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第28話 窮地
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戻った事務所のソファに、見慣れた男が座っていた。宝石商のゼイナードことゼードである。
「お前、どうして……祐希子! 逃げろ!」
すぐに助手を逃がそうとするも、歪みきった笑みを浮かべたゼードは瞬時に新たちの背後へ回り込んだ。
「どうして、か。理由は簡単だよ。そのクソッタレな銃で撃たれた直後、私は足元にある魔法陣に気づいた。まだ力が残っていてね。そこから魔界へ移動したのだよ。そう……移動しただけだ!」
突如としてゼードが髪の毛を振り乱した。頭を抱え、唸り出しそうなくらいに牙を剥いて激情の涎を垂れ流す。
「私は逃げたのではない! 妖魔貴族たる私が人間に背を見せるものかあァァァ!」
事務所全体を震わせるほどの怒声を発したあと、やや冷静になったのか再びゼードは口元を愉快そう歪めた。けれど印象は出会った当初と違う。どことなく狂ったような印象が付きまとっている。
「お見苦しいものを見せたね。それもこれもすべてお前のせいだ」
ゼードの目に危険な輝きが宿る。本能がすぐに逃げろと警告するも、唯一の脱出口は塞がれたままだ。
「魔界に戻るなり逃亡者扱いだよ、この私が!」
その時の状況を思い出しているのだろう。せっかく取り戻した冷静さを自ら放り捨てるように、端正な顔を歪める。
「舐めくさりやがって! 息子を配下に引き入れ、人間どもを殺させてやろうと画策したのが裏目に出たよ。笑える話だ」
「息子?」
「私は以前にも、この日本に一度召還されたことがある。その時はヤクザとかいう連中が取引を持ち掛けてきた。もちろん応じるふりをして遊んでから、殺そうと楽しんでいたんだが、退魔士の夫婦が現れた。夫は宝石銃を持ち、女は巫女の力を使えた。なかなかの実力者だったが、生憎と間抜けでね。私に殺されそうになっているヤクザを守ろうとしたのには笑ったよ。おかげでその退魔士夫婦に致命傷を与えられたがね」
心の中がザワつく。まさかという思いが、新の中でどす黒い怒りを渦巻かせる。理性では敵の挑発とわかっていても、どうしようもなかった。
「その夫婦の名前を特別に教えてやろう。男は進。女は美奈子。人間の姓は――錦鯉だ」
「このクソ野郎がァァァ!」
幼い日に両親の帰りを待ちわびて泣き暮らした日々。思い出される一つ一つが憎悪の炎となって、新の身を焦がす。
隣で息を飲む祐希子に構う余裕もなく、懐から取り出したジュエルガンに宝石をチャージする。
「怒ったか? だが私の怒りはそんなものではないぞ! まずは周囲の人間から殺し、絶望を味わわせてからお前は殺してやる」
「まさか、玲子さんは……」祐希子が声を震わせる。
「その通りだ、小娘。あの女は私が殺した。お前を呼び出せと言ったら、山の中へ連れて行かれてね。何をとち狂ったのか戦いを挑んできたのだよ。殺す様をお前に見せようとしたのだがな。私も腹が立っていたので、つい殺してしまったよ。犯して嬲って赤子のように泣き喚かせてから、内臓を食らってやったのだ。良い死に化粧だったろう?」
短く悲鳴を上げて後退りする祐希子を眺めながら、ゼードは舌なめずりをする。彼女にも玲子と同じ命運を辿らせるつもりなのだろう。
そうと知っても知らずとも、新がゼードを滅ぼすのは決定事項だ。この日のために探偵となり、妖魔と戦ってきたのだから。
「だったら貴様にも同じ死に化粧をさせてやるよ!」
「威勢だけは一人前だな。だが私とて同じ轍を踏むつもりはない。せっかくの堕石、今こそ使わせてもらうぞ。必要以上に力を強化し、上位者に睨まれるのは避けたかったが、お前を無残に殺すという目的は何より優先される」
玲子から受け取っていたと思われる淑女の涙を、ゼードは口の中に放り込んで飲み干した。
