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雨の日の反則技
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あの海に行った日から度々那智と共に出かけた。
それは軽く食事をするだけだったり、近くのコンビニに歩いて行くだけだったり、部活とバイトの空いた時間と那智の時間がなかなか合わない。
あの日からより特別な一日を作れない焦りがじわじわと積もっていく。
那智は全てにおいて受け身で、誘えばいいよとは言ってくれなくても強引に連れ出せば着いてくる。
背中しか見せなかった那智がほんの少しだけ振り向いてくれたような気もするし、夏が終わるまでの我慢といったようにも見えた。
「なち、大変だ、起きて」
「なに」
「雨が降ってる」
「そりゃ、お空のお姫様が泣いてんだ。あぁ可哀想に」
むにゃむにゃと寝ぼけながら掠れた声でそう言って那智は寝返りを打った。
朝陽は実家に盆帰りをしたが、那智はずっと寮に留まっていた。
盆が過ぎれば夏はそのスピードをぐんと上げて去って行く。
この日は、那智を遊園地へと連れ出すつもりだった。
久しぶりに二人共に休日なのに予定が狂ってしまった。
それが、朝からしとしとと雨が降り出し天気予報では一日中傘マークが表示されていた。
昼前にのそのそと起きて来た那智は、お腹空いたとこぼしながら冷蔵庫から水を出してごくごくと飲んだ。
「お昼、なんか食いに行くか?」
「ラーメン食べる」
「いいな、どこ行く?」
「行かへんわ」
どこかぼんやりとまだ寝起きの声で二段ベッドのはしごを登って那智が手にしたのはカセットコンロだった。
衣装ケースの一つを開けて取り出したそれと、片手鍋と袋ラーメン醤油味。
折りたたみテーブルを出して片手鍋に水を入れて火にかけた。
「朝陽も食べる?」
「え、あ、うん」
「じゃ、食堂から丼一つ持ってきて」
「一つ?」
くわぁと欠伸をしながらこくりと頷いた那智。
二つじゃないのか?と思いながらも丼を一つ持って部屋に戻ると、ラーメンがぐつぐつと煮えていた。
具も何も無い素ラーメンは、那智の手によって丼に収まって割り箸と共に、はいどうぞと渡される。
空の片手鍋を洗いもせずに、また水を入れて同じように作った素ラーメンに那智は鍋のまま箸をつけた。
「いつもそんな感じ?」
「ん、洗いもんはお前な」
ずるずると麺を啜って、鍋に直接口をつけてあちっと言いながらスープを飲んでいた。
食堂併設の調理場で鍋と丼を洗って戻ると、ベランダへの掃き出し窓を開けて、その前に那智が座布団を二つに折ってそこに頭を乗せて雨を見ている。
「雨、好き?」
「自分が出かけへん時の雨は好き。こんな中でも外に出なあかん人おんねんで。可哀想やなぁ」
「性格悪いな」
「せやろ?」
しとしとと雨が降りてきて、雨の匂いが濃く鼻について蒸し暑い。
夏休みの寮はただでさえ少ない寮生がもっと少なくなる。
「今日晴れてたら遊園地行く予定だったんだけど」
「ふぅん」
「そこで観覧車に乗って、てっぺんでまたなちに告白して」
「またベタやな」
「それで上手くいったらそこでキスしようと思って」
少女漫画か、と那智が吹き出してげらげらと笑いだした。
足をばたつかせて腹を抱えてヒィヒィと笑う。
目尻の涙を拭いながら笑うのを見て無性に腹がたってきた。
こっちはいつでも必死なのに。
「そういうのは女の子にしてやれよ」
「なんでそういうこと言うんだよ」
「僕は安全地帯から出たくないし、迷路も出たいと思わない。例え目の前にゴールの看板があったとしても、出た先がまた新しい迷路なのかもしれないだろ?」
「そういうわけのわからないこと言うのやめてほしい」
答えのないなぞなぞのようなことを言って煙に巻こうとするのが嫌いだ。
誰かを好きになってこんなに思い通りにいかないことも、こんなに胸がぐちゃぐちゃになるのも初めてのこと。
カッと血が上ってその口を塞いだ、それでも那智は受け身でその様にまた血が上った。
「なんで抵抗しないの?ここは海の上でもなんでもないのに」
「ごめん」
「先に謝るのずるくない?」
ふっと笑ったその唇をまた奪った。
衝動とは真逆に柔く口付け、薄く開いたそこに舌を差し入れた。
那智はそれを迎え入れて味わうように絡めてくる。
ゆっくり擦り合わせる舌が気持ち良くて、隙間から漏れる吐息が生々しい。
「俺のこと、好きじゃない?」
「朝陽、世の中雨森さんや出雲先輩みたいな人ばかりじゃない。あからさまな嫌悪感を持った視線を向けてくる人の方が多い。そういう視線はお前に似合わない。僕にはもったいない」
「じゃ、なんでキスした?」
「なにかひとつ残ってもいいかなって」
頬に触れる那智の手はじっとりと湿っていて、生温い空気に汗がぽとりと落ちた。
「朝陽、セックスする?」
口の端に落ちた汗を舐めながらそんなこと言うのは反則だろ。
