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なんでだよ(2)
しおりを挟む「Kneel」
隆督の声が、延髄を突き抜ける。
抗おうとはしたんだ。
逆らおうする気持ちが、皆無だったわけじゃない。
けれど、そんなモノは擲って。
縛る気持ちを解き放って、ただ甘美な降伏に甘んじたくて。
思考はすぐに焼き切れた――
なあ?
なんでコイツのcommandに。
オレは反応するんだ?
こんなにもどうしようもなく。
こんなにも幸福に。
なんでだよ――
ペタリと、床に割座。
完全に尻の落ちたKneel――
ウットリと見上げる。
隆督の瞳は、伏せられた長い睫毛の陰。
ひたすらに、引き伸ばされる恍惚。
それが高まり過ぎて均衡を崩す間際に。
reward――
「Good Boy」
なんの色彩もない。ごくシンプルな――声。
だから続く、commandの予感が。
隆督が、口もとに人差し指を立てた。
「Look」
視線を上に。「おすわり」のまま、隆督を見上げて、オレは待つ。
「Down 、Roll」
カクリ、肩甲骨の力が抜けた。
オレはその場に腹ばいになる。
そして、身体を床になすりつけるようにして転がった。
ジワリと床の感触を拾う、勃起したペニス――
「はたてさん、きもちいいんですか」
隆督の、声。
「commandを言われると、やっぱり……そんな風になっちゃうんですね」
感じる視線。
glareの混じらない、ごく涼やかな。
オレのペニスを、見つめる目線――
恥ずかしい。
子供のcommandに揺さぶられ、プレイみたいにイヤらしい快楽を得て、 死にたいような罪悪感がこみ上げるのに。
オレはただ、瞳をきらめかして待ち望むのだ。隆督のcommandを。
「もっと、気持ちよくしてあげたいです。どうしたらいいのかな」
困り顔で考えこむ隆督を見上げ、オレの理性が少しだけ力を取り戻す。
「もう、やめ…はずかしい、こんな、子どもあいてに、児どう虐たい、だろ……変態、だ…」
「僕は平気です。前も言いましたけど、勃起も射精も、知ってます」
淡々と口にされる淫らな語彙に、オレはゾクリ、首筋を痺れさせた。
ベニスが、浴衣の合わせ目を押し上げる。
隠したい。隠したい。
滲む先走りを、陰茎のヒクつきを。
でも、身体を勝手には動かせない。
まるで、Domとのプレイみたいに――
ちがう違う、これはプレイじゃない。
プレイなんかじゃ。
オレは必死に浴衣の裾をかき合わせた。
「旗手さん。どうして隠すんですか? 僕、まだ『何も』言ってませんよ」
オレはフルフルと首を横に振る。
「聞き分けがないです。旗手さん…『見せて』」
ガクンと腰にcommandが極まった。
息が上がる。オレは、必死に抗った。
隆督が膝をついて床にかがみ、オレの顔を覗き込む。
「見せてください」
「命令」じゃない、それは。
――依頼。
カタチだけは、言葉だけは。
オレはきつく歯を食いしばる。
「見せて」
仰向けになり、オレは浴衣の前をはだけた。
涙が溢れる。
drop?
space?
両極端が交じり合って、区別がつかない。
「Present」
commandが――入る。
「あ、っ、や……い、やっ」
陰嚢がせり上がる感覚。
そこでふと隆督が、
「あ、ぼく……そうだ、セイフワード、決めなきゃいけなかったんだ……ごめんなさい」
要らない、セイフワードなんか。必要ない。
これは「プレイじゃない」。
「プレイ」なんかじゃない。
こんな子供と――normalと。
プレイなんかするワケない。
セイフワードなんか決めたら、
「プレイ」になっちまうだろ――
オレはただ、首を横に振り続ける。
ベニスが張り詰める。
見られてる――
隆督の視線。
ちいさな笑顔。
「いいですよ、マスターベーションしても」
首を横に振る。
「したいんですよね」
「ちが…っ」
「どうして? 違わないでしょう? 射精、したいんですよね」
「ちが、う」
荒い息遣いを飲み下し、オレは切れ切れに言う。
「して、いい……じゃ、なくて、しろ…って」
「やれ」って、言ってくれ。
命じてくれ――
「Cum」
短いcommand。
オレは下着を押し除け、陰茎を握り込んだ。
指筒をしごいて、快楽を駆け上る。
いかなきゃ、射精しなきゃ。
出したい、イキたい――
「あ…っあ、ぁあ、あ、あ、」
出る、出る。
せり上がる、塊めいた快感。
熱が、放出された。
虚脱。そして押し寄せる罪悪感。
散らばって沈殿する、オレの荒い息遣い。
そうやって、死にたいほどの恥の意識に押し潰されてしまいそうになる刹那。
オレの肩を起こすようにして、隆督が抱きついてきた。
ギュッとハグ。
隆督は、オレの背中を両手でパタパタと叩きながら、
「いいこ、はたてさん、すごくいいこ」と繰り返す。
世界が反転するような。
目が回るほどの多幸感がグワリと押し寄せる。
解ける安堵感。
声。隆督の――声。
なんでだよ――
プレイじゃない、これは「プレイ」なんかじゃ。
なのに、なんでだよ。なんでだよ。
隆督が、ごく小さく「All Stop」と囁いた。
プレイを、終わらせるみたいに。
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