「くっはあァァァ! これが堕石の力か! 漲るっ! 漲ってくるぞォォォ!」
「そいつはよかったな!」
パワーアップするのを黙って待つ道理はない。初撃から眉間を狙って詰め込んだ宝石弾をぶちかます。今なら余計な風の防御もできないはずだ。
狙い通りに直撃すると思った瞬間、ゼードの肉体が変化した。ワンがゴブリンの正体を現した時同様に、内部から突き破るようにして新たな肉体を出現させたのである。
二メートルをゆうに超える肉体は筋骨隆々としていて、人間の姿だった頃とは別物だ。額から艶のある漆黒の角が円錐の形で生え、背には蝙蝠を連想させる巨大な翼が二枚ほど出てきた。へその下から下半身にかけては、真っ赤な毛が黒い肉体を覆う。毛は足の指どころか鋭く尖る爪の根元まで続いている。
口では人間でいうところの犬歯が、上下ともに伸びて牙になっていた。アレで噛めば人間の皮膚など容易く斬り裂ける。他の歯も頑丈そうで、骨を噛み砕けると言われても不思議に思わない。
上半身は炭を流し込んだような黒色。顔も同色で目だけが金色に光り輝く様は不気味のひと言で、耳も上方へ引っ張られるように尖り、指の爪は五本のナイフが存在しているに等しい。自身を貴族と称するに相応しい姿で、これまでに新が退治してきた妖魔とは何もかもが段違いだった。
せっかく放った宝石弾はゼードが巨大化したおかげで、眉間ではなく胸部へ命中した。しかも軽く揺らす程度で致命傷にはほど遠い。宝石箱の中に残っている弾では勝負にならないとわかっていても、新は撃たずにいられなかった。
「ちくしょうが! よくも親父を……お袋をォ! うらあァァァ!」
「クックック。堕石を飲んで力を増しただけでなく、真の姿を現した私に勝てると思ったのか。殺した女並みに愚かだな。おっと、そういえば伝えるのを忘れていた。あの女、無理やりだというのに途中から喜びの涙を流していたぞ。どうやら死んだ夫より、俺のがお気に入りだったようだ。フハーハッハッハ!」
人間だった頃と声色も変わっている。重低音が凄まじく、話しかけられるだけで腹の奥が震えそうだった。
「黙れェ! くそっ! さっさとチャージしやがれよ!」
適当に掴んだ宝石を詰め込み、発射する。二度、三度、四度。執拗に繰り返すが、ゼードは避けもしなかった。
「残念だが効かぬよ。人間相手に真の姿で戦うなど愚の骨頂だ。魔界に戻れば私はまた他の妖魔貴族に笑われるだろう。だがお前の断末魔の叫びを思い出すたび、癒されるはずだ。ククク、いかんな。お前は最後に殺すつもりだったのに、我慢ができなくなってきた。仕方ない、この場で殺してやろう」
「死ぬのはテメエだ!」
「無駄だと言ったろう!」
放出した宝石弾が、ゼードの吐いたブレスによって弾き飛ばされた。風の砲丸を吐き出したような衝撃が事務所内に発生する。内装はメチャクチャになり、新も祐希子も立っていられずに床へ倒れ込む。
「真の姿となったことで風の力も強化される。勝ち目などない。無謀にも過去の私の前に立ち塞がったお前の両親と同じくな!」
「うぐ……黙れ……俺は、両親の仇を……取る……」
だが次弾をチャージしようにも、宝石箱の中身は空だった。親の仇と対峙して自分を見失ってる間に使い切ってしまったのだ。
宝石がなければせっかくジュエルガンも持ち腐れである。何度もトリガーを引くが、チャージできてないのだから発射されるはずがなかった。
そうしている間にも巨体となったゼードが迫る。殺戮衝動に支配された金色の目が、新を射抜く。
「これで終わりだ。お前の首を持ちながら、私をコケにしてくれた他の連中も殺してやる。先に逝って、魔女の女共々眺めているがいい!」
「駄目ーっ!」
ひと足先に立ち上がった祐希子が、新の前に両手を広げて立つ。まるで自らの肉体を盾とするかのような行動だった。
「何をしている、お前はさっさと逃げろ」
「できるわけないだろ! アタシは助手なんだ! 新と一緒にいるんだ!」
