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音が聞こえた
奇妙な音
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僕が釜山町に引っ越して来て3ヶ月が経った。郊外の田舎町。電車で30分ほどで市街地へは行ける。不良のせいで入りにくいコンビニだったり、壊れた防犯センサーのある中古本屋だったり、看板のライトが点いたり消えたりするようなゲームセンターだったりと、変なとこもあるけれど、地味にこの町を好きになって来ていた。
ある日の夕方。中学から家への帰り道だった。住宅街を抜けると森が大きくそびえている。その森を囲う形で住宅街と分けるように長く広い緑地公園が作られている。その公園沿いの歩道を僕はいつも歩いて帰っていた。
春も終わりがけで、学ランで歩いているとじんわりと汗が滲む頃になっていた。
僕はふと思い立ち、公園の中を突っ切って帰ることにした。下を向いて歩き、蟻をとにかく踏み潰しながら歩いた。…特に意味はないけど、なんとなくそんな気分だった。
舌の上の銀の玉で、口の中のザラザラしたところをこする。夢中でこする。僕は無言だ。
僕が帰る時間帯の公園は、薄暗く鳥の鳴き声が不気味に響いたりして、ダークファンタジーな色に染まっている。公園の緑道から少しでも外れれば住宅街が並び、逆方向に少しだけ外れると森に飲み込まれる。そんな場所をドスドスと音を立てて歩いた。
ちょうど横断中のカマキリを勢いよく踏みつぶした時に、妙な音がした。カマキリを踏みつぶした音じゃない。少し離れたところから変な音がした。…どこだ。森か?住宅街か?…分からない。
カマキリを踏んだまま立ち止まると何かを叩くような鈍い音がした。
「あ、この音だ。」
僕は思わず独り言が口から出た。そして背中や右腕に鳥肌が立っているのを感じた。…分かる。僕にはこの音がなんの音なのか分かる。もう1度聞こえないだろうかと、辺りを見渡す。…聞こえた。
「…あ。」
住宅街からだ。道路1本挟んで聞こえる。…とんでもない大きさだ。
これは、人が人を殴る音だ。どう殴ればこんな音がするのか。僕が普段学校で聞いている音とは訳が違う。
どこだろう、どこだろう…?
住宅街に向け耳を澄ませながら、緑地公園を飛び出した。しかし、その音はもう聞こえない。僕はしばらく住宅街を歩き回ったがとうとう音の出所は分からなかった。僕が聞いただけで2発。普通の人だったら絶対死んでる…そんな音だった。
興奮して弾む気持ちを落ち着かせようと、ゆっくり歩いていつもの緑地公園沿いの通学路に戻った。僕はまた舌の上の銀の玉を口の中で遊ばせた。
あれから1週間が経ち、中間テストが近づいて来ていたがイマイチ何も手につかなくて困っている。あの音を気づけば思い出していた。学校で2人目の小動物が殴られる音が聞こえた時に鮮明に蘇るのだ。
新聞やテレビ、学内の噂話までもチェックしているが、この町での暴行事件のニュースは不良だったり、チーマーや暴走族で埋め尽くされていた。そんなものとは絶対に違う、という確信があった。
しかも現場は住宅街だ。あんな凄い殴打の音だったのに、なぜ事件になっていないんだ?もしかして被害者はあの時に殺されて、どこかに隠されているんじゃ?そして失踪扱いに留まっているんじゃ?…だから僕のように"不審に思う人間が居る。"という段階で話が止まっているのでは?
「…ふふ。」
…まさかね。事件の急展開を頭の中で考え、自分で自分が馬鹿らしくなり、笑ってしまった。
『がしゃあん…!』
どこかの窓が割れる音がして現実へと引き戻された。
ある日の夕方。中学から家への帰り道だった。住宅街を抜けると森が大きくそびえている。その森を囲う形で住宅街と分けるように長く広い緑地公園が作られている。その公園沿いの歩道を僕はいつも歩いて帰っていた。
春も終わりがけで、学ランで歩いているとじんわりと汗が滲む頃になっていた。
僕はふと思い立ち、公園の中を突っ切って帰ることにした。下を向いて歩き、蟻をとにかく踏み潰しながら歩いた。…特に意味はないけど、なんとなくそんな気分だった。
舌の上の銀の玉で、口の中のザラザラしたところをこする。夢中でこする。僕は無言だ。
僕が帰る時間帯の公園は、薄暗く鳥の鳴き声が不気味に響いたりして、ダークファンタジーな色に染まっている。公園の緑道から少しでも外れれば住宅街が並び、逆方向に少しだけ外れると森に飲み込まれる。そんな場所をドスドスと音を立てて歩いた。
ちょうど横断中のカマキリを勢いよく踏みつぶした時に、妙な音がした。カマキリを踏みつぶした音じゃない。少し離れたところから変な音がした。…どこだ。森か?住宅街か?…分からない。
カマキリを踏んだまま立ち止まると何かを叩くような鈍い音がした。
「あ、この音だ。」
僕は思わず独り言が口から出た。そして背中や右腕に鳥肌が立っているのを感じた。…分かる。僕にはこの音がなんの音なのか分かる。もう1度聞こえないだろうかと、辺りを見渡す。…聞こえた。
「…あ。」
住宅街からだ。道路1本挟んで聞こえる。…とんでもない大きさだ。
これは、人が人を殴る音だ。どう殴ればこんな音がするのか。僕が普段学校で聞いている音とは訳が違う。
どこだろう、どこだろう…?
住宅街に向け耳を澄ませながら、緑地公園を飛び出した。しかし、その音はもう聞こえない。僕はしばらく住宅街を歩き回ったがとうとう音の出所は分からなかった。僕が聞いただけで2発。普通の人だったら絶対死んでる…そんな音だった。
興奮して弾む気持ちを落ち着かせようと、ゆっくり歩いていつもの緑地公園沿いの通学路に戻った。僕はまた舌の上の銀の玉を口の中で遊ばせた。
あれから1週間が経ち、中間テストが近づいて来ていたがイマイチ何も手につかなくて困っている。あの音を気づけば思い出していた。学校で2人目の小動物が殴られる音が聞こえた時に鮮明に蘇るのだ。
新聞やテレビ、学内の噂話までもチェックしているが、この町での暴行事件のニュースは不良だったり、チーマーや暴走族で埋め尽くされていた。そんなものとは絶対に違う、という確信があった。
しかも現場は住宅街だ。あんな凄い殴打の音だったのに、なぜ事件になっていないんだ?もしかして被害者はあの時に殺されて、どこかに隠されているんじゃ?そして失踪扱いに留まっているんじゃ?…だから僕のように"不審に思う人間が居る。"という段階で話が止まっているのでは?
「…ふふ。」
…まさかね。事件の急展開を頭の中で考え、自分で自分が馬鹿らしくなり、笑ってしまった。
『がしゃあん…!』
どこかの窓が割れる音がして現実へと引き戻された。
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