ルディア ~燦盟律を綰ねる幽誓環~

十日町一桜

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導かれた出会い

第24話 相談

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 検品を終えて西門をくぐる。
 騎獣車は返却し、代わりに市管理の羽運車アラアウルカの台車を借りて荷を積み替えた。

 水導鹿ストラウケラルの素材は、カリーナが換金を受け持ってくれる。
 とはいえ、今日中にすべてを処理する必要はないし、カリーナひとりで運べる重量ではない。
 ひとまず彼女の家に運び込んでおき、あとで知り合いに声をかけて回ってもらう段取りだ。

 カリーナと別れ、陽も落ちかけた頃に俺とヴェリナは衛庁舎に足を運んだ。
 報告窓口でアイリスに声をかけ、西門で受け取った確認伝票とともに、冷晶箱フロセラごと毯河狸ルダメルフの素材を引き渡した。

「お預かりします。査定が終わりましたらお声がけしますね」

「ああ。それと、フレデリクはいるか? ヴェリナの戦業士アミスト試験について話がしたい」

「いらっしゃいますよ。応接室にご案内しましょうか?」

「頼む」

 アイリスに案内されて奥の部屋へ向かう。
 しばらくして衛庁の制服を着た男が現れた。

「よう、ルーク。と、そっちは……」

 男の視線を受けて、ヴェリナが小さく頭を下げた。

「ヴェリナです。よろしくお願いします」

「俺は衛務庁シンビル支部、保安課長のフレデリクだ。よろしくな」

 フレデリクの挨拶に俺は補足を入れる。

「保安課ってのは、戦業士アミスト関連の業務をまとめている課で、フレデリクはその責任者だ」

「ま、一応な。ヴェリナは件のクィヴェラ族だよな? 戦業士アミストになりたいのか?」

「はい」

 ヴェリナが力強くうなずいた。
 フレデリクは怪訝そうに首を傾げた。

戦業士アミストは過酷だぞ? やっていけるのか?」

 華奢な見た目のヴェリナを心配してのことだろう。

「ヴェリナは小柄だが適性は十分だ。クィヴェラ族の魔術はなにかと使える。今日、毯河狸ルダメルフ狩りで力量を確認してきた。水導鹿ストラウケラルにも出くわしたが、その対応も見事だった。実力は俺が保証する」

水導鹿ストラウケラルだと? 随分と厄介な奴に遭遇したな……もう少し詳細を聞いてもいいか?」

 戦闘面だけでなく、探索中の立ち回りや判断も含めて話すと、フレデリクが神妙にうなずいた。

「なるほどな。話を聞く限り実力は足りていそうだ」

「それと、戦業士アミストになれれば俺とチームを組むつもりで考えている」

「おいおい、まじかよ! ルークもようやくチームを組む気になったか! 心境の変化でもあったのか?」

「べつに。これまで機会がなかっただけだ」

「本当かぁ? ソドに誘われても断ってたじゃないか。あいつ、自分が辞めたあとのチームを任せたかったって愚痴ってたぞ」

「俺はソドほど安全思考じゃない。ラドリクやルミはいい奴だが、相性は合わん。それに、エドガーがいるならあのチームは大丈夫だろう」

「エドガーは優秀だが、まだ若い。ソドも心配なんだろ。……まぁ、いいさ。話はわかったが、ラザードとの面談は形式上必要だ。今日はいったん、申請書だけ書いてくれ。俺はラザードの予定を押さえてくる」

 フレデリクが申請書と筆記具を置いて一度部屋を出た。
 黒螺墨コルインクの渋い匂いが広がり、ヴェリナが丁寧な字を並べる。
 項目は多くない。すぐに書き終えて長椅子に座って待っていると、ほどなくしてフレデリクが戻ってきた。
 フレデリクは書類に視線を落とすと、すぐに顔を上げた。

「ヴェリナ・ミュネリア、ね……よし。問題なさそうだな。面談は明日の日中でいいか?そのあと、修練場で魔術も見せてくれ。ルークのお墨付きもあることだし、気楽にしててくれればいい」

「はい。よろしくお願いします」

「それと、ルークは明日空いているか? リミアからの依頼で、活昶草エウロエの採取護衛を頼みたいんだが」

「構わんが、活昶草エウロエの採取護衛なら四環級の依頼じゃないのか?」

「もともと四環級のオスティンとエルシに頼んでいたんだが、採取地周辺で地噴狼ヤエルプルヴの発見報告が出てな。日を改めるか相談したが、どうしても急ぎで活昶草エウロエが要るそうだ。オスティンとエルシだけでも十分やれるとは思うが、護衛となると少々不安が残る。付き添ってやってくれないか」

「そういうことならいいぞ。代わりにヴェリナのことは任せるからな」

「ああ、そっちは任せとけ。助かるよ。連絡しておくから、明日の朝リミアの家を訪ねてくれ」

「わかった」

 話はまとまり、明日の予定も決まった。
 最後に、近々トラナレイへ向かう予定をしていることだけ伝えて、俺とヴェリナは応接室を後にした。

「査定にはもう少しかかるだろう。待ち時間を使って、ヴェリナの封幣環体ロクシフェイオルを新設しておこう」

「えっと……幣環体フェイオルとは別のものですか?」

「そうだ。詳細は職員に教えてもらうといい」

 フェイ保管窓口の空きを待って、職員に声をかけた。
 用件を聞いた職員は大判の幣環体フェイオルをひとつ、カウンターの上に置いた。

封幣環体ロクシフェイオルの使用は初めてですか?」

「はい」

「では、説明します。送金刻印と受金刻印を合わせて虚幣フェイのやり取りをするのは幣環体フェイオルと同じですが、封幣環体ロクシフェイオルは、封刻シグが合わないと魔力を流せない仕組みになっています。まずは封刻シグの設定を行ってもらいます」

