異世界作者~ワナビがペンの力で生き抜きます!~

桐条京介

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第3話 くっ、殺せ!

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「言ったでしょ。お金がないなら、別の対価を貰うってね」

 微かに頬が赤らむと、少女の愛らしい顔は途端に妖艶さを増した。

(か、体で払えってことか!? ラノベ的異世界かと思ってたら、まさかの成人向けだったとは!)

「な、なんて卑劣な女だ。くっ、殺せ!」

「……手際よく脱いでるくせに、何言ってんのよ」

「と、ところで、そ、その、こ、これも……脱ぐんだよな」

 トランクスのゴムに指をかけながら尋ねると、アーシャは恥ずかしそうに目を逸らした。

「脱がないと始まらないでしょ」

「だ、だよな。よ、よし」

 そろそろと隠れるようにパンツを脱ぎ、両手で息子を隠しつつドギマギと少女を見る。

「次はそこで横になって……目を閉じて。アタシを……軽蔑しないでね」

 艶っぽい声に耳孔を擽られ、無節操な元気に包まれそうになる。

 言う通りにして目を閉じる。心臓の音が煩いくらいに頭の奥まで叩く。

(異世界で大人になるなんて、まさしく王道の展開。ああ、生きてて良かった!)

 そわそわして待つこと少し。唐突にギイとドアの開く音がした。

「え……? あっ、ああ――ッ!」

 カケルは慌てて上半身を起こす。

 今まさに部屋を出ようとしていたアーシャは、悪びれもせずに満開の笑みを咲かせる。

「アタシを軽蔑しないでねーっ!」

「待てッ! オイッ、俺の服、返せえぇぇぇ!」

 股間を両手で隠したまま、慌てて後を追う。リビングで紅茶を嗜んでいた老婆が、あらあらと近くにあったタオルを渡してくれた。

「身包み剥ぐか、普通! お前が盗賊じゃねえか!」

「失礼ね! 連中はただ奪うだけじゃない! アタシはちゃんとそれなりのものを与えたわ。それに、アンタだって最後まで拒否しなかったじゃない!」

「ふざけんな! 思わせぶりな態度と台詞で騙しやがったくせに!」

「人聞きの悪いことを言わないで! あれは商人の交渉術よ。そもそも、アンタに下心なんてなければ、こんな事態にはなってないでしょ」

「ぐ……! そりゃそうだけど、大体、俺の服をどうするつもりなんだよ」

 腰にタオルを巻いた格好で指差すカケルを前に、アーシャはいけしゃあしゃあと言う。

「売るのよ。素材も模様も珍しいし」

 どうあってもアーシャは服を持っていくつもりのようで、老婆の説得も聞き入れようとしない。こうなれば、カケルの取るべき手段は一つしかなかった。

「あくまで俺の服が目的なんだな」

 もちろんと頷く彼女に、言質を取ったとカケルは口角を上げる。

「なら、こいつはいらないな」

 アーシャが持っていたズボンのポケットに手を突っ込み、スマホを回収する。

 もしかしたら、急にどこかで電波が入るかもしれない。それでなくとも、ここが地球よりも文明に劣る異世界なら、かなり高く売れるはずだ。

「あっ、何よ、それ」

「スマホって言うんだが、お前には扱えない代物だ」

「……商人であるアタシへの挑戦状ってわけね」

「こら、無理矢理奪い取ろうとすんな。お前の目的は服だけなんだろ」

「服の中に入ってたんなら、それも服の一部よ! よこしなさい!」

「こればっかりは無理だ。こいつを奪われちまうと、故郷と俺を繋ぐものが何もなくなっちまう」

 カケルがそう言うと、アーシャはすぐに騒ぎ立てるのを止めた。

「……特別に勘弁してあげるわ。まんまとアンタに乗せられて、服ばかりに気を取られたアタシにも落ち度はあるし」

「守銭奴の目にも涙か」

「よく意味がわからないけど、泣けばそれをくれるんならそうするわよ? 演技でも、下心全開のスケベ男には見抜けないでしょうし」

「それを言われると返す言葉がねえよ、こんちくしょう」

 悪態をつきつつも、カケルはスマホだけでも守れたことに安堵した。

     ※

「聞いたわよ。農作業がてんで駄目で、子供たちに笑われたらしいわね」

 カケルが名もなき村に住み着いておよそ十日。

 お世話になっている老婆と引き合わせたアーシャが、村に戻ってくるなり遠慮のない発言をぶちかました。

「仕方ないだろ、やったことなかったし」

 鍬も斧も禄に扱えず、期待されたのは初日だけで、あとはすぐに戦力外となった。

 だが優しい村人はカケルを追い出したりせず、奇妙と感じるだろう質問にも丁寧に答えてくれた。

