朱夏の日光に栄える森

琴里 美海

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第四拾話

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 この村って、昔から変わらないなぁ。

「何と!!あの青龍様がこの村に!!」

 亥助の家に上げてもらって、何故か村人達が皆来て、私に頭を下げている。これ、何の宗教の光景なんだろう。
 食事を出してもらえて、私はその量の多さに驚きながらも、感謝して食べる事にした。

「頂きます。」

 うん、美味しい。美味しいんだけど…………

「凄く見られてる………」
「お前等一回出てけ!!!」

 亥助が村の人達を家から追い出すと、やっと落ち着いて食事を取る事が出来た。いやぁ、この村の人達皆面白い。

「いや、申し訳無い。」
「いや良いよ、騒がしいけど、賑やかで楽しいし。」
「亥助、あんたも大分騒がしいからな。」
「はぁ!!?」

 此処の二人はあれかな、喧嘩する程仲が良いって言う、そう言う感じなのかな。少なくとも、本当に仲が悪かったら役割云々を置いといて、一緒にいないだろうし。
 暫くして食事を終えると、亥助が食器を片付けてくれた。
 月暈と二人きりになると、彼の方から突然話し掛けて来た。

「百年以上前、この村から初めての『森の主』が出て、それからその役目が受け継がれていったんだが、あんたは初代の事を何か知っているか?」

 そんな質問をされて、私は頷いた。

「勿論知っているよ。」
「どんな人だったか、聞かせてもらいたい。村の人間から如何思われていたのか、村の人間達を如何思っていたのか。それに、この役目の事を如何思っていたのか。」

 朱夏はあの子は如何言っていたかな。私は目を閉じて少し思い出した。
 目を開いてから少しの間沈黙が続いて、私は口を開いた。

「村の人達からの反応は、今の村と同じ様な感じだよ。皆『森神様』と呼んで神格化していた。だけど、あの子はそれが嫌だったね。自分は人間だから、そうやって持ち上げないでほしいって。でも、この仕事は好きだったみたいだよ。時々妖怪達と会って、話をして……………」

 朱夏の話をしている途中で、私は口を閉じた。気が付いた時には、瞳から涙が溢れていた。
 静かに私の話を聞いていた月暈が口を開いた。

「あんたは、初代の事が好きだったんだな。」
「…………うん、そうだね…………初めて、恋をした人だったよ……………」

 私は涙が溢れて止まらなかった。
 やっと涙が止まって、私は森に帰る事にした。

「青龍様、良かったら何時でもお越しください。」
「大したおもてなしは出来ませんが。」
「いいや、気持ちだけで十分だよ。それじゃあ月暈、亥助、『森の主』とその世話役、頑張ってね。気が向いたらまた来るから。」

 月暈は何も言わずにお辞儀をした。亥助は頭の後ろで手を組んで、楽しそうに笑っていた。村の人達も皆お辞儀をしていたから、私もお辞儀をして村を出て行った。
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