迷宮攻略と領土防衛と特産品作りを一手に担っていた魔術師を追放した伯爵家の話

ギルマン

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17.結局こんなことになったという話②

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「ま、待て!待ってくれマリウス。認める、そなたの言う事を全て認める。だから助けてくれ!」
 慌てて意識をマリウスに向けたベルーナ伯爵がそう叫んだ。護衛の騎士の余りにも凄惨な最期を目の当たりにして、彼の心は折れていた。

「そうですか。いいでしょう。だが、今更あなたの口約束を信じることなど出来ない。もっとしっかりとした契約を結ばせてもらいますよ」
 マリウスはそう告げて、複雑な身振り手振りを交えつつ呪文を詠唱した。
 すると、マリウスとベルーナ伯爵の周りに魔方陣が浮かび上がり、契約の内容がベルーナ伯爵の脳裏に直接伝えられていく。

 呪文を唱え終わったマリウスが、ベルーナ伯爵に告げた。
「異論がなければ同意を」
「わ、分かった。同意する」
 その言葉を受け、マリウスとベルーナ伯爵の体に魔方陣は吸い込まれてゆく。

「これで契約は成立です。それでは早速契約内容を履行しましょう。」
 そう言うとマリウスは周りのスライムに向かって、“火球”や“吹雪”の魔術を行使した。
 いずれも広範囲に効果をもたらす魔術であり、当然スライムと戦っている騎士や兵士達もこの攻撃に巻き込まれてしまう。

「何をする貴様!」
 ベルーナ伯爵が思わず叫ぶが、マリウスは涼しい顔で説明した。
「契約を履行しているだけですよ。もう忘れたのですか?契約の中にこの場にいるスライム共を可能な限り速やかに排除するとあったのを。
 可能な限り速やかに排除する為には範囲攻撃が必要であり、当然周りの者も巻き込むことになる。そんな事も分からなかったのですか?」

 確かに先ほど脳裏に直接流れ込んできた契約の内容には、そのような事も含まれていたように思われた。
 そしてどちらにしても、ベルーナ伯爵にマリウスを止める術はなかった。

「何ということを・・・。なぜこんなことに・・・」
 ベルーナ伯爵はそうつぶやくと、崩れ落ちるように膝をついた。

「ははははは」
 その様子を見てマリウスが笑い声を上げた。そして彼は、魔術攻撃を再開し、スライムと騎士や兵士達を容赦なく魔術でなぎ払った。
 結局生き残ったのは、ベルーナ伯爵本人と、最後まで伯爵のそばを離れなかった護衛の騎士1人だけだった。

 だが、この日、領都ベルーナとベルーナ伯爵領は、ともかくも救われた。
 スライムは速やかに排除され、更にその数時間後、妖魔たちが屯す場所に隕石が落ちて、妖魔に壊滅的な打撃を与えたからだ。
 生き残った妖魔たちは速やかにベルーナ伯爵領から撤退していった。
 ベルーナ伯爵領を滅亡寸前に追い込んだ者達は、1日で姿を消したのだった。






 それから数日後、ベルーナ伯爵領はある程度の平静を取り戻していた。
 生き残ったのが伯爵と騎士1人だけという結果は衝撃的だったが、その代わりスライムは壊滅した。
 そして、妖魔たちの退却は迅速且つ徹底していて、速やかに伯爵領から姿を消していた。そのことは妖魔を指揮する首魁が健在である事を証明していたが、妖魔が瞬く間に全くいなくなったのは、短期的に見れば伯爵領にとって有難い事だった。

 その日、ミレディアは父であるベルーナ伯爵に呼ばれ、その私室を訪れた。
 彼女も大分気持ちを落ち着けることが出来ていた。
「お父様、どういった御用でしょう、ッ!?」
 だが、父の部屋に入った彼女は、驚愕し言葉を途切れさせた。
 その部屋で待っていたのが父ではなかったからだ。

「だ、誰!?」
「おやおや、いくらなんでも忘れてしまうというのは酷すぎではありませんか?仮にも結婚を約束した間柄だというのに」
 ベルーナ伯爵の私室でミレディアを待っていたのはマリウスだった。
 ミレディアも、その傷だらけの顔の男がマリウスだと気付いた。

「マリウス!?あなた、なぜここに」
「私がここにいるのは報酬を受け取る為です。あなたいう報酬をね。もっと簡単に言えば、あなたを抱くつもりで待っていたのですよ」
「な!?」
 ミレディアにはマリウスの言っている事の意味が全て理解できたわけではなかったが、とにかく彼が自分に危害を加えようとしているのは明らかだった。
 彼女は慌ててマリウスに背を向けると、いつの間にか閉じられていた扉を開こうとした。
 だが、その扉はピクリとも動かなかった。

「無駄ですよ。あなたは売られたんです。まあ、あなただけではなく、あなたの母親と妹も一緒にですがね」
「馬鹿なことを言わないで!!」
「疑うなら伯爵殿に聞いてみるのですな。己の命惜しさにあなた方を私に売り渡した事情を説明してくれると思いますよ。まあ、事情を聞くのは、事が済んだ後にしてもらいましょう」
 マリウスはそう言って、ミレディア近づいていった。

 ミレディアは身を翻し、マリウスから逃れようと走った。
「逃げても無駄ですよ」
 マリウスがそう言ってミレディアの後を追う。
 確かにマリウスの言うとおりだった。
 間もなくミレディアは壁際に追い詰められてしまった。

「や、やめなさい。下賤の身で私に触れるなど許される事ではありません」
「いいえ、許されています。あなたの身体は私のものですから。むしろ私以外の者が触れることは許されない。というべきでしょう。
 理解できぬなら、理解できるまでしっかり教えてあげましょう」

 マリウスはそう言ってミレディアのドレスを掴み、それを引き裂いた。
「きゃぁー」
 布が引き裂かれる音と、ミレディアの悲鳴が重なった。
「いや、やめて!」
 ミレディアはついにそう懇願したが、無論マリウスは聞く耳を持たず、一切容赦する事もなく、事に及んだのだった。
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