正しい契約結婚の進め方

砂原雑音

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初デートで発覚するアレコレ

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 お見合い結婚なら、と安易に思った自分を殴りたい。自分がここまで男性不信になっているなんて、思わなかったのだ。

 自覚してしまったなら、事業に必要な婚姻関係だということを気持ちの上ではっきりさせておいた方が、心の平穏に繋がる。


「結婚がどうしても必要なら、契約書を作るのはどうですか」
「契約?」
「契約結婚という形で、必要がなくなったら離婚するという内容で契約書を作っておきたいんです」


 高輪さんにとっては、突拍子もないことだと思う。だけど、彼にとってもそれほど悪い話ではないはずだ。関西圏の不動産を取り扱う事業を始めるためと聞いているが、その為に私と一生連れ添わなくても、ちゃんと自分で選んだお似合いの人と結婚できる日が来る。
 めんどうなのは父だが、事後まで知らせなければどうすることもできない。

 高輪さんは目を見開いたまま何も言わないが、きっとすぐに悪くない話だと気付くはずだ。少し緊張しながら彼の反応を待っていると、しばらくして小さくうんうんと頷くような仕草を見せる。驚いていただけではなく、じっくりと思案していたらしい。

 そうして、すぐ。


「いいよ。契約書を作ろう」


 しごくあっさりとそう言った。

 今度は私が驚いて、瞬きを繰り返す。断られないだろうとは思っていたけど、嫌な顔くらいはされてもおかしくない。彼は向き合おうとしてくれていたのは伝わっているから、これはとても失礼な提案だ。


「いいんですか?」
「いいよ。契約書を作っておくことは最近はよくあるし」


 えっ、そういうもの?
 なんと、知らない間に世の中の結婚観は、私の知るものよりドライになってきているようだ。


「契約というからには、条件があるってことだ。ちょっと七緒さんの希望をまとめよう」


 彼はそう言いながら一度立ち上がり、スーツの上着を脱いでからポケットのスマホを取りだす。上着をぽいっと向かいのソファに投げると、また私の隣に腰を下ろした。


「希望、ですか」


 私としては、期間を決めたいという単純なものだったのだが。


「その、たとえば二年とか三年とか、期間を決めておきたくて」
「それはちょっと無理だな」


 スマホを弄りながら、今度はきっぱりダメだと言われた。


「どうしてですか。さっきはいいって」
「必要がなくなれば、離婚しても構わない」


 私は、首を傾げながら眉を寄せた。
 だから、必要がなくなるのに大体二年か三年くらいだと思ったのに?


「足りない、ということですか?」


 だとしたら、五年か。五年仮面夫婦というのも疲れそうだが、頃合いを見て別居して、それから必要なくなった時に離婚という流れなら自然で良いかもしれない。

 しかし、ただ短いから、というわけではないらしい。


「足りないというより、目処が立たないものだし。そういうのは」
「……そうですか?」


 そうなのだろうか。
 彼なら、各事業の進捗くらい年単位で予測できそうだと思ったが、私の考え方が甘いらしい。


「期間で決めるより、君に他に好きな相手ができたら離婚。それがわかりやすくていい」
「ええっ? 私に?」


 なんだか話の論点がズレてない?
 

「じゃあそこは平等に、お互いに好きな相手ができたらということで」


 彼が、スマホにさくさくと入力していく。後で書類にするために、メモ機能で書き留めておくつもりらしい。


 それではすぐに出来てしまった場合は? 仕事の方は困らないのだろうか。


 気になったが、よく考えてみれば、私は恋愛すら難しいと思って見合いをした結果がこの状況だ。そう短期間にそんな相手ができるはずがない。彼の方はわからないけれど、問題になるのは彼の事業なのだしそこは自己責任でなんとかしてもらおう。


「じゃあ……それで」


 同意して頷くと、期間に関してはそれで決定となった。


「他には?」
「えっと、そうですね、いえ……今のところは」


 とにかく期限付きの関係にしておこうという私の希望は叶えられたわけで、急には思い浮かばない。すると、彼の方から次々提案があった。


「そう? 家事の負担割合とか、よくある内容らしいけど」
「えっ! 高輪さん家事するんですか!?」
「……掃除は苦手かな」
「ああ……」


 なんとなく。生活感のない生活をしてそうな印象ではあるので、驚きはない。


「料理は、得意でもないけどできないこともない」
「私も特に上手ではないけど、できます。調理師みたいなクオリティを求められると困りますが」
「普通でいいよ。普通の家庭料理で。じゃあ、休日は俺担当で」
「いえいえ、基本は私で大丈夫です。私は当面仕事ないですし。出かける時とか体調悪い時だけ許してもらえたら」
「それは当たり前。じゃあ、家事に関しては臨機応変で……契約に入れる程でもないか」


 っていうか家事をするつもりでいるという考え方にびっくりした。亭主関白の見本みたいな父親と比べてはいけないことはわかっているが。


「じゃあ、休日の過ごし方?」
「えっ?」


 思いがけず高輪さん主導で、さくさくと案が出されていく。私は自分が提案しておきながら、高輪さんのペースにすっかり引き込まれてしまった。

 だって、家事の割合って。
 そういうことを決める契約のつもりじゃなかった私が混乱しているうちに、彼のスマホのメモは埋まっていった。



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