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「はい、おしぼり」
「ありがと!」
わたしと彼は手を拭いた。
「それじゃ、いっただきまーす!」
「はい、どうぞ」
彼はじっとお弁当を見て、まずはおむすびの一つを手に取った。
簡単な塩結び、中身は彼が好きだと言うおかかとシャケ。
一口食べて、彼の顔がゆるむ。
「美味しい…!」
「ふふっ、ありがとう」
まっ、お腹空いている時って、何でも美味しく感じるし。
わたしもおむすびを手に取って、一口。
中身はおかかだ。
「うん、美味しいね」
その後は二人してニコニコと笑顔で食べ続けた。
会話は少なかったけど、そんなに気にならなかった。
ただ穏やかな空気がとても心地良くて…気付けば重箱の中身は空になっていた。
「あ~美味かった。ひなさん、料理上手だね」
「それはどうも。お母さんにも伝えておくわ」
わたしは重箱を片付け、一息ついた。
ふと彼が眠そうに目をこすっているのを見た。
「もしかして…寝不足?」
「うっうん…。久し振りにひなさんに会えると思ったら、寝付けなくて…」
…可愛い人。
「じゃあ少し休んだら? わたしもちょっと休みたいし」
「いいの?」
「もちろん。午前中はわたしが振り回しちゃったようなものだし」
彼の手を引いて、あちこちと回った。
もしかしたら気疲れさせてしまったのかもしれない。
「そっそんなことないよ! オレ、すっごく楽しかったし! 水族館なんて久し振りだったし」
あたふたと手と首を振る彼が、やっぱり可愛く見える。
「ねっ、じゃあこうしましょ?」
「えっ?」
わたしは足を組みなおして、膝をぽんぽんと叩いた。
「膝枕させて。それで気にしないことにするから」
「ええっ!?」
わたしの突然の申し出に、彼は眼を丸くした。
「ひっ膝枕って…」
「気にすることないわよ。周りの人でも結構やっている人いるから」
彼はわたしの指さした方向を見た。
小さな子供を膝枕するお母さん、わたし達のようなカップルの膝枕。
わりとありがちな光景になっている。
「なので、さっ、どうぞ」
おいで、と両腕を伸ばす。
「うっ…。よっよろしくお願いします…」
消え入りそうな声で言って、彼はゆっくりわたしの方に倒れてきた。
彼の頭を抱えて、ゆっくりと膝に乗せる。
「どう? 膝心地は?」
「きっ気持ち良いです」
顔が真っ赤になっている。
頭を撫でてあげると、さらに真っ赤。
暖かな午後の陽差しと柔らかな風、そして満腹のせいで彼の眼が次第に閉じていった。
やがて寝息まで聞こえてくる。
わたしは笑顔で彼の寝顔を見つめた。
…可愛いな、やっぱり。
男の子とまともに付き合ったのは、コレがはじめて。
彼のことは、まだお母さんにしか言っていない。
父さんは…いろいろな意味で危険だから、しばらくは黙っていよう。
服やお弁当の中身のことは、今日までうんと悩んだ。
けれど楽しかった。
彼の喜んでくれる顔を思い浮かべるだけで、わたしも嬉しくなる。
自覚し始めている。
…彼を好きになっていることを。
けれどわたしの抱えている秘密を知れば、彼はきっと去ってしまう。
そのことを考えれば…あまり深入りしない方が良い。
傷付く事を覚悟で告白を受け入れたけど、まさかこんなに気持ちが溢れるなんて…。
「…完璧に予想外」
ふと呟き、ため息一つ。
だけど今だけは、彼の穏やかな寝顔を見ていられる。
そう…今だけは。
「んっ…んんっ!?」
ふと彼が目を開けた。
そしてわたしの顔を見て、ぎょっとした。
「ひなさん!? アレ? オレ、寝ちゃってた?」
慌てて飛び起きて、辺りをキョロキョロ。
「どれぐらい寝てた? 結構時間経ってるよね?」
「そんなことないわよ。1時間ぐらいかしら?」
ケータイを開くと、1時間を少し過ぎていた。
「うわっ…。サイアク」
彼は頭を抱えた。
「初デートで居眠りなんて…」
「お昼寝でしょ? 昨夜寝てないなら、しょーがないわよ」
頭を撫でてあげると、少し顔を上げた。
「ゴメン、ほっといて…」
「良いのよ。わたしはわたしで正義くんの寝顔、見れたし」
「うっ…」
「可愛かったわよ? 写メ撮っちゃった」
「ええっ!?」
「ホラ」
わたしはケータイを見せた。
「うわっ! ホントに!?」
「気に入ったから、待ち受けにしちゃおーっと」
「ひっヒドイよ、ひなさん~」
慌てる彼が可愛過ぎて、思わず笑ってしまう。
「じゃあわたしのことも、写メ撮って良いわよ」
「えっ! ホント?」
「うん、お互い様ってことでね」
「じっじゃあ」
彼はケータイを取り出し、わたしに向けた。
だからわたしは、最高級の笑顔を向けた。
その笑顔に、心からの気持ちを込めて―。
