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初デートで発覚するアレコレ
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***
「なっ……なんで?」
私は今、客室に連れ込まれている。
流れとしては、一旦諦めたように見せた高輪さんに騙された形だ。送ると言ってエレベーターに乗ったから地下に駐車場があるのかなと思ったのだ。その時急に、目の近くに糸くずがついてると言われて目を閉じさせられたのだが、あの時にもっと怪しむべきだった。
あれは階表示に私が気が付かないようにしていたに違いない。大体、このホテルには食事に来たのであって部屋を取ってあるなんて聞いてない。一泊二十万するって話なのにまさか、いや、今は金額は関係ない。
「だって七緒さん、あのまま帰したら今よりずっと殻に閉じこもってガードがちがちになりそうだし」
「さ、最初から、そのつもりで」
「そんなわけないからね。食事したら帰すつもりだったよ。余計な心配をせずに食事を楽しんでほしかったから、ここに泊まることは言ってなかっただけで。一体七緒さんの中で俺はどんな人物像に出来上がってきてるのかな」
早口で一気にそこまで言った高輪さんは、にこにこ笑いながら近づいてくる。
こわいこわいこわい。笑ってるけどこわい。
「送るって言ったのに!」
「すぐにとは言ってない。送るよ、ちゃんと話がおわったら」
「詐欺の手口……!」
愕然としていると、彼は私の言い様がツボに入ったのか小さく吹き出した。
「詐欺ほどひどい手段を取ったつもりはないけど」
近づかれては一歩離れ、を壁に沿って続けて一定の距離は保っているものの、そんなもの彼が本気を出せば瞬時に縮まるのはわかりきっている。
だから彼は余裕で笑っているのだ。
「やっぱり素の方がおもしろかわいい」
「おもしろかわいい」
「七緒さんはかわいいなって」
今、失礼な形容詞がついてたの、絶対聞き間違いじゃない。
ぎゅっとバッグを胸元で抱きしめて彼を睨みつける。そうしていると、私は至って本気で警戒しているとわかったのか彼は苦笑した。
かと思ったら、急に距離が近づいて息を呑む。驚いて声も出す暇がないまま、気が付いたら手首を掴まれ引き寄せられていた。
「ひゃっ……!」
やっとそんな悲鳴らしい声が出たのは、部屋の中央にあるソファに無理やり座らされた後だった。あっという間の出来事だ。引っ張られて、くるっと身体を回転させられて、足がもつれたと思ったらぼふっとお尻がソファに着地。
「……」
しばらく瞬きをしていた。
我に返って慌てて立ち上がろうとしたけど、目の前に立つ彼に両肩を抑えられて敵わない。背中がソファの背もたれに当たると、ぽんぽんと肩を叩かれた。
「そんなに警戒されるほど一体何を言われたのか聞いてもいい?」
「な、なんのことですか」
「食事の時の女性。七緒さんの後ろで、化粧室から出てきたのが見えたから中で鉢合わせたのかと思って」
なるほど。彼が、ロビーですぐ私の様子に気が付いたのは、それもあったらしい。
どうしたって敵わないとわからされて、何より今すぐにどうこうされるような雰囲気ではなさそうだ。とにかく彼は、話をしたいらしい。
観念するほかなく、ふっとため息を吐いて背もたれに身体を預けた。
「……あの女性、どういうお知り合いなんですか?」
当然聞かれる内容だろうと、彼もわかってはいたんだろう。狼狽えた様子はない。だけど、代わりに小さく唸ってから苦笑いをして、私が呆気にとられるようなことを言った。
「……実は、覚えてない」
「え」
「顔は見たことあるような気がしない、でもないんだけど」
ぽかん、と数秒彼を見て、それから声を上げた。
「だって、久しぶり、みたいなことを言ったじゃないですか!」
「何年ぶりかな、だよ。ここ数年はプライベートで会うような女いなかったし、仕事関係なら忘れない。適当に合わせてみたら正解だっただけ。たまにいるんだよ、大学で同じ講義受けてたとか、食事したとかそのくらいで友達面で寄ってくるのが。向こうもこっちがうろ覚えなのわかってて話しかけてるから、ああいう手合いのは会社を通してもらうことにしてる」
「過去の女性だったとしたら覚えてないと?」
「いや、さすがに付き合った女性くらいは覚えてるけど……多分」
「多分」
俄かに、彼女の言葉に真実味が出てきてしまった……。
しかも、彼の言葉遣いが急に粗野になったような感じがした。多分、取り繕うのを辞めたのだ。これまで終始私に気遣い紳士的な態度だった彼が、どさりと私の真横に座る。瞬時にソファの端まで寄って距離を取った私に構うことなく、ネクタイの結び目を片手で緩めた。
それから、綺麗にセットされていた髪をガシガシと掻き崩しながら笑った。
「七緒さんの、それは癖?」
「え?」
「気になった言葉オウム返しにするの。かわいい」
こんな状況で、警戒は間違いなくしているのに。
いつもと雰囲気の違う仕草で、そんな言葉を言われただけで、迂闊にも心臓がやられてしまうかと思った。だって、もとから彼は大人の男性で綺麗で、それなのに今は壮絶な色気まで放って見える。
落ち着かない鼓動を誤魔化すみたいに、わざわざ聞くのは止めようと思っていたことを言ってしまった。
「あの人が、言ってました。昔は来る者拒まずで……って」
この変わり身を見ていると、本当のことであってもおかしくない。しかしこの言葉にも、彼はなんてことないように笑った。
「誰にだって、過去はあると思うけど。君にだってあるように」
