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本編

5.イケメンと黄の国

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私は、あおくんを引っ張って行った。

「ねぇねぇ、この服あおくんに似合うと思わない?」

「・・・俺の服ばっかり見てない?自分の服を見てもいいんだよぉ?」

「私があおくんの服を見たいんだよ!」

「ふぅん」

やっぱりかなり注目されてるなぁ、あおくんは。店の中に立っているだけで絵になっている。
ヒソヒソとイケメン、などと言われている。そうであろうそうであろう。

シンプルな服でも似合うけどちょっとオシャレをしててもいいんじゃないかな?

「あっ・・・」

「?どうしたの」

「これ、付けて」

目に入った月のネックレスをあおくんにつける。

細い首に繊細な飾りのついたネックレスがよく映える。
主張はあまり大きくないのに彼を最大に引き立てる。

「これ、あおくんにあげる!」

あおくんは商品棚に置いてあった鏡で自分を見ている。

「でも俺ネックレスとか、普段付けられないよぉ」

確かにそうだろう。総長を護るために動きやすい格好でいることが大切だ。
ネックレスなんて付けられないだろう。

「いいの!たまに付けてくれれば、ね」

「・・・ありがとう」

「うんうん♪」

聞くと、あおくんは初めて仕事以外で街に来たらしい。だから私の近くをずっと付いてきていてかわいくて仕方ない。

ネックレスを買って店をでる。
早速付けてもらってから数百枚くらい写真を取った。

何故かげっそりしたあおくんがぶつぶつ文句を言っている。




「────ありがとう。俺を連れ出してくれて」
 



ネックレスを握りしめて言うあおくんの声に私は、気づかなかった。

ご飯を食べて、公園の変な銅像をみて、写真撮影(強制)をした。女の子に話し掛けられたりしたけどそこははっきりものを言うあおくん、無理と伝えた。

なんか、ラブコメしてない!?
イケメン幹部とラブラブルートフラグたってるよね!

ぶらぶらと歩きながら他愛もない話をする。

やっぱりあかくんの話が多い。いいお兄ちゃんをしてるんだなぁと伝わってくるような話ばかり。

「よかった。あおくんが外にでたり自立できないのはいおくんが束縛したりしているのかなって思ってたから」

「そういうことではなくて・・・」

あおくんがなんと伝えるべきか考えているようで手をあわあわと揺らしながら口をぱくぱくする。

この光景だけでご飯三杯いける。

「兄さんは、依存しているんだと思うんだよぉ。小さい頃は俺たちしかいなかったから」

いおくんとあおくんだけ?

