教え子の甘い誘惑

hosimure

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やがて教室の中から音が聞こえてきた。どうやらHRが終わったみたい。

何人かの生徒が教室から出て行く中、アタシは頃合いを見計らって、彼に声をかけた。

「世納くん、ちょっと話があるんだけど、良い?」

「良いよ、センセ。オレもちょうど、センセと話がしたいなぁって思ってたから」

そう言って機嫌良く言ってくれた。

…コレは予想外。てっきり不機嫌になるとばかり思っていたのに。

「それじゃあちょっとついて来てくれる?」

「うん」

彼はカバンを持って、歩き出した。

連れて来たのは英語準備室。英語の資料が山ほど置かれたここには、1つの机と2つのイスがある。

込み入った話をするには、ちょうど良い場所だ。

「あのね、早速だけど、このまま英語の授業に出なきゃマズイこと、分かっているかな?」

できるだけ穏やかな表情と声で、聞いてみた。

「うん。夏休みは補習で、来年は留年ってことになるだろうね」

…自覚ありか。それでも直そうとしないなんて…そんなにアタシの授業はつまんないのかな?

まあ本場の帰国子女には負けるだろうけど…。

「あのね、帰国子女であるあなたにとって、英語の授業はつまらないものでしょうけど、それでも必要な授業なの。出席してくれなきゃ、あなた自身も困ったことになるでしょう?」

「そうだね。親がうるさそうだ」

「だったら今からでも遅くないから、授業に出てくれないかしら? 夏休みの補習は免れないだろうけど、これから挽回していけば、進級には影響なくなるわ。世納くん、元々成績良いんだし」

「だろうね。他の授業は真面目に受けているし、苦手な科目は無いし」

「ええ、そうね。だから授業に出て」

真っ直ぐに彼の眼を見つめて言うと、大きなため息をついた。

「じゃあさ、センセ。オレの言うこと、1つきいてくれない?」

「…それって、お願い事?」

「うん。その『お願い』をきいてくれたんなら、これからは真面目に授業に出るから」

そう言って満面の笑みを浮かべる彼を見て、思わずイヤな予感が浮かぶ。

なっ何だろう? 補習を軽くしろとか? もっと授業レベルを上げろとか?

いろいろな考えが頭の中を巡った挙げ句、結局聞いてみることにした。

「…ちなみに、その『お願い』って、何?」

「うん。ねぇ、センセ。オレのものになってよ」

「………はい?」

彼の言葉を理解するのに、たっぷり30秒は必要だった。

「オレのものになって。そうしたら、センセの言うこと何でも聞いてあげるからさ」

目の前にいるのは…教え子ではなく、悪魔なのだろうか?

一瞬そんな考えが浮かぶほど、混乱しているアタシ。

「もっものって…」

「オレ、センセが気に入ったんだよね。そのめげない性格とか、問題児を軽蔑しないところとかさ」

「あなたはアタシの教え子です! そんなことするワケないでしょう!」

思わず声を張り上げてしまった!

慌てて口を手で押さえ、後ろに引く。

「ごっゴメンなさい。ちょっと熱くなったわ」

「…ううん。センセのそういうところも、オレ、気に入っているから良いよ」

そう言って女子生徒達が失神しそうなほど甘い微笑を浮かべる。

でもこれって…間違いなく、愛の告白じゃないわよね?

子供がおもちゃを欲しがるような…アタシ、彼のおもちゃ?

いやいやっ! 何てことを考えるんだ、アタシは!

「で、返事は?」

「えっ? ほっ本気?」

「もちろん♪」

彼は立ち上がり、身を乗り出すと、その流れのままアタシにキスをしてきた。

「っ!?」

がたんっ!

イスを蹴りながら、アタシは口を押さえて壁に背を付けた。

「なっ何をっ…」

「そういうウブなところも良いなぁ」

うっとりした顔をしないでっ!

カーッと頭に血が上る。きっキスされた! 年下の、しかも教え子にっ!

「センセ、彼氏いるの?」

「いっいるワケないでしょ? 教育に全てをかけているんだから!」

「ホント、教師の鑑だね」

彼は立ち上がり、アタシの正面に立った。

「こっ来ないでよ!」

壁伝いに逃げようとしたけれど、彼の両手が壁につき、アタシを閉じ込めた。

「―逃げないでよ、センセ。コレでもマジなんだからさ」

そう言う彼の顔は照れている。

ほっ本気でおもちゃ扱いされてる!?

「本気でセンセのこと、欲しいんだ。オレのものになってよ。大事にするからさ」

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