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二度と失敗しないように

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ここは……どこだ。



 目を開けてまず思ったことはそんなことであった。本当はもっと思うべき所があるはずなのに。目の前には二人の男女が祈りを込めるように、ギュッと目をつぶって手を合わせている。
 なんだ? この状況は、というよりこの二人を俺は知らない。なんで見知らぬ男女が俺の無事を祈っているんだ?
 そんなことを思っているとその男女は俺が目を開けたことに気付き、とびでるほど目を開けて手を解いて俺に近付いてきた。


「隼人!? 私たちのことが分かる?」


 女性がそう言って俺の顔に目を血走らせながら近付いてくる。
 そんなに必死になることなのか? と思った時、一つ気付いたことがある。
「私たち……? いや、そもそも……俺は誰だ」
 それを言った時、二人は花がしおれるように、へたりこんだ。
「やっぱり……そうなのね……覚えていないのね」
 悲しそうに女はそう言っている。男は生気を失ったようにその場でぼうっとしている。
 もしかして、俺は……
「あの、すみません。僕は、貴方たちの子どもですか?」
 すると二人は顔を見合わせて、しばらく何も話さなかったが、やがて頷いた。
「ええ、そうよ。私は貴方の母親の春賀(はるか)、そして……ほら、あなた」
 春賀さんに言われて男は気を取り直す」
「あ、ああ、俺は君のお父さんの次郎と言うんだ。えっと、これからもよろしくな」
 どこか遠慮がちなその瞳は俺に似ているな、と思ってしまう。
 逆に春賀さんの方は全然、俺に似て否K手、本当に俺の親なのかと疑ってしまいたくなる。



 それでも紛れもなく二人は僕の両親らしい
「目が、冷めましたか?」
 病院の先生が帰ってきた。
 その後は、僕の両親らしき人たちはどこかへ行き、しばらく帰ってこなかった。
 俺はその間一人でいた。
 頭の機能が働いているかどうか分からずとしていると立ちった、そのままぼうっとしているうとやがて戻ってきた。



「あの、隼人、貴方がいいいならこれからも私たち両親だとおもってくれる?」
「あ、はい。そうですね」
 何も断る理由も無かったのでそのまま、春賀さんたちの息子。斉藤 隼人として生活を続けることとなった。
 なぜか、若干、父親はこれを不満そうな顔をして見ているが。まるで、調子に乗るなよ、と言われているみたいだった。しかしそんなことはどうでも良かった。とりあえず衣食住が出来れば良い。そう思い俺は斉藤家の息子になった。



 はっきりと言えば天国のような場所だった。
 まず外装は宮殿のような造りをしていて庭が広い。噴水とかもあり、この家だけで鬼ごっこやかくれんぼが出来るのではないか、と思うほどであった。家の中もどれもアパートやマンションなんかとは比べものにならない程大きく、まるで白いペンキを塗りたくったように真っ白で綺麗な壁をしている。
料理は美味いし風呂も気持ちが良いし、何もかもが最高。
だったが、それは束の間であった。
 俺は不安になった。この家族は俺のことを愛していないのでは無いか、と。
 なぜならどこの家庭にあっても良さそうなのが、俺の家には無かったからだ。
 それは、家族写真。
 これが全くどこにも見当たらないのだ。
 これはほとんど、どのような家族でも持っていて良い物だ。いや、むしろもっていなきゃいけない物に等しい。だが、俺の家には全く無い。それもこんな大豪邸の中でその写真が無いのなんておかしい。そして、それだけでは無い。



 その日の夕食はハンバーグだった。しかし、俺のハンバーグの中身に小さなプラスチックの玉が入っていた。プラスチックの玉なんて故意にしか出来ないことだ。
 そして月日が経つごとに両親の目がどんどん冷えているように見える。
 この両親は俺を殺すつもりなのだろうか、なんて思考が働く。なんてそんなことはない。
 俺は愛されている、なんて自信を持って言えない。むしろ考えれば考えるほど両親は俺を殺そうとしているとしか思えないのだ。



 だから俺は、観察しようと思った。
 記憶が無くなったので初めは分からなかったが、俺は結構、金を持っているらしい。
 銀行に何千万もの金額が書かれてある通帳が入っていた。そして忘れた時のためにパスワードも通帳と共に紙で書かれていた。そして勿論スマホも持っている。
俺はそれであることをしらべて、何百万円かを引き下ろしてそれらを買った。
 そして、それらを部屋のあちこちに両親に見つからないように設置した。
 両親が帰ってきた時、両親はそれらに、監視カメラの存在には気づかない様子で進んでいく。
 これで俺は監視カメラの設置は完璧だと確認できた。
 モニターも買い、これで両親の行動を観察する。
 それが終わると俺は部屋から出ていき、両親と一緒に過ごしていく。



 この豪邸はメイドは雇い制だ。
一日中いるわけではなく、夕方頃には帰っていく、そういう制度になっている。
 だから、俺の部屋に誰かが入ってくることは無い。
 監視カメラに気づくことはない。
 俺はそのまま両親と一日を過ごし、歯を磨きそのまま早く部屋に戻る。
 部屋に戻るなり、俺は監視カメラの元に行く。



 すると、両親はしばらくテレビを見ている。子どもながらにして、もう眠気が出てきて直視するのが大変だった。だが、寝たらダメだと思いなんとか眠りに耐える。
 もう限界だと思ったその時、両親は動き出した。
 俺はかじりつくようにモニターを見る。すると両親は風呂場の横の壁際を少し見た後、父の部屋の机に行く。するとトン、トン、と足を踏みならした。すると、キィと机の後ろの壁が開かれた。思わず息を飲む。こんな場所があったのか。流石は豪邸だ。こんな隠し扉があってもおかしくはなかった。



 すると、親はそこから中々出てこない。
 よせば良いのに俺は抑えきれずに部屋から出て行った。 
 そして、そのまま早足で、しかし悟られないように忍び足で父の部屋に行った。
 監視カメラでも見ていたが隠し扉の向こうは真っ暗な闇が広がっていた。 
 入ったら二度と戻れなくなるような、そんな雰囲気をも醸し出している。
 その雰囲気を受けながら俺は拳を握りしめ、そして歯を食いしばり、進んでいく。
 しかし、予想に反し部屋はすぐ終わりが見えた。
 なぜなら、進んでいくとすぐに母と父の姿が見えてきたからだ。
 闇の中でもぞもぞと動いている二つの影があり、なんとなく俺は両親だと思った。
 そして案外結末は速く訪れた。



「そこにいるのは誰!?」



 突如、母親が叫んだので父親がこちらの方を見た。急いで逃げようと思ったが間に合うわけがない。それどころかその前にカチッと音がすると、電気がついた。
「隼人、貴方……」
 母親はあまりの衝撃に口を抑えている。このままだとマズい……もうわかんないけど……!
「だって……だっておかしいんだもん!! 何で家にはどこの家庭にもある家族写真が無いの!? どこの家庭にも思い出を残すためにあって良いのに!! 何で家には家族写真がないの!? 俺を愛していないからなんじゃないの!?」 


 一気にまくし立てて少し疲れた。


 てっきり何か怒鳴られると思ったが両親はフッと笑った。何がおかしいのか分からない。
「隼人、私たちが家族写真をみせなかったのは、これが理由よ」
 すると、母親は写真をとりだした。するとそこには四人、俺と父親と母親ともう一人、俺と同じくらいの男の子が見えた。



「こ、この子はだれ……」
「この子は貴方の弟にあたる子だったのよ」
 だったのよ、という言葉が気になったが、これ以上は聞かない方が良い気がした。
 すると、父親が口を開いた。
「この子はこの前、交通事故に遭ってね、亡くなってしまったんだ。だから、隼人がショックにならないように、いや、本当は俺たちが隼人に聞かれるのを恐れていたんだろうな。この子は誰って。だから写真を隠しておいたんだ」
「そうか……そうだったんだ……僕を愛していなかったんじゃ訳じゃなかったんだ」
 そうか、俺を愛していない訳じゃなかったんだ。それが分かっただけでも十分だ。
「そうよ、貴方を愛していないわけ無いじゃない」
 母親はそう言って俺を抱きしめた。それが暖かくて俺は眠くなった。
「じゃあ、僕は部屋に戻って寝るよ」
 俺はそのまま自分の部屋に戻って眠りについた。




「全く、どうやってここにたどり着いたのかしら、あの子」
「全く、油断も隙も無いな」
「ええ、でも良かったわ。変な誤解をしていて」
「ああ、そうだな。もし、そうでなければ……また壁を白くしなければいけなくなる所だった。
風呂場のな」
「ええ、そうね。本当は二人とも殺すはずだったのに、計画に失敗しちゃってあの子が生き残ることになっちゃった。あの子が記憶を失っている危険性があるからそれにかけることにしたわ。だから、目覚めて私たちのことを覚えていないって言うのを聞いた時、もうホッとしたわ」
「ああ、そうだな。どうだい? あの子も記憶が無くなっているんだ。これから新しい子どもとしてもう一度やりなおしても良いんじゃないかい?」
「そうね、もう二度と失敗しないように」
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