10 / 14
約束の夏休み
3
しおりを挟む
由月は30分ほどで眼を覚ました。
部屋から出たくないと言うので、由月の宿題をすることになった。
由月は僕の教え方が上手いと言ってくれる。
僕は彼の理解力がスゴイだけだと思うけど、由月がこう言ってくれるから、教師を目指そうと思ったのかもしれない。
やがて空が夕闇に染まると、由月が廊下をじっとみた。
「あっ、義兄さん達、来た?」
「みたいだな」
由月が立ち上がるので、僕も続いた。
「由月くん、雅貴くん、いるかな?」
「夕飯、ここに置いておくから。食べ終わったら、また廊下に置いといてね」
「ああ…」
「分かりました。すみません、ありがとうございます」
由月は襖を開けなかったので、声を張り上げた。
2人の足音が遠ざかったところで、ようやく襖を開ける。
「…お義兄さん達、苦手?」
「姉貴達の旦那だからな。ちょっとうるさく感じている」
うっう~ん、本当に難しいな。
苦笑しながらもお膳を部屋の中に入れた。
「でも嫌いってワケじゃないんだ」
「うん」
「ただ後継者のことで、バタバタしてるから…。やっぱり姉貴達の旦那だしな」
由月ではなく、従姉達の味方になるのはしょうがないこと。
それを分かっている由月は、僕よりよっぽど大人だ。
「雅貴が側にいてくれれば良いのに…」
「ごほっ!」
ご飯が変なところに入った!
慌ててお茶を飲んで流すも、僕は別の意味で驚いていた。
由月が弱音を吐いた。
今まで頼ることをほとんどしなかった由月が…。
それは嬉しいけれど、同時に罪悪感もあった。
だって僕は側にいるどころか、離れようとしている。
「なあ、雅貴はこっちに来れないのか?」
「ぼっ僕はまだ高校生だし…。それに進路のこともあるから、今動くわけにはいかないんだ」
「そっか…。ゴメン、変なこと言った」
「ううん」
彼が言い出した原因は、何となく分かる。
後継者問題について、彼には身内に味方がいない。
伯父は後継者にしたい派だし、伯母もきっと心の中ではそう思っている。
従姉達は自分が引き継ぎたい気持ちを持つ人がいれば、伯父が由月を特別扱いすることを良く思っていない人もいる。
幼い2人の弟妹には、まだ難し過ぎる。
味方と断言できる存在がいないからこそ、まだ小学1年生の時から家族と距離を取ってしまっているのだ。
そのことを聞いて、僕の両親が動いたわけだけど…。
「雅貴が側にいれば、オレは…」
「後継者を受け入れた?」
「そっそれはないけど」
僕のイジワルな言葉に、由月は激しく動揺した。
その後は無言で夕飯を食べ終え、お膳を廊下に出した。
そんなに時間を置かず、お膳は持っていかれた。
「―で、雅貴の話って何?」
「あっ、うん。僕の進路のことなんだけどね」
僕を真っ直ぐに見つめる由月の視線が痛い。
「教師になりたいって、言ったよね? それで教師になる為の大学が、父方の実家の近くにあってね。そこで下宿しながら通うことにしたんだ。まあ大学が受かったらの話だけど」
「そっか」
「うん、それで…四年間、会えなくなりそうなんだ」
「そう…って、えっ?」
由月の眼が、大きく見開かれた。
「父方の実家は、今より由月の家から遠ざかる。それに教師になる為には猛勉強しなきゃいけないし、バイトもしなくちゃいけない。だから大学四年間は、ここには来れない」
「なんっで…。夏休みとかは長いんだろう?」
「長いけどその分、勉強やバイトをしたいんだ」
「オレに…会えなくていいのか?」
由月の声が細く、小さくなる。
「全然よくないよ。でもそうでもしなきゃ、僕は強くなれないし、教師にもなれない」
ぐっと歯を噛み締め、僕は言い続けた。
「教師になれば、赴任先をこの土地の学校に選ぶよ。何が何でもここへ来る。だから四年間は…我慢するしかないんだ」
「そんなっ…! 勝手過ぎる。オレに何1つ相談せずに、一人で勝手に決めて…」
「うん、勝手なのは分かってる。でも由月に相談しても、反対されるのは分かってたから」
由月が息を飲む。
「会えなくなるのはたった四年間だ。大学を卒業すれば、必ず僕はここへ来る。待ってて…くれないか?」
「じゃあ四年間、オレはずっと1人かよ?」
「…僕の両親はここへ来るよ。後継者問題に対して、発言力は低いだろうけど、由月の味方をしてくれる」
「でもっ…」
「電話やメールで話もできる。だから、待っててくれないか?」
由月が何か言いそうになっても、僕は遮り意志を伝えた。
しばらく、重い沈黙が続く。
由月は顔を伏せたまま、唇を噛み締め、両手をきつく握っていた。
必死に耐えているのが、伝わってくる。
「…オレが…そっちへ行っちゃダメか?」
やがて吐き出された言葉は、とても現実味を帯びていなかった。
「それはムリだと、由月自身が分かっているだろう?」
伯父は絶対由月を手放さない。
それに由月自身も、この土地から離れようとはしないだろう。
「そこまで言ってくれるのは嬉しいよ。でも僕を信じてくれないか? 四年間を我慢すれば、その後はずっと毎日、いつでもキミの側にいられるんだ。その為に僕も我慢するし、頑張れる」
