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8.兄弟(南)
しおりを挟むプルルル……プルルル……
プルルル……プルルル……
ぼんやりとする頭にスマホの着信音が鳴り響く。
うっすらと開いた目でいつの間にか薄暗くなっている部屋と窓の外を認識し、だいぶ眠っていたことが分かる。
プルルル……プルルル……
一度やんだと思った着信音が再び鳴り出す。
『んー……はい、もしもし……』
閉じたままの目と、ぼんやりする頭を回転させ電話にでる。
『あっ、もしもし兄ちゃん!今何してる?』
一言目の声を聞いて電話の相手が誰だか分かり、今の自分とは正反対な声色で問いかけられる。
『新太か……別に何もしてないけど、どうした?』
『本当に?じゃー今から兄ちゃん家行ってもいい?』
『今から?別にいいけど……今日もかよ』
『今日もだよ!いいじゃん、兄ちゃんには毎日会いたいもんだし。兄弟なら普通じゃない?』
『まー普通と言えば普通か。つか今日は泊まってくつもり?』
『うん!明日も日曜で学校ないから今日は泊まってくー!』
『分かった、気おつけて来いよ。近いって言っても一人だし寄り道すんなよ』
『分かってるよーじゃあ今から行くからまたねー!』
プッ……
一方的に切られ通話が終わり、薄暗い寝室で体を起こす。
俺には三つ歳の離れた弟が一人いる。
元々幼い頃から仲が良く、甘え上手な新太は誰にでも可愛がられる奴だった。
新太が小学生に上がる頃には何をするにも二人一緒。
それが俺たちにとっては当たり前だった。
両親は俺が小五の時に離婚し、だらしなかった母の代わりに親父が俺たちを引き取り育ててくれた。
忙しく働きまわる親父に代わって新太の面倒を見る事になるのは必然で、その過程で今では新太自身自分でも言う程のブラコンっぷり。
そのせいか今でも、高校卒業後一人暮らしを始めた俺の家にほぼ毎日のように上がり込んでは暇を持て余している。
「風呂、先に入ってこよ」
寝室から出て、もうすっかり暗くなった部屋の明かりをつける。
リビングにある時計をみて、数時間前までは先輩がここにいたんだよな、なんて思いながら脱衣所に向かう。
シャーーー
熱いお湯を浴びながら、記憶に残る新しい先輩の面影を思い出しては胸が締め付けられそれだけで自分に余裕が無くなる。
「はぁ、さっぱりした」
濡れた体を拭き、火照ったままの体が少しずつ冷めていく。
ピーンポーン
ピーンポーン
家のインターホンがなる。
扉の向こう側の人物が誰なのか想像がつき、そのまま玄関の扉を開く。
ガチャ……
「あっ、兄ーちゃん!遅いよって、なんで上裸?!風呂上がり?」
自分と同じで少し癖のあるふわふわな髪をさせた新太が開けた扉から顔を覗かせる。
風呂上がりの俺をみて驚いた表情ももう何度も見たことのあるもの。
「そー、上がったばっか。つかお前その格好寒くねーの?春っていってもまだ夜は冷えるぞ」
「ふふーん大丈夫!走って来たから熱い!」
「そ、元気なのはいいけど風邪ひくなよ、早く入れ」
「ありがとう兄ちゃん!」
靴を脱ぎ、泊まりに来たには身軽な格好をしている新太を家に入れる。
「親父は?」
「んー?今日も遅くなるらしいから連絡だけしといた」
そう言いながら早速冷蔵庫の中を物色しだす弟を見ながら微笑ましく思う。
「そっか、夜飯は食べた?」
「まだ食べてなーい、腹減ったし兄ちゃん何か出前取ろうよ」
腹の辺りをなでながら俺に擦り寄ってくる新太の頭を撫でながらスマホを開く。
「だなー、俺も何も食ってないし。新太何食べたい?」
「んー寿司!」
そう言って微笑む顔をみて可愛く思うのは自分の弟だから。
