異世界陸軍活動記

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反乱

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 見上げれば雲一つ存在せず、日の光が降り注ぐ。風は穏やかで優しく頬を撫で、それと同じく木の葉を揺らす。
 ここだけ世界から取り残された場所のように、あの時からほとんど変わっていない。
 少しだけ変わったのは、亡き妻と生まれるはずだった子の墓標があるくらいだろう。その墓標となっている大剣は今もしっかりと大地に突き刺さっている
 

 
 大陸深部西側にある『天使の隠れ家』で、俺はとある人物を待っていた

「戦いはどうなったかな‥‥」

 ハルツールとマシェルモビアの戦闘中、俺はその場から離脱した。それは人と戦う事自体『我々は許されていなかった』から、そう決まっていたからである。
 理由はちゃんとあってその場から離れたが、既に俺にとってハルツールとマシェルモビアの戦いには意味が無くなっていた。
 口では気にするようなことを言っているが、それは本心ではない。今まで共に戦って来た戦友達には悪いとは思うが、俺にはどうしようもない。
 せめてもの償いにと、移転門を強制的に一時停止にした事により、マシェルモビアは退路を立たれる事になるし、元々挟み撃ちの為に移転門に約2割程の部隊を配置していたため、俺が移転門を停止した結果、実質部隊を分断されたことになった。これが俺に出来るせめてもの償いだろう。
 それが『天使』へと戻った俺が最後に出来る事だった

 力と記憶が戻ったあの瞬間。
 元々傷ついた一羽の若鳥に授けた天使の力、『根源』と『変化』の能力。ペンダントとして託した物が俺の体に入って来た。
 その時力と共に記憶も蘇る、特に混乱することなくすんなりと力と記憶を取り戻した。こちらの世界で天使として‥‥いや、グラースオルグとして死亡した俺は、カネオンの手によって地球へと魂が送られる事になった。
 そこで何度か転生し、今の上武隼として生をなした。その事に対し特に思う事は無いし驚きも無い。昨日の記憶と今日の記憶が繋がった程度の事だった。ただ、その事を忘れていただけ‥‥。
 だからだろうか? この場所がマイナと一緒に訪れた時、懐かしいと思ったのは

 それにしてもこの世界には申し訳ない事をしてしまったと思う、世界の三分の一を使い物にならなくしてしまったのは‥‥。
 多少だがそれは人の自業自得だろうという考えも無くはない、ただそれにしても俺が天使としてしてきた事は、結果的に文明の停止に繋がっている。大陸の事もそうだが、魔法を基軸とした文明を築いてしまったため停滞している。もうこれ以上文明の進化は望めないだろう。
 与えられたゆりかごの中でしか生きられず、永遠の停滞に陥っている。エネルギーを魔力に依存し、宇宙へと飛びたてなければそうなっても仕方がない。
 それは我々の意思に反する

 ‥‥それにしても、俺の呪いの力とはこれほど酷い物だったか。
 この場から一歩出れば周りは人の住めない魔物の大地、これが永遠と星の寿命が尽きるまで続く。自分はこれほど根に持つタイプだったのか‥‥。
 今墓標となっている大剣についてもそうだ。最初その大剣を持った時、異様に馴染むとは思っていたが、多分俺が天使だった時の血が大剣に染みついており、それが反応したんだと思う。
 自分の体の一部が戻って来たようなものだろう。
 それにしても不思議なもので、自分の首を切った大剣がどんな経緯であの場所であのリテア・ネジェンの暗殺者が持っていたのかは知らないが、何の因果があってこうなったのか?

 そんなこんなで色々と今と過去の事で考えていると、ようやく待ち人が訪れる

 いままで何もいなかった場所に、最初からいたかのように現れる天使だった時の姉の姿

「‥‥ネクター」

 長い黒髪に、黒いロングドレスのような姿。とても美しいがどことなく恐ろしさも感じる

「やっと来たのかよ、遅いよマシェル。何千年待ったと思ってるんだよ」

「‥‥ごめんなさい」

 ごめんなさいとは言っているが、そもそも無表情な為、本当に反省しているとは思えない。まあそれなりに反省しているんだろうけど、この姉は基本考えている事がよく分からないし

「あの時もずっと待ってたんだけどなー、結局来てくれなかったし」
 
 来てくれなかった恨みを晴らしておこう、来てくれなかったから俺は今こうなっているんだから

「‥‥ごめんなさい」

 女神マシェルは少しだけ俺から視線を少し下げ、ごめんなさいしてきた。多分これ本当にごめんなさいしているなと思い、追撃するのは止めた。
 表情が無いから分かりずらいんだよなぁ‥‥。
 そもそも半分くらいは俺が悪いので、まあ許してやろうと思う。勝手に俺が待っていただけだったというのもあるし。
 でも、勝手に待ってたというのもあるけど、来てくれなかったマシェルも悪いよね? だから━━

