18 / 33
初デートで発覚するアレコレ
2-8
しおりを挟む
お見合い結婚なら、と安易に思った自分を殴りたい。自分がここまで男性不信になっているなんて、思わなかったのだ。
自覚してしまったなら、事業に必要な婚姻関係だということを気持ちの上ではっきりさせておいた方が、心の平穏に繋がる。
「結婚がどうしても必要なら、契約書を作るのはどうですか」
「契約?」
「契約結婚という形で、必要がなくなったら離婚するという内容で契約書を作っておきたいんです」
高輪さんにとっては、突拍子もないことだと思う。だけど、彼にとってもそれほど悪い話ではないはずだ。関西圏の不動産を取り扱う事業を始めるためと聞いているが、その為に私と一生連れ添わなくても、ちゃんと自分で選んだお似合いの人と結婚できる日が来る。
めんどうなのは父だが、事後まで知らせなければどうすることもできない。
高輪さんは目を見開いたまま何も言わないが、きっとすぐに悪くない話だと気付くはずだ。少し緊張しながら彼の反応を待っていると、しばらくして小さくうんうんと頷くような仕草を見せる。驚いていただけではなく、じっくりと思案していたらしい。
そうして、すぐ。
「いいよ。契約書を作ろう」
しごくあっさりとそう言った。
今度は私が驚いて、瞬きを繰り返す。断られないだろうとは思っていたけど、嫌な顔くらいはされてもおかしくない。彼は向き合おうとしてくれていたのは伝わっているから、これはとても失礼な提案だ。
「いいんですか?」
「いいよ。契約書を作っておくことは最近はよくあるし」
えっ、そういうもの?
なんと、知らない間に世の中の結婚観は、私の知るものよりドライになってきているようだ。
「契約というからには、条件があるってことだ。ちょっと七緒さんの希望をまとめよう」
彼はそう言いながら一度立ち上がり、スーツの上着を脱いでからポケットのスマホを取りだす。上着をぽいっと向かいのソファに投げると、また私の隣に腰を下ろした。
「希望、ですか」
私としては、期間を決めたいという単純なものだったのだが。
「その、たとえば二年とか三年とか、期間を決めておきたくて」
「それはちょっと無理だな」
スマホを弄りながら、今度はきっぱりダメだと言われた。
「どうしてですか。さっきはいいって」
「必要がなくなれば、離婚しても構わない」
私は、首を傾げながら眉を寄せた。
だから、必要がなくなるのに大体二年か三年くらいだと思ったのに?
「足りない、ということですか?」
だとしたら、五年か。五年仮面夫婦というのも疲れそうだが、頃合いを見て別居して、それから必要なくなった時に離婚という流れなら自然で良いかもしれない。
しかし、ただ短いから、というわけではないらしい。
「足りないというより、目処が立たないものだし。そういうのは」
「……そうですか?」
そうなのだろうか。
彼なら、各事業の進捗くらい年単位で予測できそうだと思ったが、私の考え方が甘いらしい。
「期間で決めるより、君に他に好きな相手ができたら離婚。それがわかりやすくていい」
「ええっ? 私に?」
なんだか話の論点がズレてない?
「じゃあそこは平等に、お互いに好きな相手ができたらということで」
彼が、スマホにさくさくと入力していく。後で書類にするために、メモ機能で書き留めておくつもりらしい。
それではすぐに出来てしまった場合は? 仕事の方は困らないのだろうか。
気になったが、よく考えてみれば、私は恋愛すら難しいと思って見合いをした結果がこの状況だ。そう短期間にそんな相手ができるはずがない。彼の方はわからないけれど、問題になるのは彼の事業なのだしそこは自己責任でなんとかしてもらおう。
「じゃあ……それで」
同意して頷くと、期間に関してはそれで決定となった。
「他には?」
「えっと、そうですね、いえ……今のところは」
とにかく期限付きの関係にしておこうという私の希望は叶えられたわけで、急には思い浮かばない。すると、彼の方から次々提案があった。
「そう? 家事の負担割合とか、よくある内容らしいけど」
「えっ! 高輪さん家事するんですか!?」
「……掃除は苦手かな」
「ああ……」
なんとなく。生活感のない生活をしてそうな印象ではあるので、驚きはない。
「料理は、得意でもないけどできないこともない」
「私も特に上手ではないけど、できます。調理師みたいなクオリティを求められると困りますが」
「普通でいいよ。普通の家庭料理で。じゃあ、休日は俺担当で」
「いえいえ、基本は私で大丈夫です。私は当面仕事ないですし。出かける時とか体調悪い時だけ許してもらえたら」
「それは当たり前。じゃあ、家事に関しては臨機応変で……契約に入れる程でもないか」
っていうか家事をするつもりでいるという考え方にびっくりした。亭主関白の見本みたいな父親と比べてはいけないことはわかっているが。
「じゃあ、休日の過ごし方?」
「えっ?」
思いがけず高輪さん主導で、さくさくと案が出されていく。私は自分が提案しておきながら、高輪さんのペースにすっかり引き込まれてしまった。
だって、家事の割合って。
そういうことを決める契約のつもりじゃなかった私が混乱しているうちに、彼のスマホのメモは埋まっていった。
自覚してしまったなら、事業に必要な婚姻関係だということを気持ちの上ではっきりさせておいた方が、心の平穏に繋がる。
「結婚がどうしても必要なら、契約書を作るのはどうですか」
「契約?」
「契約結婚という形で、必要がなくなったら離婚するという内容で契約書を作っておきたいんです」
高輪さんにとっては、突拍子もないことだと思う。だけど、彼にとってもそれほど悪い話ではないはずだ。関西圏の不動産を取り扱う事業を始めるためと聞いているが、その為に私と一生連れ添わなくても、ちゃんと自分で選んだお似合いの人と結婚できる日が来る。
めんどうなのは父だが、事後まで知らせなければどうすることもできない。
高輪さんは目を見開いたまま何も言わないが、きっとすぐに悪くない話だと気付くはずだ。少し緊張しながら彼の反応を待っていると、しばらくして小さくうんうんと頷くような仕草を見せる。驚いていただけではなく、じっくりと思案していたらしい。
そうして、すぐ。
「いいよ。契約書を作ろう」
しごくあっさりとそう言った。
今度は私が驚いて、瞬きを繰り返す。断られないだろうとは思っていたけど、嫌な顔くらいはされてもおかしくない。彼は向き合おうとしてくれていたのは伝わっているから、これはとても失礼な提案だ。
「いいんですか?」
「いいよ。契約書を作っておくことは最近はよくあるし」
えっ、そういうもの?
