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だりぃ……明日からまたシゴトとか、信じたくねぇ
しおりを挟むこのところ、かなり昼が長くなってきた。
とはいえ、そろそろ日も沈む。
ってか、もう日暮れかよ。
あっという間じゃないか?!
ああ、そりゃそうか。起きたのは昼すぎだ。
あっという間に日暮れになって当然。
いくら休日の醍醐味とはいえ、もう少し早起きすべきだったかもな。
ホント、最近の日曜日の短さは半端ないから。
気づけば、起きてから、まだ一歩も外に出ていなかった。
すこしは身体を動かさねばと、オレは外出を決意する。
夕飯がてら、買物がてらだ。
駅徒歩八分の立地。平凡な広さの平凡な築年数のマンションのオートロックの玄関扉を押し開ける。
駅前商店街へは、すぐに着いてしまう。
身体を動かすというほどの歩数でもないし、なんならこれからまた、毎日通勤で見るハメになる景色だ。
せっかくなら、住宅街の奥に新しくできた大きめのスーパーにでも行ってみようかと思いついた。
ごく近所だが、普段は足を向けることもない方角。
そもそも、この街を昼間に歩くことすらほとんどないのだ。
それなりに景色は目新しく感じた。
斜め左にスコンと抜けた空間が見える。
かなり立派な木々の梢。
どうやら公園のようだ。
大きな公園には、結構な「引力」があると思う。
なんとなく「入らないと損」なような気がしないか?
特に用事はなくてもさ。
その引力に逆らわず、オレはふらりと、その公園に足を踏み入れた。
夕暮れ間近。
帰り支度の親と子どもたちが、やたらと目に留まり、なんだか変にメランコリックな気分がしてくる。
その一方で、涼しくなった頃合を見計らったように、ウォーキングの中年男女やペットの散歩の大人たちが、淡々と歩き回っていた。
オレもそろそろ「体力づくり」とか、した方がいいんだろうか――
ふとそんな考えが頭をよぎる。
オレは四月に異動した。
新しい配属箇所は、なんと市立図書館だった。
いや、図書館とかさ……。
大学時代に試験勉強した以外、特に利用したこともなかったし。まあ修論の時、チラッと、なんか文献のコピーを取りに行ったか?
そもそも、オレの専攻だったら、研究室で見られる各種データベースと電子ジャーナルとGoogleスカラーでほとんどが事足りた。
プライベートでも、小説とかなんとかを読む趣味はない。
田舎の町には、徒歩や自転車で行ける範囲に図書館なんかなかった。
学校の図書室がせいぜい。
「読書習慣」とやらが育ちようもなかった。
そんな「場違い」な職場に配属されたのは、オレの「専門」が理由だった。
そう、オレの専門は情報処理。
市立の中央図書館では、少ない予算を工面して、新システムを導入することになっていた。
「ディスカバリーサービス」とか言うヤツだ。
その導入にあたっての「テコ入れ」だかなんだか。そういう名目だった。
導入予定とされているのは、別に大学とかに行けば普通に全学でアクセス可能な類の図書館のインターフェースだ。
特に目新しいモノでもなく、なんなら「え、いまさら?」ぐらいのシステムだ。だが――
これがなかなか難物だった。
なんというか……。
オレ的には、相当どうでもいいコトで、いちいち物事がつまづくのだ。
まず、図書館側の希望や要望に対し、そもそも予算が少なすぎる。
というか、この手のシステムは、とどのつまり「ベンダーの言いなり相場」だ。競争相手というものが、ほとんどないのだから。
そもそもアクセス権がこれっぽっちしか買えてないのに、どうやってシームレスで利便性の高い仕組みを構築しろというのか!
その不都合を、内部のシステム構築でどう補えと?!
オレは図書館情報学の方は「サッパリ」だ。
ってか、ヤツらの独自世界には全くついていけやしない。
なんだ、その謎論理は。
書誌? 知るかよそんなモン。
そんな当然のように、独自っぽいメタデータの話されてもな。
その上、いちいち「権利関係」「権利関係」と謎呪文が繰り返される。
あと、若干名の若手以外の関係者には、システムに対する理解がほぼない。
ってか、理解度ゼロ。
専門をかみ砕いて一般民に説明するのは、かなりシンドイことだ。
そりゃオレもさ、コミュ力を重視した「ユトリ」以降の教育受けてますし?
「やれ」って言われればやるけどさ。一応。
とにかくアウェー感が半端ない数か月だった。
疲れが蓄積している気がするこの頃だ。
そういえばこの前、ちらっと読んだマンガにあったよな。
疲れた勤め人に、夜食とかを持ってきてくれる熊の話。
ワケわからんが、飯がウマそうでついパラパラ読んでしまった。
といっても、出てくるメニューは何の変哲もなかった。
おにぎりとか卵焼きとか焼いたソーセージとか。
たまにワッフルとかなんとか。お菓子系も。
何ならカップ麺におにぎりとかの場合もあったか。
その程度の「夜食」で癒されるってのも……なんというか、あれだが。
結構、心にも響くものがあった。
そうそう、返却済資料のブックトラックに置かれてて。
なんとなく、ふと手に取ってみただけの本だ。
ああ、なんか、腹へったよな……。
明日からまたシゴトとか、マジありえねぇ、モヤる。
今からこんなでどうすンだよ、オレ。
なんかさ、ホント、カップ麺でいいから。
お湯を注いで、そっと目の前においてくれるだけでいい。そんな気になってきたかも。
なにくたびれてるんだろ、オレ。
まだ一週間、始まってもないのに――
人生ってさ。
元気な時ばっかじゃない。
っていうか、なんなら元気じゃないときの方が多いってコト。
大人になればなるほど、思うようになってきて。
ああ、もう。
なんで親は、オレのこと、こんな名前にしたかなぁ?!
「元気」じゃねぇ時、困るだろうがよ。
これじゃ日々、「名前負け」じゃねぇか。
そんなどうでもいいコトを、グルグルと頭の中で巡らせながら、暮れなずんでいく公園を歩く。
そんなオレの耳に、スパンと誰かの声が飛び入った。
おすわり――と。
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