「まあいいよ、ゆるしてあげる」

 と精神的に優位に立つ、そのそもこの姉は俺に対して甘い。俺がお願いすると「‥‥分かりました」と言って何でもしてくれる

「‥‥そう」

 マシェルは短くそう答えた

「ところでさあ、この場所ってマシェルが管理してくれていたの?」

 最初にマイナとこの場所に来た時、朽ち果てることなく残っていた。当然誰かがやらなければ朽ちるだろうし、かと言って人が大陸深部を越えて来れるはずも無い。
 だとしたら、この場所を知っているのは俺とマシェル以外にはいないのだが

「‥‥はい」

 また短く答える

「そうか、ありがとうね。おかげで結構快適に暮らせたよ」

「‥‥そうですか」

「それで? 俺に伝言とかあるんじゃないかな?」

「‥‥サーナから、『あなたの好きなようにやりなさい』と」

「それだけ?」

「‥‥はい」

「そうか‥‥」

 サーナからの伝言はそれだけだった。
 俺とマシェルはしばし沈黙し、先に口を開いたのはマシェルだった

「‥‥それで、本当にユーサリーを?」

「そうだねぇ‥‥自分から人の子に手出しをしないと言っておきながら、自らその決まりを破った。神という存在だとしても、神という存在だからこそ、それは許されない、だから俺は‥‥俺はユーサリーを‥‥ユーサリーを‥‥。
 ‥‥ねぇ、マシェル。はどうしたらいいのかな?」

「‥‥それは‥‥私には」

「う、うん、そうだよね。なんだったら話し合いの上お引き取りしてもらう事も出来るんじゃないかな? そうすれば穏便に済ませられるだろうし、ね? そんな感じだからちょっと会って来ようと思うよ、久しぶりの再会だから色々話も弾むだろうし、て訳でありがとうねマシェル」

 マシェルはゆっくりと頷くと、体が浮かび上がりそのまま空へと消えていった


 マシェルが消えた後、はぁと息をつく。正直俺にはまだ決めかねている。迷っている。
 本来見守り送り出す立場の存在が、この星における神の基準を破ったユーサリーはもう、この星に居るべきではない。
 それはもう神ではなくRPGにおける魔王やら邪神のカテゴリーに入る、そうした者達は物語では必ず他の神や人の子により討伐される。
 でも俺の知っている、ユーサリーは人の子の為に泣き、笑い、そして見守って来た。
 そのユーサリーを━━

『ようよう! 元気してたか!?』

 突然頭の中に陽気で不快な声が響く

「死ね!」
 
 反射的に叫んでしまった

『なんでだよ! 俺なんか悪い事したか?』

 頭の中に直接言葉を飛ばして来た相手は、突然の罵倒に驚く

「お前の声が気に食わない、お前の姿が気に食わない、同じ星に居るのが気に食わない、お前の存在自体が気に食わない、何勝手に話しかけて来てるんだよ、死ねよ!」

『なるほどなぁ~これが人の子でいう反抗期ってやつか、人の子の親が体験するのがこれなのか?』

 頭の中に直接語りかけて来たのは、神であるカネオンだった

「お前みたいな親を持った覚えはない、俺の親は地球の日本に住む親だけだ。親父顔するな! 誰の許可を得て話しかけて来てるんだ!」

『誰の許可って‥‥なぁ、俺なんかしたか? 前から思っていたけど何でお前は俺にきつく当たるの? なんか悪い事した‥‥?』

 最初の陽気な声から、一気に不安げな声に変わる

 何か悪い事したか? と聞かれると俺も正直よく分からない、でも顔を見るだけ、声を聞くだけでも何となく腹立たしくなる。なんか知らんけど嫌いなんだ

「うるせーよ、とっとと消えろよ、何しに来た」

『消えたらいいのかそれとも来た理由を聞きたいのかどっちだよ、理由を先に言ってから消えていいか?』

「もう喋るんじゃねぇよ!」

『待ってくれ! ちょっと聞きたい事があるから来ただけなんだよ、直ぐに消えるからさぁ』

「チッ!」
 
 舌打ちはされたものの、攻撃的な言葉が返ってこない事を話してもいいと判断したカネオンは、俺の頭に続けて話しかける

『なあお前さあ、本当にユーサリーを討つ気でいるのか? あいつは本当に人の子の為に考えて動いている奴なんだよ、今回の事だって奴は仕方なくやった事なんだ。
 だからもう少しさあ、ほら、話し合いとかで解決できない? 俺もずっとアイツと友達でいたし、これからもそうでありたいからさ、そうなったら‥‥な? 寂しいじゃん。
 それにユーサリーを討つってなったら、サーナだって━━』

「うるさい! もう既に討つって決めたんだ・・・・・・・・・! 奴はこの星にとって既に有害な存在になった。だからこの星から消す!」

『なあ、お前さあ‥‥。サーナの意思に引っ張られ過ぎてないか? 我が子を殺された憎しみで創造主を倒そうっていう意思にさぁ。
 お前も知ってるだろう? 創造された者は創造主の意思には逆らえないって。お前は‥‥というかネクターはサーナによって創造された、だからサーナに創造されたネクターもといお前はサーナの意思には逆らえないんだよ。
 そもそも神の意志で人の子に影響を与えると言うのは、人の子がいる星ではどこにだってあるんだよ、ここだけじゃないんだよ。
 それとサーナの意思だけじゃなく、お前の私怨もその考えに入ってないか?』