「寿司なー、ちょっと待って……ろ、今頼むから」
開いたスマホをみて、午前中に先輩に送ったら連絡から返信がある事に気づき一瞬言葉が詰まる。
「何?兄ちゃんどうしたの?」
スマホの画面を見ながら言葉を詰まらせた俺に不思議そうな顔をした新太が顔をのぞかせる。
「何でもないから向こう行ってソファに座ってろ」
「はーい、分かったよー」
うやむやにした事に不服そうな表情を浮かべながらも聞き分けのいい返事で素直に言うことを聞く新太を目の端に、視線をスマホの画面へと戻す。
〝ありがとう〟
先輩から帰ってきた言葉はその一言だけ。
それでも返信があった事が嬉しくて自然と口元が緩んでしまう。
些細なことで満足してしまう自分に温かくなる心が先輩の影をチラつかせ今まで感じたことのない程の純粋な気持ちになる。
「兄ちゃん?顔変だよ?」
いつの間にか隣に立っていた新太に声をかけられハッとする。
「いや、なんでもない」
「そっか……寿司頼んでくれた?」
「頼んだよ、新太風呂まだだろ?先入ってこいよ寿司来たら受け取っておくから」
そう言いながらまだ低い身長の新太の頭を撫でる。
「んー、分かった入ってくる」
「おう」
「ねえ……兄ちゃん」
「どうした?」
「今日、誰か来てたの?」
風呂場に向かいながら新太は俺が思ってもいないことを問いかけてくる。
振り向き合わせた顔は鋭い表情をしながら視線をキッチンへと向ける。
「なっ、なんで?」
新太がどんな理由で聞いているのか分かった気がしてとっさに聞き返してしまう。
「いや、食器。そこの洗ってある食器とか箸とか二人分だから誰か来てて兄ちゃんと二人で飯でも食ったんかなって」
的をついた確信のある質問の理由を聞き、下手に誤魔化せないと、遠回しに釘を打たれているようで堪忍する。
「あぁ……昨日の夜たまたま高校時代の先輩と偶然会って、凄い酔ってたから泊めたんだよ。食器は朝飯食ったからその時のだよ」
俺が言う言葉を一語一句聞き逃さないとでも言うような鋭い表情で俺の事をみる新太。
「ふーん……先輩って誰?俺が知ってる人?」
「あ……新太は知らないかもな俺の二つ上の先輩だし」
「そっか……なんて言う人なの?」
「えっ……?」
「その先輩、名前なんて言うの?」
「な、なんでそんな事聞くんだ……」
「気になる、俺が知りたいから」
「……中谷。中谷先輩だよ、知らないだろ」
「そっか、分かった。じゃあ、俺風呂入ってくるね!寿司来たら準備しといてね兄ちゃん!」
最後にはいつものように天使のような笑顔を浮かべて風呂場へとかけていく新太の後ろ姿を見ながら冷や汗が止まらなかった体がとどめを打たれたかのように力が抜ける。
お互い自負する程のブラコンっぷり。
特に新太は、俺が新太を大事にする以上に俺に懐いてくれている。
それは、度がすぎる程に。
正直その面だけを見れば怖いとも思える事もある。
俺の恋愛対象が男である事も知っている上に女であろうと男であろうと俺に好意があって近寄ってくる人に対してそれを遠ざけることに手段を選ばない。
それは、俺が好意を寄せてる相手に対しても同じだ。
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新太のやり方はもう分かっている。
度を越したブラコンっぷりに、もはやそうとは言えない情の入れ方を今まで一度も咎めたことはない。
それは、新太の方が大事だと思えたから。
けれど、今回はまずい。
そう思いながら風呂場から流れるシャワーの音を聞き、冷静になれない頭をフル回転させる。
「今回は、ホントにまずいかもな……」
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