大雪の中咲く一輪華

琴里 美海

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第壱拾弐話

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 鶴は氷柱を部屋に連れて行くと、少しして戻って来た。
 俺は起き上がって改めて胡坐を掻くと、鶴は俺の前に正座した。

「んで?頼みって何だよ。」
「実はのう、ちと昔助けてもらった神様にまた礼を言いたくてのう。」
「はー。」

 こいつ、何か良い事あったな。

「じゃが、祠に行ったのじゃが、そもそもその祠自体が無くなってしまっておったのじゃ。」

 まぁあれから結構な時間が経ってるし、その間に何かあったんだろうけど。俺はその神様と友達って訳でもねぇし、向こうだって多分俺の事知らないだろうし。

「まぁ此処まで聞いて分かると思うのじゃが、その神様が何処にいるのか探してほしいのじゃ。」

 そう言ってくる気しかしてなかった。
 だけど祠が無いか。祠ってのは人の願いの結晶だ。それが無くなってるって事は、悪神扱いされて壊されたか、もしくは人に忘れられて風化して壊れたか。前者なら人は忘れてない。だけど後者ならもう人は覚えていないって事だ。
 神様ってのは概念だ。人がこんな神が欲しい、いてほしい。そう言った願いから生まれる物だ。だから人が覚えている限り神ってのは死なない。だから忘れられる事は神にとって怖い物なんだよ。

(ま、俺は死なないけど。)

 今この世の中に鳳凰と言う概念を知っている奴がどれくらいいると思ってる。その中で俺と言う存在を知ってる人間は、まぁ氷柱だけだろうけど。

「暁光?」
「あ、いや何でもねぇ。」
「そうか。兎に角頼んで良いか?」
「いいや、今回は難しい。」
「…………………そなたが言うなら恐らく本当に難しいのだろうな。なら諦めよう。」

 少し寂しげな鶴の顔を見て、流石に申し訳無くなった。

「さて、随分と長い間邪魔をしてしもうたのう。」

 鶴は立ち上がると廊下の方へ向かった。

「なぁ一つ聞いて良いか?」

 俺がそう声を掛けると鶴は足を止めた。

「お前、何か良い事あったのか?」

 俺の問いに鶴は振り返った。その顔は本当に嬉しそうな顔だった。

「あの子の七つの祝いに、札を納めに行こうと思うてのう。」
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