「違う! サーナの意思に引っ張られている訳では無いし! 私怨でもない!」

 そう、確かに俺の意思で動いている。既にユーサリーは人の子の進化にとって有害。だから俺が討たなければならない。
 これ以上の会話は無意味と感じ

「もうお前に話す事なんかない」

『お、おい!━━』

 無理やり頭の中に響く話を閉ざし、背中に天使としての羽を広げ、天使の隠れ家から飛び立った。一瞬で上空に昇った俺だが、一つだけ心残りがあった。
 これからユーサリーを討つことになるが、神となる者を討つにはそれなりの代償がやはりある。だから最後に会っておきたい女性がいた。
 だからその人の元へと飛んだ





 ◆◇


 息子と呼べる存在が話を遮断し、その場から飛び立ったのを見届けるカネオン

「創造された者は創造主の意思には逆らえない、お前を創造したのはサーナだけじゃない、俺もその創造主の一人なんだよな~。
 な~んか迷っていたようだったから背中を押してみたけど、上手くいったみたいだな」

 ニカッと笑うカネオン、その顔には楽しみという表情しかない

「つまりお前は自分の意思ではなく‥‥多少はお前の私怨があるとは思うが、お前は俺とサーナの意思につられてユーサリーを討つ訳だ。
 結局のところお前は逆らう事無く俺とサーナの意思に従ったという事になるな。
 まあでも? こうなるのも仕方ないよなユーサリー? お前は人の子に関わり過ぎた。関わり過ぎて今の状態では人の子の進化は無い、お前のやり方は間違っていたんだよ。
 悪いな‥‥ユーサリー」


 ◆◇

「本当にそれは止めないか主よ!」

「何でよ! 結局これが一番楽でいいじゃない!」

「そんなだから最近太るんだぞ!」

「太って無いし! 胸が大きくなっただけだし!」

 パナンにシロップを掛け、それを夕食に出そうとしている私を、デュラ子が必死で止めている

「物のサイズを正確に測れる私にそれが通用するか! 主の胸と異様にデカい尻のサイズはそのままで、腹のサイズが増えているぞ!」

「いい加減な事言わないでよ! お腹周りは変わってないから! あと異様にデカいって何よ! 普通だから、お尻は普通だから!」

 シロップの入った瓶を取り合っていた私達だが、急にデュラ子がその力を弱めた

「あっ!」

 デュラ子が力を抜いたため、瓶はそのまま勢いよく飛んで行き、壁に激突、中のシロップが壁と床に飛び散った

「何で急に離すのよ、汚れたじゃない!」

 デュラ子に問いただそうとしたが、デュラ子は床に片膝を付き頭を下げていた。謝っているのかと思ったが、デュラ子が頭を下げる方には誰かが立っていた

「誰ッッ!!」

 反射的にその誰かを見た時、それは人とは思えない違和感を抱かせたが、それも一瞬で霧散する。それは確かに人であった。
 その人の正体は、今ここに居るはずの無い人物。今は戦場に居てマシェルモビアとの戦いで、主席の護衛を務める事になった愛する人の姿だった

「は、ハヤト!? 帰ってきたの? 護衛はどうなったの? あっ! もしかしてもう終わったの!?」

 まさか愛する人がこうも早く帰ってくるとは思わなかったため驚いたが、無事に帰って来てくれたことに喜んでいると

「‥‥いや、ハルツールとマシェルモビアの戦いは終わっては無いよ」

「じゃあハヤトの仕事はもう終わったのね! お帰りな━━」

 そのままハヤトに抱きつこうと思ったが

「いや、俺は別の事をしなければならなくなった。だから‥‥会いに来た」

 ハヤトは私に話しかけてくる時、話を聞いてくれる時はいつも笑顔でいてくれる。でも目の前のハヤトは表情なく感情も無いように見えた。
 いつもと違うハヤトに、抱きつこうとした私の手は止まった。
 ハヤトはそのまま話を続ける

「今度いつ帰って来れるのか分からない‥‥デュラ子、コトンを頼むぞ」

 ハヤトは一枚の紙をデュラ子に渡すと、デュラ子はそれを受け取った

「わが命に掛けましても」

 床に膝を付き、頭を下げたままのデュラ子は、さっきまでシロップの瓶を取り合っていた時とは違い、大陸深部を通過していた時のようなヒリヒリした佇まいでいた

「コトン‥‥」

「ハヤト?」

「行ってくる」

 そう言いハヤトは私に背を向けた

 いつもと違うハヤトの雰囲気に私は思わず

「帰って来るんでしょ!」

 ハヤトの背に向けて言ったが、ハヤトは答えなかった

「必ず私の所へ帰って来て、約束して!」

 何故か私は必死だった。
 何となくハヤトが遠くに行ってしまうような感じがしたから

「‥‥善処する」

 そのままハヤトはドアを開けリビングを出て行く、私は一瞬遅れて追いかけたがそこにはもうハヤトの姿は無かった
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