炎陽の下吹く恵風

第参拾弐話

　あたいは目を覚ました時、其処は全く知らない場所だった。すぐに起き上がって辺りを見回した。何も灯りが無く、あたいみたいに暗闇になれていなかったら何も見えないかもしれない。
　壁には一応扉がある。開けようとしたけど全く開かない。

（何なんだよこれ。）

　取り敢えず今の状況が呑み込めない。だけど此処に居ちゃいけない気がする。だってこんなに気持ちの悪い臭いがする。
　あたいは扉に何度も体当たりをした。だけど頑丈な扉は中々壊れそうにない。
　扉の向こうから足音が聞こえてきて、あたいはすぐに扉から離れた。
　足音は扉の目の前で止まって、ゆっくりと開いていった。一体どんな奴が扉の向こうにいるのか、そう身構えたが、予想していなかった奴がいて、あたいは自然と口が開いてしまった。

「………たぁき………」

　環だ。

　いや違う、環じゃない。見た目は環そっくりだけど、この嫌な臭いとかは明らかに環じゃない。
　あたいは目の前の環によく似た奴に威嚇をすると、そいつの後ろにまた別の奴が立った。弱々しい感じで随分と傷だらけだ。それに何だろう、何か、凄く懐かしいのは何でだろう。何故か悲しくなるのは何でだろう。

「入れ。」

　偽環がそう言うと、後ろにいた女はゆっくりとあたいのいる部屋に入って来た。その直後に扉が閉まった。
　あたいは警戒を解くと、その女はゆっくりとあたいに近付いて来た。

「あ、私の、私の事…………分から、ない、か…………」

　随分と悲しそうな声と表情であたいにそう言って、その場に座って俯いた。
　何で、そんな声出すんだよ。何でそんな悲しそうな顔するんだよ。そんな懐かしい匂いでそんな事言うな。
　あたいは少しずつそいつに近付くと、そいつはゆっくりと顔を上げた。

「ぉ。」

　違うかもしれない。だけど、今までこんな不思議な感じは感じた事が無かったから。

「ぉ…………かーさん?」

　あたいがそう言うと、そいつはそれは驚いた顔をして、急に泣き出した。悲しいからじゃない、だって凄く嬉しそうな顔をしてるから。