骨董術師は依代に唄う

玄城 克博

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Epilogue

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「間違っていなければ、だが。俺は君に礼を言いに来たんだ」
 それは、ウルマ帝国とマレストリ王国、二国間の戦争が終結する前日。そして、アルバトロス・フォン・ヴィッテンベルクとヨーラッド・ヌークスによる決闘の数時間前。
「お礼……ですか?」
 千年前の大魔術師、戦力として、抑止力として現代に転生されたアルバトロス・フォン・ヴィッテンベルクの言葉に、妖精族の少女はただ鸚鵡返しの声を発していた。
「俺を転生させたのは他でもない君だ。まず、それは合っているな?」
「……たしかに、転生術の直接の術者は私ですが、実際の転生までには多くの人の協力がありました。私だけが特別にお礼の言葉をいただけるようなものではありません」
「そうかもしれない。だから、ここからは確認だ」
 メサの言葉を笑みで流し、アルバトロスは問いを口にする。
「君がいなければこの転生術は失敗に終わっていた。違うか?」
「……わかりません。私がいなければ、代役として他の妖精族の術士が――」
「なら、聞き方を変えよう。君は、失敗するはずの転生術を修正したんだろう?」
 笑みを浮かべたまま、白の魔術師の目が妖精族の少女を覗き込む。
「――どうして、それを?」
 妖精族の少女は縮こまりながら、しかし魔術師の瞳を見つめ返した。
「この転生術に表向き以上の理由がある事を知ったから、とでも言うべきか」
 転生術。
 その魔術について、アルバトロスは誰よりもよく知っている。なぜなら、それはアルバトロスが作った、アルバトロス自らを後世に転生させるための魔術なのだから。
「誰かが、術式を書き換えてアーチライトさんを転生しようとした事ですか?」
「いや……それは初耳だな」
「えっ……」
「俺の予想では、細工されるはずだったのは記憶継承術。俺に依代の記憶を不完全に引き継がせようとした者がいると読んだのだが」
 偽のヨーラッド・ヌークスがアルバトロスの前に姿を現した以上、その裏で糸を引く者にとってアルバトロスへの記憶継承術は失敗に終わっている必要がある。ゆえに、アルバトロスはその者による記憶継承術への細工があったはずと推測していた。
「……たしかに、記憶継承術式への干渉もありました。私は、その二つは同一人物だと思ってたんですけど……」
「俺の推測では、その二つは別だ。今となっては、大した問題ではないが」
 共に失敗した細工、だが現時点での意味合いは違う。転生者のすり替えの失敗は、すでに誰の目にも明らかなものだった。
「問題は細工があった事、そして君がそれを修正した事。特に記憶継承術の修正がなければ、俺の転生は失敗していた」
 アルバトロスは、転生術と記憶継承術を一繋がりの魔術として作った。
 ゆえに、記憶継承術が失敗すれば同時に転生術も失敗し、記憶の継承が不完全になる以前にそもそもアルバトロスの転生自体が起こり得ない。アルバトロスの作った転生術は、自身の不完全な状態での転生を認めていなかった。
「確認も済んだ、改めて礼を言おう。君のおかげで俺の転生は成功した。ありがとう」
「……そのお礼は受け取れません、アルバトロス卿」
 頭を下げるアルバトロスを、メサは静かに首を振って拒む。
「私は、あなたのために転生術を行ったわけではありません」
「それはそうだろう。だが、理由はどうあれ――」
「いえ、お礼ならアーチライトさんに言ってください。あなたを転生したのは、ただ彼の指示に従っただけです」
 妖精族の少女の瞳は、白の魔術師の瞳、その奥を見据えていた。
「……依代が?」
 アルバトロスが覗き込んだのは、傍らの湖。その表面に映るのは、他でもない自分、白の魔術師以外の何者でもなかった。
「アーチライトさんは、自分が死んだ後、その亡骸をアルバトロス卿の転生の依代に使うようにと伝えていました。邪魔が入るようなら、修正するようにとも」
「自身の死を予見していたと? だが、俺の中にそんな記憶はない」
「……私にはわかりません。アーチライトさんの考えも、アルバトロス卿の中でその記憶がどうなっているのかも。私はただ指示通り、転生術の術式に手を加えただけです」
 アルバトロスは、アーチライトの生前の記憶を完全に引き継いでいる。
 だが、アーチライトが自らの死を予見していたなら、その後に起こる事まで見通していたのであれば。死の前に自身の記憶を整理する事すら可能だったかもしれない。
「依代の……アーチライトの目的は?」
 アルバトロスの問いに、メサはただ首を横に振る。
「……なるほど」
 誰よりも知っていた、そう思っていた依代の事が、今は他の何よりもわからない。
「アーチライト、か……」
 あるいは、それも依代の手の内か。自身に関心を持たせる事で、その周囲から、マレストリ王国から離れられなくするための縛りであったのか、とまで考えて、答えの出ない自問自答にアルバトロスは淡い笑みを浮かべた。
「いいだろう、もう少しくらいはお前に付き合ってやる」
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