その言葉に、ぴしりと私の表情は固まる。
私にとって一年前のことは、確かにもう思い出したくない過去だった。触れられるのが嫌というより、それによって思い出してしまうことが嫌だった。
「なっ……なんで?」
私は今、客室に連れ込まれている。
流れとしては、一旦諦めたように見せた高輪さんに騙された形だ。送ると言ってエレベーターに乗ったから地下に駐車場があるのかなと思ったのだ。その時急に、目の近くに糸くずがついてると言われて目を閉じさせられたのだが、あの時にもっと怪しむべきだった。
あれは階表示に私が気が付かないようにしていたに違いない。大体、このホテルには食事に来たのであって部屋を取ってあるなんて聞いてない。一泊二十万するって話なのにまさか、いや、今は金額は関係ない。
「だって七緒さん、あのまま帰したら今よりずっと殻に閉じこもってガードがちがちになりそうだし」
「さ、最初から、そのつもりで」
「そんなわけないからね。食事したら帰すつもりだったよ。余計な心配をせずに食事を楽しんでほしかったから、ここに泊まることは言ってなかっただけで。一体七緒さんの中で俺はどんな人物像に出来上がってきてるのかな」
早口で一気にそこまで言った高輪さんは、にこにこ笑いながら近づいてくる。
こわいこわいこわい。笑ってるけどこわい。
「送るって言ったのに!」
「すぐにとは言ってない。送るよ、ちゃんと話がおわったら」
「詐欺の手口……!」
愕然としていると、彼は私の言い様がツボに入ったのか小さく吹き出した。
「詐欺ほどひどい手段を取ったつもりはないけど」
近づかれては一歩離れ、を壁に沿って続けて一定の距離は保っているものの、そんなもの彼が本気を出せば瞬時に縮まるのはわかりきっている。
だから彼は余裕で笑っているのだ。
「やっぱり素の方がおもしろかわいい」
「おもしろかわいい」
「七緒さんはかわいいなって」
今、失礼な形容詞がついてたの、絶対聞き間違いじゃない。
ぎゅっとバッグを胸元で抱きしめて彼を睨みつける。そうしていると、私は至って本気で警戒しているとわかったのか彼は苦笑した。
かと思ったら、急に距離が近づいて息を呑む。驚いて声も出す暇がないまま、気が付いたら手首を掴まれ引き寄せられていた。
「ひゃっ……!」
やっとそんな悲鳴らしい声が出たのは、部屋の中央にあるソファに無理やり座らされた後だった。あっという間の出来事だ。引っ張られて、くるっと身体を回転させられて、足がもつれたと思ったらぼふっとお尻がソファに着地。
「……」
しばらく瞬きをしていた。
我に返って慌てて立ち上がろうとしたけど、目の前に立つ彼に両肩を抑えられて敵わない。背中がソファの背もたれに当たると、ぽんぽんと肩を叩かれた。
「そんなに警戒されるほど一体何を言われたのか聞いてもいい?」
「な、なんのことですか」
「食事の時の女性。七緒さんの後ろで、化粧室から出てきたのが見えたから中で鉢合わせたのかと思って」
なるほど。彼が、ロビーですぐ私の様子に気が付いたのは、それもあったらしい。
どうしたって敵わないとわからされて、何より今すぐにどうこうされるような雰囲気ではなさそうだ。とにかく彼は、話をしたいらしい。
観念するほかなく、ふっとため息を吐いて背もたれに身体を預けた。
「……あの女性、どういうお知り合いなんですか?」
当然聞かれる内容だろうと、彼もわかってはいたんだろう。狼狽えた様子はない。だけど、代わりに小さく唸ってから苦笑いをして、私が呆気にとられるようなことを言った。
「……実は、覚えてない」
「え」
「顔は見たことあるような気がしない、でもないんだけど」
ぽかん、と数秒彼を見て、それから声を上げた。
「だって、久しぶり、みたいなことを言ったじゃないですか!」
「何年ぶりかな、だよ。ここ数年はプライベートで会うような女いなかったし、仕事関係なら忘れない。適当に合わせてみたら正解だっただけ。たまにいるんだよ、大学で同じ講義受けてたとか、食事したとかそのくらいで友達面で寄ってくるのが。向こうもこっちがうろ覚えなのわかってて話しかけてるから、ああいう手合いのは会社を通してもらうことにしてる」
「過去の女性だったとしたら覚えてないと?」
「いや、さすがに付き合った女性くらいは覚えてるけど……多分」
「多分」
俄かに、彼女の言葉に真実味が出てきてしまった……。
しかも、彼の言葉遣いが急に粗野になったような感じがした。多分、取り繕うのを辞めたのだ。これまで終始私に気遣い紳士的な態度だった彼が、どさりと私の真横に座る。瞬時にソファの端まで寄って距離を取った私に構うことなく、ネクタイの結び目を片手で緩めた。
それから、綺麗にセットされていた髪をガシガシと掻き崩しながら笑った。
「七緒さんの、それは癖?」
「え?」
「気になった言葉オウム返しにするの。かわいい」
こんな状況で、警戒は間違いなくしているのに。
いつもと雰囲気の違う仕草で、そんな言葉を言われただけで、迂闊にも心臓がやられてしまうかと思った。だって、もとから彼は大人の男性で綺麗で、それなのに今は壮絶な色気まで放って見える。
落ち着かない鼓動を誤魔化すみたいに、わざわざ聞くのは止めようと思っていたことを言ってしまった。
「あの人が、言ってました。昔は来る者拒まずで……って」
この変わり身を見ていると、本当のことであってもおかしくない。しかしこの言葉にも、彼はなんてことないように笑った。
「誰にだって、過去はあると思うけど。君にだってあるように」
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