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10年前に義兄と結婚したのだが、二人もまた、親同士が決めた許婚だった。
けれどそれでもとても仲が良い。
「う~ん。どうだろうなぁ? オレ達の場合、結婚してすぐ最初の妊娠が分かったからな。二人っきりでいる時間も短かったし」
「でもその前の準備期間は長かったんでしょう?」
「まあな。でもオレ達が許婚になったのは、お互い16の時だからな。ある程度大人になっていたし、物分りもよくなっていたからな」
物分り…わたしに足りないのは、その辺かもしれない。
「でもその頃、好きだった人や付き合っていた人はいなかったの?」
「む~ん」
義兄は腕を組み、難しい顔をした。
「いなかった…と言えば、ウソになる。だがウチの両親には前々から言われていたし、心構えがあったとも言える」
心構え、か。
「まあアレだ。何だかんだ言っても、オレ達は相性が良かったからな。今でも仲良くやっているわけだ。お前達だって悪くはないんだから、あんまり深く考えるなよ?」
「…分かった。ありがとう」
話に区切りをつける為に、わたしは微笑んで見せた。
物分りと心構え、わたしに足りないのはこの2つかもしれない。
権力者として生まれた一人娘、本来なら結婚相手を自ら選ぶなんて真似はできるはずなかった。
けれど運良く、先生は生まれながらの婚約者候補で、わたしのことを選んでくれた。
恵まれていると感じるからこそ、生まれる心の迷いかもしれない。
「はぁ…」
「ため息が増えましたね。お嬢様」
「そう?」
先生はバスルームから出てきた。
今日は学校がお休みなので、先生はわたしの部屋に泊まる。
「良いドレスがなかったんですか?」
「ううん、ドレスはステキなものが多かった。だから逆に悩んだの」
「そうですか…。お付き合いできなくてすみません。少しゴタゴタしていたものですから」
ベッドで先に横になっていたわたしの側へやってくる。
「忙しいのは分かっているし、ドレスは式当日まで秘密にしておきたいから、ちょうどいいわよ。それに久々に義兄さんといっぱい話ができたし」
「兄と、ですか…。変なこと、しゃべらなかったでしょうね? あの人」
メガネを外しているせいか、不機嫌な顔がとても良く分かる。
ベッドに腰をかけ、髪を拭く先生に身を寄せる。
良い匂い…。上気した肌や、水が滴る髪。凛々しい黒い眼も、光を放っている。
湯上りの男の人って、女性よりも魅力があると思う。
艶やかな魅力が出ているから、思わず側に寄ってしまう。
「義姉さんとのことを聞いたの。16になってから、婚約を言い渡されたんですって」
「…ああ、そうでしたね。兄夫婦は確か高校生の時に結納を交わしたんでしたっけ」
「当時から仲が良かったの?」
「そうですね。相性は良かったと思いますよ」
…やっぱり兄弟だ。言うことが全く同じ。
「急に婚約者だって言われても、平気で受け入れてた?」
「そうですねぇ」
先生は当時を思い出すように遠い目をした。
だけどその手はわたしの頭を優しく撫でる。
ネコのように甘えるわたしを甘やかすように。
「お互い、婚約の話が出ていたことは知っていたでしょうし、兄が特に親しい女性がいたとも知りませんでしたね」
「でも…心の中で思っていた人はいたかもしれない?」
「ですね。まあそれは義姉さんにも言えることですが…」
「けどお互い文句1つ言わずに結婚できた。…やっぱり相性の問題かな?」
「そうですね。お互い、いざ結婚となれば真面目になるタイプだったんでしょう。結婚式も特に問題なく、終えられましたしね」
それは当時8歳だったわたしの記憶にも残っている。
すでに身内扱いだったので、早い段階で義姉とは顔を合わせていた。
わたしを本当の妹のように可愛がってくれた人で、結婚もちゃんとこなしていた。
芯が強い人、なんだろうな。
「お嬢様、やっぱり結婚に迷いが出ているのでは?」
不意に心配そうな顔で、先生はわたしを見てきた。
