妹の友達と付き合うために必要なたった一つのこと

玄城 克博

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一章 友達

1-2 妹を作る方法

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「……くっそ、やっぱりダメだあのバカ親共、俺と友子ちゃんは息子の夢を嘲笑うような親にはならないようにしよう」

 思い立ったが吉日、どうせ朝になったのだから、と朝食の準備をしている母親と新聞を読んでいる父親へと今すぐ妹を作るように直談判しにいったものの、結果は芳しいものではなかった。今は高齢出産も流行っている事だし、まだ頑張れば産めない年でもないだろうに、話すらまともに聞いてくれないのは親としてどうかと思う。

「いや、友子ちゃんって誰だよ」

「俺の話をまともに聞いてくれるのはお前だけだ、友希。俺は本当にいい弟を持った!」

「まともには聞いてねぇ、って、抱きついてくんな気持ちわりぃ!」

 感動を体全体でぶつけるも、ツンデレ気味に引き剥がされる。これで友希が妹だったら文句ないのだが、そこまでは流石に贅沢と……

「……なぁ、友希。タイ旅行しないか? 旅費と手術費は俺が出すから」

「旅行も手術もしねぇよ!」

「ちっ、弟も駄目か。家族揃って冷たいな、なんでだ、冬だからか? 夏のタイ旅行ならいいのか? 夏のハワイ旅行をプレゼントすれば父さんも母さんもハッスルするのか?」

「……親のそういう話やめろよ、リアクションに困る」

「俺もそう思う。でもな、大きな目的の前には乗り越えなくてはならない壁があるんだ」

 そう、俺は妹の友達と付き合わなくてはならない。そのためには、実の母親の股ぐらからかわいい妹が飛び出してくるのが一番てっとり早いとおもったのだが。

「とりあえず、部屋片付けろよ。こんなの見られたらまた怒られんだろ」

「それよりも俺は一刻も早く友子ちゃんと……」

「それにしても、こんな部屋じゃ女の一人も誘えねぇだろうが」

「あぁ、それもそっか」

 流石は友希だ。伊達に彼女持ちというわけではない。友子ちゃんに見られても嫌われないよう、いつもより余計に部屋を片付けなくては。

「……で、何かあったのかよ? いつにも増して何言ってるかわかんねぇけど」

 渋々、といった様子ではあるが、友希も部屋に散らばった半紙の塊を拾い集める手伝いをしてくれる。

 年の一つしか違わない弟は、むしろほとんど友達のような存在だが、少なくとも俺の友人の誰よりもよくできている。

 顔以外まったく似ていないだの、上がいかれてると下はしっかりするだの、弘人の改良版だのと知人からは散々に言われるが、それを否定するのも難しいくらいに友希は何でもできて性格もいい。口調がやや乱暴なので、時たま誤解される事もあるが。