 職員の説明に従って、ヴェリナが封刻シグの初期設定を進める。
 封幣環体ロクシフェイオルには溝になっている部分がある。
 溝の奥には記号一つと六桁の数字が並んでいて、これらを回転させることで内部の魔力伝導路が組み変わる仕組みだ。
 溝の蓋を外しても、上から覗き込まないと確認できないように、盗み見対策がされている。

封刻シグを決めたら蓋をしてください。それと、封刻シグは一度決めると変更できないので、お忘れのないように」

「……決めました」

 ヴェリナは蓋を閉じ、職員の指示に従って魔烏紅金マカラニウム部分に触れて魔力を流した。

「これで導路が固定されました。間違った封刻シグで魔力を流すと内部が乱れてしまい、落ち着くまで少しの間操作ができなくなりますので、ご注意を。――すぐにご利用がありますか?」

「いえ、大丈夫です」

「承知しました。記号駒は取り外してお持ち帰りください。ご利用の際は必ずお持ちください」

 ヴェリナが指示に従って横の凹みを押し込むと、六面に記号が刻まれた駒が抜け落ちた。
 この駒も四種類存在し、六桁の数字との組み合わせで偶然一致することはそうそうない。

「駒を抜くと、数字も無作為に変化しているはずです。蓋を開けて確認してみてください」

 蓋を開けたヴェリナは、その変化に思わず目を丸くした。
 念のため、一連の動作を再確認してからフェイ保管窓口を離れたところで、アイリスから声がかかった。

「査定が終わりました。丁寧に処理していただいてありがとうございます」

 差し出された紙片には、毯河狸ルダメルフの査定額の内訳が記載されていた。
 合計はおよそ四十二万フェイ。だいたい見立てどおりだ。

「俺とヴェリナ、それからカリーナの封幣環体ロクシフェイオルに等分に振り込んでおいてくれ」

「承知しました。毯河狸ルダメルフの素材で必要なものはありますか?」

「肉を買いたい」

 水導鹿ストラウケラルの肉は数日寝かせたほうが旨いが、毯河狸ルダメルフは脂身が多く、日を置くと風味が崩れやすい。
 せっかくなので、卸した分からいくらか買って帰った。


 ✣ ✣ ✣


 家に帰ると備刻円環リサクロノ黄赤黒黄十九時三十分に色づいていた。
 リュティスに今日の出来事を話しながら夕飯を済ませ、まったりとした時間を過ごす。
 食後にリュティスが淹れてくれた朱柳茶チャマサティーに口をつけ、長椅子に身体を沈める。

「トラナレイにはいつ頃出発しますか?」

「数日中は依頼をこなすつもりだ。トラナレイへ行くのは、サロマに依頼した服を受け取ってからになるだろうな」

「わかりました。わたくしは出発までの間、引き続き魔術の鍛錬を続けて、耀斐司ルディアの力を探ろうと思います。……他になにかやっておくことがありますか?」

「特に思いつかないが……家事をしてくれていることは助かっている。ありがとうな」

「いえ、住まわせていただいていますので当然です。わたくしはお金を稼いでいるわけでもありませんから……」

 ゼディロからリュティスの生活費をもらう話は出ていた。だがゼディロたちのほうが、いまは金が必要だろう。
 俺は特に金に困っているわけではないのでいったん保留にしている。
 もしかすると、先ほど今日の話をしたときにヴェリナに収入があったことを知って、自分と比較してしまったのかもしれない。
 できるだけ頼ってやるほうが、リュティスにとっても気が楽かもしれないな。

「そういえば、二階の部屋を片付けようと思っていた。そのときは手伝ってくれると助かる」

 二階は俺の寝室以外にも二部屋あるが、すっかり物置と化していた。
 主だった部屋には暖籠炉カルナモルがあるものの、冬の底冷えをしのぐ意味でも二階を寝室として整えてもいいだろう。

「もちろんです」

 リュティスがうなずくと、ヴェリナが口を挟んだ。

「……リュティス様とも話していたのですが、ルークさんもあまり私たちに気を遣いすぎないでくださいね」

「ははは、たしかにな。かしこまらなくていいと言ってる俺が気にしすぎてちゃ、筋が通らないか。ヴェリナとはこれからチームを組むんだ。やはり、もう少し距離を縮めておく必要はありそうだな」

「そうですね……といっても、どうしたらいいのかわかりませんが。普段からもっといろいろと話をするなどでしょうか?」

「そうだな……なんなら口調ももっとくだけてくれていいんだぞ?」

「そう、ですね……わかりました。――ううん、わかったわ」

「お、いいじゃないか。改めて、これからよろしくな」

 俺が満足げに笑みを浮かべると、ヴェリナは照れたように顔を伏せた。
 そんな俺とヴェリナを交互に見て、リュティスは口を尖らせた。

「なんだか、少し妬けてしまいます」

 リュティスは元来の性格もあってか、そもそも誰に対しても丁寧めな口調だ。無理に変えてもちぐはぐになるだろう。
 リュティスの言葉に呆気にとられた俺は、誤魔化すように何かしゃべろうとしたが、うまく言葉にならなかった。
 本気か冗談かの見極めもできず、無性に言い訳が必要に感じてしまう。
 そんな俺の様子を見たヴェリナは、頬に茜を滲ませて明るく笑った。
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