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知らねぇの?(2)
しおりを挟むムギに連れていかれたのは、洗濯機が二台、乾燥機が一台並び、アイロン台や様々なランドリー製品が置かれているような場所だった。
洗濯機がお湯の蛇口につながれていたり、ガス栓が引かれていたりと、風呂場と同じで、割と最近に改築された部屋に見える。
乾燥機はもう止まっていた。
躯体は、まだほんのりとあったかい。
扉を開けると、オレの服が一式入っていた。
その場で浴衣を脱いだ。
よくよく確認してみたが、浴衣に「へんな汚れ」はついていなくて安心する。
それから、相当にゆっくりと着替えをした。
「済んでしまう」まで。隆督の邪魔をしたくなかったから。
そして、浴衣を丁寧に丁寧に、皺を伸ばしながら畳む。
それでも間が持たず、オレはその場で、ムギと「プロレスごっこ」を始めた。
ドタンバタンと、とっくみ合って転がってふざけ散らす。
フワフワの毛並みが心地よくてホッとした。
だが、無我の境地に入ってきたのか、次第にムギがのしかかってくる力が強まる。
「ちょ、オマ…待て待て、待てって」
腕をツッパリ膝を蹴って、デカ犬を牽制した。
「待て」の指示に反応したのだろう。
金の瞳をまばたかせ、ムギはそろりとデカい身体を引いた。
そして、「もうやめるか?」と言わんばかりに、首を傾げて見せる。
「そう、もうおしまい。ストップ」
オレは繰り返す。
「Stop」という、より明確な命令により、ムギはすっかり落ち着きを取り戻した。
後ろ足を折り曲げて、その場でゴソゴソと「おすわり」をしてみせる。
「よしよし、いい子だ」
オレはムギの頭をくしゃくしゃとかき回す。
「オマエ、ホント賢いな」
ご主人さまの「しつけ」もいいんだろうな――なんて。
ふとそんなコトを思いついて、オレの脳裏にグワリ、さっきの「プレイもどき」のありさまが、突如蘇った。
快感を得た。
Subとしての快感、そして男としても。
相手は、まだダイナミクス性すら判然としないような中学生だっていうのに、オレは。
「cum」のcommandを、よこしまに懇願して、それで――
「ああ、ちくっしょう……」と呟く。
ただただ、忸怩たる思いを噛み締めるしかない。
そうやって俯くオレに、ムギが近づいてきた。
フンスフンスと耳元の匂いを嗅ぎ、ちいさく、オレのこめかみを舐める。
「ったく、ワン公なんぞに慰められて、しょうもないよな、オレってヤツはさ」
そんな風に自嘲の言葉を吐き出せば、「きゅぅ」とムギが鼻を鳴らす。
「ゴメンゴメン。ありがとな。オマエはなんも悪くないからな、ムギ。オマエはおりこうな、いい子だよ」
慌ててて詫びて、オレはムギの耳の後ろをくすぐってやった。
*
「もうそろそろ大丈夫だろうか」と頃合いを見計らい、オレはムギと元の部屋へと戻っていく。
一応、入る前に廊下から、そっと室内を伺ってみた。
ごく微かだが、明らかに普通とは異なる息遣いと気配。
少し苦しげで、イラだっているような。
そんな空気が漂う。
床の上で身じろぐ衣擦れの音。
え? まだイケてないのかよ――
つらそうに喉に詰まる、短い喘ぎ声。
どうにも気の毒だった。
隆督が床に腹ばいになり、下腹部を、身体全体を擦りつけ始める。
ひどく激しく。
ああ、何やってるんだよ、ったく。
あんなコトしてたら、膝も肩もアザになっちまうだろ。
そう思うやいなや、オレの足は部屋の中へと踏み入っていた。
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