泣き喚く祐希子を、面白そうにゼードが見下ろす。
「ならばお前から殺してやろう……とは言わん。ククク、どうやら後ろの男に好意を抱いているようだからな。愛する男を失って絶望する顔を眺めながら、肉体をたっぷりもてあそんでくれるわ!」
「俺のことはいいから逃げろ! 祐希子っ!」
「逃げるんなら二人一緒だよ。新がいないと嫌なんだよっ!」
「――グッ!?」
叫んだ祐希子の全身が黄金の光を纏う。寄り添う母の温もりにも似た安心感が新を包むが、ゼードにとっては違ったらしい。それまでの余裕が一変し、床に膝をついて悶えだした。
「その目障りな光をやめろおォォォ!」
「えっ? えっ?」
自分でも何をしているのかよくわかっていなかったらしく、祐希子が戸惑っていると徐々に光が薄れだした。
「なんだかよくわからんが、とにかくチャンスだ。逃げるぞ!」
両親の仇を討ちたいのはもちろんだが、その代わりに誰かを犠牲にするなんてごめんだ。おまけに宝石の尽きた新は丸腰も同然だった。
祐希子の手を握り、苦しんでいるゼードの横を通り抜けて事務所を出る。走り続けるうちに祐希子が纏っていた光が消えた。
「今のは……何? まさか……ううん、違うよね」
「何だ。あの奇妙な光に思い当たる節があんのか?」
「ええと……多分、気のせいだよ。役に立たなくてごめんね」
「何言ってやがるボケタワシ。お前のおかげでとりあえずは助かったんだよ!」
必死で逃げているせいで言葉が乱暴になってしまったが、祐希子はムッとするでもなく笑った。
「アハハ。久しぶりに聞いたよ、新のボケタワシ。最近出てなかったから、禁断症状になるところだったよ」
「ほっとけ」
言いつつ、新は頭をフル回転させる。日頃から妖魔だのに接しているおかげか、奇妙な力を発動した祐希子に驚きすぎず機転を利かせて事務所から脱出できたまでは上出来だ。
しかし目を眩ませる光が失われたのだから、すぐにでもゼードは追ってくる。諦めのいい相手であれば、わざわざ追い詰められた相手へ復讐しに戻ってきたりはしない。
「お前、どうして……祐希子! 逃げろ!」
すぐに助手を逃がそうとするも、歪みきった笑みを浮かべたゼードは瞬時に新たちの背後へ回り込んだ。
「どうして、か。理由は簡単だよ。そのクソッタレな銃で撃たれた直後、私は足元にある魔法陣に気づいた。まだ力が残っていてね。そこから魔界へ移動したのだよ。そう……移動しただけだ!」
突如としてゼードが髪の毛を振り乱した。頭を抱え、唸り出しそうなくらいに牙を剥いて激情の涎を垂れ流す。
「私は逃げたのではない! 妖魔貴族たる私が人間に背を見せるものかあァァァ!」
事務所全体を震わせるほどの怒声を発したあと、やや冷静になったのか再びゼードは口元を愉快そう歪めた。けれど印象は出会った当初と違う。どことなく狂ったような印象が付きまとっている。
「お見苦しいものを見せたね。それもこれもすべてお前のせいだ」
ゼードの目に危険な輝きが宿る。本能がすぐに逃げろと警告するも、唯一の脱出口は塞がれたままだ。
「魔界に戻るなり逃亡者扱いだよ、この私が!」
その時の状況を思い出しているのだろう。せっかく取り戻した冷静さを自ら放り捨てるように、端正な顔を歪める。
「舐めくさりやがって! 息子を配下に引き入れ、人間どもを殺させてやろうと画策したのが裏目に出たよ。笑える話だ」
「息子?」
「私は以前にも、この日本に一度召還されたことがある。その時はヤクザとかいう連中が取引を持ち掛けてきた。もちろん応じるふりをして遊んでから、殺そうと楽しんでいたんだが、退魔士の夫婦が現れた。夫は宝石銃を持ち、女は巫女の力を使えた。なかなかの実力者だったが、生憎と間抜けでね。私に殺されそうになっているヤクザを守ろうとしたのには笑ったよ。おかげでその退魔士夫婦に致命傷を与えられたがね」
