この指灯せ

コトハナリユキ

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メシアの誕生

転機

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 薬の効果は恐らく1分ほど。男を殺して程なく僕の体は元に戻り、気持ちも落ち着き、あの声も聞こえなくなった。
 もう一度自分が殺めた男を見つめる。

「人を…。」

 僕は恐怖と罪の意識に一瞬囚われたが、すぐに我に返った。

「ちがう…僕は、この売人に罰を与えた。そうだ…この人は気弱そうな子供を捕まえて薬を売りつけようとした男だ。…僕はただの殺人犯なんかじゃない。」

 僕は男のポケットなどを探り、残りの薬が入った袋を見つけ、手に取ってトイレから出て行った。幸い目撃者はいないようだった。
 自宅へ帰り、ベッドに腰を下ろした。
 すでに落ち着いてしまっている自分を少し恐ろしくも感じたが、今はもう"実行するしかない。"と、ジワリと湧き出る恐怖や不安、罪悪感を心の奥へとしまいこんだ。

 思いも寄らない形で転期が訪れたんだ。
 僕はそれからこの薬を使用し、どうやってあの3人…中でも侠山に、どんな罰を与えるか考えた。すると

「3人だけに罰を与えたとして…果たして終わりで良いのだろうか?」

 そんな疑問も出てきた。

「僕ひとりだけでは、ないんじゃないか?こんな思いをしている人は…。」

 皆、いじめの被害者は、同じように辛く、苦しくて、悲しくて、悔しい思いをしている。助けを求めることもできずに、ただ"死"を待っている。このちからを使えば、たくさんの人を救うことができるかもしれない。
 いじめの加害者を一掃しよう。そう僕は決めた。
 その夜、父親に地下室を譲ってもらった。そこを処刑場とする為だ。
 本棚と机しかないシンプルな部屋を一人で静かに見渡した。

「ここから…全てを、はじめよう。」

 僕は三木堂の生徒から制裁を与えていくことにした。あの力を見極めたところで本番を迎えるんだ。
 1人になったところを後ろから襲う。最初から殺す気だからバットだって鉄パイプだって、全力でフルスイングできた。あとは部屋に持ち帰り、薬の力でその不良に制裁を加える。それを数名、繰り返した。

 …簡単だった。
 
 そして、すぐに本番の日はやってきた。
 侠山が藤宮と佐川と別れ、1人になった住宅街。すでに空は真っ暗だった。僕は後ろから彼を呼び止めた。

「侠山くん。」
「…あ?」

『ガっ!』
「!?」

 侠山が振り向くか振り向かないか位で、後頭部を死なない程度にレンガで打ちつけた。彼はそのまま路上に倒れ込んだ。

「あ"…うわ…あぁぁぁ…。」

 頭を抱えてのたうち回る侠山を見下ろし、レンガは持ったまま、優しく声をかけた。

「久しぶりだね。」
「た…たかやな…い、痛ぇ…なに」
「なにって…ふふ。はじまったんだよ。」
「え。」

 僕は笑顔で彼の頭にレンガを落として気絶させた。

「侠山くん。さぁ…裁きの時だ。」
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