「…別に。いざ結婚となると、他の人はどうなんだろうって思うの、自然なことでしょう?」
いくら変わらない生活を送るとは言え、変わるものは変わってしまうのだ。
それこそ心構えをしなきゃいけないことは、山ほどある。
「わたしのことより、先生のことよ! 家庭教師続けられるの、わたしが大学を卒業するまででしょう? その後はどうするの?」
「私はそのままお嬢様のサポートに回りますよ。まあ秘書になるとでも思ってください」
「でも先生なら、ちゃんとした役員になって働けるじゃない」
「それでも貴女にいろいろなことを教えられるのは、私だけでしょう?」
先生はさも当たり前だと言う様に、自信たっぷりに微笑んで見せた。
「それは…そうかもだけど」
今までいろいろなことはこの人から教わってきた。
それこそ学校の先生達が、バカに見えてしまうほど…。
容姿もカッコいいものだから、同級生の男子なんて本当に子供に見えてしまう。
…全部この人と比べてしまうクセがあるから、他の男性に眼がいかなかったんだろうな。
「ああ、そうだ。お嬢様にプレゼントするものがあるんです」
そう言って先生は立ち上がった。
そして小さな四角の箱を持って、戻って来た。
「これをどうぞ」
「ありがとう。開けていい?」
「ええ」
彼からのプレゼントはけっこうある。
成績が良かった時とか、良いことをした時など、わたしが欲しがっていたものをくれる。
…何で分かるんだろう?
と、ちょっと薄気味悪くなるぐらい、欲しいものをくれる。
でも今は特に欲しい物なんてなかったはずなんだけど。
疑問に思いながら包装紙を取ると、どうやら指輪ケースみたい。
蓋をパカッと開けると…。
「…タンポポの指輪?」
眼に飛び込んできたのは、黄色の石の花。
形はタンポポだ。
「石はイエローダイヤモンドです。効果は精神的・肉体的のパワーを上げてくれます。最近、お嬢様が塞ぎがちみたいでしたから」
「あっありがとう…」
わざわざタンポポの形にしてくれたのは、彼のオーダーだろう。
けれどそれでもとても仲が良い。
「う~ん。どうだろうなぁ? オレ達の場合、結婚してすぐ最初の妊娠が分かったからな。二人っきりでいる時間も短かったし」
「でもその前の準備期間は長かったんでしょう?」
「まあな。でもオレ達が許婚になったのは、お互い16の時だからな。ある程度大人になっていたし、物分りもよくなっていたからな」
物分り…わたしに足りないのは、その辺かもしれない。
「でもその頃、好きだった人や付き合っていた人はいなかったの?」
「む~ん」
義兄は腕を組み、難しい顔をした。
「いなかった…と言えば、ウソになる。だがウチの両親には前々から言われていたし、心構えがあったとも言える」
心構え、か。
「まあアレだ。何だかんだ言っても、オレ達は相性が良かったからな。今でも仲良くやっているわけだ。お前達だって悪くはないんだから、あんまり深く考えるなよ?」
「…分かった。ありがとう」
話に区切りをつける為に、わたしは微笑んで見せた。
物分りと心構え、わたしに足りないのはこの2つかもしれない。
権力者として生まれた一人娘、本来なら結婚相手を自ら選ぶなんて真似はできるはずなかった。
けれど運良く、先生は生まれながらの婚約者候補で、わたしのことを選んでくれた。
恵まれていると感じるからこそ、生まれる心の迷いかもしれない。
「はぁ…」
「ため息が増えましたね。お嬢様」
「そう?」
先生はバスルームから出てきた。
今日は学校がお休みなので、先生はわたしの部屋に泊まる。
「良いドレスがなかったんですか?」
「ううん、ドレスはステキなものが多かった。だから逆に悩んだの」
「そうですか…。お付き合いできなくてすみません。少しゴタゴタしていたものですから」
ベッドで先に横になっていたわたしの側へやってくる。
「忙しいのは分かっているし、ドレスは式当日まで秘密にしておきたいから、ちょうどいいわよ。それに久々に義兄さんといっぱい話ができたし」