「雅貴…」
顔を上げた由月の眼は、赤く潤んでいた。
僕は苦笑して、由月の頬を両手で包んだ。
そしてゆっくりと近付き、薄く開いている唇にキスをした。
「んっ…」
由月の腕が、僕の背中に回る。
一年ぶりに触れる唇は、やっぱり熱くて甘かった。
「…今の僕は、自信が無さ過ぎなんだ。だから胸を張って、由月の側にいられない。だから修行に行ってくるよ」
「バカ…」
「うん、バカなんだ。由月のことが好き過ぎて、人生を変えてしまうほどの大バカなんだよ」
額と額を合わせ、僕は笑った。
由月は潤んだ眼で、僕を見つめた。
「浮気なんてするなよ」
「しないよ。7年間、ずっと由月に夢中なんだから」
「7年…。オレが小学1年の時からかよ」
「うん。一目惚れだったんだ。由月が男の子だって分かった後も、諦められなかった」
部屋から出たくないと言うので、由月の宿題をすることになった。
由月は僕の教え方が上手いと言ってくれる。
僕は彼の理解力がスゴイだけだと思うけど、由月がこう言ってくれるから、教師を目指そうと思ったのかもしれない。
やがて空が夕闇に染まると、由月が廊下をじっとみた。
「あっ、義兄さん達、来た?」
「みたいだな」
由月が立ち上がるので、僕も続いた。
「由月くん、雅貴くん、いるかな?」
「夕飯、ここに置いておくから。食べ終わったら、また廊下に置いといてね」
「ああ…」
「分かりました。すみません、ありがとうございます」
由月は襖を開けなかったので、声を張り上げた。
2人の足音が遠ざかったところで、ようやく襖を開ける。
「…お義兄さん達、苦手?」
「姉貴達の旦那だからな。ちょっとうるさく感じている」
うっう~ん、本当に難しいな。
苦笑しながらもお膳を部屋の中に入れた。
「でも嫌いってワケじゃないんだ」
「うん」
「ただ後継者のことで、バタバタしてるから…。やっぱり姉貴達の旦那だしな」
由月ではなく、従姉達の味方になるのはしょうがないこと。
それを分かっている由月は、僕よりよっぽど大人だ。
「雅貴が側にいてくれれば良いのに…」
「ごほっ!」
ご飯が変なところに入った!
慌ててお茶を飲んで流すも、僕は別の意味で驚いていた。
由月が弱音を吐いた。
今まで頼ることをほとんどしなかった由月が…。
それは嬉しいけれど、同時に罪悪感もあった。
だって僕は側にいるどころか、離れようとしている。
「なあ、雅貴はこっちに来れないのか?」
「ぼっ僕はまだ高校生だし…。それに進路のこともあるから、今動くわけにはいかないんだ」
「そっか…。ゴメン、変なこと言った」
「ううん」
彼が言い出した原因は、何となく分かる。
後継者問題について、彼には身内に味方がいない。
伯父は後継者にしたい派だし、伯母もきっと心の中ではそう思っている。
従姉達は自分が引き継ぎたい気持ちを持つ人がいれば、伯父が由月を特別扱いすることを良く思っていない人もいる。
幼い2人の弟妹には、まだ難し過ぎる。
味方と断言できる存在がいないからこそ、まだ小学1年生の時から家族と距離を取ってしまっているのだ。
そのことを聞いて、僕の両親が動いたわけだけど…。
「雅貴が側にいれば、オレは…」
「後継者を受け入れた?」
「そっそれはないけど」
僕のイジワルな言葉に、由月は激しく動揺した。
その後は無言で夕飯を食べ終え、お膳を廊下に出した。
そんなに時間を置かず、お膳は持っていかれた。
「―で、雅貴の話って何?」
「あっ、うん。僕の進路のことなんだけどね」
僕を真っ直ぐに見つめる由月の視線が痛い。
「教師になりたいって、言ったよね? それで教師になる為の大学が、父方の実家の近くにあってね。そこで下宿しながら通うことにしたんだ。まあ大学が受かったらの話だけど」
「そっか」
「うん、それで…四年間、会えなくなりそうなんだ」
「そう…って、えっ?」
由月の眼が、大きく見開かれた。
「父方の実家は、今より由月の家から遠ざかる。それに教師になる為には猛勉強しなきゃいけないし、バイトもしなくちゃいけない。だから大学四年間は、ここには来れない」
「なんっで…。夏休みとかは長いんだろう?」
「長いけどその分、勉強やバイトをしたいんだ」
「オレに…会えなくていいのか?」
由月の声が細く、小さくなる。
「全然よくないよ。でもそうでもしなきゃ、僕は強くなれないし、教師にもなれない」
ぐっと歯を噛み締め、僕は言い続けた。
「教師になれば、赴任先をこの土地の学校に選ぶよ。何が何でもここへ来る。だから四年間は…我慢するしかないんだ」
「そんなっ…! 勝手過ぎる。オレに何1つ相談せずに、一人で勝手に決めて…」
「うん、勝手なのは分かってる。でも由月に相談しても、反対されるのは分かってたから」
由月が息を飲む。
「会えなくなるのはたった四年間だ。大学を卒業すれば、必ず僕はここへ来る。待ってて…くれないか?」
「じゃあ四年間、オレはずっと1人かよ?」
