池に沈みしモノ【マカシリーズ・20】

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襲撃

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クイナは暗い夜道を歩いていた。

すでに月は空高く浮かんでおり、周囲には人気が無い。

しかしクイナはおびえる様子はなく、真っ直ぐに帰り道を進む。

だが…。

ふと何かの気配を感じ、クイナは立ち止まった。

「…カウ」

呼ぶとクイナの影が動き、黒き犬となった。

カウは歯をむき出し、警戒した様子で目の前の闇を睨みつける。

クイナも思わず身構えた。

「―スゴイね。犬神使いになってから、そう月日は経っていないのに、もうそんなに力を身に付けたんだ」

暗闇の中から、1人の青年が出てきた。

黒づくめの服装、そしてフードの隙間から見える笑う口元。

「…あなたは?」

「う~ん…」

青年は苦笑し、肩を竦めて見せた。

「キミを喰らうモノ、かな?」

青年がそう言うのと同時に、青年の背後の闇がいきなりクイナに襲いかかった!

しかし同時にカウも巨大化し、闇に立ち向かう。

だが闇はムチのように動き、カウの体をからめ取ってしまう。

「ぐっ…!」

形勢は不利だ。

瞬時に悟ったクイナは、ポケットから橙色の折鶴を取り出し、『気』を込めて空に放った。

折鶴は光輝き、空の向こうへ飛んでいく。

「ん…? …また姉さんの入れ知恵か。相変わらず隙の無い人だな」

闇はその間にも、カウを締め上げる。

「カウっ!」

カウの体はムチによって変形し始め、顔は苦痛に歪んでいる。

クイナはカウに力をそそぎ込むも、その力さえも闇のムチから吸い取られてしまう。

「うっ…ぐっ!」

次第にクイナとカウの力が無くなっていく。

「諦めて、大人しくしてたほうが苦痛は少なくて済むよ?」

「誰がっ、諦めるものかっ…!」

カウと共に生きることを決めた。

例え寿命を削られようが、この身にどんな負担がかかろうが、カウと生きるからこそ受け入れられる。

「こんなっ所でっ…」

しかし膝から力が抜け、思わず膝をつきそうになる。

冬なのに、体中から汗がふき出す。

「はあはあっ…!」

視界も暗くなる。

このままではっ…!

「クイナさん、お待たせしました!」

少年の声が上から聞こえてきた。

顔を上げると、月の光を浴びて、大きな黒い鎌の刃が見えた。

白い髪に、金を含めた赤い両眼の少年が、鎌を振り上げ、カウを縛り上げる闇のムチを切り裂いた。

カウは自由になり、すぐにクイナの側に戻る。

「カウっ! 大丈夫?」

しかしカウは何度も足を折り、ついには道に倒れてしまう。

その様子を見て、カルマは顔をしかめた。

「遅くなって申し訳ありません」

「あなたは…?」

カルマは等身大もある大きな黒い鎌を持ち、黒い布で全身を覆っていた。

「カルマと申します。マカの同属です」

「ああ…」

クイナは数日前、マカに会っていた。

あの時、マカの言った言葉の意味が分かった。

「さて、マノンさん、ですよね? ボクと同じ、死にながらも生まれ直したモノ」

カルマは青年こと、マノンと向き合った。

「マカから事情は聞いています。大人しく、無へ還る気は無いんですよね?」

「…カルマ、か。キミならボクの気持ちが分かると思うんだけどね」

マノンはフードを取り、真っ直ぐに笑顔でカルマを見つめた。

「っ!?」

「…マカさんと、同じ顔」

カルマとクイナは言葉を失った。

あまりにそっくりなマカの顔。

そして両眼の強い赤に、意識を持ってかれる。

しかしカルマは唇を噛み、意識を戻す。

「…分からなくはありません。しかし、ボクはあなたのように表の世に危害を加える存在ではありませんから」

「こうなったのはボクのせいじゃなく、母さんのせいなんだけどね」

「よく言いますね。何とかしようと思ったら、マカに相談したはずでしょう? でもあなたは逃げた。自分の好き勝手を邪魔されたくなくて、去ったのはあなたでしょう?」

「それは否定できないけどね」

わざとらしく肩を竦めるマノンを見て、カルマの眼がつり上がる。

「マカには強く言われているんですよ。マノンを見つけ次第、すぐに消せ、と」

「ヒドイ姉さんだな。この世にたった2人っきりの双子だって言うのに」

「そんな命令を出させたあなたの方が、ボクは悪いと思いますけどね!」

カルマは地を強く蹴り、マノンに向かって鎌を振り上げた!

しかし!

「なっ…!」

マノンは闇となり、鎌は虚しく闇を切り裂いただけ。

―まだ同属とやり合うには、こちらの分が悪い。引かせてもらうよ―

「マノンッ!」

カルマは闇に向かって叫ぶも、そこにマノンの気配は無かった。

「…まったく。流石はマカの双子の弟ですね。厄介な存在だ」

カルマは深くため息をつくと、クイナの元へ向かった。

「クイナさん、大丈夫ですか?」

「力をいくらか吸い取られたけど、何とか…。でもカウが…!」

カウはその姿を薄くさせ、すでに犬の形も保っていられない。

「コレは少々危ないですね。クイナさん、カウを影に戻してください」

「分かった」

クイナは頷き、カウを自分の影に戻した。

「うっ…!」

しかしすぐにクイナの表情が歪み、その体が傾いた。

「クイナさん!」

慌ててクイナの体を支えたカルマは、彼女の様子に気付いた。

犬神のダメージを、その身に受けたのだ。

「…今はこうするしかないんです」

犬神はそのままでは存在していられない。

寄生する人間がいれば、何とか生きていられる。

意識を失ったクイナを抱き上げ、カルマは夜空に浮かぶ満月を睨み付けた。

「マカ、マノン…」

カルマの声は、冷たい風にさらわれた。

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