「友希、恋をした事はあるか?」

 大方部屋が片付き、手を止めた友希に問いかける。俺はこれから雑巾と掃除機をかけてエロ本とパソコンのフォルダを隠さなくてはならないが、そこまで付き合わせる気はない。

「恋ぃ? まぁ、一応まだ優子と付き合ってはいるけど」

「そっか……友子って、読みようによってはゆうことも読めるな」

「だから、その友子ってのは誰なんだよ。兄貴はそいつに恋でもしたのか?」

「正確に言えば、する、かな。そこも楽しみではある」

「はぁ?」

 友希の口から、間の抜けた声。出来のいい弟にしては察しが悪い。

「見ただろう、この俺の思いの籠った素晴らしい書を」

「……その、『妹の友達と付き合う!』って奴か?」

「そう、その通り。俺は妹の友達と付き合う! と、そう決めたわけだ」

「決めたも何も……だから妹を生めってか」

「妹の友達と付き合うには、まず妹がいるからな。それがわからないほどバカじゃないさ」

「いや、バカだろ」

 友希が呆れた目を向けてくる理由だって、一応はわかる。俺はバカじゃないのだから。そう、断じて俺がバカだなんて事があるわけがない。

「バカじゃないやい、バカじゃないやい!」

「あー、もう、わかった、わかったから暴れんな」

 どうやら弟にも納得してもらえたようだ。

「まぁ、兄貴の目的? は一応わかったけど、どうしてまたそんな無茶言い出したんだ?」

「無茶じゃないやい、できるんだい、妹の友達と付き合うんだい!」

「あー……めんどくせぇ」

 友希の口から、本音がそのまま零れ出したような呟き。

 まずい、弟に見放されては頼れるのは頭スカスカの友人連中だけになってしまう。

「友希、お前はどんな女が好みだ?」

「お、おぅ? どんな女って、そりゃあ、顔が良くて優しくて胸がある女だけど」

「友希、それと同じだ。友希、俺はな、妹の友達な女の子が好みなんだよ、友希」

「ちょいちょい名前呼ぶなよ。後、やっぱり何言ってるかわかんねぇ」

「これを見るんだ、友くん」

「せめて名前で呼べ」

 ベッドの上の一冊の本を手渡すと、友希はそれを素直に受け取る。

「……って、これエロ漫画じゃねぇか」

「エロ漫画とは失礼な。……いや、これは本当にエロ漫画だった。まぁ、こっちでもお互い色々と膨らませることになる以外に問題はないから話を続けよう」

「問題しかねぇな……」

 眉をひそめながら、友希はエロ漫画の表紙を舐めるように眺めていく。

「とりあえず今は表紙だけで抑えてくれ。後で貸してやるから」

「いや、いらねぇけど。要するにあれか、エロ漫画に感化されたってだけか?」

「エロだけじゃなくて、普通の漫画もだけどな」

 いらないと言うので、友希の手から『妹の友達と押入れで……』を取り上げてベッドの上に戻す。後で貸してくれと言ってももう遅い。

「とにかく、これらの作品を通して俺は妹の友達という立場のかわいい女の子が好きなんだ、と気付いたわけだ」

「はぁ、なるほど。やっぱ聞いて損した、二度寝するわ」

「いやいや、待って、真剣なんだってホントに。ふざけてるわけじゃなくて」

 本気で部屋を出て行こうとする友希を、腰に縋りつくようにして止める。

「あー、わかったわかった。そうだな、兄貴は真剣なんだよな。でも残念ながら俺にはどうしようもねぇから。それこそ母さんと父さんにしかどうにもなんねぇよ」

「くそぅ、このリアリストめ! 夢を忘れた男に先はないぞ!」

「夢ばっか見てるよりマシだっつうんだよ。兄貴もとりあえず寝ろ、どうせ昨日から寝てねぇんだろ? 寝れば少しは忘れっから」

「甘いな、友希。忘れないためにこうして書に残したんだよ」

「あぁ……本当にめんどくせぇ」

 またしても呆れられてしまいそうだが、このまま帰してもそれは同じ。友希には今ここで如何に俺が真剣かを語って聞かせてやる必要がある。

 頑なに腰にしがみ付いていると、友希はやがて小さく溜息をついた。

「じゃあ――」

『弘人ー、友希ー、ゆずちゃん達が来たわよー』

 何か言いかけた友希の言葉は、間の抜けたインターホンの音と扉越しに聞こえた母親の声に中断される。

「ほら、離せって、柚木の事だからすぐ――」

「ひろ兄、明けましておめでとうっ……って、とも兄!?」

 階段を駆け上る音と、勢い良く開け放たれた扉の音、そしてそこから飛び込んで来た従妹の元気のいい新年のあいさつに再び弟の言葉は遮られてしまう。

「二人でそんな格好で……まさかとも兄、ひろ兄を捨てたの!?」

「そうなんだよ、柚木。ひどいだろ、友希が俺を見捨てようとするんだ」

「そんな、二人がそういう関係だったなんて……ひろ兄のバカっ!」

「えっ、俺!? なんで俺の方が怒られてんの!?」

 仲間にしようとした少女は、なぜか俺を罵倒しながら詰め寄って来る。

「はぁ……本当にめんどくせぇな」

 追い詰められたベッド際、拘束から逃れた友希の先程よりも深い溜息が、柚木の肩越しに小さく聞こえた。
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