なんと、知らない間に世の中の結婚観は、私の知るものよりドライになってきているようだ。
「契約というからには、条件があるってことだ。ちょっと七緒さんの希望をまとめよう」
彼はそう言いながら一度立ち上がり、スーツの上着を脱いでからポケットのスマホを取りだす。上着をぽいっと向かいのソファに投げると、また私の隣に腰を下ろした。
「希望、ですか」
私としては、期間を決めたいという単純なものだったのだが。
「その、たとえば二年とか三年とか、期間を決めておきたくて」
「それはちょっと無理だな」
スマホを弄りながら、今度はきっぱりダメだと言われた。
「どうしてですか。さっきはいいって」
「必要がなくなれば、離婚しても構わない」
私は、首を傾げながら眉を寄せた。
だから、必要がなくなるのに大体二年か三年くらいだと思ったのに?
「足りない、ということですか?」
だとしたら、五年か。五年仮面夫婦というのも疲れそうだが、頃合いを見て別居して、それから必要なくなった時に離婚という流れなら自然で良いかもしれない。
しかし、ただ短いから、というわけではないらしい。
「足りないというより、目処が立たないものだし。そういうのは」
「……そうですか?」
そうなのだろうか。
彼なら、各事業の進捗くらい年単位で予測できそうだと思ったが、私の考え方が甘いらしい。
「期間で決めるより、君に他に好きな相手ができたら離婚。それがわかりやすくていい」
「ええっ? 私に?」
なんだか話の論点がズレてない?
「じゃあそこは平等に、お互いに好きな相手ができたらということで」
彼が、スマホにさくさくと入力していく。後で書類にするために、メモ機能で書き留めておくつもりらしい。
それではすぐに出来てしまった場合は? 仕事の方は困らないのだろうか。
気になったが、よく考えてみれば、私は恋愛すら難しいと思って見合いをした結果がこの状況だ。そう短期間にそんな相手ができるはずがない。彼の方はわからないけれど、問題になるのは彼の事業なのだしそこは自己責任でなんとかしてもらおう。
「じゃあ……それで」
同意して頷くと、期間に関してはそれで決定となった。
「他には?」
「えっと、そうですね、いえ……今のところは」
とにかく期限付きの関係にしておこうという私の希望は叶えられたわけで、急には思い浮かばない。すると、彼の方から次々提案があった。
「そう? 家事の負担割合とか、よくある内容らしいけど」
「えっ! 高輪さん家事するんですか!?」
「……掃除は苦手かな」
「ああ……」
なんとなく。生活感のない生活をしてそうな印象ではあるので、驚きはない。
「料理は、得意でもないけどできないこともない」
「私も特に上手ではないけど、できます。調理師みたいなクオリティを求められると困りますが」
「普通でいいよ。普通の家庭料理で。じゃあ、休日は俺担当で」
「いえいえ、基本は私で大丈夫です。私は当面仕事ないですし。出かける時とか体調悪い時だけ許してもらえたら」
「それは当たり前。じゃあ、家事に関しては臨機応変で……契約に入れる程でもないか」
っていうか家事をするつもりでいるという考え方にびっくりした。亭主関白の見本みたいな父親と比べてはいけないことはわかっているが。
「じゃあ、休日の過ごし方?」
「えっ?」
思いがけず高輪さん主導で、さくさくと案が出されていく。私は自分が提案しておきながら、高輪さんのペースにすっかり引き込まれてしまった。
だって、家事の割合って。
そういうことを決める契約のつもりじゃなかった私が混乱しているうちに、彼のスマホのメモは埋まっていった。
30
あなたにおすすめの小説
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる