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放課後、部活の始まり
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キーンコーンカーンコーン……
学校の鐘が鳴る。放課後を告げる鐘の音が。
この学校には本物の鐘があり、毎日事務員の人が時間になるとわざわざ鳴らす。
「ご苦労なことで……」
教室の中が開放感に満ちる中、和の美少女・神無月は憂いた表情で呟いた。
色白の顔が青白く見えるほど、憂いている。
「はぁ~」
カバンを手に持ち、ノロノロと立ち上がる。
そこで教室がふと騒ぎ出したことに気付いた。
「やあ、神無月。一緒に部活に行こう」
爽やかさ満点で現れた依琉。
だが『部活』の一言で、彼の周りにクラスメート達はズササッと後ずさった。
「うっ……」
神無月は硬直した。
会いたくもなければ見たくもない人物が、教室の扉の前で自分を待っている。
「今日は特別な日だからね。迎えに来たよ」
途端にクラスメート達はボソボソと話始めた。
―オカ部の……―
―例のウワサ……―
―先生達も公認で……―
その様子を見て、神無月から血の気が引いていった。
が、拳を握り締めると、駆け寄り依琉の手を引いて教室から飛び出した。
そして人気の無い階段の裏へ回ると、その手を勢い良く離した。
「何の恨みがあるのよ! 依琉っ!」
「恨み、とはヒドイなぁ。ボクは迎えに行っただけじゃないか」
「ウソおっしゃい! どーせ榊部長の入り知恵で、私を迎えに来たんでしょ!」
「正確にはボクと部長の考えでね。何せ今日が特別な日なのに、キミや九曜くんったら逃げようと思っているんだもん」
そう言って邪気の無さそうな笑みを浮かべる依琉を見て、神無月は涙目で彼から顔を背けた。
「また<視>たのね!」
「失礼な。勝手に<視>えたんだよ。そのぐらい、キミ達が強く考えていたってことさ」
困り顔で肩を竦める依琉。
「わっ私は行くつもりでしたっ! それより九曜の方は大丈夫なの?」
「まあキミの方は保険ってカンジだからね。問題の九曜くんは雛が迎えに行ったよ」
「ひっ雛が?」
「うん。だからボクが迎えに来て良かったでしょ? 雛だったら、絶対有無を言わさず連れて来ただろうしね」
その意見には納得するしかない。
仕方なくカバンを持ち直し、階段の裏から出た。
「……もう逃げようなんて考えないから、おとなしく部室に行きましょ。もう部長は来ているんでしょう?」
「OK。その言葉は真実だから、行こうか」
と言った依琉の言葉に、神無月は渋い顔になった。
「……嫌味言わないでよ。おとなしく行くって言っているんだから」
「嫌味じゃないよ。キミを信用しているんだよ」
肩を並べて歩き出した二人。
廊下を歩く生徒達はそんな二人を見ては、道を空ける。
中には壁に激突する勢いで避ける生徒もいる。
「ううっ……。私の望みは普通の学生生活をしたかっただけなのに…」
「部活以外はフツーだろう?」
「部活のせいで、周りの反応が普通じゃないのよ」
「まあ一理あるね。でも仕方無いだろう? ボク等は部活に選ばれたんだ。名誉ある【封話部】にね」
そう言って依琉は余裕の態度で、怯えている生徒達に手を振って見せる。
「名誉……あるのかしら?」
「顧問は高等部校長、選ばれし生徒達は特別な者ばかり。これを名誉と言わずに何て言うんだ?」
「ただたんに、校長先生から面倒ごとを押し付けられただけでしょう? 変人達の集まり、というんだと思うわ」
「……言うねぇ、キミも。でも仕方無いだろう? 水無月もボクも、あの部に相応しいんだから」
「好きで相応しくなったワケじゃないわよ! 大体私は大人しくしていたじゃない! それを、依琉がっ」
「ボクのせいにしてほしくないなぁ。遅かれ早かれバレていたと思うよ」
「う~」
「まっ、雛みたいなバレ方じゃないだけ、マシだろう?」
「雛にとっては何のダメージにもなっていないわよ。そもそも部のことだって、悲観していないんだから」
「確かにね。彼女にとってはどーでも良いことの一つだろうし」
そう言って笑みを浮かべる依琉を、神無月は複雑な表情で見つめた。
「……それも<視>えたの?」
「何でもかんでも<視>えるワケじゃないよ。雛の場合、<視>なくても分かるだろう? あの態度で」
「まっまあね。あのコは自分の能力に何のコンプレックスも持ってないから」
「けどそれは天性のものだと思うよ。彼女は人間として感情がある程度、欠落しているだろ?」
不意に声を落とし、依琉は真剣な表情になった。
「だから能力のことも何とも思わない……いや、思えない。感情も持てないものには、興味も持てないのと一緒さ」
「でも……感情の欠落は育ち方によるんじゃないの?」
「そうでもないよ。だって雛は元々生まれついてのお嬢様だ。何の不自由もなく、そして愛されて生きてきた。なのに感情の欠落がある。――それは残念ながら、彼女がそういう存在として生まれてしまったということだよ」
「……それは能力に関係無く?」
依琉は肩を竦め、頷いた。
「関係無いね。実際、ボク等にはある。けど彼女には無い」
「むぅ……」
「まっ、実際ボク等に害が無ければ良いじゃないか。今日もいつも通り、仲良く過ごそうよ」
そう言って立ち止まった依琉の背後には、オカルト研究部の扉が見えた。
「……そうね」
ため息を一つつき、神無月は依琉と共に部室に足を踏み入れた。
怪しげな物が部屋の中を埋め尽くす。壁には一面、本棚が並んでいる。
日本語から外国語まで、古今東西の本が並んでいる。
そして部屋の中心には大きな机が置かれており、イスが5個置かれている。
「やあ、榊部長。神無月を連れて来たよ」
一つのイスに座り、机に多くの資料を広げていた榊は顔を上げた。
黙っていればそこそこの美男子。
しかし口を開けば、オカルトオタク――それが榊だった。
「お~神無月クン。捕まっちゃったね」
「おかげさまでっ! それより雛と九曜はまだ?」
「てこずっているのかもね。でも大丈夫。必ず来るから」
確信に満ちた榊の言葉に、神無月は心の中で九曜に手を合わせた。
「でも大体神無月クンも九曜クンもダメじゃないか。部活をサボろうとするなんて!」
学校の鐘が鳴る。放課後を告げる鐘の音が。
この学校には本物の鐘があり、毎日事務員の人が時間になるとわざわざ鳴らす。
「ご苦労なことで……」
教室の中が開放感に満ちる中、和の美少女・神無月は憂いた表情で呟いた。
色白の顔が青白く見えるほど、憂いている。
「はぁ~」
カバンを手に持ち、ノロノロと立ち上がる。
そこで教室がふと騒ぎ出したことに気付いた。
「やあ、神無月。一緒に部活に行こう」
爽やかさ満点で現れた依琉。
だが『部活』の一言で、彼の周りにクラスメート達はズササッと後ずさった。
「うっ……」
神無月は硬直した。
会いたくもなければ見たくもない人物が、教室の扉の前で自分を待っている。
「今日は特別な日だからね。迎えに来たよ」
途端にクラスメート達はボソボソと話始めた。
―オカ部の……―
―例のウワサ……―
―先生達も公認で……―
その様子を見て、神無月から血の気が引いていった。
が、拳を握り締めると、駆け寄り依琉の手を引いて教室から飛び出した。
そして人気の無い階段の裏へ回ると、その手を勢い良く離した。
「何の恨みがあるのよ! 依琉っ!」
「恨み、とはヒドイなぁ。ボクは迎えに行っただけじゃないか」
「ウソおっしゃい! どーせ榊部長の入り知恵で、私を迎えに来たんでしょ!」
「正確にはボクと部長の考えでね。何せ今日が特別な日なのに、キミや九曜くんったら逃げようと思っているんだもん」
そう言って邪気の無さそうな笑みを浮かべる依琉を見て、神無月は涙目で彼から顔を背けた。
「また<視>たのね!」
「失礼な。勝手に<視>えたんだよ。そのぐらい、キミ達が強く考えていたってことさ」
困り顔で肩を竦める依琉。
「わっ私は行くつもりでしたっ! それより九曜の方は大丈夫なの?」
「まあキミの方は保険ってカンジだからね。問題の九曜くんは雛が迎えに行ったよ」
「ひっ雛が?」
「うん。だからボクが迎えに来て良かったでしょ? 雛だったら、絶対有無を言わさず連れて来ただろうしね」
その意見には納得するしかない。
仕方なくカバンを持ち直し、階段の裏から出た。
「……もう逃げようなんて考えないから、おとなしく部室に行きましょ。もう部長は来ているんでしょう?」
「OK。その言葉は真実だから、行こうか」
と言った依琉の言葉に、神無月は渋い顔になった。
「……嫌味言わないでよ。おとなしく行くって言っているんだから」
「嫌味じゃないよ。キミを信用しているんだよ」
肩を並べて歩き出した二人。
廊下を歩く生徒達はそんな二人を見ては、道を空ける。
中には壁に激突する勢いで避ける生徒もいる。
「ううっ……。私の望みは普通の学生生活をしたかっただけなのに…」
「部活以外はフツーだろう?」
「部活のせいで、周りの反応が普通じゃないのよ」
「まあ一理あるね。でも仕方無いだろう? ボク等は部活に選ばれたんだ。名誉ある【封話部】にね」
そう言って依琉は余裕の態度で、怯えている生徒達に手を振って見せる。
「名誉……あるのかしら?」
「顧問は高等部校長、選ばれし生徒達は特別な者ばかり。これを名誉と言わずに何て言うんだ?」
「ただたんに、校長先生から面倒ごとを押し付けられただけでしょう? 変人達の集まり、というんだと思うわ」
「……言うねぇ、キミも。でも仕方無いだろう? 水無月もボクも、あの部に相応しいんだから」
「好きで相応しくなったワケじゃないわよ! 大体私は大人しくしていたじゃない! それを、依琉がっ」
「ボクのせいにしてほしくないなぁ。遅かれ早かれバレていたと思うよ」
「う~」
「まっ、雛みたいなバレ方じゃないだけ、マシだろう?」
「雛にとっては何のダメージにもなっていないわよ。そもそも部のことだって、悲観していないんだから」
「確かにね。彼女にとってはどーでも良いことの一つだろうし」
そう言って笑みを浮かべる依琉を、神無月は複雑な表情で見つめた。
「……それも<視>えたの?」
「何でもかんでも<視>えるワケじゃないよ。雛の場合、<視>なくても分かるだろう? あの態度で」
「まっまあね。あのコは自分の能力に何のコンプレックスも持ってないから」
「けどそれは天性のものだと思うよ。彼女は人間として感情がある程度、欠落しているだろ?」
不意に声を落とし、依琉は真剣な表情になった。
「だから能力のことも何とも思わない……いや、思えない。感情も持てないものには、興味も持てないのと一緒さ」
「でも……感情の欠落は育ち方によるんじゃないの?」
「そうでもないよ。だって雛は元々生まれついてのお嬢様だ。何の不自由もなく、そして愛されて生きてきた。なのに感情の欠落がある。――それは残念ながら、彼女がそういう存在として生まれてしまったということだよ」
「……それは能力に関係無く?」
依琉は肩を竦め、頷いた。
「関係無いね。実際、ボク等にはある。けど彼女には無い」
「むぅ……」
「まっ、実際ボク等に害が無ければ良いじゃないか。今日もいつも通り、仲良く過ごそうよ」
そう言って立ち止まった依琉の背後には、オカルト研究部の扉が見えた。
「……そうね」
ため息を一つつき、神無月は依琉と共に部室に足を踏み入れた。
怪しげな物が部屋の中を埋め尽くす。壁には一面、本棚が並んでいる。
日本語から外国語まで、古今東西の本が並んでいる。
そして部屋の中心には大きな机が置かれており、イスが5個置かれている。
「やあ、榊部長。神無月を連れて来たよ」
一つのイスに座り、机に多くの資料を広げていた榊は顔を上げた。
黙っていればそこそこの美男子。
しかし口を開けば、オカルトオタク――それが榊だった。
「お~神無月クン。捕まっちゃったね」
「おかげさまでっ! それより雛と九曜はまだ?」
「てこずっているのかもね。でも大丈夫。必ず来るから」
確信に満ちた榊の言葉に、神無月は心の中で九曜に手を合わせた。
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