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ポチマロ、転生

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 穴を掘るという行為に、これほどの悲しみを覚えたのは初めてだった。

 ポチマロは体が大きいから、穴の大きさも相当なものでなければいけない。

 僕はシャベルの金具部分を足で踏みつけ、先端を地面にめり込ませていく。

 穴を深く掘り進めていくたびに、ポチマロが死んだという事実が現実味を帯びていくようだった。

 ポチマロ。
 小学生の時に親父がもらってきた、僕の親友。最初は小さくて可愛かったポチマロも、ニ年も経つと、狭い家の中では飼えないくらいの大きさになった。

 僕はもともと友達が少なかったこともあって、放課後も休みの日も、いつもポチマロも遊んでいた。

 ポチマロは、いつも僕と共にいてくれた。
 お母さんが死んだ時も、親父がいなくなった時も、僕が働き始めた時も。

 そして今日、僕の20歳の誕生日。
 まるで役目を終えたように、ポチマロは静かに息を引き取った。

 深く掘った穴の中に、ポチマロをそっと横たわらせる。二度と開く事はない、ポチマロの目。まるで何かを訴えかけるように、口だけが開き、鋭い犬歯を覗かせていた。

 僕は何度かポチマロの体を撫でた。
 茶色と白のまだら模様が、僕の指先で少しだけ乱れた。

 ポチマロの上に、土をかぶせていく。
 戻した土の量は同じはずなのに、地面が少しだけ盛り上がっている。ポチマロの体が、埋まっているからだ。

 これ以上、ポチマロの「墓」を見ていられなくなった僕は、すぐに家の中へ戻ろうとした。

 その時、ポチマロの鳴き声が聞こえた気がした。
 「アウー」という、餌をねだる時の声だ。

 僕は慌てて振り返ると、盛り上がっている土が、崩れ始めていた。

 そして、土の山の頂点から。
 鳥のような、恐竜のような。
 そんな小さな動物の顔が、ひょっこりと現れた。

「アウー……ご主人様。ポチマロは、お腹が減りましたよ?」

 予想外に、高い声。
 そして、僕の手のひらに乗るくらいの、小さな「ドラゴン」が、土の中から這い出てきた。
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