※読んでくださりありがとうございます。
エールもありがとうございます。
それは軽く食事をするだけだったり、近くのコンビニに歩いて行くだけだったり、部活とバイトの空いた時間と那智の時間がなかなか合わない。
あの日からより特別な一日を作れない焦りがじわじわと積もっていく。
那智は全てにおいて受け身で、誘えばいいよとは言ってくれなくても強引に連れ出せば着いてくる。
背中しか見せなかった那智がほんの少しだけ振り向いてくれたような気もするし、夏が終わるまでの我慢といったようにも見えた。
「なち、大変だ、起きて」
「なに」
「雨が降ってる」
「そりゃ、お空のお姫様が泣いてんだ。あぁ可哀想に」
むにゃむにゃと寝ぼけながら掠れた声でそう言って那智は寝返りを打った。
朝陽は実家に盆帰りをしたが、那智はずっと寮に留まっていた。
盆が過ぎれば夏はそのスピードをぐんと上げて去って行く。
この日は、那智を遊園地へと連れ出すつもりだった。
久しぶりに二人共に休日なのに予定が狂ってしまった。
それが、朝からしとしとと雨が降り出し天気予報では一日中傘マークが表示されていた。
昼前にのそのそと起きて来た那智は、お腹空いたとこぼしながら冷蔵庫から水を出してごくごくと飲んだ。
「お昼、なんか食いに行くか?」
「ラーメン食べる」
「いいな、どこ行く?」
「行かへんわ」
どこかぼんやりとまだ寝起きの声で二段ベッドのはしごを登って那智が手にしたのはカセットコンロだった。
衣装ケースの一つを開けて取り出したそれと、片手鍋と袋ラーメン醤油味。
折りたたみテーブルを出して片手鍋に水を入れて火にかけた。
「朝陽も食べる?」
「え、あ、うん」
「じゃ、食堂から丼一つ持ってきて」
「一つ?」
くわぁと欠伸をしながらこくりと頷いた那智。
二つじゃないのか?と思いながらも丼を一つ持って部屋に戻ると、ラーメンがぐつぐつと煮えていた。
具も何も無い素ラーメンは、那智の手によって丼に収まって割り箸と共に、はいどうぞと渡される。
空の片手鍋を洗いもせずに、また水を入れて同じように作った素ラーメンに那智は鍋のまま箸をつけた。
「いつもそんな感じ?」
「ん、洗いもんはお前な」
ずるずると麺を啜って、鍋に直接口をつけてあちっと言いながらスープを飲んでいた。
食堂併設の調理場で鍋と丼を洗って戻ると、ベランダへの掃き出し窓を開けて、その前に那智が座布団を二つに折ってそこに頭を乗せて雨を見ている。
「雨、好き?」
「自分が出かけへん時の雨は好き。こんな中でも外に出なあかん人おんねんで。可哀想やなぁ」
「性格悪いな」
「せやろ?」
しとしとと雨が降りてきて、雨の匂いが濃く鼻について蒸し暑い。
夏休みの寮はただでさえ少ない寮生がもっと少なくなる。
「今日晴れてたら遊園地行く予定だったんだけど」
「ふぅん」
「そこで観覧車に乗って、てっぺんでまたなちに告白して」
「またベタやな」
「それで上手くいったらそこでキスしようと思って」
少女漫画か、と那智が吹き出してげらげらと笑いだした。
足をばたつかせて腹を抱えてヒィヒィと笑う。
目尻の涙を拭いながら笑うのを見て無性に腹がたってきた。
こっちはいつでも必死なのに。
「そういうのは女の子にしてやれよ」
「なんでそういうこと言うんだよ」
「僕は安全地帯から出たくないし、迷路も出たいと思わない。例え目の前にゴールの看板があったとしても、出た先がまた新しい迷路なのかもしれないだろ?」
「そういうわけのわからないこと言うのやめてほしい」
答えのないなぞなぞのようなことを言って煙に巻こうとするのが嫌いだ。
誰かを好きになってこんなに思い通りにいかないことも、こんなに胸がぐちゃぐちゃになるのも初めてのこと。
カッと血が上ってその口を塞いだ、それでも那智は受け身でその様にまた血が上った。
「なんで抵抗しないの?ここは海の上でもなんでもないのに」
「ごめん」
「先に謝るのずるくない?」
ふっと笑ったその唇をまた奪った。
衝動とは真逆に柔く口付け、薄く開いたそこに舌を差し入れた。
那智はそれを迎え入れて味わうように絡めてくる。
ゆっくり擦り合わせる舌が気持ち良くて、隙間から漏れる吐息が生々しい。
「俺のこと、好きじゃない?」
「朝陽、世の中雨森さんや出雲先輩みたいな人ばかりじゃない。あからさまな嫌悪感を持った視線を向けてくる人の方が多い。そういう視線はお前に似合わない。僕にはもったいない」
「じゃ、なんでキスした?」
「なにかひとつ残ってもいいかなって」
頬に触れる那智の手はじっとりと湿っていて、生温い空気に汗がぽとりと落ちた。
「朝陽、セックスする?」
口の端に落ちた汗を舐めながらそんなこと言うのは反則だろ。
※読んでくださりありがとうございます。
エールもありがとうございます。
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