命が進むは早瀬の如く

琴里 美海

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第壱拾話

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 熱い。
 如何してこんなに熱いんだろう。

 目を覚ますと完全に知らない場所に居たせいで、私は少しの間施行を停止してしまっていた。
 起き上がって辺りを見回すと、さてどうやら牢屋、座敷牢かな。まぁ何にしても、私は捕まってしまっているんだろう。えっと、そうだね、確か瑞光が現れて、皆を逃がす事を優先に行動したけど、皆は大丈夫だろうか。

「さてと。」

 扉に向かって歩いて行き、扉に触れると、凄まじく熱く、咄嗟に手を離してしまった。明らかに向こう側から熱せられている。この扉、鉄で出来てる様だ。

(さて、如何したものか。)

 もう、周辺全てを吹き飛ばす勢いの風を起こしても良いけど、周りに何があるか分からない状態でそれをやったら、下手をしたら自分の首を絞めかねない。
 それにしてもこの部屋の中暑い。向こうからの熱のせいで暑くて仕方が無い。
 襟の辺りを掴んで動かしつつ、少し風を起こした。これで少しは涼しくなる筈。

「あぁ、目覚ましてたのか。」

 扉の向こうから随分と聞き覚えのある声が聞こえる。そんな気はしていたけど、やっぱり瑞光が居るみたいだ。

「君、一体何の目的で私をこんな所に連れてきたんだい。それとも、私は人質のつもりか何かかな。」

 私の問い掛けに対し、少しの沈黙が続き、そして瑞光の笑い声が聞こえてきた。

「何が可笑しいの。」
「いや、まぁあれだ、考え方自体は至極全うだ、そう考えるのが当たり前だろうよ。」
「だったら如何して笑ったの。」
「あーそうだな、理由なんて大した物は無ェよ、唯面白かっただけだ。だけど勘違いしてるから教えてやるけどな、今回の俺様の目的は、恵風さんテメェだよ。」

 私が目的。さて参ったな、意味が分からない。てっきり炎陽ちゃんが目的で、私は唯の人質だと思っていたのに。私なんかを捕まえて、果たして一体何になるんだろうか。

「どっちにしろ人質ならとっくに容易出来てるし、後は主が交代してくれりゃ、俺様が最後の一手を打てるんだけどな。」
「君はさっきから何の話をしているの。」
「なぁ恵風さん、テメェ少し前に随分と懐かしい話してたよな。」

 懐かしい話。もしかして炎陽ちゃんに話していた昔話の事かな。それを知っていると言う事は、あの時、瑞光は私と炎陽ちゃんの近くに居たんだろうか。

「盗み聞きと言うのは、些か如何かと思うよ。」

 私がそう言うと、瑞光は再び笑った。

「別に、聞こうと思って聞いた訳じゃねぇよ、偶然近く通ったら聞こえてきたんだよ。」

 偶然だとしても、結局立ち止まって聞いたなら、それはある意味盗み聞きに入るんじゃないだろうか。とまぁ、そんな事は置いておくとして。

「ところで、今君意外には誰か居るの?」
「俺様以外に、誰かテメェの事閉じ込めておける奴がいるかよ。」
「そっか、そうだよね。」

 少し安心したよ。

 私は大きく深呼吸をして両手を扉に向けた。そして壁や扉に亀裂が入るくらいの強風を起こした。
 あまりの轟音で扉の向こうで瑞光が何か言っている気がするけど、殆ど何も聞こえない。けど、今は脱出が目的だから、彼が何を言っていようと関係無い。
 扉が木端微塵になった瞬間に私は部屋を飛び出した。

「聞こえてなかったか?まぁ良いか。」

 瑞光の言葉が聞こえた瞬間、何かが口の中に飛び込んだ。その勢いが強く、そのまま喉を通ってしまった。

「?一体何………………!!!」

 胃の底から何かが湧き上がってくる様な感覚がして、私は足を止めて口を塞いだ。上がって来るそれを止めきれずに全部吐き出した。それは赤々とした血だった。駄目だ、今何が起きているのか分からない。分からないで混乱している間に、また私の体が可笑しくなる。

 内臓が破裂する、腕が、脚が拉げていく、痛みで声を上げてその場でのた打ち回った。

 瑞光が笑顔を浮かべているのが見えた。あぁそう言う事か、あの時飲んだのは瑞光の血か。確かにこれは辛い、苦しい。今になってあの時暁光が味わっていた苦しみを知った。あの子はこんな物を何度も飲まされたのか。成程、逃げ出したくなる気持ち、今なら言葉通り痛い程よく分かる。

「なぁ恵風さん、俺様の血の味は如何だ?無理に逃げだそうってなら、好きなだけ飲ませてやるよ。」

 そう言って私の髪を掴んで顔を上げさせると、私の口の中に手を無理矢理突っ込んで、私の歯を使って出血をした。
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