「ありがと!」
わたしと彼は手を拭いた。
「それじゃ、いっただきまーす!」
「はい、どうぞ」
彼はじっとお弁当を見て、まずはおむすびの一つを手に取った。
簡単な塩結び、中身は彼が好きだと言うおかかとシャケ。
一口食べて、彼の顔がゆるむ。
「美味しい…!」
「ふふっ、ありがとう」
まっ、お腹空いている時って、何でも美味しく感じるし。
わたしもおむすびを手に取って、一口。
中身はおかかだ。
「うん、美味しいね」
その後は二人してニコニコと笑顔で食べ続けた。
会話は少なかったけど、そんなに気にならなかった。
ただ穏やかな空気がとても心地良くて…気付けば重箱の中身は空になっていた。
「あ~美味かった。ひなさん、料理上手だね」
「それはどうも。お母さんにも伝えておくわ」
わたしは重箱を片付け、一息ついた。
ふと彼が眠そうに目をこすっているのを見た。
「もしかして…寝不足?」
「うっうん…。久し振りにひなさんに会えると思ったら、寝付けなくて…」
…可愛い人。
「じゃあ少し休んだら? わたしもちょっと休みたいし」
「いいの?」
「もちろん。午前中はわたしが振り回しちゃったようなものだし」
彼の手を引いて、あちこちと回った。
もしかしたら気疲れさせてしまったのかもしれない。
「そっそんなことないよ! オレ、すっごく楽しかったし! 水族館なんて久し振りだったし」
あたふたと手と首を振る彼が、やっぱり可愛く見える。
「ねっ、じゃあこうしましょ?」
「えっ?」
わたしは足を組みなおして、膝をぽんぽんと叩いた。
「膝枕させて。それで気にしないことにするから」
「ええっ!?」
わたしの突然の申し出に、彼は眼を丸くした。
「ひっ膝枕って…」
「気にすることないわよ。周りの人でも結構やっている人いるから」
彼はわたしの指さした方向を見た。
小さな子供を膝枕するお母さん、わたし達のようなカップルの膝枕。
わりとありがちな光景になっている。
「なので、さっ、どうぞ」
おいで、と両腕を伸ばす。
「うっ…。よっよろしくお願いします…」
消え入りそうな声で言って、彼はゆっくりわたしの方に倒れてきた。
彼の頭を抱えて、ゆっくりと膝に乗せる。
「どう? 膝心地は?」
「きっ気持ち良いです」
顔が真っ赤になっている。
頭を撫でてあげると、さらに真っ赤。
暖かな午後の陽差しと柔らかな風、そして満腹のせいで彼の眼が次第に閉じていった。
やがて寝息まで聞こえてくる。
わたしは笑顔で彼の寝顔を見つめた。
…可愛いな、やっぱり。
男の子とまともに付き合ったのは、コレがはじめて。
彼のことは、まだお母さんにしか言っていない。
父さんは…いろいろな意味で危険だから、しばらくは黙っていよう。
服やお弁当の中身のことは、今日までうんと悩んだ。
けれど楽しかった。
彼の喜んでくれる顔を思い浮かべるだけで、わたしも嬉しくなる。
自覚し始めている。
…彼を好きになっていることを。
けれどわたしの抱えている秘密を知れば、彼はきっと去ってしまう。
そのことを考えれば…あまり深入りしない方が良い。
傷付く事を覚悟で告白を受け入れたけど、まさかこんなに気持ちが溢れるなんて…。
「…完璧に予想外」
ふと呟き、ため息一つ。
だけど今だけは、彼の穏やかな寝顔を見ていられる。
そう…今だけは。
「んっ…んんっ!?」
ふと彼が目を開けた。
そしてわたしの顔を見て、ぎょっとした。
「ひなさん!? アレ? オレ、寝ちゃってた?」
慌てて飛び起きて、辺りをキョロキョロ。
「どれぐらい寝てた? 結構時間経ってるよね?」
「そんなことないわよ。1時間ぐらいかしら?」
ケータイを開くと、1時間を少し過ぎていた。
「うわっ…。サイアク」
彼は頭を抱えた。
「初デートで居眠りなんて…」
「お昼寝でしょ? 昨夜寝てないなら、しょーがないわよ」
頭を撫でてあげると、少し顔を上げた。
「ゴメン、ほっといて…」
「良いのよ。わたしはわたしで正義くんの寝顔、見れたし」
「うっ…」
「可愛かったわよ? 写メ撮っちゃった」
「ええっ!?」
「ホラ」
わたしはケータイを見せた。
「うわっ! ホントに!?」
「気に入ったから、待ち受けにしちゃおーっと」
「ひっヒドイよ、ひなさん~」
慌てる彼が可愛過ぎて、思わず笑ってしまう。
「じゃあわたしのことも、写メ撮って良いわよ」
「えっ! ホント?」
「うん、お互い様ってことでね」
「じっじゃあ」
彼はケータイを取り出し、わたしに向けた。
だからわたしは、最高級の笑顔を向けた。
その笑顔に、心からの気持ちを込めて―。
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