採用の最後の条件は“真の悪役令嬢”になることです。

小花衣いろは

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***

「――高橋希さん、ゲームクリアおめでとう」

希は閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げる。そこは最終面接が行われていた会議室で、ゲームをプレイする前と変わらず、二人の試験官がいた。しかし視線を巡らせてみれば、希以外の就活生は誰一人としていなくなっている。

「あの……私、本当にゲームをクリアできたんですか?」
「えぇ。これは試作なんだけど、第一ステージクリアってところね。このゲームは、悪役令嬢のヒロインが困難を突破して攻略キャラとの恋愛を楽しむっていうシステムにしようと思ってるのよ」

試験官の説明に、希はなるほど、と頷く。
つまり、ただ決められたシナリオを進めていけば攻略キャラの方から関わってくるわけではないということで。
攻略キャラとの接点を自ら作っていかなくては、ゲームが始まらないということだ。

納得した希は下ろしていた視線を持ち上げる。そして、試験官二人の横に立っている、スーツ姿の男性に気づいた。
希はその男性の顔を見て、まだ試験中だということも忘れて大きな声を出してしまう。

「え、デミアン……!?」

――そう。何とそこには、乙女ゲーム内のキャラクターであるはずのデミアンがいたのだ。顔や体格、髪型から背丈までそっくりだ。
違うところと言えば、着用しているのが制服や舞踏会の時に着用していた正装ではなく、スーツだというところくらいだろう。

「ふふ、驚いた? 彼は松田くん。ウチの社員なの」
「しゃ、社員?」
「えぇ。彼、すっごくイケメンじゃない? 面白そうだなぁと思って、彼をベースにした攻略キャラを作ってみたのよ」

試験官の女性は開発部の人間のようだ。
驚きに目を見開いている希の反応を見て、可笑しそうに笑っている。

「まぁ、何というか……入社試験合格おめでとう。四月から一緒に頑張ろうな」

鳩が豆鉄砲を食ったような表情で固まっている希を見て、気まずそうに頬をかいた松田は、困り顔で笑いながら片手を差し出した。

「……よ、よろしくお願いします」

呆けていた希はハッと我に返ると、恐る恐る手を伸ばす。

「あぁ、よろしく。……さっきの試験、実は俺も見ていたんだが、ヒロインに啖呵を切るところは中々痺れたよ。結構いい性格してるんだな」
「……それって、褒めて頂けているんでしょうか?」
「ふっ、あぁ。褒めてるよ」

触れた手のぬくもりは、デミアンのものとよく似ていた。そして、向けてくれる優しい微笑みもまた、月夜を背景に見惚れてしまったあの表情と、全く同じものに見える。
美しいアキシナイトの瞳から、目が逸らせない。

「……ありがとう、ございます」

希は自身の顔が熱を持ち始めていることに気づいた。
試験に合格できた喜びと同時に、心の中で新たな感情が芽吹いていることにも気づいてしまって、ドキドキと速くなる鼓動を落ち着かせるべく右手で胸の辺りをおさえた。

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