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前奏曲

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「なあなあ、コウガ。ちょっとコレ、見てみろよ」



「ん?」



同じクラスの男子に声をかけられ、オレは顔を上げた。



アイフォーンをイヤホンに繋ぎ、ピアノソナタを聞きつつ昼寝をしていたオレは、背伸びをした。



美しくも繊細なピアノの曲は、眠気を誘うのにもってこいだった。



せっかく充実した昼寝をしていたのに…。



「見ろよって」



しつこく言ってきたヤツの手には、ケータイがある。



「分かったって。んで、このケータイが何?」



おっくうそうに言うと、ヤツはケータイを操作した。



すると画面が真っ暗になり、動画が流れ始めた。



薄暗いどこかの廃墟の中。



べチャべチャと音が鳴り響いている。



カメラで映しただろうその目線は、最初は廃墟の中を映す。



やがて音が強く、大きくなってきた。



そして―2人の人物が映った。



しかし顔や姿はハッキリとは映されていない。



床に倒れている人に、もう1人が乗っかっている。



最初、アダルト動画かと思った。



けれど…アングルが2人に近付くにつれ、その異常さが分かるようになった。



乗っかっている人物は、倒れている人物の腹に口元をやっていた。



そこからあの生々しい音が生まれている。



そしてソイツが顔を上げると、生々しい血の色が顔や体を染めていることが分かる。



ソイツは倒れているヤツを…喰らっていた。



喰らわれているヤツの腹の臓器が生々しく画面に映り、最後にソイツの血塗れの口元のアップで動画は終わった。



笑った口元が、印象的だったな。



「…何コレ? どっかの映画の宣伝動画?」



「いや、違う…。今、話題になっててさ。面白半分で、オレもダウンロードしたんだよ」



そう言って次に見せられたのは、とあるサイトだ。



真っ暗な画面に、赤文字。



闇サイトと言われているところだろう。



「…お前、詐欺に合うぞ?」



「ちげーよ。そういうのはナシなんだ」



「それで? オレに見せて、何なの?」



「コレ…見てて不思議な気分にならないか?」



「気持ち悪いとか、怖いとかってことか?」



「まあ…それもあるだろうけど」



いつも明るいヤツだが、何だか様子がおかしい?



「何か見て無いと不安になるんだ」



「それってただの好奇心だろ? 怖いもの見たさってヤツだ」



「そうかもしれないけど…」



そう言いつつも、ケータイをぎゅっと掴んでいる。



「…なあ、ここがどこだか、分からないかな?」



「あっ? 撮影場所のことか?」



「うん。コウガ、お前もHP持ってて、情報とか入ってくるんだろう?」



「オレがやっているHPは、オレが撮った自然の写真を公開しているだけで、こういう都市伝説的なのは専門外だ」



オレは写真を撮るのが趣味で、この高校を選んだのだって写真部が名高いからだ。



個人のHPも持っているし、部でもHPを管理している。



おかげさまで人気で、写真コンテストでは何度か賞を貰っているし、ファンもいる。



だからこういうオカルト系には全く疎いんだが…。



「なっ、頼むよ? 写真とか映す人達って、わりと話合うだろ? そこから情報、聞き出してくれよ」



手を合わせて頼んでくる友人だが、オレは眉をひそめた。



「だけどなぁ…」



「ねぇ、それって例のサイト?」



オレ達の会話を聞きつけたのか、数人の男女含めたクラスメートが近付いてきた。



「アタシもダウンロードしたよぉ」



「ボクも! 何か気になる動画だよなぁ」



「…お前ら、ヒマなのか?」



「だって気になるんだぜ! お前だって、見ずにはいられなくなる!」



「はいはい。でも探ってもいいが、本当にソコか分からないぞ? それに探り当てて、どうするつもりだよ?」



「もちっ! 行って見るんじゃん!」



「殺人現場かもしれない所に?」



「映画とかの撮影現場かもしんないだろう?」



「ハッ…。ご苦労なことで」



オレは再び欠伸をした。



「とにかくオレは気が進まない。やるにも行くにも、お前達だけでやってくれ」



「ええ~! やることはやったさ! でもダメだったから、お前しか頼めないんだよ!」



「それでも根気強くやっていれば、いずれは当たるだろう?」



「そんなこと言わないでさぁ」



「頼むよ」



「昔からの仲だろ?」



わらわらと5人ものクラスメートに囲まれ、逃げ場が無い。



何よりこの気迫が…ちょっと怖い。



それに確かにコイツらとは、古い付き合いだしなぁ。



「…間違ってもいいんだな? 怒らないな?」



そう言うと、5人の表情が笑顔で輝いた。



うわぁ…眩しい。



「OK、OK! 頼むよ!」



「お願いね!」



ったく…。



探偵料、貰ってやるからな。



渋々オレは友人達から教えられたサイトに登録して、動画をダウンロードした。
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