ルディア ~燦盟律を綰ねる幽誓環~

十日町一桜

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導かれた出会い

第12話 小獣

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 眩しい日差しの中を早足で進む。
 抱えた小さな身体は、軽すぎて不安になる。
 腕の中で時折、弱々しく喉を鳴らして小さく身を丸め直す。

 門に着くと、門兵がすぐに声をかけてきた。

「ルーク、今日は一人か……って、それ何だ?」

 門兵が覗き込む。俺は布の口を少し開けて見せた。

「イタチに似ているが、見たことのない生き物だな。魔物……だよな?」

「おそらくな。怪我をしている。これから家で治療するつもりだ」

「おまえにそんな愛護心があったとはな。見る目変わるぜ」

「うるせえよ。それから、依頼のあった靭蛮熊バルグベアは片付けた。衛庁支部に伝令を頼めるか?正式な報告は明日行う」

 門兵に剥いだ毛皮を見せた。

「わかった。それと、政庁支部に願い出れば動物保護の会ぐらいなら旗揚げさせてくれると思うぞ」

「それ以上いじってくるなら、ぶん殴るぞ」

 手続きを終え、まっすぐ家へ向かう。

 小さな丘にたどり着く頃には、夕映えに包まれていた。

 家に近づくと、周りに衛兵の姿が見えた。
 声をかけると、衛務庁の依頼で周辺の警戒を頼まれたという。
 感謝を伝え、いったん倉庫に入る。荷だけ置いて、すぐに治療に必要なものを集める。
 小獣を抱え直し家に入ると、リュティスが顔を出した。

「おかえりなさいませ。お怪我はありませんか?」

「俺は大丈夫だが、こいつを見てくれ」

 卓上に敷物を広げ、小獣を寝かせる。

「依頼先の洞穴で見つけた。例の感覚に背中を押され、保護した。おまえは何か感じるか?」

「……怯えています。でも、わたくしたちに敵意はありません。感謝と安堵……でしょうか。温かい気配も伝わってきます。それに、この子は助けたほうがいいように感じられます」

 クィヴェラ族の交感能力か。それに加え、俺と同じようにこいつに何か感じるものがあるようだ。

「手当をする。手伝ってもらえるか」

 リュティスはうなずき、桶に張ったぬるま湯を使って、柔らかい布で傷口の周りを拭き取る。
 毛並みの奥に、隠れていた擦過傷や裂創が見えた。脚と腹部には打撲の痕もある。
 おそらく洞穴に逃げ込み、靭蛮熊バルグベアの爪でも掠めたのだろう。

 小獣はわずかに身じろぎするが、暴れる様子はない。
 処置を終えて布にくるみ寝かせると、落ち着いたように目を閉じた。呼吸も安定している。

「他の皆は、家を探しに出たままか?」

「はい。カリーナさんたちも仕事で呼ばれたそうで、衛兵の方が周辺を警戒してくれることになりました」

「ああ。さっき会った。とりあえず、俺はこのあと少し後処理をしてくる。そいつの様子を見といてくれ」

「わかりました」

 再度家を出て、南区の中心部へ向かう。
 毛皮は近所の製革職人に預けた。特に自分で使う予定はないが、処理は早いほうがいい。
 エンシオに鍋を返し、昨日の礼に靭蛮熊バルグベアの肉を差し出す。ついでに夕食も買った。

 用事を済ませて家に戻ると、ちょうどゼディロ、ミュナ、レティアの三人が戻ってきて家の前で出くわした。

「家は決まったか?」

「はい。他の皆は、今日はアルヴィンさんたちの家に泊まらせてもらいます。明日からは新居に移る予定です」

「すぐに決まってよかったな。今後も何かあれば助けになると伝えておいてくれ」

「ありがとうございます」

 それぞれ服飾や調薬などの知識を持っているらしい。心が落ち着いたら仕事も始めるそうだ。

「とりあえず中に入るか」

 このあとは外出の予定もないので、衛兵の警戒も不要だろう。改めて礼を告げて、通常業務に戻ってもらった。
 居間でリュティスと合流し、話題は後回しにしていた件に移る。

耀斐司ルディアについて、もう少し詳しく教えてもらえるか?」

「満足のいく説明ができないことをご容赦ください。三百年ほど前の水害でクィヴェラ族の集落が大きな被害を受け、多くの命と伝承が失われてしまいました」

 ゼディロが、知る限りを語る。
 髪に金糸が混じった姿をしている。綾絆者レナフィル幽誓環エルネリアで結びつきを得て、共に宿命を果たす。
 理刻リコレアという術を使えることがある。

