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わたしのクラスにいる『魔女』
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最近、ウチの高校は一人の女子生徒の話題で持ちきりだ。
「ねぇ、また『魔女』が活躍したらしいよ」
「知ってる。なくした物の場所を、言い当てたらしいぜ。特に学校で無くした物はすぐに見つけてくれるって」
「それにテストの予想問題も当てたって。凄いよね~」
…とまあここまでならまだ良いだろう。
しかし良い話しばかりではない。
「なあ…知ってるか? 『魔女』をバカにしてたヤツら、この間事故で大怪我負ったって」
「他にも両親が離婚とか、親がリストラとか、不幸が続くらしいよぉ」
「何か『魔女』らしいって言ったら、呪われそう! だけどこうも続くとホント怖ーい」
やれやれ。
好奇心旺盛な年頃の口の滑りはとてもいいものだ。
休み時間の教室内で、噂を耳にしながらわたしはペンケースの中をあさる。
探し物は気に入っているピンクのボールペン、イチゴの香り付きで書きやすいが、少々値がはる物だった。
「…あれ? ない?」
机の上にペンケースの中身をぶちまけてみるも、ピンクのボールペンはない。
「どうしたの?」
「探し物?」
近くにいたクラスメート達が、わたしの側に寄って来る。
「なら『魔女』に頼みなよ」
「きっとすぐに見つけてくれるよ」
「『魔女』ねぇ…」
視線を向けた先に、『魔女』はいた。
くしくもわたしは『魔女』と同じ、2年D組だ。
しかしその呼び名には相応しくなく、彼女は地味で落ち着いた雰囲気を持っている。
『魔女』と呼ばれるまでは、大人しく自分の席で読書ばかりをしていた。
特に目立つこともせず、教室の中の風景の一部と化した日々を送っていた。
けれどある日、携帯電話を学校でなくしたクラスメートに、彼女が占いをしてあげた。
すると言った場所で、携帯電話は見つかったらしい。
それ以来、彼女は『魔女』と呼ばれ、あらゆる方面で助けを求められる存在となった。
―しかしさっき聞いた通り、自分の存在を否定する者には大変厳しいとか。
もちろん、彼女自身がそういう災いを起こしたなどと、口に出してはいない。
けれどそういうふうを装うから、噂が広まるんだ。
ふとわたしの視線に気付いたのか、彼女はこっちを見る。
「どうしたの? 何か困り事?」
彼女は得意げな表情で、こっちに歩いてくる。
『魔女』と呼ばれることに強い優越感と自信を兼ね備えた笑みは、見ていてあまり気持ちの良いものじゃない。
「あのね、美夜
みや
が何かなくしちゃったらしいの」
「鈴
りん
ちゃん、探してあげてくれない?」
簡単にしゃべりやがって…!
当事者であるわたしの意見を聞かんかい!
「まあ、そうだったの。良いわ、占ってあげる」
また彼女も上から目線で話を進める。
だからわたしは少し声を荒らげて、はっきりと言った。
「それはいいわ。自分で探すから」
「えっ?」
途端に教室中の空気が凍り付く。
『魔女』の申し出を断るなんて…と雰囲気が語っているが、わたしは真っ直ぐに彼女の眼を見つめる。
「あなたの手を煩わせるほどのことじゃないわ。だからほっといて」
「そっ…そう。分かったわ…」
言葉ではそう言ったものの、その表情は醜く歪んでいる。
まさか自分が差し出した手を、振り払われるとは思わなかったんだろう。
屈辱と怒りの感情が、そのまま顔に出ていた。
「ちょっと、美夜! 何で断ったのよ!」
「『魔女』に逆らうと、後でヒドイ眼に合うのよ?」
クラスメート達は心配そうな表情を浮かべながら、小声で怒鳴る。
「たかがペン1本だし。それに他に困っている人なんていくらでもいるんだから、そっちを優先させた方が良いと思ったまでよ」
わたしは平然と答えた。
その声は彼女にも届いていたのか、肩が震えて見える。
「もう…!」
「知らないからね!」
「はいはい」
肩を竦めたわたしは、とりあえず今日の行動を振り返ることにした。
朝、学校行く時に確認した時には確かにあった。
その後の授業でもたびたび使った。
最後に使ったのは科学の授業中、実験をしながらノートに書き込んでいた時だ。
「だとすれば落としたかな?」
実験中はバタバタしていたし、教室で見つからないならそこだ。
科学の次は体育だったから、ペンは使わなかったし。
放課後の掃除の時間まで待って、わたしは一階の科学室へ向かった。
科学担当の先生に落し物について聞いたけれど、無いという返事をもらった。
なら掃除中なら見つかるかもしれない。
掃除は1年生が担当をしていたので、ペンのことを説明して、掃除がてら探してもらった。
