【完結】積もる想いは雨あられ

谷絵 ちぐり

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心の行先、足の向かう先

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みゃーちゃんが目の前を笑顔で手を振りながら去っていく。
那智はといえば知らん顔をしてみゃーちゃんの背中を押していた。
早くここから立ち去りたい、そんな思いが透けて見える。
それでもみゃーちゃんに促されて渋々といった感じで手を振ってくれた。

「・・・バイバイ」

さよなら、ではなくバイバイと言ってくれた。
ほんのちょっぴり顔を赤らめて、目を伏せてこちらを見ないように。
バイバイと返した時にはもう那智の姿は無かった。


店の前で女の子達と別れて駅までの道を男三人で歩いた。
ほろ酔いのそれで口も軽くなる。

「さっきのって赤星だよな」
「月城が可愛いって言ったのわかったわ」
「木下も思った?」
「おう、同じ男と思えん。あと一緒にいた人も」
「そりゃ、でかい俺らとは違うだろ」

だなーとケラケラ笑う二人を朝陽はモヤモヤとした気持ちで一歩下がって見ていた。
ほら可愛いだろ?という思いと、なんでお前らが可愛いって言うんだという苛立った気持ちがせめぎ合う。

「お前ら、女の子たちはよかったのかよ」
「え~、別にぃ。月城が落ち込んでたからセッティングしただけだし」
「これから就活とか始まるって考えたら彼女とかめんどくさいしなぁ」
「バレーもしたいし」

そうそう、と納得しあうような頷いた木下達は一歩後ろを歩く朝陽をくるりと振り向いた。

「お前さぁ、ぽけっと赤星見てんじゃねぇよ」
「確かに」

くくくと笑う水上の顔は面白くて仕方がないと書いてある。

「え、見てた?」
「見てた、見てた。俺らのテーブルじゃなくてその向こうばっかり」
「それも羨ましそうにな」
「いや、なんつうか・・・友だちってあんな感じだよなって。俺とは全然違うなって」

改めて口に出すとその事実が肩にのしかかって重い。
出雲に友だちじゃないんじゃないの?と言われて、悶々としていた所にそれをまざまざと見せつけられた。
なんでこんなに那智と友だちになりたいんだろう。

「お前のそれって片思いの症状だな」
「確かに。名前も呼んでもらえないあの人に恋してます~ってやつ」
「なに言ってんだ。なちは・・・」

男だろ?と口に出そうとして喉に詰まった。

──偏見なんてないから。誰が誰を好きでもいいじゃないか。好きの気持ちに違いなんてないだろう。

どの口がほざくのか、今しがた那智を男だろう?と言おうとした口で大層なことをよくも言ってのけたものだ。
表面を薄ら撫でただけの言葉はさぞ気持ち悪かったに違いない。

「・・・そりゃ、嫌われるわな」

はははと乾いた笑い声がこみ上げる。

「なに?マジなの?」
「うそぉ!?」
「マジっつうか、気になるっていうか」
「へぇ~、マジかぁ。月城が?ほーん」
「あんだよ、木下」
「だってお前、告られて彼女できたことあっても逆はないじゃん」
「そう・・・だっけ?」
 
そうだよー、と水上も言ってニヤニヤ笑う。
ただ同室として仲良くなれたらなぁ、と思っていた。
最初にしくじってからなんとか謝って許してもらえないかなぁ、と甘ったれたことを考えた。
自分より背が低くて、声が高くて顎に黒子があって気弱そうに見えるのに素の部分は関西弁で捲し立てる。
夏なのになまっちろい腕をしていて、前髪をピンで留めるとくるりと丸い瞳が現れて、多分トマトとプリンが好き。
それで、恋愛対象が男。

「月城、バスケとバレーが違うのはわかるな?」
「なに言ってんだ?」
「俺らは知ってる。バスケとバレーの違いをな、バスケは走ってばかりでバレーは飛んでばかりだ」
「うん」
「でもさ、知らない奴はさ言うわけよ。どっちも背が高けりゃできるって」
「そうそう。ずっとバスケやってた奴がさ、背も高いし球技が好きだからバレーもできるっしょって始めたらなんか嫌な気しない?」

それはなんだか面白くないな、と思う。
ルールも、使う筋肉も全然違うのだ。
ボールを奪い合うのとボールを相手に返す、それだけでも大違いだ。
あぁ、そうか。

「わかったか?」
「あぁ、全然違う。ルールもなにもかも。気持ちひとつで乗り越えられるもんじゃない」
「うん、生半可な気持ちで足を突っ込むことは周りを傷つけるぞ。その赤星もな」
「うん、俺なんもわかってなかった。ありがとう、木下。水上も」

赤星がゲイだと二人は知らない、知らないから自分に赤星が振り回されるのではないかと危惧しているのだ。
ここで赤星はゲイだから、と言えば応援してくれるだろうか。

「いや、きっともっと怒られるな」
「なにが?」
「なんでもない」

相手がゲイだから俺も、と言えば軽蔑されるだろう。
知らない世界に足を踏み入れるのには勇気と覚悟がいる、あとほんのちょっぴりの期待も。
恋情なのか友情なのかはまだわからない。
もし気持ちを乗せるシーソーがあるならば恋情に傾いていると思う。
そうでなければこの気持ちの説明がつかない。
自分以外が那智を可愛い、というのを疎ましく思うこの気持ちに。

──ごめん、なち。踏み込まないって言ったけど、とっくに足がそっちに向かってしまってたみたいだ。あほちゃうか!?とまた怒鳴られてしまうかな。
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