心の中がザワつく。まさかという思いが、新の中でどす黒い怒りを渦巻かせる。理性では敵の挑発とわかっていても、どうしようもなかった。
「その夫婦の名前を特別に教えてやろう。男は進。女は美奈子。人間の姓は――錦鯉だ」
「このクソ野郎がァァァ!」
幼い日に両親の帰りを待ちわびて泣き暮らした日々。思い出される一つ一つが憎悪の炎となって、新の身を焦がす。
隣で息を飲む祐希子に構う余裕もなく、懐から取り出したジュエルガンに宝石をチャージする。
「怒ったか? だが私の怒りはそんなものではないぞ! まずは周囲の人間から殺し、絶望を味わわせてからお前は殺してやる」
「まさか、玲子さんは……」祐希子が声を震わせる。
「その通りだ、小娘。あの女は私が殺した。お前を呼び出せと言ったら、山の中へ連れて行かれてね。何をとち狂ったのか戦いを挑んできたのだよ。殺す様をお前に見せようとしたのだがな。私も腹が立っていたので、つい殺してしまったよ。犯して嬲って赤子のように泣き喚かせてから、内臓を食らってやったのだ。良い死に化粧だったろう?」
短く悲鳴を上げて後退りする祐希子を眺めながら、ゼードは舌なめずりをする。彼女にも玲子と同じ命運を辿らせるつもりなのだろう。
そうと知っても知らずとも、新がゼードを滅ぼすのは決定事項だ。この日のために探偵となり、妖魔と戦ってきたのだから。
「だったら貴様にも同じ死に化粧をさせてやるよ!」
「威勢だけは一人前だな。だが私とて同じ轍を踏むつもりはない。せっかくの堕石、今こそ使わせてもらうぞ。必要以上に力を強化し、上位者に睨まれるのは避けたかったが、お前を無残に殺すという目的は何より優先される」
玲子から受け取っていたと思われる淑女の涙を、ゼードは口の中に放り込んで飲み干した。
「くっはあァァァ! これが堕石の力か! 漲るっ! 漲ってくるぞォォォ!」
「そいつはよかったな!」
パワーアップするのを黙って待つ道理はない。初撃から眉間を狙って詰め込んだ宝石弾をぶちかます。今なら余計な風の防御もできないはずだ。
狙い通りに直撃すると思った瞬間、ゼードの肉体が変化した。ワンがゴブリンの正体を現した時同様に、内部から突き破るようにして新たな肉体を出現させたのである。
二メートルをゆうに超える肉体は筋骨隆々としていて、人間の姿だった頃とは別物だ。額から艶のある漆黒の角が円錐の形で生え、背には蝙蝠を連想させる巨大な翼が二枚ほど出てきた。へその下から下半身にかけては、真っ赤な毛が黒い肉体を覆う。毛は足の指どころか鋭く尖る爪の根元まで続いている。
口では人間でいうところの犬歯が、上下ともに伸びて牙になっていた。アレで噛めば人間の皮膚など容易く斬り裂ける。他の歯も頑丈そうで、骨を噛み砕けると言われても不思議に思わない。
上半身は炭を流し込んだような黒色。顔も同色で目だけが金色に光り輝く様は不気味のひと言で、耳も上方へ引っ張られるように尖り、指の爪は五本のナイフが存在しているに等しい。自身を貴族と称するに相応しい姿で、これまでに新が退治してきた妖魔とは何もかもが段違いだった。
せっかく放った宝石弾はゼードが巨大化したおかげで、眉間ではなく胸部へ命中した。しかも軽く揺らす程度で致命傷にはほど遠い。宝石箱の中に残っている弾では勝負にならないとわかっていても、新は撃たずにいられなかった。
「ちくしょうが! よくも親父を……お袋をォ! うらあァァァ!」
「クックック。堕石を飲んで力を増しただけでなく、真の姿を現した私に勝てると思ったのか。殺した女並みに愚かだな。おっと、そういえば伝えるのを忘れていた。あの女、無理やりだというのに途中から喜びの涙を流していたぞ。どうやら死んだ夫より、俺のがお気に入りだったようだ。フハーハッハッハ!」
人間だった頃と声色も変わっている。重低音が凄まじく、話しかけられるだけで腹の奥が震えそうだった。
「黙れェ! くそっ! さっさとチャージしやがれよ!」
