上 下
6 / 14

3

しおりを挟む
「それはそれで問題なんじゃ…」

「バカな女に引っ掛からないことは、良いことだろう? まあ任せておけよ」

そう言うと、四人がトイレから出てきた。

「んじゃ、そろそろバスに戻るか」

休憩時間は終わりに近付いていた。

席替えをしても、全員暗い面持ちのまま。

他の乗客達も静かになってしまい、何だか申し訳ない気分だった。

あんな騒ぎを起こしたんだ。

素直に旅を楽しむことは、難しいだろう。

しかし運が良かったのか、今日はこのまま目的の旅館へ着き、そのまま自由行動に入る。

夕飯までは時間があるし、各々自由に動く。

オレは利実を近くの森に呼び出した。

ここは旅館から近いが、木が多く、広い。

多少騒いでも平気だろう。

「利実、お前いい加減にしろ。お前がこの旅行で最後にするというから、みんな参加したんだぞ?」

「分かってる…。でもヒドイんじゃないの? いきなりグループから抜けろなんて!」

あ~あ、すっかり逆ギレだよ。

「それだけヒドイことを繰り返してて、オレ達に迷惑かけといて、よくそんなことを言えるな。大学でどれほどオレ達の身がせまかったか、想像できるか?」 

教授達や生徒達から睨まれるのはいつものこと、嫌がらせを受けたのも数多くある。

大学でできた友達もほとんど去った。

大学を辞めろまで言われたが、必死に耐えてきた。

「特にあの2人はノイローゼにまで追い込まれたんだ! 本当だったら慰謝料請求されてもおかしくないんだぞ?」

「何よ! お金だったら払うわよ!」

「ああ、それが手切れ金となれば、最高だな!」

嫌味ったらしく言うと、利実の表情が強張った。

オレは冷静さを取り戻す為に、深呼吸した。

「…なぁ、もうオレ達に頼らなくったって、お前1人で大丈夫だろう? 仕事も勉強もできるし、友達や彼氏だって作れる。守る存在が必要な歳じゃないだろう?」

「でもっ! …アタシを見捨てなかったのは、あなた達だけなのよ」

利実の目から、大粒の涙が溢れる。

「それも今回の旅行までだ。終わればオレ達はお前との関係を全て断ち切る」

「っ!?」

「甘やかし過ぎたことは、オレ達のせいだと素直に詫びる。だが調子に乗り過ぎたのは、お前自身の身から出た錆びだ」

オレはきっぱり言い放った。

ここで言いよどめば、利実の思う壺だったから。 

「そんなのっ…勝手過ぎるわよ! アタシのことさんざん甘やかしといて、手に負えなくなったらポイ捨てするの?」

「勝手は分かっているさ。でもお前には何度も忠告した。だが返事ばかり良くて、お前は何も変わろうとしなかっただろう?」

「変わったじゃない! 真面目になったわよ!」

「それも今だけだろう? 時が経てばお前はまた同じことを繰り返す。それはクセというより、病気だ。だから突き放す。それがその病気を治す、一番の薬だと思ったからな」

「ヒドイ…!」

「恨んでくれて結構。オレ達も同じ強さでお前を恨んでいるからな」

涙を流しながら睨まれても、すでに罪悪感など感じない。

「今後お前がどんなバカをやらかそうとも、オレ達は一切関与しない。だから好き勝手に生きるといい」

「何で…和城がそんなこと言うの?」

「オレが一番強く思っているからだ」

弱っていく仲間を見るのは辛かった。

自分がどんなに責められようとも、仲間の苦しむ姿を見続けるよりマシだった。

そもそも利実をグループに入れることを許可したのはオレだった。

全てのはじまりは、オレの責任だと言える。 

「何でっ…。あっアタシはずっと…」

利実は強く手を握り、顔を上げた。

「ずっと和城のことが好きだったのに!」

「はあ?」

「ずっと…高校に入ってから、和城を一目見て好きになったの! だからグループに入りたかった!」

また唐突な話だな…。

軽い頭痛がしてくる。

「アタシのこと見てほしくて、一緒にいたのに!」

「一緒にはいただろう?」

「それはグループの仲間としてじゃない! アタシと2人っきりで会ってはくれなかった!」

確かにそれは言えてる。

オレはそもそも女という存在が苦手だった。

キライではない。苦手なんだ。

だから利実に関わらず、女と2人でいることはできなかった。

「だからっ…だからバカなことをし続けた! そうすればその時だけは、あなたはアタシのことを思ってくれるからっ…!」

「でもその感情は負のものだ。それで満足してしまった時点で、恋愛感情じゃなくなったんじゃないのか?」

「そっそれは…!」

言葉に詰まるところを見ると、利実も少しは感じていたらしい。

振り向いてくれないオレに対し、憎しみを抱いていることを。

「お前のオレへの気持ちに気付けなかったことは素直に謝る。…だがそれとお前の仕出かしたことの重さは全く違う」 

しおりを挟む

処理中です...