 例えばこの世界に魔物などおらず、存在する動物や食べ物は、大抵が名称だけでなく、外見や特徴もカケルの知識と一緒だったのでかなり驚いた。

「村に馴染んでるようでホッとしたわ。子供たちにも好かれてるみたいだし」

 チラリと周囲を見渡せば、話が一段落するのを待っている子供たちがうようよいた。

 大人と違って午前中で農作業を免除されるため、昼下がりの今は遊び時間となる。

 駆け寄ってきた子供たちの頭を、アーシャが楽しそうに撫でる。

「そうしてると優しいお姉さんみたいだな。とても男のパンツまで剥ぎ取っていく極悪商人だとは思えないぞ」

「あっきれた。まだそんなこと言ってんの? むしろ損したのはアタシなんだけど! あの服、二束三文にしかなんなかったのよ! 責任とって他にも何かよこしなさいよ!」

「もう何も残ってないし、お前の見込み違いの結果なんぞ知るか」

「本当に? 本当に何もないの?」

 しつこいくらいに食い下がる女商人に、カケルは疑惑の視線を送る。

「……俺の服が二束三文でしか売れなかったのに、どうして他のを欲しがるんだ?」

「親切心よ」

「帰れ」

 一刀両断すると、アーシャがわざとらしく泣き真似を始めた。

「酷い。アタシは単純にカケルを心配してるのに……」

「下手な演技してないで、正直に白状しろよ。二束三文どころか、かなりの高値で売れたんだろ? そうじゃなきゃ、こんなに早く戻って来ないだろ」

「失礼ね。アタシは頻繁にこの村に行商に来てるの。アンタのことはついでよついで」

「普段は二ヵ月に一度来るかどうかだそうだな」

「気をつけなさい、カケル。この村には裏切り者が潜んでるわ!」

「俺にとっては味方だけどな!」

     ※

「……望み薄だとわかってはいたけど、やっぱりそれは駄目なのね」

 物欲しそうな目のアーシャが狙っていたのは、やはりカケルのスマホだった。

 問答無用で奪い取らないあたり、根っからの悪人ではないのかもしれないが、さすがに渡せない。

「それにしても、服一式が金貨二十枚とは凄いわねぇ」

 村の広場から帰ってきたのを、快く迎え入れてくれた老婆が紅茶を運んでくれる。

「こっちじゃ見ない生地らしくてね。判定をしたのは王都でも一流の仕立屋だから、間違いないわ。特に細工に目を輝かせてたわね。今頃はどうにかものにできないか、躍起になってるかもね」

 カケルが老婆に貰った服は麻製で、サイズの違いは紐で調整する。

 これは村人たちのも同じだ。ボタンすら見かけていない現状で、チャックなんてものが登場したら、服飾業界に衝撃が走るのは当然だった。

「で、服を買った貴族が他に何かないかって騒いでんのよ」

「スマホは売らないぞ」

「はいはい。けどさ、それって結局、何に使うわけ?」

「遠くの人間と会話したり、あとは写真を撮ったり。音楽を聴いたりする」

「……ごめん。何を言ってるのか、よくわかんないわ」

 百聞は一見に如かずと、保存していた音楽を鳴らす。何の変哲もないJーPOPだったのだが、聞くなりアーシャと老婆は目を丸くした。

「う、嘘……アタシをからかってたんじゃなかったの!?」

 アーシャがひっくり返りそうなくらい仰天する。

「なら、今度は遠くの人間と会話してみてよ!」

「電波が届いてない。通話は無理だ」

「デンパ?」

「動作に必要なものだ。車にとってのエンジン……って言っても通じないか」

 きょとんとするアーシャの前で、どうしたものかとカケルは腕を組む。

「車というのは、カケルちゃんの国の馬車のようなものなのよね」

 それまで黙っていた老婆が、穏やかな微笑みを浮かべながら言った。

「えっ? どうして知ってるの?」

「カケルちゃんが子供たちにしてるお話を、よく横で聞いてるもの。車輪が四つある大きな箱が、人を乗せて自動的に走るのよ。だから自動車と言うのよね」

 確認を求められたカケルは頷く。

「大体合ってます。馬の代わりに機械を使いますけどね。もっとも、この国にはまだそうした技術がないので信じられないでしょうけど」

「そんなことはないわ。夢があって面白いもの。子供たちが喜ぶはずよね」

 子供たちが聞いた話を親に教えるので、最近では一部から夢想家なんて呼ばれ方もしているが、大人が素直に信じられる内容でもないため、あえて否定せずにいる。

「子供たちに読み書きも教えてくれるから、大人にも人気なのよ」

「むしろそんなことくらいでしかお役に立てず、申し訳ないです」
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