だけど見つからなかった。
「…チッ。仕方ないから新しいのを買うか」
先週買ったばかりの新品だったけど、気に入りだからアレ以外は使いたくないし。
「ねぇ、また『魔女』が活躍したらしいよ」
「知ってる。なくした物の場所を、言い当てたらしいぜ。特に学校で無くした物はすぐに見つけてくれるって」
「それにテストの予想問題も当てたって。凄いよね~」
…とまあここまでならまだ良いだろう。
しかし良い話しばかりではない。
「なあ…知ってるか? 『魔女』をバカにしてたヤツら、この間事故で大怪我負ったって」
「他にも両親が離婚とか、親がリストラとか、不幸が続くらしいよぉ」
「何か『魔女』らしいって言ったら、呪われそう! だけどこうも続くとホント怖ーい」
やれやれ。
好奇心旺盛な年頃の口の滑りはとてもいいものだ。
休み時間の教室内で、噂を耳にしながらわたしはペンケースの中をあさる。
探し物は気に入っているピンクのボールペン、イチゴの香り付きで書きやすいが、少々値がはる物だった。
「…あれ? ない?」
机の上にペンケースの中身をぶちまけてみるも、ピンクのボールペンはない。
「どうしたの?」
「探し物?」
近くにいたクラスメート達が、わたしの側に寄って来る。
「なら『魔女』に頼みなよ」
「きっとすぐに見つけてくれるよ」
「『魔女』ねぇ…」
視線を向けた先に、『魔女』はいた。
くしくもわたしは『魔女』と同じ、2年D組だ。
しかしその呼び名には相応しくなく、彼女は地味で落ち着いた雰囲気を持っている。
『魔女』と呼ばれるまでは、大人しく自分の席で読書ばかりをしていた。
特に目立つこともせず、教室の中の風景の一部と化した日々を送っていた。
けれどある日、携帯電話を学校でなくしたクラスメートに、彼女が占いをしてあげた。
すると言った場所で、携帯電話は見つかったらしい。
それ以来、彼女は『魔女』と呼ばれ、あらゆる方面で助けを求められる存在となった。
―しかしさっき聞いた通り、自分の存在を否定する者には大変厳しいとか。
もちろん、彼女自身がそういう災いを起こしたなどと、口に出してはいない。
けれどそういうふうを装うから、噂が広まるんだ。
ふとわたしの視線に気付いたのか、彼女はこっちを見る。
「どうしたの? 何か困り事?」
彼女は得意げな表情で、こっちに歩いてくる。
『魔女』と呼ばれることに強い優越感と自信を兼ね備えた笑みは、見ていてあまり気持ちの良いものじゃない。
「あのね、美夜
みや
が何かなくしちゃったらしいの」
「鈴
りん
ちゃん、探してあげてくれない?」
簡単にしゃべりやがって…!
当事者であるわたしの意見を聞かんかい!
「まあ、そうだったの。良いわ、占ってあげる」
また彼女も上から目線で話を進める。
だからわたしは少し声を荒らげて、はっきりと言った。
「それはいいわ。自分で探すから」
「えっ?」
途端に教室中の空気が凍り付く。
『魔女』の申し出を断るなんて…と雰囲気が語っているが、わたしは真っ直ぐに彼女の眼を見つめる。
「あなたの手を煩わせるほどのことじゃないわ。だからほっといて」
「そっ…そう。分かったわ…」
言葉ではそう言ったものの、その表情は醜く歪んでいる。
まさか自分が差し出した手を、振り払われるとは思わなかったんだろう。
屈辱と怒りの感情が、そのまま顔に出ていた。
「ちょっと、美夜! 何で断ったのよ!」
「『魔女』に逆らうと、後でヒドイ眼に合うのよ?」
クラスメート達は心配そうな表情を浮かべながら、小声で怒鳴る。
「たかがペン1本だし。それに他に困っている人なんていくらでもいるんだから、そっちを優先させた方が良いと思ったまでよ」
わたしは平然と答えた。
その声は彼女にも届いていたのか、肩が震えて見える。
「もう…!」
「知らないからね!」
「はいはい」
肩を竦めたわたしは、とりあえず今日の行動を振り返ることにした。
朝、学校行く時に確認した時には確かにあった。
その後の授業でもたびたび使った。
最後に使ったのは科学の授業中、実験をしながらノートに書き込んでいた時だ。
「だとすれば落としたかな?」
実験中はバタバタしていたし、教室で見つからないならそこだ。
科学の次は体育だったから、ペンは使わなかったし。
放課後の掃除の時間まで待って、わたしは一階の科学室へ向かった。
科学担当の先生に落し物について聞いたけれど、無いという返事をもらった。
なら掃除中なら見つかるかもしれない。
掃除は1年生が担当をしていたので、ペンのことを説明して、掃除がてら探してもらった。
だけど見つからなかった。
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