適当に掴んだ宝石を詰め込み、発射する。二度、三度、四度。執拗に繰り返すが、ゼードは避けもしなかった。
「残念だが効かぬよ。人間相手に真の姿で戦うなど愚の骨頂だ。魔界に戻れば私はまた他の妖魔貴族に笑われるだろう。だがお前の断末魔の叫びを思い出すたび、癒されるはずだ。ククク、いかんな。お前は最後に殺すつもりだったのに、我慢ができなくなってきた。仕方ない、この場で殺してやろう」
「死ぬのはテメエだ!」
「無駄だと言ったろう!」
放出した宝石弾が、ゼードの吐いたブレスによって弾き飛ばされた。風の砲丸を吐き出したような衝撃が事務所内に発生する。内装はメチャクチャになり、新も祐希子も立っていられずに床へ倒れ込む。
「真の姿となったことで風の力も強化される。勝ち目などない。無謀にも過去の私の前に立ち塞がったお前の両親と同じくな!」
「うぐ……黙れ……俺は、両親の仇を……取る……」
だが次弾をチャージしようにも、宝石箱の中身は空だった。親の仇と対峙して自分を見失ってる間に使い切ってしまったのだ。
宝石がなければせっかくジュエルガンも持ち腐れである。何度もトリガーを引くが、チャージできてないのだから発射されるはずがなかった。
そうしている間にも巨体となったゼードが迫る。殺戮衝動に支配された金色の目が、新を射抜く。
「これで終わりだ。お前の首を持ちながら、私をコケにしてくれた他の連中も殺してやる。先に逝って、魔女の女共々眺めているがいい!」
「駄目ーっ!」
ひと足先に立ち上がった祐希子が、新の前に両手を広げて立つ。まるで自らの肉体を盾とするかのような行動だった。
「何をしている、お前はさっさと逃げろ」
「できるわけないだろ! アタシは助手なんだ! 新と一緒にいるんだ!」
泣き喚く祐希子を、面白そうにゼードが見下ろす。
「ならばお前から殺してやろう……とは言わん。ククク、どうやら後ろの男に好意を抱いているようだからな。愛する男を失って絶望する顔を眺めながら、肉体をたっぷりもてあそんでくれるわ!」
「俺のことはいいから逃げろ! 祐希子っ!」
「逃げるんなら二人一緒だよ。新がいないと嫌なんだよっ!」
「――グッ!?」
叫んだ祐希子の全身が黄金の光を纏う。寄り添う母の温もりにも似た安心感が新を包むが、ゼードにとっては違ったらしい。それまでの余裕が一変し、床に膝をついて悶えだした。
「その目障りな光をやめろおォォォ!」
「えっ? えっ?」
自分でも何をしているのかよくわかっていなかったらしく、祐希子が戸惑っていると徐々に光が薄れだした。
「なんだかよくわからんが、とにかくチャンスだ。逃げるぞ!」
両親の仇を討ちたいのはもちろんだが、その代わりに誰かを犠牲にするなんてごめんだ。おまけに宝石の尽きた新は丸腰も同然だった。
祐希子の手を握り、苦しんでいるゼードの横を通り抜けて事務所を出る。走り続けるうちに祐希子が纏っていた光が消えた。
「今のは……何? まさか……ううん、違うよね」
「何だ。あの奇妙な光に思い当たる節があんのか?」
「ええと……多分、気のせいだよ。役に立たなくてごめんね」
「何言ってやがるボケタワシ。お前のおかげでとりあえずは助かったんだよ!」
必死で逃げているせいで言葉が乱暴になってしまったが、祐希子はムッとするでもなく笑った。
「アハハ。久しぶりに聞いたよ、新のボケタワシ。最近出てなかったから、禁断症状になるところだったよ」
「ほっとけ」
言いつつ、新は頭をフル回転させる。日頃から妖魔だのに接しているおかげか、奇妙な力を発動した祐希子に驚きすぎず機転を利かせて事務所から脱出できたまでは上出来だ。
しかし目を眩ませる光が失われたのだから、すぐにでもゼードは追ってくる。諦めのいい相手であれば、わざわざ追い詰められた相手へ復讐しに戻ってきたりはしない。
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