理刻リコレア以外は集落でも聞いた内容だな。リュティスは使えるのか?」

 リュティスが首を横に振る。

理刻リコレアがどういったものかわからず、今のところ思い当たることはございません」

「そうか……」

 材料が少なすぎる。ゼディロたちにも煮えきらない様子が見えるのはそのためだろうか。

「魔術や魔導具を広めたという話もあったな。それについても詳しくは知らないか?」

「亡くなった祖父から話半分に聞いた程度ですが、魔導具は魔術が使えない者のためにクィヴェラ族が作り始めたものだと聞きました。今の世の中は偽物の魔導具ばかりだとも言っていました。祖父も伝え聞いた話ですから、信憑性はなんとも言えません」

「ゼディロたちは魔導具を見るのも初めてか?」

「そうです」

「魔術を使える身で、これを見て何か思うことがあるか?」

 冷晶盤フロストラ軽荷帯レヴァ・ルヴィアス清澄環クラルムを卓上に並べる。

「私どもはかなり感覚的に魔術を使用しています。具体的に何が、とまで言葉にするのは難しいのですが、冷晶盤フロストラは……非効率だと感じます。清澄環クラルムは森での道中、休憩した時にも見ましたが、私どもの使う水浄化の魔術とほぼ同じでしょうか。軽荷帯レヴァ・ルヴィアスは素晴らしいものですね。これと同じような現象は私どもには扱えません」

軽荷帯レヴァ・ルヴィアス遺創具ノウザリアだ。清澄環クラルムは少し特殊な扱いでな。人に近い型の識魔グードが使用していた道具を真似したものらしい。水祓葉ルナフィルという素材を特定の形状に編むように加工しなければ、この効果が出ない。だが、理由は解明できていない。この部分、何かわかるか?」

 俺は魔術素材である水祓葉ルナフィルを使った環の部分を指し示す。
 ゼディロ以外も清澄環クラルムを注視する。

「文字のような役割でしょうか……詳細まではわかりません。期待に添えず申し訳ございません」

「謝る必要はない。クィヴェラ族について、どこかに情報が残されているかもしれない。今は昔と違って、クィヴェラ族に迫害意識を持つ人間は少ないだろう。調べてみるのもいいんじゃないか?」

「そうですね。調べてみようと思います」

「あとは、住まいの件だが……」

「ルークさんの言っていた近くの家を借りられるようお願いしています。リュティスに関しては、耀斐司ルディアの力が無意識下でどこまで働いているのか推し量れませんので、できれば本人の意思は尊重したいのですが……」

 要するに、数少ない情報の中で、一族の命運にかかわるであろう耀斐司ルディアの意思を尊重したい。
 それがクィヴェラ族にとって良い結果になれば、という思いが見える。

「ここに住んでも、俺は依頼などでいない期間も多い。街中でいきなり事を起こす可能性も低いとは思うが、危険がないとは言い切れんぞ」

「衛務庁のほうにも相談しましたが、何かあった時には警鳴鈴ギャラベルを鳴らせばすぐ駆けつけると」

 家は南門からも近い。警鳴鈴ギャラベルが鳴って誰も気づかないことはまず無いだろう。
 一族の望みをつなぐための手助けをしたい気持ちは俺にもある。

「はぁ……わかった。いいだろう」

「ありがとうございます」

 ゼディロは深く頭を下げ、リュティスもそれに続いた。

 ゼディロたちにも今日は泊まってもらう。
 明日からは各々、やるべきことを探すだろう。
 静けさが戻ったところでリュティスが口を開く。

「なにか蜜か草のような、甘い匂いがいたします。何の匂いでしょうか」

「ん?そうか? さっき買った飯かもな」

「それとは別の匂いです。ルーク様のほうからでしょうか」

「その、ルーク様ってのはやめてくれないか? 柄じゃないし、息苦しい」

「……わかりました。では、ルークさんとお呼びします」

「ああ。無理にとは言わないが、そうしてくれ」

 リュティスは特に食い下がらず、素直に受け入れてくれた。
 彼女も一族の中では丁重に扱われている。このやり取りに思うところがあったのかもしれない。

 しかし、匂いのほうはまだ気になっている様子だ。
 そんなに気になるか?と思いつつ、そういえば思い当たることがあった。
 腕抜きの上から左腕に触れる。

「あ、軟膏の匂いかもな」

 擦った腕をリュティスがじっと見つめ、口を尖らせる。

「先ほど、お怪我はないとおっしゃいましたが」

「ただの魔力焼けだ。魔導具を使ってればよくあることだ」

「見せてくださいますか」

「いいって、もう治りかけてる」

「そんなはずがありません。クィヴェラ族にも魔力の過剰使用や欠乏に関する知識はあります。処置をさせてください」

「物好きな奴だな。わかったよ」

 腕抜きを緩め、なされるがまま受け入れる。
 隣ではミュナとレティアが卓上の布の中を覗き、声を漏らす。
 小獣は丸まり、小さく寝息を立てていた。
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