪いとか言い争う声が聞こえ、それが段々離れていった。どうやらちゃんと自分の家に帰って行ったらしい
思わず大きなため息をついてしまう、なんか色々あり過ぎて疲れてしまった。とにかく魔法が使えなくなった事はコトンにはバレずに済んだが、本当にこれからどうしようか?。
バレるとかそれ以前に軍の事でも悩まなければいけない。
魔法全てを失った今、俺には既に戦う力が無い。魔法主体で戦って来た俺にとって、その根本自体が失われた今の俺は、ちょっとだけ武器が扱えるだけの軍人に成り下がってしまった。
まず、魔法が無いとまともに戦う事が出来ない。武器を扱うにしても、その武器の間合いに届かなければ当然攻撃も出来ない。当然相手が魔法を使った場合、武器の間合いに近づくまでにやられてしまう訳で‥‥。
そうなると陸軍では俺の居場所がない、つまり軍に復帰するにはもう一度軍学校に入り、海軍の道へと進むか、もしくは竜翼機の操縦を学び空軍に行くかの二択になる。
竜騎士隊ももちろん解体されるだろうが‥‥それより、軍はどう考えるだろうか?。ハルツール軍は全く戦うことの出来なくなった俺を、このまま軍にいる事をよしとするだろうか?
長い事部隊を率いて来たので、小隊ぐらいだったら指揮をする事が出来る。だが、戦えない軍人は例え指揮を出来たとしてもただのお荷物でしかない。
俺と似たような境遇の人間はハヤト隊の時にもいた。魔法の使えないライカとソルセリー、そして戦いのセンスすらないタクティア、この三人は俺の今の状態に似ていると思う
ライカは『財布』以外の魔法を一切使えない、今の俺と一緒だが、だが彼にはその誰にも負けない剣技があった。多少の仲間のサポートさえあれば敵の中心に突っ込み、次々と戦果を上げていた。
だが俺にはその剣技の才能など無い
ソルセリーも同じだが、彼女には『消滅』魔法が世界で唯一使えた。だからその存在だけで価値があった
タクティアは多少の魔法が使えるものの、戦闘が全くの素人であり、ハッキリ言って中等部の少年位の年齢であれば、タクティアに簡単に勝てるだろうという位弱かった。
だがタクティアは本来参謀であり、その参謀が前線にいるだけで価値になる。現場で即時に作戦の発案しそれを実行できるというのはかなり大きい
そう考えると今の俺には何もない事になる。魔法の才能の上に胡坐をかき、何もしてこなかった自分‥‥
「もう‥‥軍にはいられないかも」
自分はこの先どうすればいいのか頭を抱え悩む、何度か軍を辞めたいと思っていた事はあったが、実際に軍にはもういられないとなると少し考えてしまう。
せめて『付与』魔法ともう一つ何かそれに使える魔法があれば、付与師としての仕事もあったはず。
それに、初等部しか出ていない俺に別の仕事がある訳でもないし、それに軍にどう言って説明しようか
そんな事がグルグルと頭の中を駆け巡り、結局何も思いつかない。
「う゛━━━ん!」と唸って見ても何も捻りだす事も出来ない、部屋の中をぐるぐると動き回ってもアイディアが浮かぶわけでもなく、ただ時間だけが過ぎていく。
何となくお腹の辺りに熱がこもる感覚を覚える
結局のところ、どうしようもない事に対し悩んだとしてもどうする事も出来ない、それでも考える事を止められず。
「ああーもう!」
ベッドの上にダイブした
ベッドの上で「うんうん」唸ってみても当然閃きが訪れることなく‥‥
「どうしたらいいんだよ‥‥」
考えているうちに精神的な疲労が溜まっていたせいなのか‥‥そのまま眠りについてしまっていた
◆◇
翌朝
「‥‥お腹減った」
前日から何も口にしていなかった為、腹はグゥグゥと唸り声を出していた。まだ横になっていたい気持ちもあるが、それより空腹の状態がキツイ事もあり、のそりとベッドから起き上がる。
いつもならテーブルに着くとラグナが朝食を出してくれていたが、もうラグナもいない。その事に気づき椅子から立ち上がる。
食事は自分で作らなければいけないのだが、材料がない。食事の材料も常にラグナが準備していたので、食事を取りたいのならまず自分で買い出しに行かなければならない
買いに行かなければならないのか‥‥
と、億劫に感じていたのだが
「あっ! 魚あるじゃん!」
以前自分で釣って来た魚が冷蔵庫の中に入っている事を思い出す。毒があるので漁師さんから食べられないと忠告を受けたが、塩漬けしておけば毒が抜けるだろうと思い、塩に漬けたまま冷蔵庫に仕舞って置いたのを忘れていた
「助かったー、ラグナの言う通り家具を買っておいて良かったー」
ラグナに以前、部屋が殺風景なので家具が欲しいと言われ、それもそうだと思い『飾り』として家具を買っておいたが、それが功を奏した。そのおかげで冷蔵庫もあるし、洗濯機だってある。魔法が使えなくなったとはいえ、一通りの生活が出来る事に気づき少しだけだが晴れやかな気分になった
「さかなさかなさかなー、さかなクンを食べーよぉー」
冷蔵庫にぎっしとタッパが詰まっており、その一つを取り出す。ちなみにこのタッパの中身は全部魚。取り出したタッパの蓋を開けると、塩に漬かった魚の切り身が詰まっていた
「結構時間たったし、毒はもう抜けてるかな? 大丈夫だろう。それでー? どうやって食べようかな、やっぱり焼いた方がいいかな?」
棚からまだ一度も使った事の無いフライパンを取り出し、真っ白なまな板を準備する。自分で料理するのは久々なので何だかウキウキした気持ちになる。
タッパから一枚の切り身を取り出し、塩を軽く落としてからまな板の上に乗せる。そして手に取るのはキラリと輝く未使用の包丁、それを使い切り身の尻尾の部分を切り取り、身を一口サイズの大きさに切る。
アジのフライのように切り身の状態でもいいのだが、一口サイズに切った方が食べる時に上品に見えるからそうする。何となく男らしくない食べ方に見えるが、最近俺が目指すのはワイルドな男では無く、上品な男を目指しているのでそうするだけである。
一口サイズに切り分けた後、フライパンを温め調理用の油を探す。冷蔵庫の中に無かったから多分下の棚の方に━━
「あった、油確保‥‥って、ん? これってフラベリン社のクソまず食用油か‥‥最悪」
以前ラグナが買って来た食用油で、これを使うと全ての料理の味が落ちるという人類史上最低の食用油である。
廃棄品から更に油を搾り取りそれ水で薄めたという、もはや汚水並み。それでもそれしかなかった為使う以外ない
「ラグナめ、もう使わないからここにしまって置いたのか、まあでも仕方ない使うか」
汚水油をフライパンにしき、パチパチと油が跳ねだす
パチン!
「熱っっつぅ!」
水と混ぜて作った油のせいなのか、勢いよく油が跳ね俺の腕に飛ぶ。だがそんな悲劇にも負けず俺は一口サイズに切った切り身をフライパンに投下する
瞬間、まるで花火大会のラストのように大量の油が跳ねだした
「あっ、あっ!」
すかさずフライパンに蓋をする、何となく跳ねる気はしていたが、ここまでとは聞いてない。蓋をする事に成功はしたが、コンロ回りは飛んだ油でひどい事になっていた。掃除が大変そうだ‥‥
バチバチバチと蓋を飛ばす勢いで跳ねる油は、その力を失うことなく跳ね続けた。そして俺は気づいた。焼けたかどうか確認する事が出来ないと‥‥。
もうそろそろいいんじゃないだろうか? そろそろひっくり返したいんだけど? と思い蓋をちょっとだけずらして持ち上げたが、蓋の裏に付いていた水滴がフライパンに落ち
バチン!!
と大きな音を立て俺の顔に跳ね返って来た
「ぎゃ!!」
瞬時に目を閉じたが、跳ねた油は丁度目の下、瞼辺りに直撃した。これは軍人でなければ躱す事が出来なかっただろう、戦闘によって鍛え抜かれた反射神経が無ければ、目に直撃していたかもしれない。でもどのみち顔に直撃したけどね。
しかも激熱だった、これほどのダメージを受けるのは戦闘でもほとんどない、『火』の魔法よりも熱かった気がする。
本当に最低な商品だよフラベリン社、いい加減フリーズドライのお礼を持ってこいよ
跳ねる油のせいで切り身をひっくり返すことが出来ず、仕方なくコンロの火を止め油が飛ばなくなるまで待つことにした。その間にもバチバチとフライパンの上で飛ぶ油
これって黒焦げになるんじゃ‥‥
と思っていたが、油が飛ばなくなるまでフライパンが冷め、蓋を取り切り身をひっくり返してみると意外や意外━━
やっぱり焦げてた
もう片方焼かなくても行けそうな気がしたが、念のためひっくり返してもう片方を焼く事にする。今度は失敗しないよう早めに火を止める事にした、そして━━
「完成」
皿の上には片面だけ炭化したような色の焼き魚が盛られている、真っ黒な色を下に向ければ失敗した事が分からないだろう、それ位上手く焼き上がったもう片面は良いきつね色に焼き上がっていた
「いただきます」
黒焦げになった方だが、最初に皮の方から焼いたため、黒焦げになったのは全部皮の方だった。それが幸いしたのか、箸で上手く焼けた身の方をすくうように取ると、黒焦げの皮のほうからスルッと身がほどけ、奇麗に焼けた身の方だけを取る事が出来た。つまり黒焦げの部分は食べなくてもいいという事だ
そして実際に食べてみると
「うん、いけるかも」
調理には失敗したものの、味はそこそこ良かった。強いて言うならば‥‥ホッケに似ているかな? それとも鯛かな? 日本でまともに魚を食べた記憶が余りにも過去過ぎて、日本で食べた魚の味を忘れてしまっている。でも味的には魚味だからどれも一緒だろう、少し舌先がピリッとするがそれもまたいい
「こうやって皮から剥がすようにして食べた方がいいかもな、でも次は皮も食べられるように上手く焼こう。その前にちゃんとした食用油を買ってくるか。お昼過ぎてから買い出しに行こうかなー」
食べ終わって食器を片付け、跳ねた油の掃除を始めるのだった
◆◇
口から泡を吹く、というのを見た事があるだろうか? 漫画なんかでビックリした時にする表現の一つではある、義務と言ってもいい。
その他にも病気や食中毒何かで実際に口から泡を吹く事もあるだろう、俺もこの目で二人ほど口から泡を吹いた人間を見た事がある
ラグナの料理を食べたタクティア・ラティウスとその姪であるコトン・ラティウスの二人である。
『カレー風辛いスープ(甘口)に入れたうどんの様な麺』という素晴らしい料理を食べ、二人は苦しみぬいたうち、口から泡を吹いて倒れてしまった。
何と情けない家系なんだろうかと俺は思っていたのだが
「ハヤトー、ねぇハヤト―聞いてよ!」
お隣さんであるコトン・ラティウスが、勝手に作った合鍵を使い家に入ってくる
「デュラ子がね『そろそろ出荷が近いのではないか?』とか酷い事を言って━━って! どうしたのハヤト!!」
コトンが見たのは痙攣し口から泡を吹いて倒れているウエタケ・ハヤトだった
「ハヤトしっかりして! デュラ子ー! デュラ子ー!!!」
「何だ主よ」
玄関からデュラ子が入って来て、リビングに現れ
「本当の事を言われて旧主に泣きごとを言いに━━き、旧主よ!!」
同じく痙攣し口から泡を吹いているウエタケ・ハヤトを発見した
「主よ! 今すぐレキタス殿の奥方を呼んでくるのだ! 昼前だからまだ買い物には行ってないはず!」
「う、うん分かった!」
コトンは以前自分がお世話になったレキタス家に向け、急いで家を出て行った
「旧主よ一体どうしたのだ! ラグナが不在とはいえ他の者達が連絡を寄越せば━━ッ!?」
ラグナが不在なら他の召喚獣が主の危機を他の者に伝えればいい、だが他の召喚獣は出てきてはいない。デュラ子はその事に気付いた
「‥‥他の召喚獣はどうしたのだ?」
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◆恋愛要素は、ありません◆
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久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
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