「…僕の両親はここへ来るよ。後継者問題に対して、発言力は低いだろうけど、由月の味方をしてくれる」
「でもっ…」
「電話やメールで話もできる。だから、待っててくれないか?」
由月が何か言いそうになっても、僕は遮り意志を伝えた。
しばらく、重い沈黙が続く。
由月は顔を伏せたまま、唇を噛み締め、両手をきつく握っていた。
必死に耐えているのが、伝わってくる。
「…オレが…そっちへ行っちゃダメか?」
やがて吐き出された言葉は、とても現実味を帯びていなかった。
「それはムリだと、由月自身が分かっているだろう?」
伯父は絶対由月を手放さない。
それに由月自身も、この土地から離れようとはしないだろう。
「そこまで言ってくれるのは嬉しいよ。でも僕を信じてくれないか? 四年間を我慢すれば、その後はずっと毎日、いつでもキミの側にいられるんだ。その為に僕も我慢するし、頑張れる」
「雅貴…」
顔を上げた由月の眼は、赤く潤んでいた。
僕は苦笑して、由月の頬を両手で包んだ。
そしてゆっくりと近付き、薄く開いている唇にキスをした。
「んっ…」
由月の腕が、僕の背中に回る。
一年ぶりに触れる唇は、やっぱり熱くて甘かった。
「…今の僕は、自信が無さ過ぎなんだ。だから胸を張って、由月の側にいられない。だから修行に行ってくるよ」
「バカ…」
「うん、バカなんだ。由月のことが好き過ぎて、人生を変えてしまうほどの大バカなんだよ」
額と額を合わせ、僕は笑った。
由月は潤んだ眼で、僕を見つめた。
「浮気なんてするなよ」
「しないよ。7年間、ずっと由月に夢中なんだから」
「7年…。オレが小学1年の時からかよ」
「うん。一目惚れだったんだ。由月が男の子だって分かった後も、諦められなかった」
10
あなたにおすすめの小説
寡黙な剣道部の幼馴染
Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……
猫カフェの溺愛契約〜獣人の甘い約束〜
なの
BL
人見知りの悠月――ゆづきにとって、叔父が営む保護猫カフェ「ニャンコの隠れ家」だけが心の居場所だった。
そんな悠月には昔から猫の言葉がわかる――という特殊な能力があった。
しかし経営難で閉店の危機に……
愛する猫たちとの別れが迫る中、運命を変える男が現れた。
猫のような美しい瞳を持つ謎の客・玲音――れお。
彼が差し出したのは「店を救う代わりに、お前と契約したい」という甘い誘惑。
契約のはずが、いつしか年の差を超えた溺愛に包まれて――
甘々すぎる生活に、だんだんと心が溶けていく悠月。
だけど玲音には秘密があった。
満月の夜に現れる獣の姿。猫たちだけが知る彼の正体、そして命をかけた契約の真実
「君を守るためなら、俺は何でもする」
これは愛なのか契約だけなのか……
すべてを賭けた禁断の恋の行方は?
猫たちが見守る小さなカフェで紡がれる、奇跡のハッピーエンド。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
【16話完結】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!
キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!?
あらすじ
「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」
前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。
今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。
お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。
顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……?
「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」
「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」
スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!?
しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。
【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】
「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」
悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる