異世界召喚先で国家を作るだけのとても大変なお仕事です

雷帝

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第一章

砲撃

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 夜。
 電気の光のないこの世界の夜は闇が深い。
 ましてや、ここは街の中ではない。人族は夜目が利かないので、篝火かがりびを焚いて、その近くに見張りが立っている。魔法の明かり、という魔法も、そういう魔道具だって存在はしているが使われている様子はない。魔法は持続時間の問題があるし、魔道具のそれは一部の者が急な書簡が届いた時などに備えて持って来ているだけで、常につけっぱなしにしているようなものではない。結果として、それらを使ってまで起きている事に意味がないのでそうした物を持って来ている者達も寝ている。
 あ、見張りの一人が欠伸した。

 「……気が抜けてるなあ」

 思わず苦笑してしまった。
 とはいえ、分からないでもない。
 普通の獣はあれだけの人の気配を警戒して近寄りもせず、魔獣もこんな森の端となれば最下級のものがいる程度。エルフ達とは圧倒的な戦力差が確実、となれば緊張を保つのが難しい、というのも当然だろう。もっとも、それはあちらさんの考えであって、こちらの考えではないんだが。
 
 「どちらにせよ大半は眠っているのは変わりなし、と……カノン、そろそろ見つかったかい?」
 『おう、多分あれだろうヨ』

 カノンが上空から確認しているのは指揮官、もしくは比較的高い立場にある者達の幕舎。そうした幕舎は大きく、立派なものが多い。

 『騎士団のものはちと厳しいナ。警戒が前の連中の比じゃねーワ』

 なるほど。
 さすが、騎士団と名がつくだけあって真面目に仕事をしているようだ。というか、これで王国軍とやらにも真面目で真っ当な戦力がいる事は確定か。

 『まあ、見張り以上に今回の問題は距離だナ。湿地帯から明らかに距離取ってるワ』
 「うーん、急に出来た湿地帯に警戒したかな?」
 『可能性は高いナ』

 後に知る事が出来たが、その通りだった。
 騎士団は事前にこの辺りの地図をきちんと領主から受け取り確認していた。
 そうなると、この急に出来た湿地帯をどうやって作ったのかは分からないにせよ、「怪しい」と疑うのは当然だった。そして、疑っている場所の傍で野営せざるをえないのだから、警戒も厳しいものになるのは当然の話だった。
 湿地帯から距離を置いたのもそういう事情。
 無論、彼らは私兵団にも「これこれこういう訳だから距離を取った方がいい」「きちんと夜間には見張りを立てて警戒を緩めない方がいい」と伝えてあったのだが……。結果はご覧のあり様。最大の原因は私兵団が結局は寄せ集め、という点にあり、どこの誰が見張りを出すかきちんと決まらなかった。
 何しろ、私兵団の規模は上は数十人規模から最低は二人という状況。大きな所は自分達だけで見張りを立てられるが、小さな所は無理だ。どこを誰が分担するかも決まらない。
 結局、大手が自分達の幕舎から近い場所を警戒していた、というのが実状だった訳だが、そんな事を知る事が出来たのは戦いが終わって、捕虜を得た後の話。

 「それなら当初の予定通り」
 『ああ、弱い所から潰すんだナ』

 その通り。
 軍勢といったってどこも同じ強さな訳じゃない。昔のゲームなら「歩兵」というユニットがあれば強化といった事が為されてない限りはどの歩兵も同じ強さだし、「騎士」というユニットがあればどの騎士も同じ強さだった。
 けれど、現実にはそんな訳がない。
 指揮官だって同じ事。弱い所があればそこは弱点となる。もちろん、こっちにだって弱い所はあるからそこをどうカバーするかは常に重要になる。見捨てる事が出来るんなら、捨て駒ならまた話は変わって来るんだけどねえ?騎士団に貴族の子供達の集団を見捨てる事は出来ないだろう。
 
 【炎を宿す紅蓮の華よ、咲き誇れ。その業火を解き放ち、芽吹くが良い】
 【砲閃華ほうせんか
  
 巨大な花が生まれる。
 一つ、二つ、三つ、四つ……。
 幾輪もの花が咲き誇る。
 これなるは植物魔法の名の通りの華、砲閃華。
 巨大ではあっても見た目は美しい花なれど、種を宿す時、その脅威が発揮される。
 砲閃華の種は分厚い殻に覆われているが、その中にはたっぷりの粘性の油を溜め込んでいる。この種を砲閃華は砲弾のように弾き飛ばす。着弾するとその衝撃で殻が筋に沿って割れ、内部の油を飛び散らせると共に発火する。周囲をナパーム弾の如き炎で焼き尽くす。そうして、厚い繊維の中に保護されていた種はこの炎で繊維を焼き切り、中から飛び出す。
 そうして、周囲の競争相手を滅ぼし、灰とする事で栄養をも確保する……という設定を持つ。
 そう、そんな華をこの魔法を用いれば……。

 「さあ、業火を解き放て!」

 それは多数降り注ぐナパーム弾のそれとなる。
  
 「全弾発射!!」
 
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