「兄と、ですか…。変なこと、しゃべらなかったでしょうね? あの人」
メガネを外しているせいか、不機嫌な顔がとても良く分かる。
ベッドに腰をかけ、髪を拭く先生に身を寄せる。
良い匂い…。上気した肌や、水が滴る髪。凛々しい黒い眼も、光を放っている。
湯上りの男の人って、女性よりも魅力があると思う。
艶やかな魅力が出ているから、思わず側に寄ってしまう。
「義姉さんとのことを聞いたの。16になってから、婚約を言い渡されたんですって」
「…ああ、そうでしたね。兄夫婦は確か高校生の時に結納を交わしたんでしたっけ」
「当時から仲が良かったの?」
「そうですね。相性は良かったと思いますよ」
…やっぱり兄弟だ。言うことが全く同じ。
「急に婚約者だって言われても、平気で受け入れてた?」
「そうですねぇ」
先生は当時を思い出すように遠い目をした。
だけどその手はわたしの頭を優しく撫でる。
ネコのように甘えるわたしを甘やかすように。
「お互い、婚約の話が出ていたことは知っていたでしょうし、兄が特に親しい女性がいたとも知りませんでしたね」
「でも…心の中で思っていた人はいたかもしれない?」
「ですね。まあそれは義姉さんにも言えることですが…」
「けどお互い文句1つ言わずに結婚できた。…やっぱり相性の問題かな?」
「そうですね。お互い、いざ結婚となれば真面目になるタイプだったんでしょう。結婚式も特に問題なく、終えられましたしね」
それは当時8歳だったわたしの記憶にも残っている。
すでに身内扱いだったので、早い段階で義姉とは顔を合わせていた。
わたしを本当の妹のように可愛がってくれた人で、結婚もちゃんとこなしていた。
芯が強い人、なんだろうな。
「お嬢様、やっぱり結婚に迷いが出ているのでは?」
不意に心配そうな顔で、先生はわたしを見てきた。
「…別に。いざ結婚となると、他の人はどうなんだろうって思うの、自然なことでしょう?」
いくら変わらない生活を送るとは言え、変わるものは変わってしまうのだ。
それこそ心構えをしなきゃいけないことは、山ほどある。
「わたしのことより、先生のことよ! 家庭教師続けられるの、わたしが大学を卒業するまででしょう? その後はどうするの?」
「私はそのままお嬢様のサポートに回りますよ。まあ秘書になるとでも思ってください」
「でも先生なら、ちゃんとした役員になって働けるじゃない」
「それでも貴女にいろいろなことを教えられるのは、私だけでしょう?」
先生はさも当たり前だと言う様に、自信たっぷりに微笑んで見せた。
「それは…そうかもだけど」
今までいろいろなことはこの人から教わってきた。
それこそ学校の先生達が、バカに見えてしまうほど…。
容姿もカッコいいものだから、同級生の男子なんて本当に子供に見えてしまう。
…全部この人と比べてしまうクセがあるから、他の男性に眼がいかなかったんだろうな。
「ああ、そうだ。お嬢様にプレゼントするものがあるんです」
そう言って先生は立ち上がった。
そして小さな四角の箱を持って、戻って来た。
「これをどうぞ」
「ありがとう。開けていい?」
「ええ」
彼からのプレゼントはけっこうある。
成績が良かった時とか、良いことをした時など、わたしが欲しがっていたものをくれる。
…何で分かるんだろう?
と、ちょっと薄気味悪くなるぐらい、欲しいものをくれる。
でも今は特に欲しい物なんてなかったはずなんだけど。
疑問に思いながら包装紙を取ると、どうやら指輪ケースみたい。
蓋をパカッと開けると…。
「…タンポポの指輪?」
眼に飛び込んできたのは、黄色の石の花。
形はタンポポだ。
「石はイエローダイヤモンドです。効果は精神的・肉体的のパワーを上げてくれます。最近、お嬢様が塞ぎがちみたいでしたから」
「あっありがとう…」
わざわざタンポポの形にしてくれたのは、彼のオーダーだろう。
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