どういう意味だろう。



「それって──────」





「?」

あおくんが言葉を不自然に中断させた私に不思議そうにこちらをみる。

しかし、流石幹部。
すぐに異変に気づく。

「あおくん」

「うん。完全に、囲まれたよぉ」

私たちの周りを男たちが囲んでいた。

まだまだ距離はあるがもう完全に囲まれたため逃げるに逃げられない。

それに幹部として恐らく他国の者だろう男たちを国民の元に残してはいられない。

あおくんやあかくん、総長レベルの魔力の持ち主でなかったし気を抜いていたから全然気づかなかった。

でも、人数がすごい。


何十人いるんだろう。


「五十人くらいだよぉ。うぅん・・・ちょっときついかもね」

「そうなの?幹部二人だったら軽くいけるんじゃない?」

「戦闘タイプの魔法だったらいけるけど、俺は戦闘魔法じゃないんだよぉ」

マジですか。

男たちの一人がにやにやとわらいながら声をあげる。

「おい、幹部様がこんなところで呑気にデートしてていいのかなぁ?」

「君たち、黄の国でしょ?」

相手の言葉をガン無視して明らかに年上の男に対しタメ口&君たち呼びとはやはり身分がそうさせるのかな。

威厳のためにわざとなのだろうか。

男たちは被っていたフードを外し、髪と瞳を晒す。

黄色の髪と瞳。黄色の国の住人であることは明らかだ。無論、不法入国である。

やはり、他の国の色というのは髪や瞳にあらわされると気持ち悪い。

周りの国民も顔色が悪くなっているものがいる。

黄の国の男たちはそれを楽しそうに見てからあおくんへ視線を向ける。

「双子の片方だけでラッキーだな、どっちかしらねぇけど。」

「しかし相変わらずムカつくくらい整った顔してやがるな」

「ボコボコに殴って元の顔が分からねぇくらい顔を歪ませてやろうぜ」

ヒソヒソ声が聞こえる。

前の言葉も腹が立つが最後の言葉だけは聞き逃せない。

顔を歪ませるだぁ?



「ふざけんじゃねええええええ!!!」



私は最後の言葉を言った男の顔に飛び蹴りをお見舞いしてやった。

もちろんただの力ずくの蹴りではない。魔法で人の何倍の膨れ上がった脚力で、である。

ぶっ飛んだ男の周りも十数人蹴り飛ばす。

顔を。

「顔ばっかり狙うなんて、人として良くできるね。俺には無理だよぉ」

目にも留まらない速さで次々と敵を蹴り飛ばしていく私にとくに驚いた様子を見せず変なところに感心しているあおくん。

「あおくんの顔が少しでも歪むくらいならここにいる凡人たちの顔をボコボコにしてやろうと思って」

「俺はたまに本当にちょっと果奈さんが怖いよぉ」

だってイケメンは国宝だからね?

国宝を壊したらそれ相当の罰が与えられて当然でしょ。

まぁ凡人の顔をいくら代償にしたってあおくんの顔には変えられないけど。

「ふざけやがって・・・っ!」

「!!」

男が草の魔法で襲い掛かってきた。

空中で蹴りの体制から切り替えようとしていた段階だったため避けられない。

せめて胸元で手をクロスにして衝撃を抑えようとした。

しかし

痛く・・・ない?

反射的に閉じていた目を開けると、薄い膜のようなものが周りを囲っていた。

キラキラと光を吸収していて綺麗だ。

「戦闘はできないけど、俺の魔法は結界を張ること。だから手助けは出来るよ」

「あおくんっ!」

どうやらあおくんが私の周りに結界を張ってくれている様だ。

だからさっきの魔法が当たらなかったのか。

「もう国民には絶対に当たらないように結界を張ったから安心して暴れてくれていいんだよぉ」

確かに遠巻きに見ていた国民の前にも結界らしき膜が張られている。

凡人の魔力だと結界なんて自分の周りに張るのでやっとだろう。

やはり幹部は伊達じゃない。

私も仕事をしないと。

魔法は嗅覚で避けて物理攻撃は迎え撃つか勘でよける。
何か武術でも学んでおけばよかったと歯を食い縛る。

結界も勿論どれだけダメージを食らっても影響がないわけではない。

一定以上のダメージを食らうと無くなるしあおくんにもダメージが数割いくらしい。

でも。

「あとどれくらい!?」

あおくんに向かって叫ぶ。

「あと・・・二十人くらいだよぉ!」

いける。

そう確信していた。あちらに人数で分があるにしても一人一人のレベルは低い。

「なんなんだあいつ・・・黒の国の幹部は男しかいなかっただろ!?」

ざわざわし始める。

向かってきていた男たちが後進していく。勿論逃がさないけど。

正直パンチはあまり好きじゃない。だから基本蹴りだ。

凡人の顔に触れたくないし。

私が敵を倒している間にあおくんが国民を避難させていく。

結界の魔法は戦闘で即戦力にならなくても少しの防御ミスはカバーできるので戦いやすいし、なにより総長を護るには最適の魔法だと感じる。

あと敵はもう少し。




「────ぇ」



小さく声が漏れる。

だって、もしかして

「増えてる・・・?」

敵が百人近くに増えていた。


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